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新婚期
テレズのネックレス
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鍵を開けて部屋へ入り、ドサリとソファーへマリィアンナは座り込んだ。
しばらくしてドアをノックする音がして入室許可を出すとテレズが入室してきた。
「若奥様、旦那様と若旦那様はお食事を休憩の合間にとるとのことです。若奥様はお食事をいかがいたしましょうか?」
「部屋へお願いするわ」
食事を運ぶメイドがテレズで、マリィアンナのささくれた心が少し癒された。
静かに優雅に食事は並べられていく。
マリィアンナは食事をゆっくりととって口を拭いた。
食後の紅茶を飲んでカップを片付けて出て行こうとしたテレズのスカートのポケットから、じゅうたんにポトリとネックレスが落ちた。
マリィアンナは思わず見やると、テレズも落とし物に気づき、急いで拾い上げ
「し…失礼しましたっ」
と、深い礼をして慌てて出て行った。
マリィアンナは急いで退出していくテレズを見ながらぼんやりしていた。
『キラキラ輝いた』青いネックレスだったわ…
フーッとため息をついて椅子に座り、頬杖をつき羊皮紙をスッと伸ばしてペンをとった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お食事をお持ちいたしました」
ぼーっとしていたマリィアンナはノックの音に気付かなかった為、すでに入室しているメイドに驚いた。
前にマリィアンナの態度と様子を伺っていたメイドがコトコトと料理を並べている。
このメイドもか…
思わずため息をつき、ソファーへ座るとメイドは顔をゆがめた。
メイドの顔に違和感を感じ
「何?」
と、問いかけるとメイドは
「何か食事にご不満でもありましたでしょうか?」
と、問いかけてきた。
「…!」
マリィアンナはあっけにとられていると、メイドは答えを待たずに
「失礼します」と言って部屋を出て行った。
並べられた食事をじっと眺めてマリィアンナは静かに怒りを感じた。
不満も何も、不満だらけだわ。
冷たい食事、途中で下げられる食事、一人きりの食事
その上、主人のわたくしへのなんという物言い!もうたくさんだわ!!
怒りを爆発させ、マリィアンナは淑女としては失格ともいえるほど乱暴にパンをブチブチッとちぎって口へ運んだ。
メイドが食器を下げて退出した後もマリィアンナの怒りはなかなか収まらなかったが、ノックの音が再びしたので冷静になり入室許可を出した。
ドアが開けられ、中年男性が入室してきた。
「若奥様、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。コディル家・家令のグラウでございます。以後お見知りおきを」
「ええ、よろしくね。丁度良いところへきたわ」
「…?はい、なんでしょうか?」
「ドランジェ伯爵にお会いしたいのだけど」
「伯爵様は書斎にいらっしゃるかと」
「そう、案内していただける?」
「かしこまりました」
マリィアンナは部屋の外へ出ると鍵をかけた。それをグラウは横目で見て
「その鍵は…」
「ドルトンにお願いしたの。念のためにね」
「…そう…でしたか」
顎に手を置き、少し考えた後
「こちらです」とマリィアンナを誘導するように歩き出した。
マリィアンナは、手にした羊皮紙を大事そうに持ちながら付いて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
伯爵の書斎はドアも豪華だった。
家令のグラウがノックをすると「入れ」と声がした。
ドアを開け、グラウが入室し、スッと横にずれて片手を胸に当てマリィアンナの入室を阻害しないよう完璧な所作をした。
マリィアンナは入室し、部屋の中ほどまで歩いて行った。
ドランジェ伯爵は書類から目線をあげ、マリィアンナを見やった。
「おお、マリィアンナ。邸宅での暮らしはどうかね?」
マリィアンナはカテーシーで敬意を示した後
「そうですわね、新しい暮らしはまだ慣れていませんわ。ドランジェ伯爵様」
と困った顔で微笑んだ。
「もう君は義理とはいえ娘なのだから私のことは『お義父様』と呼んでほしいな」
にっこりと笑って言ったので、マリィアンナはつられてにっこり笑って
「わかりました。お義父様」
と、答えた。
「私のところにわざわざ来るとは何かあったのかい?」
「ええ、少しわたくしにも思うところがありまして…こちらをまずご覧いただけますか?」
羊皮紙を受け取り、ドランジェ伯爵は読み始めた。
「これは…」
マリィアンナは凛とした顔でドランジェ伯爵を見つめていた。
その顔には先ほどの笑みはなく、自分の主張を曲げない強い淑女の顔だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋へ戻り、マリィアンナはソファーに座ってフーッと息を吐いた。
あとはアルベルト様だけね。
机の上に並べられたお礼状の入った手紙のスタンプの蝋をツンツンと触ってみるとカチカチに固まっていた。
後でプリマを呼んで…夕食の前に他の部屋の家具を…
考えを巡らしているとつい、うとうととしてしまった。
頭をいつもより使ったし、散歩もして…お義父様と話をして緊張したからかしら。
とっても…眠い…わ…。
気持ちのいいまどろみに勝てず、マリィアンナはソファーに座ったまま眠り込んでしまった。
ドドンとドアがやや乱暴にノックされた。
「お食事をお持ちいたしました」
「!」
ノックの音にびくっと体をふるわせ、目をこすり窓の外が視界に入った。
マリィアンナは目を丸くして驚いた。
外がもう真っ暗じゃない!
もう夜になってしまったの?!
失礼なメイドが急いで部屋へ入ってきてカチャカチャと食器を並べていく。
そしてさっさと出ていった。
メイドが出て行ったあとため息をつきながら料理を見て、マリィアンナはさらに驚いた。
ぐちゃっとくずれたチキンソテー
ひっくり返った固そうなパン
量があきらかに少ないスープ
いつものワインではなくエールが入ったグラス
なんなのこれ…質の悪い食事…
なぜこんなのを持って…
まさか…夕食を持ってくるのを忘れていたの…?
こんな遅い時間になったから急いで持ってきた…?
さすがにマリィアンナも不快感を顔に出した。
食事に手を付けて眉間に皺をよせた。
チキンは冷めても美味しい部類に入るけど…パンはカチカチでそのままじゃ食べれない。
スープも温かければもっと美味しいはずだけど味は悪くない。
極めつけは…ワインでなくエール…。これってもしかして…
ため息をつき、目を閉じる。
わたくしの食事と使用人の食事がまぜられている…?
こんなことってあるのね…
マリィアンナはチキンとスープだけ食べ、パンとエールはそのまま手を付けず残した。
食べ終えたあと、タイミングよく失礼なメイドが入ってきたのでマリィアンナは目を細めて
「パンは美味しかったかしら?」
と、頬を手に当てて皿を片付けるメイドに問いかけた。
メイドは少し動揺して
「…はい?」と答えた。
やっぱり貴方ね。
確信を持ったマリィアンナがにっこり笑って
「早く下がって頂戴」
そういうと、メイドは唇をかみしめながら部屋を出て行った。
食事を終え、夜着に着替え、ふと机をみるとお礼状の手紙の山が目に入った。
プリマを呼ぼうかしら…でもこんな時間だから明日でもいいか…
あぁ、もう疲れた…
マリィアンナはまた眠気を感じ、モソモソとベッドへと入って行った。
しばらくしてドアをノックする音がして入室許可を出すとテレズが入室してきた。
「若奥様、旦那様と若旦那様はお食事を休憩の合間にとるとのことです。若奥様はお食事をいかがいたしましょうか?」
「部屋へお願いするわ」
食事を運ぶメイドがテレズで、マリィアンナのささくれた心が少し癒された。
静かに優雅に食事は並べられていく。
マリィアンナは食事をゆっくりととって口を拭いた。
食後の紅茶を飲んでカップを片付けて出て行こうとしたテレズのスカートのポケットから、じゅうたんにポトリとネックレスが落ちた。
マリィアンナは思わず見やると、テレズも落とし物に気づき、急いで拾い上げ
「し…失礼しましたっ」
と、深い礼をして慌てて出て行った。
マリィアンナは急いで退出していくテレズを見ながらぼんやりしていた。
『キラキラ輝いた』青いネックレスだったわ…
フーッとため息をついて椅子に座り、頬杖をつき羊皮紙をスッと伸ばしてペンをとった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お食事をお持ちいたしました」
ぼーっとしていたマリィアンナはノックの音に気付かなかった為、すでに入室しているメイドに驚いた。
前にマリィアンナの態度と様子を伺っていたメイドがコトコトと料理を並べている。
このメイドもか…
思わずため息をつき、ソファーへ座るとメイドは顔をゆがめた。
メイドの顔に違和感を感じ
「何?」
と、問いかけるとメイドは
「何か食事にご不満でもありましたでしょうか?」
と、問いかけてきた。
「…!」
マリィアンナはあっけにとられていると、メイドは答えを待たずに
「失礼します」と言って部屋を出て行った。
並べられた食事をじっと眺めてマリィアンナは静かに怒りを感じた。
不満も何も、不満だらけだわ。
冷たい食事、途中で下げられる食事、一人きりの食事
その上、主人のわたくしへのなんという物言い!もうたくさんだわ!!
怒りを爆発させ、マリィアンナは淑女としては失格ともいえるほど乱暴にパンをブチブチッとちぎって口へ運んだ。
メイドが食器を下げて退出した後もマリィアンナの怒りはなかなか収まらなかったが、ノックの音が再びしたので冷静になり入室許可を出した。
ドアが開けられ、中年男性が入室してきた。
「若奥様、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。コディル家・家令のグラウでございます。以後お見知りおきを」
「ええ、よろしくね。丁度良いところへきたわ」
「…?はい、なんでしょうか?」
「ドランジェ伯爵にお会いしたいのだけど」
「伯爵様は書斎にいらっしゃるかと」
「そう、案内していただける?」
「かしこまりました」
マリィアンナは部屋の外へ出ると鍵をかけた。それをグラウは横目で見て
「その鍵は…」
「ドルトンにお願いしたの。念のためにね」
「…そう…でしたか」
顎に手を置き、少し考えた後
「こちらです」とマリィアンナを誘導するように歩き出した。
マリィアンナは、手にした羊皮紙を大事そうに持ちながら付いて行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
伯爵の書斎はドアも豪華だった。
家令のグラウがノックをすると「入れ」と声がした。
ドアを開け、グラウが入室し、スッと横にずれて片手を胸に当てマリィアンナの入室を阻害しないよう完璧な所作をした。
マリィアンナは入室し、部屋の中ほどまで歩いて行った。
ドランジェ伯爵は書類から目線をあげ、マリィアンナを見やった。
「おお、マリィアンナ。邸宅での暮らしはどうかね?」
マリィアンナはカテーシーで敬意を示した後
「そうですわね、新しい暮らしはまだ慣れていませんわ。ドランジェ伯爵様」
と困った顔で微笑んだ。
「もう君は義理とはいえ娘なのだから私のことは『お義父様』と呼んでほしいな」
にっこりと笑って言ったので、マリィアンナはつられてにっこり笑って
「わかりました。お義父様」
と、答えた。
「私のところにわざわざ来るとは何かあったのかい?」
「ええ、少しわたくしにも思うところがありまして…こちらをまずご覧いただけますか?」
羊皮紙を受け取り、ドランジェ伯爵は読み始めた。
「これは…」
マリィアンナは凛とした顔でドランジェ伯爵を見つめていた。
その顔には先ほどの笑みはなく、自分の主張を曲げない強い淑女の顔だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋へ戻り、マリィアンナはソファーに座ってフーッと息を吐いた。
あとはアルベルト様だけね。
机の上に並べられたお礼状の入った手紙のスタンプの蝋をツンツンと触ってみるとカチカチに固まっていた。
後でプリマを呼んで…夕食の前に他の部屋の家具を…
考えを巡らしているとつい、うとうととしてしまった。
頭をいつもより使ったし、散歩もして…お義父様と話をして緊張したからかしら。
とっても…眠い…わ…。
気持ちのいいまどろみに勝てず、マリィアンナはソファーに座ったまま眠り込んでしまった。
ドドンとドアがやや乱暴にノックされた。
「お食事をお持ちいたしました」
「!」
ノックの音にびくっと体をふるわせ、目をこすり窓の外が視界に入った。
マリィアンナは目を丸くして驚いた。
外がもう真っ暗じゃない!
もう夜になってしまったの?!
失礼なメイドが急いで部屋へ入ってきてカチャカチャと食器を並べていく。
そしてさっさと出ていった。
メイドが出て行ったあとため息をつきながら料理を見て、マリィアンナはさらに驚いた。
ぐちゃっとくずれたチキンソテー
ひっくり返った固そうなパン
量があきらかに少ないスープ
いつものワインではなくエールが入ったグラス
なんなのこれ…質の悪い食事…
なぜこんなのを持って…
まさか…夕食を持ってくるのを忘れていたの…?
こんな遅い時間になったから急いで持ってきた…?
さすがにマリィアンナも不快感を顔に出した。
食事に手を付けて眉間に皺をよせた。
チキンは冷めても美味しい部類に入るけど…パンはカチカチでそのままじゃ食べれない。
スープも温かければもっと美味しいはずだけど味は悪くない。
極めつけは…ワインでなくエール…。これってもしかして…
ため息をつき、目を閉じる。
わたくしの食事と使用人の食事がまぜられている…?
こんなことってあるのね…
マリィアンナはチキンとスープだけ食べ、パンとエールはそのまま手を付けず残した。
食べ終えたあと、タイミングよく失礼なメイドが入ってきたのでマリィアンナは目を細めて
「パンは美味しかったかしら?」
と、頬を手に当てて皿を片付けるメイドに問いかけた。
メイドは少し動揺して
「…はい?」と答えた。
やっぱり貴方ね。
確信を持ったマリィアンナがにっこり笑って
「早く下がって頂戴」
そういうと、メイドは唇をかみしめながら部屋を出て行った。
食事を終え、夜着に着替え、ふと机をみるとお礼状の手紙の山が目に入った。
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