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新婚期
羊皮紙と鍵と頭が痛くなる使用人
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朝になり、マリィアンナは目を開けてぼんやりと天井をながめ、頭が働き始めてから隣をそっと見た。
やっぱりいないのね。うん、確実にアルベルト様は女心をわかっていない!
フーッと息を吐き、身支度を整えた。
しばらくするとドアがノックされ、食事が運ばれてきた。
一人で食べる食事…こうも続くと退屈ね。
でもきっと…あと少し…。
今日のメイドは顔をみたことのないメイドだったので食事を完食できた。
メイドは何か言いたげな顔をしたまま退出して行った。
…?なんなのかしら?今の顔は…不安げな何か言いたそうな…そんな顔だったわ。
疑問を感じながらもメイドが用意した紅茶を飲みながら一息ついた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくするとノックがあり、プリマが入室してきた。
「若奥様、羊皮紙をお持ちしました」
「ありがとう、そこへ置いて頂戴」
「かしこまりました」
「ああ、そうそう、お礼状にスタンプを押すから専用の赤い蝋をお願いね」
「かしこまりました」
すぐに踵を返してプリマは蝋を持ってきた。
「お待たせしました。こちらでございます」
「ありがとう。夜には乾き終わるから明日の朝一番に出してもらえるかしら?」
「かしこまりました」
「それと…ドルトンを呼んで頂戴」
「ドルトン様ですか?かしこまりました」
プリマが退出後、すぐにドルトンが駆けつけてきた。
「若奥様、何か御用でしょうか?」
「鍵の管理はあなたの管轄よね?この部屋の鍵をわたくしに頂戴」
「鍵…ですか?」
「ええ」
「ですが部屋を閉めますと掃除もできませんし…鍵をする必要も…」
「わたくしが必要だと言ってるの。すぐ持ってきて頂戴」
「…かしこまりました」
ドルトンは腰に付けた予備の鍵をマリィアンナに渡した。
「この鍵ともう1本の予備の鍵しかありませんので、無くされませんよう…」
「わかってるわ」
不思議そうな顔でドルトンは退出して行った。
ドルトンの退出した後、ひたすら蝋燭を専用の容器にとかし小さいスプーンですくい、手紙に垂らしスタンプを押していく。
1滴でも余白に垂れてしまうと台無しなので慎重に、蝋が固まる前に素早く作業をしていく。
あと数枚で終わる辺りで少し荒くドアがノックされた。
マリィアンナは眉をしかめた。
はぁ…気分が沈みますわ…。
もうマリィアンナにとって、この失礼なメイドは条件反射で不快を感じさせる存在になってしまっていた。
「お食事、お持ちしました」
カートを引きソファーテーブルに並べながらチラチラとマリィアンナを盗み見ていた。
目線…気になるわ。なんなの?もう…不愉快だわ。
マリィアンナは淑女の仮面がはがれそうになるのを我慢してソファーへ座った。
メイドはマリィアンナの様子を伺いつつ退出して行った。
我慢。我慢ですわ。もう少しの我慢!できますわ!ええ!できますわ…
マリィアンナは部屋に1人きりなのをいいことに、怒りに任せて勢いよく食事を口へ運んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日も失礼なメイドは食事の最中に入室してきて、食器を下げていく。
様子を見られてるのはなぜかしら…。
昨日もアルベルト様がいらっしゃったからかしら。
…この子、本当に自分の感情に素直なのね。
はっきり言ってメイドには向いてないわ。
自分の感情より主人の為に行動することが求められるメイドという職の適正が、まったくないことを誰にも言ってもらえずにこの年まで生きてきたこのメイドを、マリィアンナは哀れに思った。
もう少し若くに修正できればこうはならなかったかもしれないわね。
まあ、わたくしにはもうどうでもいいことだわ。
目を細めてメイドを見ていると、メイドは眉間に皺をよせて不満顔をした。
「掃除メイドのリェルを呼んで頂戴」
「は?」
「聞こえなかった?掃除のメイド、リェル、呼んで、頂戴」
マリィアンナはゆっくり、区切って指示を出した。
「新しいシーツを持ってきてと伝えて」
「!」
メイドの顔が、憎しみと怒りで満ちていく。
マリィアンナはツンと顔を背け、頬杖をついた。
メイドは少し乱暴にドアを閉めて出て行った。
貴方の気持ちは理解はできるわ。でも受け入れるわけにはいかないわ。
このままではすまさないし、負けないわ。
わたくしの矜持の為にも絶対に。
結局、いくら待っても来ないのでベルを何度もならしてリェルに取り次いだ。
やっとのことでリェルにシーツ交換をさせ、洗濯済みのドレスをクローゼットにしまわせ、汚れたドレスを渡した。
そしてリェルが退出した後、マリィアンナは部屋にガチャリと鍵を閉めてを出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初めてマリィアンナは自室とホール以外へ足を踏みだした。
何の気なしにスタスタと廊下を歩いて行く。
たまにすれ違うメイドに会釈をされたり驚かれながら階段を降りていく。
1階に降り、庭に出ると綺麗なバラが植えられていた。
邸宅も広いけど、庭も広いわね。
マリィアンナは誰も連れないで自由に庭を歩くという初体験を楽しみながら心の思うまま花を愛でた。
綺麗な花をみると、ささくれた心が癒されるわ…
でも日に焼けないようにしないと…残念だけどそろそろ戻ろうかしら。
邸宅に戻り、1階の通路を優雅に歩いていると角の辺りで2人の女性の声が聞こえた。
思わず足を止めているとしゃべり声は賑やかになっていった。
「だからお高くとまってるのよ!」
「え~」
「何度も食事を運んだわたしが言うのよ~」
「本当なのプティ~!」
「そう?私が運んだ時はそんなことなかったけど…」
「毎回運ぶ私には言ってくるの!それに…そうそう!ツンとして今日なんてシーツ交換しなさい!って言いつけてきたのよ!」
「私達、下級の掃除婦じゃないのに~!伯爵令嬢様はメイドは一緒くたなのかしら!まいっちゃうわね!私達にも仕事の範囲ってものがあるのに~」
「そうそう!『お嬢様』は全然わかってらっしゃらないんだわ~アハッ」
「アハハ!」
この声…あの失礼なメイド…。
プティって呼ばれていたわ。旦那様へわたくしの行動を伝えたメイドってあの子だったのね。
それに…わたくしの顔色をうかがってきたメイドもいる…。やはりわたくしの態度や様子見をしていたのね…。
ガックリとしながら会話を聞いていると
「でも昨日、若旦那様お渡りになったんでしょう?伯爵令嬢様を気に入ってるのかしら?」
「…きっと致しても義務よ!義務。政略結婚だもの。きっと後継ぎできたら旦那様も自由に楽しむんじゃないかしら!ふふっ」
「あー、期待してるものね~プティ!」
「ふふっ。旦那様もわたしを思ってくれてるはずだわ!このネックレスを見ながらその日を楽しみにしてるのよ~」
「あ~!それ旦那様の目の色そっくり!綺麗ね!高そう!」
「ん、まぁね!」
「どこで買ったの?いくらだった~?」
「えー!いくらか…えっと8万ギルだった…かな?」
「へぇ~!値段の割にすごく綺麗!いい買い物だったわね!」
「そうそう、見た瞬間欲しくなってね!思わずね!お守りだから身に付けないで傷がつかないように袋に入れて持ち歩いてるの~!若旦那様と一緒にいるみたいでね~」
「そこで何をしているの?」
楽しそうな声に、落ち着いた声が混じった。プリマの声だった。
「あー、今、休憩してました」
「まだ休憩時間じゃないでしょう?早く仕事に戻りなさい」
「早く終わったんです。休憩時間を前倒ししただけです」
「割り振った食器磨きが早く終わったのですか?でしたら他のメイドの手伝いをー」
「あー、マリィアンナ様に頼まれた仕事がありました。すぐ行かなきゃ!」
3人はバタバタと、走って行った。
プリマはため息を吐いて来た道を戻って行った。
マリィアンナは気分転換に邸宅を散歩していたのに、メイドの質の悪さに頭が痛くなり部屋へ戻って行った。
やっぱりいないのね。うん、確実にアルベルト様は女心をわかっていない!
フーッと息を吐き、身支度を整えた。
しばらくするとドアがノックされ、食事が運ばれてきた。
一人で食べる食事…こうも続くと退屈ね。
でもきっと…あと少し…。
今日のメイドは顔をみたことのないメイドだったので食事を完食できた。
メイドは何か言いたげな顔をしたまま退出して行った。
…?なんなのかしら?今の顔は…不安げな何か言いたそうな…そんな顔だったわ。
疑問を感じながらもメイドが用意した紅茶を飲みながら一息ついた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくするとノックがあり、プリマが入室してきた。
「若奥様、羊皮紙をお持ちしました」
「ありがとう、そこへ置いて頂戴」
「かしこまりました」
「ああ、そうそう、お礼状にスタンプを押すから専用の赤い蝋をお願いね」
「かしこまりました」
すぐに踵を返してプリマは蝋を持ってきた。
「お待たせしました。こちらでございます」
「ありがとう。夜には乾き終わるから明日の朝一番に出してもらえるかしら?」
「かしこまりました」
「それと…ドルトンを呼んで頂戴」
「ドルトン様ですか?かしこまりました」
プリマが退出後、すぐにドルトンが駆けつけてきた。
「若奥様、何か御用でしょうか?」
「鍵の管理はあなたの管轄よね?この部屋の鍵をわたくしに頂戴」
「鍵…ですか?」
「ええ」
「ですが部屋を閉めますと掃除もできませんし…鍵をする必要も…」
「わたくしが必要だと言ってるの。すぐ持ってきて頂戴」
「…かしこまりました」
ドルトンは腰に付けた予備の鍵をマリィアンナに渡した。
「この鍵ともう1本の予備の鍵しかありませんので、無くされませんよう…」
「わかってるわ」
不思議そうな顔でドルトンは退出して行った。
ドルトンの退出した後、ひたすら蝋燭を専用の容器にとかし小さいスプーンですくい、手紙に垂らしスタンプを押していく。
1滴でも余白に垂れてしまうと台無しなので慎重に、蝋が固まる前に素早く作業をしていく。
あと数枚で終わる辺りで少し荒くドアがノックされた。
マリィアンナは眉をしかめた。
はぁ…気分が沈みますわ…。
もうマリィアンナにとって、この失礼なメイドは条件反射で不快を感じさせる存在になってしまっていた。
「お食事、お持ちしました」
カートを引きソファーテーブルに並べながらチラチラとマリィアンナを盗み見ていた。
目線…気になるわ。なんなの?もう…不愉快だわ。
マリィアンナは淑女の仮面がはがれそうになるのを我慢してソファーへ座った。
メイドはマリィアンナの様子を伺いつつ退出して行った。
我慢。我慢ですわ。もう少しの我慢!できますわ!ええ!できますわ…
マリィアンナは部屋に1人きりなのをいいことに、怒りに任せて勢いよく食事を口へ運んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日も失礼なメイドは食事の最中に入室してきて、食器を下げていく。
様子を見られてるのはなぜかしら…。
昨日もアルベルト様がいらっしゃったからかしら。
…この子、本当に自分の感情に素直なのね。
はっきり言ってメイドには向いてないわ。
自分の感情より主人の為に行動することが求められるメイドという職の適正が、まったくないことを誰にも言ってもらえずにこの年まで生きてきたこのメイドを、マリィアンナは哀れに思った。
もう少し若くに修正できればこうはならなかったかもしれないわね。
まあ、わたくしにはもうどうでもいいことだわ。
目を細めてメイドを見ていると、メイドは眉間に皺をよせて不満顔をした。
「掃除メイドのリェルを呼んで頂戴」
「は?」
「聞こえなかった?掃除のメイド、リェル、呼んで、頂戴」
マリィアンナはゆっくり、区切って指示を出した。
「新しいシーツを持ってきてと伝えて」
「!」
メイドの顔が、憎しみと怒りで満ちていく。
マリィアンナはツンと顔を背け、頬杖をついた。
メイドは少し乱暴にドアを閉めて出て行った。
貴方の気持ちは理解はできるわ。でも受け入れるわけにはいかないわ。
このままではすまさないし、負けないわ。
わたくしの矜持の為にも絶対に。
結局、いくら待っても来ないのでベルを何度もならしてリェルに取り次いだ。
やっとのことでリェルにシーツ交換をさせ、洗濯済みのドレスをクローゼットにしまわせ、汚れたドレスを渡した。
そしてリェルが退出した後、マリィアンナは部屋にガチャリと鍵を閉めてを出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初めてマリィアンナは自室とホール以外へ足を踏みだした。
何の気なしにスタスタと廊下を歩いて行く。
たまにすれ違うメイドに会釈をされたり驚かれながら階段を降りていく。
1階に降り、庭に出ると綺麗なバラが植えられていた。
邸宅も広いけど、庭も広いわね。
マリィアンナは誰も連れないで自由に庭を歩くという初体験を楽しみながら心の思うまま花を愛でた。
綺麗な花をみると、ささくれた心が癒されるわ…
でも日に焼けないようにしないと…残念だけどそろそろ戻ろうかしら。
邸宅に戻り、1階の通路を優雅に歩いていると角の辺りで2人の女性の声が聞こえた。
思わず足を止めているとしゃべり声は賑やかになっていった。
「だからお高くとまってるのよ!」
「え~」
「何度も食事を運んだわたしが言うのよ~」
「本当なのプティ~!」
「そう?私が運んだ時はそんなことなかったけど…」
「毎回運ぶ私には言ってくるの!それに…そうそう!ツンとして今日なんてシーツ交換しなさい!って言いつけてきたのよ!」
「私達、下級の掃除婦じゃないのに~!伯爵令嬢様はメイドは一緒くたなのかしら!まいっちゃうわね!私達にも仕事の範囲ってものがあるのに~」
「そうそう!『お嬢様』は全然わかってらっしゃらないんだわ~アハッ」
「アハハ!」
この声…あの失礼なメイド…。
プティって呼ばれていたわ。旦那様へわたくしの行動を伝えたメイドってあの子だったのね。
それに…わたくしの顔色をうかがってきたメイドもいる…。やはりわたくしの態度や様子見をしていたのね…。
ガックリとしながら会話を聞いていると
「でも昨日、若旦那様お渡りになったんでしょう?伯爵令嬢様を気に入ってるのかしら?」
「…きっと致しても義務よ!義務。政略結婚だもの。きっと後継ぎできたら旦那様も自由に楽しむんじゃないかしら!ふふっ」
「あー、期待してるものね~プティ!」
「ふふっ。旦那様もわたしを思ってくれてるはずだわ!このネックレスを見ながらその日を楽しみにしてるのよ~」
「あ~!それ旦那様の目の色そっくり!綺麗ね!高そう!」
「ん、まぁね!」
「どこで買ったの?いくらだった~?」
「えー!いくらか…えっと8万ギルだった…かな?」
「へぇ~!値段の割にすごく綺麗!いい買い物だったわね!」
「そうそう、見た瞬間欲しくなってね!思わずね!お守りだから身に付けないで傷がつかないように袋に入れて持ち歩いてるの~!若旦那様と一緒にいるみたいでね~」
「そこで何をしているの?」
楽しそうな声に、落ち着いた声が混じった。プリマの声だった。
「あー、今、休憩してました」
「まだ休憩時間じゃないでしょう?早く仕事に戻りなさい」
「早く終わったんです。休憩時間を前倒ししただけです」
「割り振った食器磨きが早く終わったのですか?でしたら他のメイドの手伝いをー」
「あー、マリィアンナ様に頼まれた仕事がありました。すぐ行かなきゃ!」
3人はバタバタと、走って行った。
プリマはため息を吐いて来た道を戻って行った。
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