元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

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新婚期

義父との食事

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マリィアンナは自分の部屋に鍵を閉めて、まず同じフロアの部屋を見て回った。
ドアを開け、部屋の中を次々と確認していく。


ここは客室ね。ここも…こちらも…客席が5部屋…と。


最後に見た客室と思われた部屋は寝具のサイズが小さく感じた。
印象としては男の子の部屋といった感じだった。


もしかして小さい頃のアルベルト様の部屋だったのかしら。
アルベルトの子供時代を想像しながらマリィアンナはクスリと笑いながら家具を眺めた。


ここはサロンかしら…布がかぶせてあり使われてないから予備なのかしら。
ここは…家具を置く部屋ね…物があふれてるわ。
ここは鍵がかかっているわ。高価なものを保管しているのかしら。
後は…向こう側にお義父様のお部屋と書斎、アルベルト様の書斎、家令のグラウの部屋ね…。


3階の確認を終え、階段を降り2階のドアを片っ端から見ていく。


こちらも…ここも…客室。ここと、ここはサロンなのね。この階はワンフロアが客室…なのね。
でも…どの部屋も色味がバラバラな感じがするわ…。
あちらにある邸宅の向こう側の建物は…使用人の部屋ね。


窓の外を眺めながら階段を降り、1階にたどり着くと角の辺りで女性の話し声が聞こえた。
「若奥様、お部屋でお食事をとるってプティさんが言ってたじゃない?」
「ああ、でも伯爵令嬢で偉そうだって言ってたからお高くとまっているんじゃない?貴族なんてそんなもんよ!前の男爵家ではそんな感じだったし」
「えー?そんな嫌な奥様いやだわ~」
キャッキャと楽しそうに話してる声を聞き、マリィアンナはムッとした。


やっぱりわざと食事を一人でとるように仕向けられていたのね。
アルベルト様も『わたくしの要望』っておっしゃってたし。
プティとアルベルト様の距離はだいぶ近いのね。
わたくしが言ったわけじゃないのに…あの子の事を信用しているのね。


目を細めて声に耳を傾けた。

「あ~私も身分の高い貴族様に生まれたかったわ~!」
「ホントそうよね~」
「なんでもやってもらっていいわよね~」
「生まれがいいだけなのにねぇ~」


感情を押し殺し、マリィアンナは冷静であろうとした。


重い足取りで自分の部屋へと戻り、マリィアンナはベッドへゴロンと寝ころんだ。
天井を眺めながら目をそっと閉じた。


そうね、わたくしは伯爵家に生まれたから恵まれた生活を送ってるわ。
豊かな生活は先々の未来のための貴族としての体裁を保つため。
わたくし自らわけではなく、のだから。
子供のころから貴族としての生活をすれば…平民の生活を送るなんて不可能なのだから…
結婚相手も自分で決められず、男児を産む事を望まれ、時には自分の気持ちも犠牲にすることもいとわない、そんな人生を送るのがうらやましいのかしら。


メイドの愚痴を聞き、フッと自傷気味に笑って吹っ切れた。


ならばわたくしは貴族らしく、わたくしを守るわ。
どんな手を使っても。


しばらくして、プリマを呼び、お礼状が入った手紙を送るよう指示を出した。


マリィアンナはその後、昼食までに窓の外をぼんやり眺めて過ごした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昼頃ドアがノックされ、テレズが入室してきた。
「お食事のお時間です。今日から若旦那様が不在の間、旦那様がホールで一緒に食事をなさるそうです」
「そう!わかったわ」
部屋に鍵をかけてテレズを伴いホールへと移動した。
ホールにつき、自分の席へテレズに誘導され席の前へ移動する。
少ししてドランジェ伯爵がホールへ入ってきた。
マリィアンナに気づいて
「先に来たら座って待っていてくれ」
と、にっこり微笑んだ。
「はい、お義父様」
マリィアンナも微笑みを返した。

食事が並べ終わると「さぁ食べよう」と声をかけられたのでマリィアンナは「はい」と答えて食事に手を付けた。


普通に冷ました食事がこの家の『普通』なのね。


顔を変えず、食事を口へともくもくと運んでいくマリィアンナを見ながらドランジェ伯爵は
「料理はどうだい?慣れたかい?」
と軽く問いかけた。

「あ、え…難しいですわ」
目を伏せながらマリィアンナはバツが悪そうに言った。

「難しい?」
「生家では料理をこのようにいただいてなかったので…」
「どのように食べていたのだ?」
不思議そうにドランジェ伯爵は問いかけると、マリィアンナは決意して答えた。
「わたくしが幼いころ、領地で父が作りたての料理を食べたのを気に入りまして…生家ではずっと温かい料理を頂いていたので…」
「温かい料理…どのように食べていたのだ?」
「ホールに鍋ごと持ってきてその場で盛り付けをしてメイドや給仕が運んでいましたわ」
「なるほど…私は『温かい料理』というものを物心がついてから食べたことがないが…」
「寒い季節など、体が温まり長く眠れてよいかと」
「ほう」

マリィアンナにとって、終始ニコニコしたドランジェ伯爵との食事はとても楽しかった。
食事の手も進み、ほとんど完食することができた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マリィアンナは食事を終え、部屋へ戻ると食休みに本を読み、気分転換に部屋を出て、邸宅の観察をした。
夜の食事までの間、一つ一つの部屋へ入って細かく家具の色味やサイズをチェックして過ごした。


夜になり、ホールで席に座ってドランジェ伯爵を待っていると
ドランジェ伯爵がホールへとニコニコしながら入ってきて席へ座った。

席には食事がなく不思議に思っていると「用意を」とドランジェ伯爵が声をかけた。
すると、給仕とメイドが鍋が乗ったカートを引いてきた。そして湯気が立つ鍋からスープ皿によそって配膳をし始めた。
マリィアンナはびっくりしながらも頬がゆるんだ。

次々メインが運ばれ、ワインがその場でそそがれる。

よそい終わったところで「さぁ食べよう!」とドランジェ伯爵が声をかけマリィアンナは頷いて食べ始めた。

鹿肉、ホロホロほどけて美味しい!油が固まってないわ!
スープも温かくて体があたたまる…
ワインもぬるくないわ。美味しい!


「熱い!…が美味しいな」
普段冷たいものを食べていた伯爵には熱く感じたようだが食べるスピードは止まらなかった。

「明日から温かい料理にしよう」
「まぁ!」
マリィアンナは素直に喜んだ。


明日から温かい料理が食べれるなんてうれしいわ!


「コディル家にこれからもどんどん『君の良さ』を組み込んでくれマリィアンナ」
「お義父様!是非マリィと呼んでください」
「いいのかい?じゃあ…マリィ」
「はい、お義父様。ふふっ」

マリィアンナは、ニコニコして楽しみながら食事の時間を過ごした

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋へ戻り、マリィアンナはベルを鳴らした。
すぐにドアがノックされ、入室許可を出すとメイドが入室してきた。

このメイドは…前に何か言いたげにしていたメイドね…
「若奥様、何か御用でしょうか?」
「…貴方、名前は?この邸宅に何年勤めてますの?!」
「え…ティナと、申します。こちらには2年前から勤めております…」
少しおどおどとしながら答えた。

「そう…。明日から旦那様や若旦那様がホールで食事をとる場合は、わたくしもホールに行きますからそのように使用人達へ伝えなさい。誰がなんと言おうとも…。それから、貴方が食事のお時間になったらわたくしを呼びに来なさい。わかりましたね?」
「え…は・はい。」
「下がっていいわ」
「か、かしこまりました」
礼をしてティナは部屋を退出して行った。

その夜、マリィアンナは明日の予定を頭に思い描きながら眠りについた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝になり、ノックの音で目が覚めた。許可を出すとティナが入室してきた。
「おはようございます。若奥様」
「…」
マリィアンナは起き上がり、ぼんやり前を見た。
「あの…若奥様?」

マリィアンナはそのまま少し動かず、心配になったメイドはおそるおそるベッドに近づき
「若奥様?」と再度声をかけた。

「んー…」
目をこすり、俯いてからぼんやりとメイドを見上げた。
「あー…んー…貴方は…メイドのぉ…ティ…ティ…」
「ティナでございます。身支度を整えに参りましたのですが…」
「…ん、そうね」
ノロノロとベッドから鏡台へと座った。
ティナはクローゼットからドレスを取り出し
「こちらでよろしいでしょうか?」
と、声をかけてきた。
マリィアンナは「ん」と生返事をした。
せわしくドレスを着せられ髪を編み込まれ、化粧をされる段階になり、やっとマリィアンナの頭が覚醒してきた。

「ふふ、わたくし朝が弱くって。いつもぼんやりしてしまうの」
「そうでございましたか」
ティナも、ふふっと笑って答えた。

「わたくしの支度、1人では大変でしょう?明日からもう一人メイドを貴方の判断で連れてきて頂戴」
「かしこまりました」
「だけど条件があるわ」
「条件…でございますか?」
「そう。貴方の所作は完璧でしょう?2年では身に付かないと思うの。他の邸宅でも働いていたのかしら?」
「はい、この邸宅の前に子爵様の所に勤めさせていただいていました」
「そうなのね。貴方ほど完璧でなくてもいいから『最低限の所作』ができているメイドを選ぶことが条件よ」
「『最低限の所作』ですか?」
手を一瞬止めてティナが問いかけた。

「そう、貴方の目を信じるわ。お願いね」
「…かしこまりました」

マリィアンナは部屋に鍵をかけてティナを連れてホールへと歩いて行った。
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