魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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竜殺しの剣(5) -ギル視点-

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「サラは、もう寝てるだろうな」

 精霊の村に向かう前に、もう一度様子を見ておこうと溶岩地帯へ行き、帰ってきたら既に深夜だった。夕食どころか、三秒ルールが適用されない夜のキスの時間まで過ぎてしまっている。ショックだ。
 この気持ちをわかって欲しい、そんな思いで書庫を訪ねれば、

「ミアも随分前に寝たので、そうでしょう」

 そこの持ち主に、「何を当然のことを」という顔で一蹴された。
 この余裕の切り返し、どうやらシナレフィーはミアと仲直りしてキスの時間もしっかりやったと見える。くそっ、羨ましい。
 数年前まではまだ疎らだったのに、今はギッシリと本が詰まった書棚を見る。「ここと、魔界にある魔王城の本体に書庫が欲しい」。それがシナレフィーの、俺の計画を手伝う際の条件の一つだった。今夜も彼は、お気に入りの本をせっせと亜空間から取り出しては並べ、それを眺めていたようだ。

「さっき出掛けに空間移動をしたら、移動先で片足がめり込んだ。精霊が不安定な状態での異世界転移は避けた方がよさそうだ」

 俺は本に夢中でこちらを見ないシナレフィーに言って、出入口側の壁に背を凭れた。
 火の精霊はサッパリした性格なので、ミノタウロスに突貫工事で作らせた新しいほこらっぽい場所に、すんなり移ってくれた。これで溶岩地帯のこれ以上の拡大については、解決したはず。
 ただ、中には気難しい精霊もいる。そこをカシムに引っ掻き回されると、かなり面倒なことになりそうだ。

「風と水のご機嫌取りは、シナレフィーに任せる」
「構いませんよ」
「そう担当の範囲外と言われても他に頼める奴が――って、え、構わない? 珍しく安請け合いしたな。いいのか?」

 想定外の返しに、思わず身を起こして彼を見る。

「風の精霊は私の娘に熱を上げていますし、水の方は息子に夢中です。放っておいても、協力的だと思いますので」
「どうなってんだよ、お前の家系のモテ具合は……助かるけどさ」
「ところで、陛下が持っているそれは何です?」
「ん? ああ、『折り鶴』って呼ばれる紙細工らしい。サラがくれたんだ。健康祈願の御守りって言ってた」

 俺は胸の前に掲げた、折り鶴を見下ろした。
 手から滑り落ちないよう、だが皺ができないよう、絶妙な力加減でつまんでいる。貰ったのが嬉しくて、ここへ来るまでも道すがら眺めていた。

「よく見せてもらっても?」
「! 駄目、絶対駄目、お前分解するだろ!」

 ハッとして、俺は空いた方の手で折り鶴を隠した。やばい、奴の視線がやばい。

「見た後は完璧に元に戻します」
「いやいやいや、それだとお前が作った折り鶴になるから。その時点で完璧じゃないから」
「椅子から落ちるという身体を張った誘惑をする陛下は、十分健康だと思いますが」
「何、チクってるんだ魔王城! あれはわざと落ちたわけじゃない。サラがいきなり俺に好きって言ってキスするから、驚いて。あー、そういやその時にサラを見上げる形になって新鮮だったな。あと、体勢的には俺が押し倒されているはずなのに、何かこう俺の方が襲っている気分に……あ」

 思い出した光景をついそのまま口に出して、俺は慌てて手で押さえた。

「私もミアに試しに乗ってもらったことがあるので、理解できます。私の場合は折角なので、そのままミアに脱がせてもらって――」
「ストップ! ストーーーップ! そこから先は言わなくていい!」

 今うっかり、俺とサラで想像しかけた。危ないったら、ない。

「お前、本当に何でも試す奴だよな。……ちなみに例の本の内容だと、幾つ試した?」
「当然、全部試しましたよ」
「えっ、あの後ろから二頁目も?」
「はい」
「……」

 もう魔王は、こいつでいいんじゃないかな。
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