魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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魔王の隣に在る者(2)

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「サラ!」

 真っ正面、驚いたギルの顔がそこにあった。地面に片膝を付き窓枠に手を掛けた彼と、お互い口を開けたまま見つめ合う。

「無事で良かった」
(! あ、それで)

 ホッと息をついたギルに、私はピンと来た。先の不思議現象の正体についてだ。
 考えてみれば以前にギルは、魔王城の壊れた城壁をフワフワ浮かせていたことがあった。カルガディウムへ魔物を家屋ごと引っ越させたのも彼だ。家具の移動なんて、ちょちょいのちょいでやってのけてしまうんだろう。

「ありがとう、ギル。助けに来てくれるとは思ってましたが、まさかあんな手段とは。驚きました」

 ギルの両手に引き上げられながら、私は彼に礼を言った。
 地上まで出て、ギルを見上げる。

「ギル?」

 いつものように、ギルは嬉しそうにしてくれるとばかり思っていた。ところが彼は、不思議な面持ちでこちらを見下ろしていた。

「あんな手段? いや、俺はまだ何も――」

 何のことだといった表情で口にしたギルが、その途中、言葉を止める。そして、彼はバッと再び窓枠を掴んだ。
 本棚、タペストリー、机……ギルが顔ごと目を移して行く。彼の手の中、窓枠がミシッと軋む音を立てた。
 ギルが眉根を寄せ、堪えるような表情になる。

(! もしかして……)

 その彼の様子に、私はハッとして室内を振り返った。

「……助けてやれなくてすまなかった。俺の妃を救ってくれたこと、……心から感謝する」

 ギルは、『彼ら』に頭を下げていた。
 『殺された同胞の血肉が衣類や家具になっている』
 いつか聞いた、ギルの言葉が蘇る。

(魔物、素材……)

 変わらず出入口を塞ぐ机と椅子を見る。
 床に落ちた皺だらけのタペストリーを見る。
 ぐらつくことなく最後まで支えてくれた、折り重なった本棚を見る。
 私は、『彼ら』を見つめた。
 私は、『彼ら』に助けられたのだと、理解した。

(魔王ギルガディス……)

 次いで、『彼ら』がそうした理由をも理解した。真摯な態度で『彼ら』を想う魔王のため、彼が守ろうとする私を守ってくれたのだと。

(ギルの悲願を実現させてみせるから……約束、するから……)

 『彼ら』の代わりに、私は少しでもギルの役に立ちたい。
 私は礼と誓いを込めて、深く、『彼ら』に頭を下げた。
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