魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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エリス(2) -カシム視点-

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「ところでさ、カシム。ここで悠長に僕と話してていいの? 今頃、イスカの村は大変かもよ。あそこは王都と違って、本物の精霊の加護で魔道具を動かしてるからさ。村中の施設が機能してなかったりして」
「どういうことだ!?」

 思考の海に沈んでいた俺は、ジラフの耳を疑うような発言で一気に引き上げられた。
 立ち上がって伸びをしたジラフを見上げる。

「精霊の不安定は、魔王側にしか影響が無いという話じゃなかったのか!?」

 まるで世間話でもするかのように軽く言った彼に、俺は最早、言葉遣いすら取り繕うことを止めていた。

「僕は、「人工精霊がいるから人間側は生活に影響は出ない」って言っただけだよ。人工精霊の恩恵が無い場所への影響までは、知らないね」
「! ジラフ、貴様――あぐっ」

 ドガッ
 立ち上がろうとした俺はジラフから強烈な足蹴のカウンターを食らい、床に転がった。

「ぐ、はっ」

 腹を踏みつけられ、ジラフを睨む。
 笑いながらそうしただろうと思っていた。だが俺を見下ろす彼の顔からは、先程までの笑みが嘘のように消えていた。

「目障りなんだよ」

 底冷えのする濃紅色の瞳が、静かな怒りに揺らめいていた。

「目障りなんだよ、イスカはさ。精霊の村を出たくせに、精霊と繋がりがあるなんて。特別なのは、僕だけでいい。僕の血だけでいい、そうあるべきなんだ」
「う、ぐ……っ」

 腹に乗せられた足に、ジワジワと体重を掛けられる。冷たい瞳は変わらないままに、ジラフの口角だけが上がる。

「ああ、そうそう。村がそうなっちゃったからさ、エリスがとばっちりを受けちゃっているみたいだね」
「!?」
「魔物がウヨウヨする森で、縄に縛られての放置だよ。しかも縛られている支柱が例の石碑! 誰の案だろうね、その演出。ウケる」
「! あいつら――エリス!!」

 既にジラフの歪んだ笑みなど、目に入っていなかった。俺の意識の一切が、エリスへと向かう。

「カシムがちゃんとした勇者になっていたら、あんな目に遭わずに済んだのに。可哀想だね、エリスは」
「貴様らの皮肉などどうでもいい! そこを退けっ」
「おっと、勇ましいね。さすがは勇者様だ。いいよ、ついでに可哀想な彼女に免じて、イスカまで送ってあげる。感謝しなよ」

 ジラフが俺に乗せていた足を持ち上げる。
 その次の瞬間、ジラフの姿は消え、代わりに俺の前にはイスカの門が現れていた。
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