魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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オーブ奪還(4) -ギル視点-

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 竜から人に姿を変え、地上に降りる。それから俺は村を大回りして、森側からサラが入っていった建物へと近付いた。
 その途中、奇妙な人工物が目に入り足を止める。地表近くにある横並びになった硝子。設置場所が地面とおかしいが、窓のように見えた。

「おっと」

 もう少し近付こうとして、結界に阻まれる。一見村の外に見えるが、さすがに結界の外に建造はしないか。

「こちらでしたか」

 窓から中の様子を探ろうとしゃがみかけたところで、後ろから俺に声を掛けてきた者がいた。

「何だ、シナレフィー。結局気になって様子を見に来たのか」
「気にしていたのは、私ではなくミアです」

 振り返って声の主に答えれば、素直でない切り返しがきた。ミアも気にはしていただろうが、自分もまったく気になっていないわけではないだろうに。

「私の用事は、こちらです」
「お、もうできたのか」

 俺はシナレフィーから小瓶を受け取り、中身の赤い染料を陽に翳してみた。その鮮やかな発色に、かなり高純度な出来映えと窺える。

「私に割り当てられた仕事は、それで最後ですよね。約束の報酬を下さい」

 シナレフィーが「とっとと出せ」と言わんばかりに、俺に手のひらを出してくる。十数年前に協力を依頼したときには、報酬を出すといっても見向きもしなかったくせに。
 俺はシナレフィーの現金さに半ば呆れながら、彼が求める報酬が仕舞ってある亜空間を探った。
 目的の物を取り出し、それを目の前で主張する手に乗せてやる。
 シナレフィーが求めたのは、俺の先祖が書き記した一冊の本だった。竜殺しの剣ドラゴンスレイヤーの製法――それについて書かれた、本。

「ありがとうございます。これでミアに先立たれたときに、後を追えます」

 受け取った本の表紙を大切そうに撫でる幼馴染みに、複雑な心境になる。

「……剣の後始末まで考えておけよ」

 その一方で理解もできてしまい、俺は彼にそう一言だけ返した。

『陛下』

 用は済んだと踵を返したシナレフィーと入れ替わるようにして、狼族の子がこちらへと走って来た。サラにつけた一体だ。

「オーブか! よくやった」

 彼の口に銜えられてきた宝石を受け取る。間違いない、探していた転移のオーブだ。
 これで必要なものは揃った。サラが戻ったなら魔王城に帰り、後は魔法陣を描けばいい。

「――サラは?」

 そのサラの姿がまだ見えないことに、俺は辺りの気配を探った。
 オーブを持たせた魔物を先に離脱させたとして、そう時間を置かずに彼女も戻って来ていいはずなのだが。

『妃殿下は、檻に捕らわれてしまいました』
「どういうことだ!?」

 狼族の子の言葉に、反射的に問い質す。
 サラにつけた他の二体も、俺の元へと戻って来た。やはりサラの姿は見えない。

『回転する壁と「いっせーので」で開く扉は、妃殿下が見事解決されたのですが』
「いや本当、どういうことだ!?」

 よくわからない報告だが、人間ではなく檻に捕らわれたと表現したあたり、仕掛けられていた罠に掛かってしまったということだろうか。

「助けに行く。お前が出て来た場所まで案内しろ」

 染料とオーブを亜空間に投げ入れる。
 それから俺は、走り出した狼族の子を追った。
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