元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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夜会

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父に嫁ぐよう言われてから数日がたった。
その間、ぼんやりとマリィアンナは心ここにあらずといった様で何も手につかなかった。
今まで、領地を継ぐ為に勉強に一生懸命だったがその勉強も無駄になった。
マリィアンナは燃え尽きてしまって目標を見失った為、無気力だった。

国によって結婚適齢期は変わるがおおよそが18歳前後であり、マリィアンナは19歳の誕生日を先日迎えていた。
婿を迎えるにあたり、伯爵位と釣り合う次男や三男などを目当てに社交界で16歳でデビューしてからお相手探しをしていた。しかし、なかなか伯爵位につりあう相手は見つからなかった。嫡男しかいない家であったり、歳がいささか離れていたり、令息よりも令嬢の方が多くて女性が多い比率だったことも要因の一つであった。
クステルタ伯爵も賢明に探していたが難航していた。

「伯爵の地位」という旨味があるカードを無くし、「持参金+伯爵令嬢」というカードは他の令嬢に比べてさらに不利になってしまった。

マリィアンナは、庭でメイドが入れてくれた紅茶を優雅に飲みながら
「行き遅れたらどうしましょう…そもそも結婚できるのかしら…」
と、ぼんやり遠くを眺めなら消え入りそうな声でつぶやいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マリィアンナが燃え尽きていようが目標を失っていようが、貴族の役割は待っていてはくれない。父は婚約者を用意すると言っていたが簡単に用意できる訳がないことをマリィアンナは知っていた。
マリィアンナの容姿はずば抜けて美しいわけではないし、淑女のたしなみの手芸も乗馬も音楽の才能も人並みであったし、他の令嬢に比べて秀でているところはないのだ。
貴族女性として平凡な才しかないマリィアンナにとって、男性にアピールすることは簡単なことではなかった。
それでも結婚するには精一杯がんばる他ないのだ。
半分あきらめつつ、マリィアンナは貴族のひしめき合う夜会へと父親と共に出かけて行った。


夜会はすでに始まっており、大勢の貴族で場は賑やかであった。
それもそのはず、王家の主催する夜会なので貴族であれば参加せざるを得なかった。

ざわざわと人々が話し合う声
話し声を阻害しない程度に流れる楽器の奏でる音色
そそがれたワインを飲み干した人々に無礼なくスッと次を手渡す王家の使用人達
かけひきを匂わせる男女のしぐさ
そして、見目麗しい男性を取り囲む令嬢の高く甘めの声


あぁ、なんと場違いなわたくし。


マリィアンナはぼんやりとそれらの光景を眺めていた。
エスコートしていた父は、早々に他の貴族への挨拶や有益な話がないかとマリィアンナから離れていった。

きっと、話しながらわたくしの結婚の打診もするのでしょう。
わたくしも、少しでも良いところへ嫁げるよう努力をしなくてはいけないのに…

どうにもやる気が起きなかった。
まるで餌に群がる猛獣のようにぐいぐいと見目麗しい男性を囲むのも辛い。その猛獣達は餌に夢中になりつつ、他の猛獣に敵意を向けている。

「わたしく、裁縫が得意ですの。父によく褒められますのよ。ぜひグラスチュアート様に私の作品を見て頂きたいわ!今度、邸宅へいらっしゃー」
「お待ちになって?わたくしの方が得意ですわ。先日、王妃様から刺繍したハンカチへお褒めのお言葉を頂いたのですから!ですからわたくしのハンカチをー」
「わたくしは歌声が得意ですの!ですからグラススチュアート様がお疲れな時に癒しになるような歌をうたって差し上げますわ!」
次々と自己アピールをする猛獣達。実目麗しい男性を手に入れようと会話でけん制したり押しのけたり、物理的にも近づかせないようドレスを陰ながら引っ張りあう光景が繰り広げられている。

わたくしにあの中に飛び込む勇気はないわ。

マリィアンナはワインを片手に壁際に寄り、窓の外を眺めた。
まだまだ多くの貴族はこの王家が用意した夜会へ参上するらしい。
外で列をなしている貴族達を眺めつつマリィアンナはため息をついた。
「こんなに貴族がいるのに結婚できそうもないなんて…」
誰かに聞こえる間もなくマリィアンナの声は人々の雑踏ざっとうに消えた。


その様子を1人の男性が遠くから見ていたことをマリィアンナは知らなかった。

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