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二
二③
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しかし今はラファエルが男性だと言うことよりも、その手の冷たさが気持ちいい。
(やばい、寝そう、かも……)
里帆の意識が朦朧としてくる。
「ねぇ、ラファエル……」
(私、あなたに会えて、良かったって思っているの……)
「だから、ね……」
里帆の思考がゆるゆると停止していく。落ちていく意識の中、
(どこにも、行かないでね、ラファエル……)
そんなことを思う里帆の額に、冷たく大きな手が触れた気がした。
それから数時間、里帆は夢か現実か分からない、ぼんやりとした感覚に陥りながらベッドの上で過ごした。時折、額の上に冷たい感触を覚えながらウトウトとしていると、いつの間にかぐっすりと眠っていたのだった。
眠りから覚めた里帆がゆっくりと目を開ける。すると至近距離にラファエルの端正な顔があることに気付いた。里帆は一瞬驚いたものの、すぐに冷静になり、
「何をしているの?」
その冷たい言葉に、目の前のラファエルは拗ねたように唇を尖らせると、
「里帆が言ったんじゃないか。どこにも行かないで、って」
拗ねた口調で言うラファエルに、里帆が疑問を投げかける。
「私、そんなこと言った?」
「酷いよ、里帆! 眠る前に言ってくれたじゃないか!」
ラファエルは里帆から顔を離すと、ベッドの脇にすとんと腰を落とした。里帆はベッドの中で眠りに落ちる前の自分の思考と言動を思い出していく。そして徐々に記憶がよみがえってきた時、里帆は一気に赤面することとなる。
(嘘でしょっ? 私、あれをうわごとで口に出していたのっ?)
恥ずかしさから、里帆は掛け布団を耳までかぶった。あまりの恥ずかしさに、ラファエルの顔をまともに見ていられない。するとそんな里帆に向かってラファエルが宣言をした。
「僕は、里帆の願い通り、ずっと傍にいるね!」
その言葉に里帆は、インフルエンザとは違う軽い頭痛と、気恥ずかしさを覚えるのだった。
熱でうなされて眠りについたはずの里帆だったが、目が覚めた時にその熱が下がっていることに気付いた。試しに自身の体温をはかってみると、
(三十七度六分……。最近のインフルエンザの薬って凄いのね)
里帆はそんなことを思いながらもぞもぞと布団から出る。
「あ、里帆! まだ寝てないとダメだよ!」
「大丈夫よ。熱は大分下がっているもの」
ラファエルが里帆を押しとどめようとするのを、里帆はやんわりと断った。そして一つのことに気付く。
ラファエルの普段は真っ白で整っている顔に、今は朱が差しているのだ。
「もしかしてラファエル」
「何?」
「私のインフルエンザが移ったんじゃない? ちょっと熱をはかって」
有無を言わせない里帆の迫力に、ラファエルは差し出された体温計を脇の下に挟んだ。それからしばらくして検温を終えた電子音が鳴り響く。ラファエルから体温計を受け取った里帆はその数字に驚いた。
(三十七度五分……?)
その数値は里帆とさほど変わらない。しかし見た様子ではラファエルが発熱しているように見える。
(どういうこと?)
疑問符を浮かべる里帆に、ラファエルは真っ赤な顔を笑顔にさせて、
「僕は大丈夫だったでしょ?」
そう言うラファエルの言葉に里帆は自分の気のせいなのだろうかと思った。
とりあえず里帆は何かを食べようと立ち上がると、キッチンへと向かった。
「ラファエルも何か食べるでしょう?」
部屋の中央に向かって声をかける里帆に、ラファエルは曖昧に微笑むだけだった。その様子はやはりいつものラファエルとは違って見える。
(熱はそんなになかったけれど、やっぱり具合が悪いのだろうな)
そう思った里帆は、病院の帰り道に買い込んでおいたレトルトのおかゆを二袋、湯煎《ゆせん》で温め始めた。五分ほど温めた後、里帆は袋の中身を皿へと移す。そしてそれらを持って部屋の中央へと戻った。
「レトルトだけど、おかゆ。ラファエルは梅と卵、どっちがいい?」
里帆の問いかけに、ラファエルはしばらく二つの皿を見ていたが、
「卵、かな」
ラファエルの返答を聞いた里帆は卵がゆの方をラファエルへと差し出した。二人はその後黙々とおかゆを食べ出すのだった。
翌日になると里帆の熱はすっかり下がり、時折咳が出るくらいにまで回復していた。しかしラファエルの様子は昨日とあまり変わっていない。
白い肌を赤く染め、時々苦しげな咳をしていた。それでも熱をはかると三十七度台の中程を示しており、症状はインフルエンザのはずなのに決定打に欠けるのだった。
里帆はとにかくラファエルに、おとなしく寝ているように言うと自分のスマートフォンを取り出した。しばらく液晶画面と睨めっこしていると、
「何をしているの? 里帆」
傍にラファエルがやってきていた。
「ラファエル……」
里帆は少し呆れ気味にその名を呼んだ。ラファエルは、
「だって、黙って寝ているだけなんて、つまらないんだもん」
子供のようなことを言うと、その両頬を膨らませる。里帆ははぁ、と小さくため息を漏らすと、スマートフォンの画面をラファエルに見せた。
「これ、なぁに?」
「求人サイトよ。今年度で私、巫女を辞めないといけないから、次の仕事を探しているの」
「へぇー。人間は大変なんだね」
ラファエルの言葉に里帆は苦笑する。
(やばい、寝そう、かも……)
里帆の意識が朦朧としてくる。
「ねぇ、ラファエル……」
(私、あなたに会えて、良かったって思っているの……)
「だから、ね……」
里帆の思考がゆるゆると停止していく。落ちていく意識の中、
(どこにも、行かないでね、ラファエル……)
そんなことを思う里帆の額に、冷たく大きな手が触れた気がした。
それから数時間、里帆は夢か現実か分からない、ぼんやりとした感覚に陥りながらベッドの上で過ごした。時折、額の上に冷たい感触を覚えながらウトウトとしていると、いつの間にかぐっすりと眠っていたのだった。
眠りから覚めた里帆がゆっくりと目を開ける。すると至近距離にラファエルの端正な顔があることに気付いた。里帆は一瞬驚いたものの、すぐに冷静になり、
「何をしているの?」
その冷たい言葉に、目の前のラファエルは拗ねたように唇を尖らせると、
「里帆が言ったんじゃないか。どこにも行かないで、って」
拗ねた口調で言うラファエルに、里帆が疑問を投げかける。
「私、そんなこと言った?」
「酷いよ、里帆! 眠る前に言ってくれたじゃないか!」
ラファエルは里帆から顔を離すと、ベッドの脇にすとんと腰を落とした。里帆はベッドの中で眠りに落ちる前の自分の思考と言動を思い出していく。そして徐々に記憶がよみがえってきた時、里帆は一気に赤面することとなる。
(嘘でしょっ? 私、あれをうわごとで口に出していたのっ?)
恥ずかしさから、里帆は掛け布団を耳までかぶった。あまりの恥ずかしさに、ラファエルの顔をまともに見ていられない。するとそんな里帆に向かってラファエルが宣言をした。
「僕は、里帆の願い通り、ずっと傍にいるね!」
その言葉に里帆は、インフルエンザとは違う軽い頭痛と、気恥ずかしさを覚えるのだった。
熱でうなされて眠りについたはずの里帆だったが、目が覚めた時にその熱が下がっていることに気付いた。試しに自身の体温をはかってみると、
(三十七度六分……。最近のインフルエンザの薬って凄いのね)
里帆はそんなことを思いながらもぞもぞと布団から出る。
「あ、里帆! まだ寝てないとダメだよ!」
「大丈夫よ。熱は大分下がっているもの」
ラファエルが里帆を押しとどめようとするのを、里帆はやんわりと断った。そして一つのことに気付く。
ラファエルの普段は真っ白で整っている顔に、今は朱が差しているのだ。
「もしかしてラファエル」
「何?」
「私のインフルエンザが移ったんじゃない? ちょっと熱をはかって」
有無を言わせない里帆の迫力に、ラファエルは差し出された体温計を脇の下に挟んだ。それからしばらくして検温を終えた電子音が鳴り響く。ラファエルから体温計を受け取った里帆はその数字に驚いた。
(三十七度五分……?)
その数値は里帆とさほど変わらない。しかし見た様子ではラファエルが発熱しているように見える。
(どういうこと?)
疑問符を浮かべる里帆に、ラファエルは真っ赤な顔を笑顔にさせて、
「僕は大丈夫だったでしょ?」
そう言うラファエルの言葉に里帆は自分の気のせいなのだろうかと思った。
とりあえず里帆は何かを食べようと立ち上がると、キッチンへと向かった。
「ラファエルも何か食べるでしょう?」
部屋の中央に向かって声をかける里帆に、ラファエルは曖昧に微笑むだけだった。その様子はやはりいつものラファエルとは違って見える。
(熱はそんなになかったけれど、やっぱり具合が悪いのだろうな)
そう思った里帆は、病院の帰り道に買い込んでおいたレトルトのおかゆを二袋、湯煎《ゆせん》で温め始めた。五分ほど温めた後、里帆は袋の中身を皿へと移す。そしてそれらを持って部屋の中央へと戻った。
「レトルトだけど、おかゆ。ラファエルは梅と卵、どっちがいい?」
里帆の問いかけに、ラファエルはしばらく二つの皿を見ていたが、
「卵、かな」
ラファエルの返答を聞いた里帆は卵がゆの方をラファエルへと差し出した。二人はその後黙々とおかゆを食べ出すのだった。
翌日になると里帆の熱はすっかり下がり、時折咳が出るくらいにまで回復していた。しかしラファエルの様子は昨日とあまり変わっていない。
白い肌を赤く染め、時々苦しげな咳をしていた。それでも熱をはかると三十七度台の中程を示しており、症状はインフルエンザのはずなのに決定打に欠けるのだった。
里帆はとにかくラファエルに、おとなしく寝ているように言うと自分のスマートフォンを取り出した。しばらく液晶画面と睨めっこしていると、
「何をしているの? 里帆」
傍にラファエルがやってきていた。
「ラファエル……」
里帆は少し呆れ気味にその名を呼んだ。ラファエルは、
「だって、黙って寝ているだけなんて、つまらないんだもん」
子供のようなことを言うと、その両頬を膨らませる。里帆ははぁ、と小さくため息を漏らすと、スマートフォンの画面をラファエルに見せた。
「これ、なぁに?」
「求人サイトよ。今年度で私、巫女を辞めないといけないから、次の仕事を探しているの」
「へぇー。人間は大変なんだね」
ラファエルの言葉に里帆は苦笑する。
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