魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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魔王の隣に在る者(1)

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 ドガッ
 私の目の前、突如、机が飛んだ。

(え?)

 そう、今、机が飛んだ。――通路を塞ぐようにして。
 無意識に通路を凝視していた私は、起きた現象に呆気に取られた。

「檻にいる一体だけじゃなかったのか!」

 ミニマップ上でも、通路は障害物に塞がれている表示に変わっていた。障害物の手前、男を示す赤いマークがうろうろと動いているのが見える。
 キィギギギ……

「!?」

 ミニマップを注視していた私は、急に近くで鳴った金属音に危うく悲鳴を上げかけた。
 その際に、両手で口を塞いだのが幸いした。でなければ、絶対に声を上げていた。そこにあった光景は、それほどに異様だった。

(……嘘)

 ギギギ……
 壁にあったはずのタペストリーが、いつの間にか檻の鉄格子に絡まっていた。その布が絡まった鉄格子二本が、それぞれ反発し合うように折れ曲がって行く。
 そして金属音が止むと、私の前には人一人通れるくらいの隙間が、ぽっかりと空いていた。
 役目は終えたとばかりに、はらりとタペストリーが床に落ちる。それがもう動くことはなかった。

(出ろということよね……?)

 私はタペストリーを踏まないようにして、檻から出た。
 もう一度、通路の方を見る。いつの間にか、机なバリケードの駄目押しにとばかりに、対の椅子まで移動していた。
 ミニマップの赤いマークはいつの間にか遠ざかっていた。男の方は引き上げたようだ。
 それはそうだろう、机を投げ飛ばしたり鉄格子を曲げるような『魔物』だ。どう考えても人間一人の手には負えない。

(さて、私はあそこまでどうやって行くか)

 私はトムが出て行った窓を見上げた。換気のためか、内側からなら簡単に開くような造りのようで、壊して出て行ったわけではないようだ。
 ズズズ……ガタンッ
 脱出経路を考えていたところ、窓の真下の壁に向かって倒れ込んだ本棚が、私の目に飛び込んできた。

「……」

 ちなみに最初の「ズズズ……」という音は、そこまで本棚が横滑りに動いた音だ。呆気に取られているうちに、別の本棚も移動して先のものに折り重なるようにして倒れた。その上には、また別の本棚が。

「え……」

 そしてガタゴトと煩かった室内が静まり返れば、そこには窓まで続く『階段』が現れていた。まるで私が窓まで行こうとしたが故に、そうなったかのように。

(と、とにかく逃げ出さないとね)

 未だ呆然としながらも、出来上がった本棚階段を上る。
 一番上まで登り窓を開けた私は、思わず「あっ」と声を上げた。
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