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人工精霊(3)
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「いいや、するさ。お前はせざるを得ない。お前の本当の望みを叶えることは、俺にしかできないのだから」
「僕の本当の望み? 面白いことを言うね」
印象通り楽しいことには目がない性格なのか、ジラフが少し興味を引かれたようにカシムに聞き返す。
「お前は魔王に関係無く、元から俺にどうしても竜殺しの剣を抜かせたかった。その理由を考えて、答に辿り着いた。俺にお前の望みを教えたのは、お前自身だ」
「随分な自信の有り様だね。何なのかな、それは」
「死を迎えることだ」
「……っ!?」
(死を迎える? カシムはこの子を殺すと言っているの!?)
カシムの発言に、先程のジラフではないが一体何を言い出すのかと思う。
しかし私とは逆に、ジラフの方は表情から一切の余裕が消えていた。口を戦慄かせてさえいる。まるでカシムに真実を言い当てられたかのように。
「王都の教会の地下には、先代魔王の妃だった炎竜の遺体が保管されている。解体されず綺麗な状態が保たれているのは何故なのか、ずっと不思議だった。その理由が、やっとわかった。お前は――人工精霊は、器を渡り歩けるからだ。鳥でも、――竜でも」
(人工精霊?)
どこかで聞いた単語に、記憶を探る。
(あ、精霊の村で結界を破ったっていう)
光の精霊が結界を破ったと言っていたのは、王家の白い鷹。でもギルは鷹に対して、『器』と言っていた。そしてカシムが口にした「器を渡り歩ける」という言葉。
(じゃあ白い鷹になって結界を破ったのは、この子?)
改めてジラフを見る。
そうだ。普通の人間が通れない結界が張られた村から外に出たのなら、少なくとも初めの一人は普通の人間じゃない。その初めの一人はここにいるジラフで、そして彼は人工精霊。
ギルは、「人工精霊は余程のことがない限り死なない」とも言っていた。小さな村を飛び出した数人が、王都を築き上げる年月。それはどれほどだろうか。
(だからジラフにとって『死』は、取引材料になるの?)
カシムがジラフを見据える。
ジラフはカシムを一切見ようとしない。
「俺なら、竜の身体に入ったお前を殺してやることができる」
「……何を、言っているのやら僕にはわからないね」
ジラフが変わらず戯けるように言って、けれどそうした彼の顔が強張っているのは、誰が見ても明らかだった。
「だってそうだろう? 僕を差し置いて王族を名乗った奴の血は絶えて、僕の時代が来たんだよ。その他大勢に埋もれるように死んでいったあいつらより優れた僕が、あるべき地位に収まったんだ。そんな僕がどうしてそれを自ら手放すことを望むのさ!」
ジラフが声を大きくして続ける。滑らかに動かない口を誤魔化すように。
「本音は、置いて行かれたくなかったんだろう」
そんなジラフを、カシムは一蹴した。
「お前は、普通から弾かれたから、拒まれたのではなく自分から拒んだのだと思いたかっただけだ。特別になってしまったから、自分が特別であることに後付けで価値を与えた。俺と同じように」
「君と同じ? 違うね! 僕が特別なのは、君のような下らない後付けの理由なんかじゃない。僕は孤高なのであって、孤独なんかじゃない!」
「別にそれならそれで構わない。だが俺は子を成さず自分の代で呪いを終わらせる。次に俺が死んだ瞬間に、竜殺しの剣を扱える者はいなくなる。永遠に」
「……っ」
眉一つ動かさず淡々と言い放ったカシムに、ようやくジラフが彼を見る。それからジラフは、忌々しげに舌打ちした。
「…………君は、僕に何をさせたいのさ?」
「手始めに、イスカの各施設の復旧だ」
睨むジラフの視線には一切介さないで、カシムが涼しい顔で答える。
「イスカの機関は僕が作ったものじゃないから、大規模な魔法を張り直さないといけない。それこそ、生け贄が必要だね」
「それなら長を殺せばいい」
「即答とか、怖いね。――はいはい、すべては勇者様の良きように!」
吐き捨てるようにジラフが言う。それから彼は、足を振り子のようにして勢いよく立ち上がった。
「じゃあ、サクッと済ませてくるよ」
狭い部屋でもないのに、ジラフがカシムを手で押し退けて部屋の出入口へ向かう。
扉の開閉音が、彼が外へ出て行ったことを伝えた。
「僕の本当の望み? 面白いことを言うね」
印象通り楽しいことには目がない性格なのか、ジラフが少し興味を引かれたようにカシムに聞き返す。
「お前は魔王に関係無く、元から俺にどうしても竜殺しの剣を抜かせたかった。その理由を考えて、答に辿り着いた。俺にお前の望みを教えたのは、お前自身だ」
「随分な自信の有り様だね。何なのかな、それは」
「死を迎えることだ」
「……っ!?」
(死を迎える? カシムはこの子を殺すと言っているの!?)
カシムの発言に、先程のジラフではないが一体何を言い出すのかと思う。
しかし私とは逆に、ジラフの方は表情から一切の余裕が消えていた。口を戦慄かせてさえいる。まるでカシムに真実を言い当てられたかのように。
「王都の教会の地下には、先代魔王の妃だった炎竜の遺体が保管されている。解体されず綺麗な状態が保たれているのは何故なのか、ずっと不思議だった。その理由が、やっとわかった。お前は――人工精霊は、器を渡り歩けるからだ。鳥でも、――竜でも」
(人工精霊?)
どこかで聞いた単語に、記憶を探る。
(あ、精霊の村で結界を破ったっていう)
光の精霊が結界を破ったと言っていたのは、王家の白い鷹。でもギルは鷹に対して、『器』と言っていた。そしてカシムが口にした「器を渡り歩ける」という言葉。
(じゃあ白い鷹になって結界を破ったのは、この子?)
改めてジラフを見る。
そうだ。普通の人間が通れない結界が張られた村から外に出たのなら、少なくとも初めの一人は普通の人間じゃない。その初めの一人はここにいるジラフで、そして彼は人工精霊。
ギルは、「人工精霊は余程のことがない限り死なない」とも言っていた。小さな村を飛び出した数人が、王都を築き上げる年月。それはどれほどだろうか。
(だからジラフにとって『死』は、取引材料になるの?)
カシムがジラフを見据える。
ジラフはカシムを一切見ようとしない。
「俺なら、竜の身体に入ったお前を殺してやることができる」
「……何を、言っているのやら僕にはわからないね」
ジラフが変わらず戯けるように言って、けれどそうした彼の顔が強張っているのは、誰が見ても明らかだった。
「だってそうだろう? 僕を差し置いて王族を名乗った奴の血は絶えて、僕の時代が来たんだよ。その他大勢に埋もれるように死んでいったあいつらより優れた僕が、あるべき地位に収まったんだ。そんな僕がどうしてそれを自ら手放すことを望むのさ!」
ジラフが声を大きくして続ける。滑らかに動かない口を誤魔化すように。
「本音は、置いて行かれたくなかったんだろう」
そんなジラフを、カシムは一蹴した。
「お前は、普通から弾かれたから、拒まれたのではなく自分から拒んだのだと思いたかっただけだ。特別になってしまったから、自分が特別であることに後付けで価値を与えた。俺と同じように」
「君と同じ? 違うね! 僕が特別なのは、君のような下らない後付けの理由なんかじゃない。僕は孤高なのであって、孤独なんかじゃない!」
「別にそれならそれで構わない。だが俺は子を成さず自分の代で呪いを終わらせる。次に俺が死んだ瞬間に、竜殺しの剣を扱える者はいなくなる。永遠に」
「……っ」
眉一つ動かさず淡々と言い放ったカシムに、ようやくジラフが彼を見る。それからジラフは、忌々しげに舌打ちした。
「…………君は、僕に何をさせたいのさ?」
「手始めに、イスカの各施設の復旧だ」
睨むジラフの視線には一切介さないで、カシムが涼しい顔で答える。
「イスカの機関は僕が作ったものじゃないから、大規模な魔法を張り直さないといけない。それこそ、生け贄が必要だね」
「それなら長を殺せばいい」
「即答とか、怖いね。――はいはい、すべては勇者様の良きように!」
吐き捨てるようにジラフが言う。それから彼は、足を振り子のようにして勢いよく立ち上がった。
「じゃあ、サクッと済ませてくるよ」
狭い部屋でもないのに、ジラフがカシムを手で押し退けて部屋の出入口へ向かう。
扉の開閉音が、彼が外へ出て行ったことを伝えた。
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