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新婚期
掃除メイドと失礼なメイド
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鳥の鳴き声がしてマリィアンナはゆっくりと目を開けた。
明るい…もう夜が明けたのね。
窓から光が漏れ、朝を知らせていた。
ぼんやりと天井を眺めながら思考をまとめていった。
あ…もう朝。起きなきゃ…でも、もう少し寝ていたいわ…。
昨日は…夜遅くにアルベルト様がいらっしゃって…
それで…うぅ…体が痛い…
ゆっくりと起き上がり寝ぼけ眼で横を見ると…アルベルトはすでにいなかった。
お早いこと…真面目な方なのね。
冷たくなったシーツをポンポン叩きながらぼーっとしているとドアをノックする音が聞こえた。
入室許可を出したが、何かボソボソと言い争っているようだ。
何かしら?話し声は聞こえるけど一向に部屋へ入ってこない…
少ししてガチャっとドアが開いた。
「お食事をお持ちしました」
マリィアンナは目をまるくした。
…まだ身支度もしてないのだけど?
このメイドは…正直もう関わりたくないわ…
ドアの前には『お嬢様』呼びしてきたメイドとテレズがいた。
テレズは苦々しい顔をして立っていた。
失礼なメイドがカートを引いて入室し、テレズを入室させずに強引にドアを閉めた。
ソファーテーブルにカチャカチャと食器を並べながらメイドは
「昨日、若旦那様から何かありましたでしょうか?」
「…」
「若旦那様は素晴らしいお方で寛容なお心をお持ちですよ」
「…」
終始無言なマリィアンナをメイドはフッと鼻で笑って部屋を出て行った。
マリィアンナはカトラリーを持ったが、手が怒りで震えてろくに食事ができなかった。
男性使用人を部屋へ入れたこと、知ってるようね。
『寛容』ね。メイドという身分で主人のわたくしに愛人を許容するような物言い…。
失礼極まりない。なんという屈辱…!
マリィアンナのメイドへの怒りはさらに蓄積されていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お礼状をほぼ書き終えた頃、コンコンとノックの音が聞こえた。
まだ昼には早いがどうしたのだろうと思って入室許可を出すと
メイドは籠が2つのったカートを引いて入ってきた。
「?」
不思議そうにメイドを見ていると、メイドはもじもじしながら
「あ、あの!私は掃除メイドでして、若奥様のお部屋の掃除に参りました!」
「ああ、そうなの。」
「失礼します!あの…作業に移っても…?」
「えぇ、お願いね。わたくし、書物の最中なの。だから机の辺りは掃除しなくていいわ」
「かしこまりました!」
掃除のメイドは若くて元気なメイドだった。
慣れてないみたいだけど、入室の所作も問題ないわね。
化粧道具をどかすのも丁寧だし、作業は慣れているわ。
一生懸命掃除しているメイドをじっと眺めながら観察をしていると、メイドと目が合った。
メイドはペコペコとお辞儀をし、作業に再び戻った。
「若奥様、洗濯するドレスはこれだけでしょうか?」
「…そうね」
「そう…ですか」
少し困った顔でメイドは返事をした。
失礼なメイドに会話をするのも指示を出すのも嫌で、着替えるドレスを自分で着れる前開きのものしか着てなかったのよね。生家ではメイドに手伝わせてたから後閉めの服がわたくし多いのよね。
もう少し前開けタイプのドレスを用意しておけばよかったわ。
「ねぇ、貴方の名前は?この邸宅に勤めて何年なのかしら?」
「ひ…ひゃい!名前…名前はっ、リェルと、申します!1年前から勤めて、います!」
緊張して、噛みながらもリェルは答えた。
「これからよろしくね」
マリィアンナはにっこり笑いながら言った。
「は…はい!若奥様!」
頬をそめ、元気よくリェルは答えて、礼をして部屋を退出して行った。
勤労年数が短くても所作は問題ないならば…やはり、ひどい所作をするメイドは本質が問題なのかしら。
それともわざとなのかしら…
もう少し、使用人を把握しておきたいところね
マリィアンナは思案しながら、お礼状を書き終えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼時になり、ノックが少し乱暴にならされた。
「お食事…お持ちいたしました」
また『お嬢様』呼びのメイドなのね…
マリィアンナは、どんよりとしながらも淑女らしく顔に出さないよう努めた。
やけにこのメイドがわたくしの食事の世話をする回数が多いわね。
この邸宅にはメイドがそれほどいないのかしら…
マリィアンナがため息をつきながらソファーへ座ると、メイドは音を立てて食器を並べて行った。
「…?」
訝しげにメイドの顔を見ると、不機嫌な様子だった。
そしてやや乱暴にドアを閉めて出ていった。
マリィアンナは乱暴に閉められたドアを見ながら、ため息をついてから落ち着いて食事を始めた。
この冷たい食事も誰かの指示なのかしら。それともこれが通常なのかしら…。
心がささくれるわ。生家で長い間、温かい食事を食べていたから堪えるわ…
食事の大事さを心に刻みつつ口へと料理を運んだが、半分近くを食べた時にメイドが来て回収して行ってしまった。メイドは、こっそりとマリィアンナを睨みつけて出て行った。
彼女の不機嫌になる理由…おそらくアルベルト様ね。
朝に機嫌よかったのはわたくしが怒られたと思ったからかしら。
昼に機嫌が悪かったのは怒られてなかった事を聞いたとかかしら。
もしくは…下級の掃除メイドが回収していったシーツが汚れていたからかしら?
「なんて嫉妬心の強いメイドですこと」
マリィアンナは鼻でフッと笑って困った顔をした。
問題が起こるのは面倒だけど、なめられるわけにもいかないわ。
さて…どうしようかしら。
マリィアンナの顔から表情が抜け落ち、みるみるうちに冷たい表情になった。
しかたない。手を打ちましょう…。
もう穏便には済ませられないわ。
マリィアンナはベルを鳴らしてメイドを呼んでプリマを呼んだ。
しばらくしてプリマがマリィアンナの部屋へと入室してきた。
「何か御用でしょうか?若奥様」
「ええ、羊皮紙を2枚用意して頂戴」
「…?羊皮紙…ですか?」
「そうよ」
「…よろしければ、用途をお聞きしてもよろしいですか?」
「…そうね。とっても大事なことを取り決めしたいの。だから羊皮紙が欲しいのよ」
「…旦那様にお聞きしてもよろしいですか?」
「…いいわ。でもあまり待てないわ。今日の夕食前にはお願いね」
「かしこまりました」
プリマは丁寧に礼をして退出して行った。
後は、内容の精査ね。後悔のないようにじっくり考えなくては…。
マリィアンナは、椅子に座り頬杖をついて一思案を重ねた。
日が暮れて夕食をメイドが運んできたが、マリィアンナは食事を機械的に口に運び、だだひたすら頭を働かせ内容を精査し続けた。
わたくしの武器ですもの。
弱点がないように…なおかつ受け入れられる範囲で…
今後の為に…最良とは…何かを…
食事を運んできたトリノは、心ここにあらずな状態のマリィアンナを訝し気に見ながら、首をかしげて退出していった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼に頼んでいた羊皮紙が、食事を終えても手元にこないのでプリマを呼びつけようとも思ったが、疲れていたので明日にしようとあきらめて、ベッドに入って寝入っていると大きめのノックの音がした。
マリィアンナはびっくりして起き上がり、額を支えながら「どうぞ」と入室許可を出した。
するとドアを開けアルベルトが入ってきた。
「えっ?」
マリィアンナは予想外すぎて思わず声を出してしまった。
「もう寝てたか」
「え…はい…いえ…はぁ」
返事を濁したマリィアンナにアルベルトはツカツカと近づきベッドへ腰を下ろした。少し険しい顔をしている。
「昨日、言っていただろう」
「昨日…、言い…ましたわね」
まさか来ると思ってなかったわ。わざわざ聞きにきたの?こんな夜遅くに…
不思議そうな顔をしながらマリィアンナは
「ええと、男を招いたとおっしゃいましたっけ」
「あぁ、そうだ。…その…男を自室へ入れるのは慎みがないではないか」
「…『慎み』ですか?」
「ああ、そうだ。政略結婚とはいえ、まだ後継も作ってはいない状態ではないか!」
アルベルトの表情は無表情に近かったが眉はぴくぴくと痙攣しており、手はギュッと拳を握りしめて怒りを隠しているのがみてとれた。
『後継がいないから』愛人を作るのは許容できないのか『妻が愛人そのもの』を作るのが許容できないのかどちらなのかまだわからないわね。
アルベルトを観察しながらマリィアンナは答えた。
「男性と言っても使用人ですわ」
「だが…」
「わたくしの『気に入っていた大事な物』が無くなってしまって…小さいものですから家具の隙間に入ってしまったのかと思って家具を動かさせたのですわ」
「!」
「メイドには力仕事は無理でしょう?だからドルトンにお願いして2人ほど男性使用人をお願いしたんですわ。もちろんドルトンにも待機させましたわ」
「そ…そうだったのか…」
「アルベルト様に無用な心配をかけないように3人には内密にと言いつけておりましたが…この邸宅のメイドは…口が軽くて困りますわね」
「…!」
マリィアンナは困った顔をしながら微笑み、アルベルトの顔を見上げた。
「そう…だな。プティはおしゃべりだからな」
「プティというメイドはこの邸宅に長いのですか?」
「ああ、プティはこの家のメイドの子で私が15の時に仕事を始めたからかれこれ10年は勤めているな」
「まあ…そんな長く…」
「あぁ…そうだ、注文しておいたものがきたから渡して置こう」
アルベルトは、マリィアンナへシーリングスタンプを手渡した。
「まぁ、ありがとうございます。これで明日には送れますわ!」
「もう書き終わったのか?」
「ええ、なんとか」
「そうか…。そういえば…プリマから羊皮紙が必要だと聞いたが…何に使う気だ?」
「それは…昼までにわたくしの下へ届けてくだいな。明日の夜いらっしゃった時に教えてさしあげますわ!」
サイドテーブルへシーリングスタンプを置きながらマリィアンナはにっこり笑った。
「ふっ!またか。いいだろう」
アルベルトは微笑みながら、マリィアンナの手をそっと握った。
あ…今日も…まさか…
マリィアンナの思った通りアルベルト今日も夜を共にした。
しかし、前日とは打って変わってアルベルトはマリィアンナの体を労るようにやさしく抱いた。
明るい…もう夜が明けたのね。
窓から光が漏れ、朝を知らせていた。
ぼんやりと天井を眺めながら思考をまとめていった。
あ…もう朝。起きなきゃ…でも、もう少し寝ていたいわ…。
昨日は…夜遅くにアルベルト様がいらっしゃって…
それで…うぅ…体が痛い…
ゆっくりと起き上がり寝ぼけ眼で横を見ると…アルベルトはすでにいなかった。
お早いこと…真面目な方なのね。
冷たくなったシーツをポンポン叩きながらぼーっとしているとドアをノックする音が聞こえた。
入室許可を出したが、何かボソボソと言い争っているようだ。
何かしら?話し声は聞こえるけど一向に部屋へ入ってこない…
少ししてガチャっとドアが開いた。
「お食事をお持ちしました」
マリィアンナは目をまるくした。
…まだ身支度もしてないのだけど?
このメイドは…正直もう関わりたくないわ…
ドアの前には『お嬢様』呼びしてきたメイドとテレズがいた。
テレズは苦々しい顔をして立っていた。
失礼なメイドがカートを引いて入室し、テレズを入室させずに強引にドアを閉めた。
ソファーテーブルにカチャカチャと食器を並べながらメイドは
「昨日、若旦那様から何かありましたでしょうか?」
「…」
「若旦那様は素晴らしいお方で寛容なお心をお持ちですよ」
「…」
終始無言なマリィアンナをメイドはフッと鼻で笑って部屋を出て行った。
マリィアンナはカトラリーを持ったが、手が怒りで震えてろくに食事ができなかった。
男性使用人を部屋へ入れたこと、知ってるようね。
『寛容』ね。メイドという身分で主人のわたくしに愛人を許容するような物言い…。
失礼極まりない。なんという屈辱…!
マリィアンナのメイドへの怒りはさらに蓄積されていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お礼状をほぼ書き終えた頃、コンコンとノックの音が聞こえた。
まだ昼には早いがどうしたのだろうと思って入室許可を出すと
メイドは籠が2つのったカートを引いて入ってきた。
「?」
不思議そうにメイドを見ていると、メイドはもじもじしながら
「あ、あの!私は掃除メイドでして、若奥様のお部屋の掃除に参りました!」
「ああ、そうなの。」
「失礼します!あの…作業に移っても…?」
「えぇ、お願いね。わたくし、書物の最中なの。だから机の辺りは掃除しなくていいわ」
「かしこまりました!」
掃除のメイドは若くて元気なメイドだった。
慣れてないみたいだけど、入室の所作も問題ないわね。
化粧道具をどかすのも丁寧だし、作業は慣れているわ。
一生懸命掃除しているメイドをじっと眺めながら観察をしていると、メイドと目が合った。
メイドはペコペコとお辞儀をし、作業に再び戻った。
「若奥様、洗濯するドレスはこれだけでしょうか?」
「…そうね」
「そう…ですか」
少し困った顔でメイドは返事をした。
失礼なメイドに会話をするのも指示を出すのも嫌で、着替えるドレスを自分で着れる前開きのものしか着てなかったのよね。生家ではメイドに手伝わせてたから後閉めの服がわたくし多いのよね。
もう少し前開けタイプのドレスを用意しておけばよかったわ。
「ねぇ、貴方の名前は?この邸宅に勤めて何年なのかしら?」
「ひ…ひゃい!名前…名前はっ、リェルと、申します!1年前から勤めて、います!」
緊張して、噛みながらもリェルは答えた。
「これからよろしくね」
マリィアンナはにっこり笑いながら言った。
「は…はい!若奥様!」
頬をそめ、元気よくリェルは答えて、礼をして部屋を退出して行った。
勤労年数が短くても所作は問題ないならば…やはり、ひどい所作をするメイドは本質が問題なのかしら。
それともわざとなのかしら…
もう少し、使用人を把握しておきたいところね
マリィアンナは思案しながら、お礼状を書き終えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼時になり、ノックが少し乱暴にならされた。
「お食事…お持ちいたしました」
また『お嬢様』呼びのメイドなのね…
マリィアンナは、どんよりとしながらも淑女らしく顔に出さないよう努めた。
やけにこのメイドがわたくしの食事の世話をする回数が多いわね。
この邸宅にはメイドがそれほどいないのかしら…
マリィアンナがため息をつきながらソファーへ座ると、メイドは音を立てて食器を並べて行った。
「…?」
訝しげにメイドの顔を見ると、不機嫌な様子だった。
そしてやや乱暴にドアを閉めて出ていった。
マリィアンナは乱暴に閉められたドアを見ながら、ため息をついてから落ち着いて食事を始めた。
この冷たい食事も誰かの指示なのかしら。それともこれが通常なのかしら…。
心がささくれるわ。生家で長い間、温かい食事を食べていたから堪えるわ…
食事の大事さを心に刻みつつ口へと料理を運んだが、半分近くを食べた時にメイドが来て回収して行ってしまった。メイドは、こっそりとマリィアンナを睨みつけて出て行った。
彼女の不機嫌になる理由…おそらくアルベルト様ね。
朝に機嫌よかったのはわたくしが怒られたと思ったからかしら。
昼に機嫌が悪かったのは怒られてなかった事を聞いたとかかしら。
もしくは…下級の掃除メイドが回収していったシーツが汚れていたからかしら?
「なんて嫉妬心の強いメイドですこと」
マリィアンナは鼻でフッと笑って困った顔をした。
問題が起こるのは面倒だけど、なめられるわけにもいかないわ。
さて…どうしようかしら。
マリィアンナの顔から表情が抜け落ち、みるみるうちに冷たい表情になった。
しかたない。手を打ちましょう…。
もう穏便には済ませられないわ。
マリィアンナはベルを鳴らしてメイドを呼んでプリマを呼んだ。
しばらくしてプリマがマリィアンナの部屋へと入室してきた。
「何か御用でしょうか?若奥様」
「ええ、羊皮紙を2枚用意して頂戴」
「…?羊皮紙…ですか?」
「そうよ」
「…よろしければ、用途をお聞きしてもよろしいですか?」
「…そうね。とっても大事なことを取り決めしたいの。だから羊皮紙が欲しいのよ」
「…旦那様にお聞きしてもよろしいですか?」
「…いいわ。でもあまり待てないわ。今日の夕食前にはお願いね」
「かしこまりました」
プリマは丁寧に礼をして退出して行った。
後は、内容の精査ね。後悔のないようにじっくり考えなくては…。
マリィアンナは、椅子に座り頬杖をついて一思案を重ねた。
日が暮れて夕食をメイドが運んできたが、マリィアンナは食事を機械的に口に運び、だだひたすら頭を働かせ内容を精査し続けた。
わたくしの武器ですもの。
弱点がないように…なおかつ受け入れられる範囲で…
今後の為に…最良とは…何かを…
食事を運んできたトリノは、心ここにあらずな状態のマリィアンナを訝し気に見ながら、首をかしげて退出していった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼に頼んでいた羊皮紙が、食事を終えても手元にこないのでプリマを呼びつけようとも思ったが、疲れていたので明日にしようとあきらめて、ベッドに入って寝入っていると大きめのノックの音がした。
マリィアンナはびっくりして起き上がり、額を支えながら「どうぞ」と入室許可を出した。
するとドアを開けアルベルトが入ってきた。
「えっ?」
マリィアンナは予想外すぎて思わず声を出してしまった。
「もう寝てたか」
「え…はい…いえ…はぁ」
返事を濁したマリィアンナにアルベルトはツカツカと近づきベッドへ腰を下ろした。少し険しい顔をしている。
「昨日、言っていただろう」
「昨日…、言い…ましたわね」
まさか来ると思ってなかったわ。わざわざ聞きにきたの?こんな夜遅くに…
不思議そうな顔をしながらマリィアンナは
「ええと、男を招いたとおっしゃいましたっけ」
「あぁ、そうだ。…その…男を自室へ入れるのは慎みがないではないか」
「…『慎み』ですか?」
「ああ、そうだ。政略結婚とはいえ、まだ後継も作ってはいない状態ではないか!」
アルベルトの表情は無表情に近かったが眉はぴくぴくと痙攣しており、手はギュッと拳を握りしめて怒りを隠しているのがみてとれた。
『後継がいないから』愛人を作るのは許容できないのか『妻が愛人そのもの』を作るのが許容できないのかどちらなのかまだわからないわね。
アルベルトを観察しながらマリィアンナは答えた。
「男性と言っても使用人ですわ」
「だが…」
「わたくしの『気に入っていた大事な物』が無くなってしまって…小さいものですから家具の隙間に入ってしまったのかと思って家具を動かさせたのですわ」
「!」
「メイドには力仕事は無理でしょう?だからドルトンにお願いして2人ほど男性使用人をお願いしたんですわ。もちろんドルトンにも待機させましたわ」
「そ…そうだったのか…」
「アルベルト様に無用な心配をかけないように3人には内密にと言いつけておりましたが…この邸宅のメイドは…口が軽くて困りますわね」
「…!」
マリィアンナは困った顔をしながら微笑み、アルベルトの顔を見上げた。
「そう…だな。プティはおしゃべりだからな」
「プティというメイドはこの邸宅に長いのですか?」
「ああ、プティはこの家のメイドの子で私が15の時に仕事を始めたからかれこれ10年は勤めているな」
「まあ…そんな長く…」
「あぁ…そうだ、注文しておいたものがきたから渡して置こう」
アルベルトは、マリィアンナへシーリングスタンプを手渡した。
「まぁ、ありがとうございます。これで明日には送れますわ!」
「もう書き終わったのか?」
「ええ、なんとか」
「そうか…。そういえば…プリマから羊皮紙が必要だと聞いたが…何に使う気だ?」
「それは…昼までにわたくしの下へ届けてくだいな。明日の夜いらっしゃった時に教えてさしあげますわ!」
サイドテーブルへシーリングスタンプを置きながらマリィアンナはにっこり笑った。
「ふっ!またか。いいだろう」
アルベルトは微笑みながら、マリィアンナの手をそっと握った。
あ…今日も…まさか…
マリィアンナの思った通りアルベルト今日も夜を共にした。
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