元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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新婚期

街の家具屋と布屋

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ホールへ入るとドランジェ伯爵が席に座っていた。
マリィアンナも急いで席へと座った。

温かい食事がよそられ、ホールの室温が少し上がる。

「温かいパンは美味しいな」
「そうですね、いつもよりふんわりしているように感じますわ。ふふふっ」
「昨日はよく寝れたかい?」
「温かいお食事でぐっすり寝られましたわ。お義父様のお心遣いに感謝しますわ」
「おやおや、わたしは随分やさしいお義父様みたいだな~」
「ふふっ」
「はははっ!」
和やかな会話が途切れず、なごやか空気が流れた。
「マリィアンナは何をして過ごすんだい?」
「わたくし、今日は冒険を致しますわ!」
「冒険?どんな冒険だい?」
「それはですね…」

マリィアンナは義父に心を完全に開いて、いたずら娘のように笑いながら今日の予定を話した。
義父は楽しそうに話を聞いて、マリィアンナの好きにするよう許可を出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋へ戻ると、義父から借りた大事なブローチをカバンの中と入れて『冒険』の準備を始めた。
そしてベルを鳴らしてメイドを呼び、プリマとドルトンを呼ぶよう指示を出した。

しばらくするとドルトンが先に来た。
「お呼びでしょうか若奥様」
「これから街に出ようと思うの。馬車と御者の用意を。馬車は1台でいいわ」
「1台でよろしいので?メイドは…」
「メイドと同じ馬車でかまわないわ」
「!…かしこまりました。街までですね」
「そうよ。伯爵様の許可はもらったわ。準備して」
「かしこまりました」

ドルトンが出ると入れ替わりにプリマが入室してきた。
「プリマ、今から街へ出るからメイドは…そうね、ティナとテレズを連れて行くわ」
「街へですか?」
「そうよ。準備でき次第出るから急いで頂戴」
「は、はい!かしこまりました」
プリマは大慌てで部屋を退出して行った。

そして少しして、ティナとテレズが入室してきた。
マリィアンナは手持ちのドレスでワンピースを少しふんわりさせた程度の服に着替え、部屋の鍵を閉めてエントランスへ向かった。

エントランスを出ると執事のドルトンと筋肉質の男性が馬車の前に立っていた。
マリィアンナに気づくと2人は礼をした。
「はじめまして若奥様、アンデルと申します。旦那様のご用命により本日、同行させていただきます」


お義父様、護衛をつけてくださったのね。これで安心だわ!


義父に感謝しながらマリィアンナは
「そう、今日はお願いね」
と、微笑んでエスコートされながら馬車へと入った。

騎士は御者の隣に座り、メイドは1台しかない馬車を見て動揺した。
貴族と下級の使用人が同じ馬車で乗ることは緊急事態以外ないことだった。
「さ、早く乗りなさい」
「えっ」
「せっかく街まで行くのだからゆっくり散策もしたいわ。早く乗りなさい」
2人は急いでマリィアンナの前に座った。

「では行ってくるわ」
帽子を軽く押さえながら馬車の中からドルトンに話しかけると
「いってらっしゃいませ、若奥様」
と、ドルトンは右手を胸に当て敬意を示した後、馬車のドアをそっと閉めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
街までは馬車で片道15分程度であった。
マリィアンナは久しぶりの街で思わず微笑んだ。

外を眺め、到着を今か今かと、うずうずしていた。


わたくしまるで子供みたいだわ。こんな自分もいたのね。驚きだわ!
これぞ『冒険』ね!


マリィアンナは自分の意志で目的を決めて、自分の行きたい場所へ行くという経験を前にして気分が高ぶるのを我慢できなかった。

「ティナやテレズは街へよく行くのかしら?」
「そうですね…お休みを頂いたときに雑貨屋へ買い物へ行ったりいたします」
ティナは緊張しながらも微笑みながら言った。
「わたしは…あまり…」
テレズは目を背けて答えた。その態度はなんとなくよそよそしく感じた。

「今日は家具屋へ行こうと思うの」
「家具屋ですか?」
「そう、わたくしもあの邸宅を住みやすいようにする義務があるわ」
「お店はお決めになったのでしょうか?お聞きしても?」
ティナがそう聞くと
「プリマに評判の家具屋を聞いたら『ペレッタ工房』はどうかって言われたわ」
「『ペレッタ工房』ですか。確かに評判がよいですね!店の前に並んだ椅子を買い物の度に見かけますが、掘り込みが素敵でした!」
「そうなの?それは期待できそうね!」

気持ちが最高潮に達したところで馬車が止まり、コンコンとドアがノックされた。
ドアが開けられ、騎士のアンデルが
「街の入り口へ着きました。こちらへどうぞ」
と、マリィアンナをエスコートしてから次々とメイドが馬車を降りた。

馬車留めには商人の馬車が満杯に止まっていた。


馬車を1台にしておいてよかったわ。この街の馬車留めのスペース、狭かったものね。
結婚式の後、街の様子を見ていてよかったわ。手間取らなくてよかったわ~!


「ここからは歩いてまいりましょう」
「わかったわ」

マリィアンナは軽やかにアンデルの後を付いて行った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なるほど。『ペレッタ工房』は…あちらですね。まいりましょう」

アンデルは街に行き慣れてるのか、スマートに案内した。
『ペレッタ工房』に到着して店の前に並べられている椅子をみると確かに素晴らしい作品だった。


これは期待できるわ!楽しみね!


ワクワクしながら店内へと進んだ。
店内は広く、様々な家具が所狭しと飾ってある。
「これはお嬢様、ようこそ『ペレッタ工房』へ。何をご入用でしょうか?お嬢様のお気に召される家具をわたくしめがすぐにでもご用意いたしましょう!」
活気よく、しかし嫌味を感じない物言いでマリィアンナの下へと男が来た。

「貴方が店主かしら?わたくしもう既婚ですの。この度コルディ家に嫁ぎましたマリィアンナ・コルディと申しますの。こちら家門のブローチよ」
義父から預かったブローチを見せて確認させる。店主はブローチをしげしげとみて
「これはこれは、もしや御嫡男のアルベルト様の…街でも結婚式のお話でもちきりです!」
店主は、にっこり笑って右手を胸に当てて敬意を示した。
ブローチをしまい終わると、マリィアンナは
「今日は色んな家具を見に来たの。そうね、ソファーとテーブルなどを中心に見たいわ」
「かしこまりました。ご案内させていただきます」

店主はお勧めの家具を1つ1つ説明しながら良さをアピールした。
マリィアンナは真剣な顔で詳しい説明を聞きながら、気になる事はその都度質問をした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
様々な家具を見たマリィアンナは、その場で椅子5脚とテーブルも5台の購入を決めた。
「ありがとうございます!」
店主はニコニコしながら感謝を表した。
「代金は邸宅に取りに来てほしいわ。ところで…こちらでは家具の修理や補修はできますの?」
「ええ、我が商会は『商人と職人が一体』を基本としているので修理・補修も承っております」
「そうなんですの」
「ですが、家具を搬入などで…少々お時間がかかるかと…」
「頼みたいのは家具磨きと不備がないかの点検、それから布の張替えですの。補修してほしい家具数が多いので職人を邸宅へ派遣することは可能かしら?料金は前金でこのくらい…残りは出来栄え次第で増減しますわ」

マリィアンナはカバンから金貨を取り出して見せた。
金貨を目にした店主は目を見開き
「かしこまりました!すぐに契約書を作成いたしますのでしばしお待ちくださいませ!」
と、急いで店の奥へ引っ込み書類の作成に取り掛かろうとした。

「お時間かかるわよね?その間、わたくしカーテンを買いたいの。貴方お勧めのお店はあるかしら?」
店主はピタリと足を止め振り返り
「カーテンでしたら…3軒先の『デディの布屋』がおすすめです。染色が素晴らしいです!」
「そう、じゃあ先にそちらへ行って休憩をはさんでから戻ってくるから書類の準備をお願いね」
「かしこまりました!」
店主は今度こそ、奥へと素早く引っ込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マリィアンナは店を出て『デディの布屋』へ向かった。
お店に入ると中年の女性が出迎えた。

「あら…お嬢様…いや若奥様、ようこそ!何をお探しでしょうか?」
「!」
びっくりしたマリィアンナに中年女性は
「先日の結婚式のウエディングドレス、大変お似合いでした」
と、にっこり笑った。マリィアンナも
「ふふ、ありがとう。今日は客室に合うカーテンを探しに来たの」
と思わず微笑み返した。

「そうでございますか、何色をご希望でしょうか?」
「5部屋分のカーテンを購入したいの。この店は染色がすばらしいんですってね。色々見せてほしいわ」
「5部屋分!かしこまりました」

色々な色を並べ見ているとマリィアンナがホゥ~っと思わずと吐息をもらした。
「素晴らしい染色でどれも捨てがたいわ。5部屋分の予定だったのだけど、8部屋分お願いするわ」
「8部屋分…!」
「それと、この店は使っているカーテンの丈を整えたり修繕することはできるの?」
「そうですね…お時間がかかりますが職人が5人いますのでできます」
「そう、じゃあ8部屋分のカーテンと邸宅のカーテンの修繕をお願いしたいわ。カーテンの代金は邸宅に取りに来て頂戴。修繕の代金は前金でこのくらいで、残りは出来栄え次第で増減しますわ」
マリィアンナは銀貨を数十枚出した。
「修繕で銀貨…わかりました!明日にでも窓の丈を測りに…コディル家の邸宅へと伺います!今、契約書を作成いたします!少々お待ちを…」
「そろそろいいお時間なのでわたくし達はカフェでひと休みしてきますのでゆっくり用意なさって?」
「お心遣い感謝致します!若奥様!」

微笑みながら店を出て、マリィアンナはカフェへとゆっくりと歩き出した。
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