1 / 44
プロローグ やっぱり悪役令嬢ですか?
しおりを挟む
日本から剣と魔法な異世界に転生を果たして早十八年。
その内訳は、銀髪青目のクール系美少女に成長したなぁとにやけていた十六年と――
この容姿で侯爵令嬢という立ち位置に、もしやと思っての二年……。
「――来たわ。この展開……」
「アデリシア・ノイン! 今を以て、俺はお前との婚約を破棄する!」
ババーンという効果音でも付きそうな、スレイン王子の高らかな宣言。そんな彼の隣には、ドヤ顔のジェニファー・コール子爵令嬢。
ロケーションが学園の卒業パーティーではないものの、疑いようのないこの展開。
(私、やっぱり悪役令嬢だわ)
『未来の王妃』として登城していた私は雅な庭園にて、俗な三文芝居に巻き込まれていた。
「邪魔はさせない。俺はジェニーと真実の愛を見つけたのだ!」
「スレイン様……」
ベタ過ぎる台詞を言いながら、蔓薔薇に囲まれた噴水の前でひっしと抱き合う二人。
彼らを見ながら考える。さてこれは、どちらなのかと。
「ショックで声も出ないか、アデリシア。縋っても無駄だぞ、ジェニーとの仲は既に父上から許しを得ている」
「ごめんなさい、アデリシア様。でも私たち、心から愛し合っているんです!」
「今日明日にでも、貴様の家に婚約破棄の通達が行くことだろう」
スレイン王子が、高笑いしながら私を指差す。彼のもう片手は子爵令嬢を抱き寄せている。
容姿は整っているが惹かれるものがない金髪王子と、容姿は可愛いものの気品が感じられない桃色髪の令嬢という組み合わせ。一言で言うと、二人ともモブ感しかない。
(これは……十中八九、後者だわ)
私は先程から考えていた『どちら』に、結論を出した。
即ち、ここは私が『悪役令嬢として断罪される物語』なのか、あるいは私が逆ざまぁをする『悪役令嬢の物語』なのか――という二択の。
(婚約破棄からの『私たち愛し合っているんです』発言……もうテンプレな感じよね)
スレイン王子は正直好みではないので悲壮感はないし、また逆ざまぁする方と思えば当然危機感もない。こちらのリアクションとしては、前世で読んでいた数多の悪役令嬢ものに思いを馳せての空笑いしか出てこない。
――と、そうしたところでハッとする。
(そうだ……婚約破棄! 破棄されたのよ、私)
スレイン王子は子爵令嬢とのことについて父――つまり国王陛下の許可を得たと言った。近いうちに私との婚約を破棄する旨の通達が行くだろうとも。
王子のことだから、この後に婚約破棄について周りに触れ回るだろう。あるいはもう既にそうしているかもしれない。
私はバッと王都の方へと目を向けた。
物心ついた頃には婚約者がいた私。だからこれまでは憧れの男性がいても、その想いを告げることも叶わなかった。
(今なら……)
今なら私はフリーだ。
勿論、侯爵令嬢として彼と恋仲になったり、ましてや結婚することなんてできないだろう。私が恋する彼は平民。二十も年上で、しかも既に死別したとはいえ既婚者だった人。さらには私と同年代の息子までいるという話。これから私の『悪役令嬢の物語』が始まったとしても、絶対に男主人公とはならないだろう人。
だとしても今なら、「せめて好きだと伝えられたら」という願いであれば叶えられる。
(こうしちゃいられないわ)
私はドレスの裾を掴み、身を翻した。
「どうぞ末永くお幸せに。失礼いたしますわっ」
同時に早口で暇を告げて、一目散に城門へと向かう。
早々に観劇からの退場を試みた私が、役者二人の目には尻尾を巻いて逃げるように映ったのだろう。後ろで勝ち誇ったように笑う彼らの声が聞こえた。
でもそんなものは気にならない。寧ろ婚約破棄というまたとない機会をくれた彼らに、感謝すらしたいくらいだ。
(レンさん……)
思わず心の中で彼の名を呼んでしまう。
逸る気持ちを抑えながら、私はマナー違反すれすれの早足で王城の廊下を駆け抜けた。
その内訳は、銀髪青目のクール系美少女に成長したなぁとにやけていた十六年と――
この容姿で侯爵令嬢という立ち位置に、もしやと思っての二年……。
「――来たわ。この展開……」
「アデリシア・ノイン! 今を以て、俺はお前との婚約を破棄する!」
ババーンという効果音でも付きそうな、スレイン王子の高らかな宣言。そんな彼の隣には、ドヤ顔のジェニファー・コール子爵令嬢。
ロケーションが学園の卒業パーティーではないものの、疑いようのないこの展開。
(私、やっぱり悪役令嬢だわ)
『未来の王妃』として登城していた私は雅な庭園にて、俗な三文芝居に巻き込まれていた。
「邪魔はさせない。俺はジェニーと真実の愛を見つけたのだ!」
「スレイン様……」
ベタ過ぎる台詞を言いながら、蔓薔薇に囲まれた噴水の前でひっしと抱き合う二人。
彼らを見ながら考える。さてこれは、どちらなのかと。
「ショックで声も出ないか、アデリシア。縋っても無駄だぞ、ジェニーとの仲は既に父上から許しを得ている」
「ごめんなさい、アデリシア様。でも私たち、心から愛し合っているんです!」
「今日明日にでも、貴様の家に婚約破棄の通達が行くことだろう」
スレイン王子が、高笑いしながら私を指差す。彼のもう片手は子爵令嬢を抱き寄せている。
容姿は整っているが惹かれるものがない金髪王子と、容姿は可愛いものの気品が感じられない桃色髪の令嬢という組み合わせ。一言で言うと、二人ともモブ感しかない。
(これは……十中八九、後者だわ)
私は先程から考えていた『どちら』に、結論を出した。
即ち、ここは私が『悪役令嬢として断罪される物語』なのか、あるいは私が逆ざまぁをする『悪役令嬢の物語』なのか――という二択の。
(婚約破棄からの『私たち愛し合っているんです』発言……もうテンプレな感じよね)
スレイン王子は正直好みではないので悲壮感はないし、また逆ざまぁする方と思えば当然危機感もない。こちらのリアクションとしては、前世で読んでいた数多の悪役令嬢ものに思いを馳せての空笑いしか出てこない。
――と、そうしたところでハッとする。
(そうだ……婚約破棄! 破棄されたのよ、私)
スレイン王子は子爵令嬢とのことについて父――つまり国王陛下の許可を得たと言った。近いうちに私との婚約を破棄する旨の通達が行くだろうとも。
王子のことだから、この後に婚約破棄について周りに触れ回るだろう。あるいはもう既にそうしているかもしれない。
私はバッと王都の方へと目を向けた。
物心ついた頃には婚約者がいた私。だからこれまでは憧れの男性がいても、その想いを告げることも叶わなかった。
(今なら……)
今なら私はフリーだ。
勿論、侯爵令嬢として彼と恋仲になったり、ましてや結婚することなんてできないだろう。私が恋する彼は平民。二十も年上で、しかも既に死別したとはいえ既婚者だった人。さらには私と同年代の息子までいるという話。これから私の『悪役令嬢の物語』が始まったとしても、絶対に男主人公とはならないだろう人。
だとしても今なら、「せめて好きだと伝えられたら」という願いであれば叶えられる。
(こうしちゃいられないわ)
私はドレスの裾を掴み、身を翻した。
「どうぞ末永くお幸せに。失礼いたしますわっ」
同時に早口で暇を告げて、一目散に城門へと向かう。
早々に観劇からの退場を試みた私が、役者二人の目には尻尾を巻いて逃げるように映ったのだろう。後ろで勝ち誇ったように笑う彼らの声が聞こえた。
でもそんなものは気にならない。寧ろ婚約破棄というまたとない機会をくれた彼らに、感謝すらしたいくらいだ。
(レンさん……)
思わず心の中で彼の名を呼んでしまう。
逸る気持ちを抑えながら、私はマナー違反すれすれの早足で王城の廊下を駆け抜けた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
虐げられて過労死した聖女は平凡生活を満喫する。が、前世の婚約者が付きまとうんですけど!?
リオール
恋愛
前世は悲惨な最期を遂げた聖女でした。
なので今世では平凡に、平和に、幸せ掴んで生きていきます。
──の予定だったのに。
なぜか前世の婚約者がやって来て、求愛されてます。私まだ子供なんですけど?
更に前世の兄が王になってやってきました。え、また王家の為に祈れって?冗談じゃないです!!
※以前書いてたものを修正して再UPです。
前回は別作品に力を入れるために更新ストップしちゃったので一旦消しました。
以前のでお気に入り登録してくださってた方、申し訳ありません。
【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
前世持ちのファビアは、ちょっと変わった子爵令嬢に育っていた。その彼女の望みは、一生ケーキを食べて暮らす事! その為に彼女は魔法学園に通う事にした。
継母の策略を蹴散らし、非常識な義妹に振り回されつつも、ケーキの為に頑張ります!
忘れるにも程がある
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。
本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。
ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。
そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。
えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。
でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。
小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。
筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結】これでよろしいかしら?
ここ
恋愛
ルイーザはただの平民だった。
大人になったら、幼馴染のライトと結婚し、畑を耕し、子どもを育てる。
そんな未来が当たり前だった。
しかし、ルイーザは普通ではなかった。
あまりの魅力に貴族の養女となり、
領主の花嫁になることに。
しかし、そこで止まらないのが、
ルイーザの運命なのだった。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる