元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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新婚期

初夜から一夜明けて

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マリィアンナが目を覚ますと窓の外はすっかり明るくなっていた。
目をこすりながらぼんやり起き上がり、辺りを見回すとベットにはマリィアンナしか寝ていなかった。


昨日、わたくし確か…アルベルト様と


働かない頭をなんとか動かせて立ち上がり、フラフラとソファーへ向かった。
足元もおぼつかなくドサッと座ったら、鈍い痛みがマリィアンナの体にはしった。
顔をしかめ、長い溜息を吐いて腰をさする。


破瓜はかとはこんなに痛いものなのね。
いや、痛いだけでなく体の節々がだるいわ…
ところで…今は何時なのかしら…


重い体を引きずりながらベッドの横へ行き、サイドテーブルに置いてあるベルを鳴らした。

ガランガランガラン

生家で使うベルとは音色も大きさも違く、マリィアンナはイラっとした。


ベルの音が違うだけで憂鬱な気分になるなんて…
わたくし今、普通じゃないもしれないわね


苦笑しながら、メイドを待つ。

しかし、来ない。


忙しい時間なのかしら…
でも…誰も来ないなんて。


もう1度鳴らしてみるとメイドのバタバタと足音を立てる音がした。

コン ガチャ!「お呼びでしょうか」

マリィアンナは目を丸くしてメイドを見た。


さっきのはノックのつもりなのかしら…入室許可出してないのに…


「御用でしょうか」
「…今何時頃?」
「昼でございます」
「そう…アルベルト様は?」
「…書斎にいらっしゃると思います。」
「お客様方は?」

昨日、結婚式に参列したアルベルト側の親戚はこの邸宅に泊まっていた。
マリィアンナは食事の後すぐ自室へと戻ったので挨拶もろくにできていなかった。

「先ほどお帰りになりました」
「先ほど…?」

マリィアンナは眉間をピクリとあげ、目を閉じて小さく長い溜息を吐いた。
「…軽い食事を部屋へお願い」
「承知しました」
「ところで…この邸宅に勤めてどれくらいなのかしら」
「…4年ほどになります」
「4年…そう。食事、お願いね」

メイドは礼もせずツカツカと歩いて出て行った。


お客様に参列のお礼とお見送りのご挨拶をしたかったのに…
…間に合わなかったのはもう仕方ないわね。後でなんとかしなきゃ。
それにしても4年メイドを勤めてあれでは…頭が痛いわ…


メイドが食事をもって来たので並べ終わったタイミングを計ってアルベルトへと言付けを頼む。
「貴方の名前は?」
「…トルノと申します」
「ではトルノ、アルベルト様に『夜のお食事は部屋でとりとうございます』と『親類の名簿リストをお渡し願います』と夜のお食事の前までに伝えて頂戴」
「名簿リスト…ですか?なぜですか?」
「……必要だからに決まってるでしょう。お願いね」
「…承知しました」

メイドが部屋を出たのを確認してから苦笑しながらテーブルの上を見た。

そこにあったのは
見るからにカチカチなパン、ドロリとしたスープ、グラスカップに入ったワイン


マリィアンナは、持ってきた軽食を眺めてますます頭が痛く感じた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マリィアンナは慣れない食事に戸惑いながらベッドへゴロンと寝ころんだ。
昼過ぎまで寝ていたのに前夜の疲れは取れず、体はだるくてつらい。


今日は部屋で大人しくしていましょう
もしかしたら今日の夜も…なのかしら?


マリィアンナは不安を感じつつ両手で目を抑えた。
そこへドアがノックされた。入室許可を出すと中年の女性が入室してベットの近くまで来て礼をした。

「コディル家の女性使用人を統括しておりますプリマと申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。以後お見知りおきください」
「そう、よろしくね」


女性使用人を統括…伯爵夫人のお義母様は随分前にお亡くなりになっていると聞いているわ。ということはわたくしが来るまでずっと女主人の役割を担っていたのよね…でもその割には…


「…ご要望ありましたら、なんなりとお申し付け…」
プリマが話している最中に、再びドアがノックされた。
入室許可を出すと年嵩としかさの男性が男性が入室してきた。
「コディル家の男性使用人を統括しておりますバトラーのドルトンでございます。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。何か御用がありましたら何なりとお申し付けくだされば若奥様の為に身を粉にする所存でございます!」
「えぇ、よろしくね」
「家令のグラウも奥様へ挨拶に伺うべきですが…若旦那様に頼まれた仕事がありまして邸宅を離れていますので改めてご挨拶に伺うかと」
「そう、わかったわ」

2人は挨拶が終わると礼をして退出して行った。


プリマは管理職にしては自信がなさげだったわ。わたくしに委縮したというよりは気が弱い性格なのかしら。
ドルトンは年嵩と顔の笑いしわも相まって話し方も明るく温和な印象だったわ。
でもどちらも悪意は感じられなかった…


マリィアンナは少なくとも使歓迎されていることに安堵した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マリィアンナは机に出しておいたアルベルトから初めてもらったネックレスを、指でつつきながらお礼状に書く文章を思案していた。

そこへ、コンコンとノックがあったので「どうぞ」と入室許可を出すとメイドが入室してきた。
「奥様、お食事のご用意ができました。ご用意してよろしいでしょうか?」
「…えぇ」

メイドは部屋の外にあったカートを引き、テーブルへ食事を並べた。スッスッと手早く並べられていく。
並べ終わったメイドはワイングラスにワインをつぎ終えると、そっと壁際へ行き部屋へとどまった。


マリィアンナは静かに食事を始めても、メイドはだまって食事が終わるのを壁際に立って待った。
食事を終えて口を拭き終わると、メイドがカートへと皿を片付け始めた。

「お食事の後のお茶はいかがいたしましょうか?」
「ハーブティがあるならお願い。」
「かしこまりました。すぐお持ちいたします」

メイドは礼をして、カートを引いて部屋を退出していった。
すぐにまたドアがノックされ、許可を出すとメイドが入室してきた。

「こちらカモミールでございます」
トットットッと音を立てカップへそそがれると、ふわりとフルーティな香りが辺りに広がった。マリィアンナは目を閉じてゆっくり飲み、香りを楽しんだ。

「ねぇ、他のメイドに頼んでいたものは?」
「…?」

真顔だったメイドはピクリと片眉をあげた。
「トルノといったメイドだったかしら。言付けをお願いしたのだけど」
「…申し訳ございません」
悔しそうな顔をしたメイドを見ながらマリィアンナはハーブティをコクリと飲んだ。

「今日は、もう休むわ。下がって頂戴。」
「…かしこまりました」
メイドがティーカップなどをカートに乗せ終わったのを見計らってマリィアンナは尋ねた。

「ねぇ、貴方名前は?貴方この邸宅に勤めてどれくらいなの?」
「テレズと申します。勤めて3年になります。」
「そう」
テレズはゆっくり礼をして退出して行った。


あの顔、言付けのことは知らなかったみたいだわ。
所作が問題なメイドばかりなのかと気が重かったけれどしっかりしたメイドもいるのね。一安心だわ。
失礼な所作はともかく、言付けを無視するとは思わなかったわ…。
仕方ない…アルベルト様に直接言うしかないか。


マリィアンナはアルベルトが寝室に来るのを待ったが、その夜アルベルトが部屋へ来ることはなかった。

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