元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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新婚期

妻となる

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式が終わると、早々にマリィアンナとアルベルトは邸宅へ戻る為に馬車へと乗り込んだ。

重いドレスをメイドに持ち上げてもらいながら馬車へと乗り込むマリィアンナ。
義務をこなすように何の気なしにエスコートし、馬車が発車すると窓の外をぼーっと眺めるアルベルト。

「旦那様、これからよろしくお願いしますわ」
マリィアンナが微笑みながら言うがアルベルトは外を食い入るように見ている。
「アルベルト様?」
マリィアンナが再度話しかけると
「…ん?…ああ。よろしくたのむ」
と、素っ気なくアルベルトは答えた。

それ以外は会話はなくお互い窓の外を眺め、馬車の中は車輪が回る音が響いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
邸宅へ着くと、使用人がズラリと並んでいた。
軽い自己紹介を終え、マリィアンナは案内されてアルベルトの寝室の隣の部屋へと通された。
重いドレスを引きずり、鏡台の椅子へ倒れるように座った。


はぁーーっ、重いし動きにくいし疲れたわ。
緊張で顔もこわばってしまって、顔が痛い。しかもまだ食事会があるなんて…


マリィアンナは眉間に皺を寄せて目をつぶってフーッとため息をついた。。
教会で祝ってもらった後は、親類一同をこの邸宅でもてなすのは新郎・新婦の役目である。
食事の準備やらはこの家のハウスキーパーが仕切ってくれるが、親類と顔を合わせて今後のお付き合いを円滑えんかつにこなすことはマリィアンナのすべき役目なのだ。
疲れたからといって引っ込むわけにいかない。

そこへノックの音が聞こえた。
入室の許可を出す前にメイドたちが次々と入ってきた。
マリィアンナはあっけにとられていた。


え、まだ入室の許可を出していないのに…
勝手に入ってきた…?


メイドはテキパキとマリィアンナのウェディングドレスを脱がして夜会用のドレスへと着替えさせていく。
身に付けていたアクセサリーはマリィアンナが持参したアクセサリーボックスに収められ、鏡台へとおかれた。
編み込みをほどきくしで髪をとかして整えてから、また新しく綺麗に編み込みをほどこされていく。

「髪…少し痛いわ。もう少しゆるめて」
鏡をまっすぐに向きながらマリィアンナは不満をメイドへ伝えた。
メイドは手をピタリと止め、ぎゅっと髪を握り
「…承知しました」
と、真顔で言った。
手早く化粧を整えられ、礼もそこそこにバタバタとメイドたちは部屋を出て行った。

入室から身だしなみ、退出までのメイドの仕事ぶりや所作しょさをみて
マリィアンナは目を丸くした。
思わず、部屋に残った部屋案内のメイドの顔を鏡越しに見て、これが日常的なものなのか顔色をうかがってしまった。

メイドは表情を変えず立っていた。


なんだか先行きが…不穏ですわ…。


マリィアンナはため息をつきながら案内をしてくれるメイドに付いて、重い足取りでホールへと向かっていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食事をするホールではすでにアルベルトが待っていた。
マリィアンナは急いで隣に並び、息を整えた。
アルベルトはそんなマリィアンナをチラチラと横目で盗み見ていた。

2人は奥の席に並び、親類達を礼をしながら出迎えた。

教会の正装から皆、夜会の時の服装で次々と席の前に立ち、既婚男性、既婚女性が着席し、令嬢と令息達はカテーシーや礼をして着席して最後に新郎新婦が着席した。

ドランジェ伯爵がワインを片手に
「アルベルトとマリィアンナ、二人に幸あれ!」と声をあげると
参列者一同が「幸あれ!」と語尾を繰り返した。

皆が和やかに食事をする中、マリィアンナは1人緊張して食べてる食事の味もわからなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食事を終え女性と男性にわかれてそれぞれサロンへと移動しお茶を楽しむ中、マリィアンナはメイドに親類が帰る頃に呼ぶよう言いつけてから部屋で一人ぼんやりとしていた。

いつの間にか、うとうとしているとノックがあり入室許可を出す前にメイドが入ってきた。
「お嬢様、お客様がお帰りのお時間でございます」

ピクリと眉をあげマリィアンナはメイドを椅子に座ったまま見上げた。


今、なんと?
わたくしをお嬢様と呼んだ?
 

『お嬢様』とは基本的に未婚女性をさすのだから、結婚したマリィアンナはお嬢様という呼び方は正しくない。

少しムッとしたが訂正するのも面倒に感じ、顔には出さずに
「わかったわ」
と、マリィアンナは答えて急いで部屋を出て行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エントランスにはマリィアンナの親戚がすでに馬車に乗って帰っていた後だった。

「サッシャ、アンゼルは?テリーナは…」
「メイドに貴方を呼ぶよう頼んだのだけど疲れてるからって言われて先に宿へと帰って行ったわ」
「そう…なの…」
「今日は綺麗でしたわ!マリィお姉さまみたいな素敵な結婚式があげられるようがんばりますわ」
「えぇ、サッシャなら素敵な方と結婚できるわ!絶対よ」
手を握り、見送ると背後からステッキと靴のカツカツという音が聞こえた。
「マリィ」
「お父様!」
「…しっかりやるんだぞ」
「えぇ、大丈夫よ…」
父に不安を気取らせないよう微笑んでマリィアンナは答えた。
従者に促され馬車に父が乗り込む。
馬車の閉まる瞬間に見えた父は、今までで一番寂しそうで一番優しい複雑な表情をしているように見えた。
マリィアンナは父が乗った馬車が見えなくなるまでエントランスで見送っていた。


しばらくしてメイドに促され自室へと向かった。
案内のメイドはやや速足で進み、マリィアンナは遅れがちに付いて行った。
サロンの前を通った時、若い男性の話し声が聞こえた。

「まぁまぁな妻じゃないか。よかったな。どれくらい付き合いがあったんだ?」
「期間は…関係ないだろう。…彼女に求めるのは女主人しての役目だ。それ以上でも以下でもない」
「それでも愛する努力はするべきだぞ?関係が冷え切ると愛人をこしらえた時困ることになるぞ~」
「…愛など不確かなものを確約できないだろう。」

思わず足を止め息をのんだ。
先に進んでいたメイドがふり向き、不思議そうにしていたので慌てて付いて行き、自室へ戻った。
メイドはマリィアンナの入浴作業をすまして香油を髪に塗り、アルベルトを待つよう言って早々に部屋を出て行った。


香油の塗られた髪をタオルで拭きながらマリィアンナはぼんやりと隣の部屋とつながっているドアを眺めた。


メイドの所作、マリィアンナの言いつけに対する態度、ぬるめの湯、過剰な香油の塗りつけ


どうやら歓迎は…されてないみたい…ね。


トントンとノックがされたので「どうぞ」と許可を出すと
アルベルトがガウン姿で入ってきた。
一瞬、ビクリと体を震わせてから顔を背けてソファーに座っていたマリィアンナの隣に座り、体を楽にした。
「今日は疲れただろう」
「あぁ」

会話が止まり少しした後、ボソリとアルベルトが呟いた。
「え?今なんと?」
マリィアンナはアルベルトの顔を見やった。
アルベルトの顔は凛々しい顔でマリィアンナをじっと見つめてた。


え?なんておっしゃったのかしら…なんだか怖い…
こんな顔みたことないわ…


マリィアンナは体を固くしていると、おもむろにアルベルトが手を握ってきた。
目を見開くマリィアンナにアルベルトは軽くキスをした。
目をしばたたかせていると、さらにキスを繰り返された。

アルベルトはマリィアンナをソファーから立ち上がらせ、ベッドへとエスコートした。


アルベルトはマリィアンナを横に寝かせ、おおいかぶさって耳元でつぶやいた。
「私にすべて任せろ」
「…はい、アルベルト様…」
ぞくぞくとする未知な感覚に不安を感じながらもマリィアンナはアルベルトへ身を預けた。


この夜、マリィアンナは純潔をアルベルトへ捧げて正真正銘の妻となった。
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