1 / 53
プロローグ
しおりを挟む
ガルディア大陸の西に位置する大国、グラディル国の西南に位置する領地を治めるクステルタ伯爵には娘が一人しかいなかった。グラディル国は男性が爵位を継ぐのが当たり前で、女性の伯爵継承など歴史上なかった
伯爵は娘に婿をとらせて娘が生んだ男子に爵位を継承する為、準備をすることにした。
まず婿が領地に関して好き勝手できぬよう基本的な知識を娘に施した。
大まかな領地経営は婿に任せるが、最終判断は自分で行うよう娘に促した。
幸い、娘は飲み込みも早く、予定していたよりずっと早く知識を自分のものにした。十分な知識を娘に蓄えさせ、安心していた矢先に伯爵に思いもよらないことが起こった。
妻が流行り病で死んでしまった。
失意の中、親戚に急かされ、抵抗も虚しく強引に若い後妻を娶らされた。
女主人が長く不在では家が荒れやすいので遅かれ早かれ後妻を迎える予定ではあったが、瞬く間に準備を整えられてしまい、後妻に心を寄せる前に体を繋げる事となってしまった。
そして婚姻してすぐに後妻が妊娠して、出産した。
生まれた子供は男子の双子であった。
こうして伯爵の一人娘の運命は『婿をとる』から『嫁にいく』に変わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お父様、今なんとおっしゃいましたの?」
「…マリィアンナ、婚約者を用意するから嫁ぐのだ」
「…とつ…ぐ…?」
「ダリアが子供を…男児を生んだのだ。後継はダリアの子に…」
マリィアンナは金色に輝く髪をサラリとたなびかせ、茶色の瞳を揺らし眉をひそめながら父の言葉を遮った。
「ですがまだ生まれて間もないではないですか!それにお母様のように病に…」
マリィアンナの言葉に今度は伯爵が遮る。
「幼い、確かにそうだ。メリアンのように病にかかり身罷るかもしれん。」
「では」
「だが、双子なのだ。どちらかは生き残るやもしれん。」
「…お父様」
マリィアンナは自分と同じ茶色の父の目を下唇をかみながら見つめた。
「…もう決めたことだ」
当主である父の決定だ。マリィアンナの答えるべき返事は一つしかない。
「…わかりました」
それ以上言うことはなく、マリィアンナは怒りを押し殺しながら書斎から退出しようとした。
マリィアンナは書斎から出る瞬間、最後に戸の隙間から父親の顔を垣間見た。
眉間にしわを寄せ、苦渋の顔をして唇をかみしめていた。
マリィアンナは扉に背を預け下を向き、震える右手の握りこぶしを左手で包み込み怒りを抑え込み、しばらくブルブルと震えていた。
茶色い瞳からはポタリポタリと涙が零れ、ドレスへ流れ落ちた。
そしてしばらくして深く何度も深呼吸して、悲しげに微笑みながらポツリとつぶやいた。
「…私の5年間の猛勉強は…なんだったのかしら…。お父様は私が後を継げずに残念と少しは思ってくれたかしら…」
瞳を閉じ、少し乱暴に左手の甲で涙をぬぐいながら鼻をズッとならし、顔をあげ、目を瞬きさせてからフーッと息を吐いた。
そして淑女らしく背筋を伸ばし、優雅に歩きながらマリィアンナは自室へと戻って行った。
伯爵は娘に婿をとらせて娘が生んだ男子に爵位を継承する為、準備をすることにした。
まず婿が領地に関して好き勝手できぬよう基本的な知識を娘に施した。
大まかな領地経営は婿に任せるが、最終判断は自分で行うよう娘に促した。
幸い、娘は飲み込みも早く、予定していたよりずっと早く知識を自分のものにした。十分な知識を娘に蓄えさせ、安心していた矢先に伯爵に思いもよらないことが起こった。
妻が流行り病で死んでしまった。
失意の中、親戚に急かされ、抵抗も虚しく強引に若い後妻を娶らされた。
女主人が長く不在では家が荒れやすいので遅かれ早かれ後妻を迎える予定ではあったが、瞬く間に準備を整えられてしまい、後妻に心を寄せる前に体を繋げる事となってしまった。
そして婚姻してすぐに後妻が妊娠して、出産した。
生まれた子供は男子の双子であった。
こうして伯爵の一人娘の運命は『婿をとる』から『嫁にいく』に変わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お父様、今なんとおっしゃいましたの?」
「…マリィアンナ、婚約者を用意するから嫁ぐのだ」
「…とつ…ぐ…?」
「ダリアが子供を…男児を生んだのだ。後継はダリアの子に…」
マリィアンナは金色に輝く髪をサラリとたなびかせ、茶色の瞳を揺らし眉をひそめながら父の言葉を遮った。
「ですがまだ生まれて間もないではないですか!それにお母様のように病に…」
マリィアンナの言葉に今度は伯爵が遮る。
「幼い、確かにそうだ。メリアンのように病にかかり身罷るかもしれん。」
「では」
「だが、双子なのだ。どちらかは生き残るやもしれん。」
「…お父様」
マリィアンナは自分と同じ茶色の父の目を下唇をかみながら見つめた。
「…もう決めたことだ」
当主である父の決定だ。マリィアンナの答えるべき返事は一つしかない。
「…わかりました」
それ以上言うことはなく、マリィアンナは怒りを押し殺しながら書斎から退出しようとした。
マリィアンナは書斎から出る瞬間、最後に戸の隙間から父親の顔を垣間見た。
眉間にしわを寄せ、苦渋の顔をして唇をかみしめていた。
マリィアンナは扉に背を預け下を向き、震える右手の握りこぶしを左手で包み込み怒りを抑え込み、しばらくブルブルと震えていた。
茶色い瞳からはポタリポタリと涙が零れ、ドレスへ流れ落ちた。
そしてしばらくして深く何度も深呼吸して、悲しげに微笑みながらポツリとつぶやいた。
「…私の5年間の猛勉強は…なんだったのかしら…。お父様は私が後を継げずに残念と少しは思ってくれたかしら…」
瞳を閉じ、少し乱暴に左手の甲で涙をぬぐいながら鼻をズッとならし、顔をあげ、目を瞬きさせてからフーッと息を吐いた。
そして淑女らしく背筋を伸ばし、優雅に歩きながらマリィアンナは自室へと戻って行った。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い
雲乃琳雨
恋愛
バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。
ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?
元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる