魔王の花嫁 ~夫な魔王が魔界に帰りたいそうなので助力します~

月親

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勇者カシム(1)

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 翌朝、私は『朝、起き上がれなかった』というテンプレ展開を、見事体験する羽目になった。
 ギルは魔王だった。目が覚めた私が真っ先に思ったのは、それだった。
 今朝も今朝で、私を瞬時に回復可能にもかかわらず、「俺がベッドを離れてから回復するように」と敢えて彼は遅効性の魔法を掛けた。察した理由に遠い目をしたのは、ついさっきのことだ。

(遠慮なく使っていい以前に、『ハナキ』を言えた覚えがないのだけど……?)

 謁見の間。私は、一段高い場所にある玉座に座ったギルをろんな目で見上げた。が、そこでとてもそわそわした様子を見せていた彼が可愛くて、あっと言う間に「まあいいか」という気になってしまった。恋は盲目だ。

「ギル。座り心地でも悪いんですか?」
「いやそうじゃなくて。実はここに座ったの初めてで落ち着かないというか……謁見の間に入ったこと自体無かったし」
「魔王なのに?」
「即いてから忙しかったからな。それに魔族や魔物に用があったら、俺から会いに行った方が早い」
「それはそうですけど」

 なんてフットワークの軽い魔王。

「サラに勧められて座ってみてよかったな。記念になった」

 そしてこの玉座の価値観である。まあ「座ったところを見てみたい」という理由で座ってもらった私が言うのもアレだけれど。

(ギルの価値観がそうなのはきっと、大事なのは椅子じゃないことを知っているからだ)

 肘掛けの握り心地でも確かめているように見えたギルに、口元が緩む。
 それから私は足元の、赤い絨毯に目を落とした。
 謁見の間を横断するように、入口からギルの座る玉座まで続いている。その中央、昨日ギルが描いた魔法陣が淡い光を放っていた。
 中天の刻になれば自動発動するのだからギルがここにいる必要は無いのだけれど、どうせなら発動する瞬間を見たいと思って彼に連れてきてもらった。今日は遅めに起床したので(原因が何とは言わないが)、発動まで後一時間くらいだろうか。
 カルガディウムの襲撃はやはり昨日のあれで終わりではなくて、人間側が応援を呼んできて今日もドンパチやっているらしい。ギルが魔界から呼び戻すまで、どうか皆無事でいて欲しい。

「サラ。ほらっ」

 ギルが私を呼ぶ。両手を広げて。

(そこで膝抱っこなの!?)

 玉座で女を侍らせるの図は、ギルにも私にも少々無理があるような。……とか思いつつも、彼の笑顔には逆らえない。私はギルの傍まで行き、促されるまま彼の膝の上に座った。
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