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エリス(1) -カシム視点-
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「やあ、カシム。全身の骨が砕けるなんて、壮絶な死に方をしたもんだね。一体、どんなご不興を買ったのさ」
笑いながら宿舎を訪ねてきたジラフを、俺は思わず睨んだ。
王都の教会で復活後、併設された宿舎に治療のため移されて数日。彼が「壮絶」と表したように、死因が死因だけに一族の特異性を以てしても、俺の身体は完治には程遠い。
あくまで宿舎のため、ここには見舞客用の椅子など無く。王族にだけ立たせるわけに行かず、俺は手のリハビリを中断し、腰掛けていたベッドから立ち上がった。
部屋の中央で立ち止まったジラフの前まで行く。何がそんなに楽しいのか、「あ、もう動けるんだ」と手を叩いた彼の前で膝を折る。それが敬意からでなく不服な表情を隠すための行為というのはお見通しだろうに、それでも彼は変わらず笑っていた。
「死んでも生き返る勇者の一族、ね。羨ましいよ。僕の一族は多くが短命だから。精霊から呪いを受けたという事実は、同じなのにね」
「あなたの一族が短命なのは、精霊の呪いが直接的な原因ではないでしょう」
「あれ? その口振り、調べたんだ。ニホン語を使う前の記録は君でも読めるもんね。勇者だから図書館も入り放題だし。ああ、そういや精霊の村にも行ってたんだっけ。村中を家探しでもした? ご苦労様だね」
ジラフが俺の頭を撫でる。幼子を褒めるように。
そうされて俺が苦虫を噛み潰したような顔をすることも、彼にはお見通しなんだろう。
「そうだよ。僕の一族が短命なのは、近親婚を繰り返したから。仕方ないよね? 掟破りの罰とかで精霊の加護から外されて、同じく加護の無い一族間でしか子を成せなくなったんだから」
ジラフがその場でしゃがみ、俺と目線を合わせてくる。どうせやはり顔が見えた方が面白いとでも思ったのだろう。
それならこちらも隠す必要は無い。俺は繕うことなく不機嫌な顔をそのまま彼に向けた。
案の定、楽しげなままのジラフの顔が目に入る。
「だからさ、転移のオーブをこの世界に持ち込んだ先代魔王には感謝してるんだよ。オーブは精霊の加護を持たない人間を――健康な血を僕の一族にもたらしてくれた。僕の血を、この世界に広く行き渡らせてくれた」
ジラフの言葉に、俺は俺の推測が正しかったことを確信した。
一見しただけでは血縁関係が見られない『王家』という名の政府機関。けれどどの家系にも、一つの共通点があった。家系図の中に、必ず異世界人とおぼしき名前が見られるという共通点が。
『王家』の家系図が書かれた記録において、ある時期を境に王族の寿命は飛躍的に延びていた。その少し前に書かれた「王族のみが罹る病の治療薬が見つかった」という一文。あれは異世界人のことを指していたのだ。
ジラフが自分の一族の繁栄のために異世界人を喚んだというのなら、すべての家系において、遡ればジラフの直系に繋がっているのだろう。年齢不詳のジラフであれば、彼の実子が新たな王族として生まれていることさえあるかもしれない。
治療薬、生け贄。誰かを生かすために、また誰かの代わりに死ぬために、喚び出されてきた異世界人。
先代魔王を倒した俺の先祖は、死ぬ日の朝まで名の刻まれていない墓前に花を手向け続けていたと聞いていた。それはきっと、先祖が手に掛けた異世界人の墓だったのだ。
悔やまなかったはずがなかった。『消す』のではなく、やはり『殺す』のだから。
笑いながら宿舎を訪ねてきたジラフを、俺は思わず睨んだ。
王都の教会で復活後、併設された宿舎に治療のため移されて数日。彼が「壮絶」と表したように、死因が死因だけに一族の特異性を以てしても、俺の身体は完治には程遠い。
あくまで宿舎のため、ここには見舞客用の椅子など無く。王族にだけ立たせるわけに行かず、俺は手のリハビリを中断し、腰掛けていたベッドから立ち上がった。
部屋の中央で立ち止まったジラフの前まで行く。何がそんなに楽しいのか、「あ、もう動けるんだ」と手を叩いた彼の前で膝を折る。それが敬意からでなく不服な表情を隠すための行為というのはお見通しだろうに、それでも彼は変わらず笑っていた。
「死んでも生き返る勇者の一族、ね。羨ましいよ。僕の一族は多くが短命だから。精霊から呪いを受けたという事実は、同じなのにね」
「あなたの一族が短命なのは、精霊の呪いが直接的な原因ではないでしょう」
「あれ? その口振り、調べたんだ。ニホン語を使う前の記録は君でも読めるもんね。勇者だから図書館も入り放題だし。ああ、そういや精霊の村にも行ってたんだっけ。村中を家探しでもした? ご苦労様だね」
ジラフが俺の頭を撫でる。幼子を褒めるように。
そうされて俺が苦虫を噛み潰したような顔をすることも、彼にはお見通しなんだろう。
「そうだよ。僕の一族が短命なのは、近親婚を繰り返したから。仕方ないよね? 掟破りの罰とかで精霊の加護から外されて、同じく加護の無い一族間でしか子を成せなくなったんだから」
ジラフがその場でしゃがみ、俺と目線を合わせてくる。どうせやはり顔が見えた方が面白いとでも思ったのだろう。
それならこちらも隠す必要は無い。俺は繕うことなく不機嫌な顔をそのまま彼に向けた。
案の定、楽しげなままのジラフの顔が目に入る。
「だからさ、転移のオーブをこの世界に持ち込んだ先代魔王には感謝してるんだよ。オーブは精霊の加護を持たない人間を――健康な血を僕の一族にもたらしてくれた。僕の血を、この世界に広く行き渡らせてくれた」
ジラフの言葉に、俺は俺の推測が正しかったことを確信した。
一見しただけでは血縁関係が見られない『王家』という名の政府機関。けれどどの家系にも、一つの共通点があった。家系図の中に、必ず異世界人とおぼしき名前が見られるという共通点が。
『王家』の家系図が書かれた記録において、ある時期を境に王族の寿命は飛躍的に延びていた。その少し前に書かれた「王族のみが罹る病の治療薬が見つかった」という一文。あれは異世界人のことを指していたのだ。
ジラフが自分の一族の繁栄のために異世界人を喚んだというのなら、すべての家系において、遡ればジラフの直系に繋がっているのだろう。年齢不詳のジラフであれば、彼の実子が新たな王族として生まれていることさえあるかもしれない。
治療薬、生け贄。誰かを生かすために、また誰かの代わりに死ぬために、喚び出されてきた異世界人。
先代魔王を倒した俺の先祖は、死ぬ日の朝まで名の刻まれていない墓前に花を手向け続けていたと聞いていた。それはきっと、先祖が手に掛けた異世界人の墓だったのだ。
悔やまなかったはずがなかった。『消す』のではなく、やはり『殺す』のだから。
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