元伯爵令嬢の結婚生活~幸せな繋がり~

日向 夜

文字の大きさ
30 / 53
新婚期

斡旋屋

しおりを挟む
マリィアンナのお腹の具合も良くなり、大公園を出るともう夕方の頃合いだった。

「ねぇ、ティナ。街にはどんなお店があるの?」
マリィアンナは歩きながら話しかけるとティナは少し悩んでから
「そうですね…この街には色々あります。酒場や斡旋あっせん屋、本屋、貸本屋、雑貨屋、菓子屋、服屋、食堂、パン屋…あとは…」
「…孤児院はあるのかしら?」
「えぇ、あります」
「ここの孤児院は何歳までの規定なのかしら」
「確か…10歳かと」
「随分早いのね…」
「えぇ…」

沈黙が続くと
「孤児院にいれるのは10歳までですがその後の生活は16歳までは保障されているかと」
と、騎士のアンデルが口をはさんだ。

「16歳まで?」
マリィアンナとティナが不思議そうにアンデルを見つめた。

「孤児院で生活できるのは10歳までですが、その後は斡旋屋で仕事を紹介してもらえます。格安で斡旋屋の部屋も借りれます」
「…そうなの。…孤児院って街のどこにあるの?」
「ここからすぐのところですね。寄られますか?」
「えぇ、少し見ておきたいわ」

孤児院と大公園は目と鼻の場所にあった。
建物は少し古く、柵は少々朽ちていて庭の畑は少し荒れていた。
庭には一人の少女が、ブチブチと雑草を抜いていた。
少女は涙をこらえて肩を震わせながら、黙々もくもくと抜いていた。
しばらくして少年が少女を呼び、2人は建物の中へと入って行った。


マリィアンナは泣きそうな少女の顔がひっかかりながらも孤児院を後にした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あとは…斡旋屋へ行きたいわ」
「…斡旋屋ですか?」
「そう。今日行っておきたいの」
「かしこまりました」
ティナに案内され、斡旋屋へと向かった。

建物に入ると、カウンターには中年の女性が1人いて何やら作業をしていた。
マリィアンナに気づきカウンターから出て挨拶に来た。
「これはお嬢様、何かご入用でしょうか?」
「ええ、少し。オーナーはどなたかしら?」
「!!…主人を呼びますのでこちらのお部屋でお待ちくださいませ」

商談部屋へと通されるとマリィアンナはティナとアンデルに部屋の外で待っているよう指示を出した。
二人は礼をして部屋を退出して行った。

ソファーに座って待っていると、すぐにドアが開き中年男性が入ってきた。

「お待たせいたしました。お嬢様。オーナーのデリルと申します」
「わたくし、この度コディル家嫡男アルベルト様の妻となったマリィアンナ・コディルですわ」
「これは!失礼いたしました!…領主様の御嫡男様の奥様であられましたか!申し訳ありませんでした」
「いえ、いいの。わたくし街に来るのはまだ2回目ですの。顔を知らないのも当然ですわ」
そういいながらマリィアンナは微笑みブローチを見せた。
「奥様はお綺麗ですのですぐに皆、知れ渡るでしょう!」
「ふふっ、お世辞でもうれしいわ。今日は使用人について相談をしたいと思って来たのよ」
「使用人ですか?」
「そう、使用人。わたくし即決はしないわ。まず知りたいわ」
「なるほど…」
デリルはひげを撫でながらチラリと廊下を見た。
「ご入用は騎士とメイドですか?」
「騎士はいいわ。今はわたくしの領分ではないから。メイドを中心にお願いしたいわ」
「なるほど…では名簿をお持ちいたします。少々お待ちください」

デリルはすぐに名簿を持ってきて少し困った顔でマリィアンナへ手渡した。
「今現在、メイドとして機能する娘はあまりいないかと…」
「…」
「しかし、奥様のはいるかと思います」
「…そう」


名簿をめくり、眺めながらマリィアンナは思案した。
分厚い名簿を眺めながらマリィアンナは息を飲んだ。


この名簿、事細かに書かれているわね。
人材のできる仕事、希望賃金、期間、斡旋料、性格、家族構成、住んでいる場所、まで…。
会話から察するにもデリルという人は聡い人間だわ。


マリィアンナは口に手を当て、考え込んでいると部屋のドアが開きカウンターにいた中年女性が紅茶の入ったトレーを持って入室してきた。
「妻のピニィです。ピニィ、こちら領主様の御嫡男様の奥様だ」
ピニィはびっくりして
「奥様!は…はじめまして。ピニィと申します!」
「ピニィ、よろしくね」
「あ、は…はい!えと…こ、紅茶をどうぞ」
ギクシャクしながら紅茶を並べると急いで退出しようとしたピニィを、マリィアンナは引き留めた。

「ねぇピニィ、斡旋する人材と貴方は接触したりするのかしら?」
「え…は、はい!そうですね…受付を主に私がしていますので。後、孤児院出身の子供は上に住んでいるのですが、食事や洗濯などのちょっとした家事も一緒にしますので…」
「そう…じゃあ一緒にこの名簿を見て載ってる人材がどんな人となりか貴方の率直な意見が聞きたいわ」
「え…は…はい!私でよければ」
「では私はカウンターにいますので何かありましたお声かけください」
デリルはニコニコしながら部屋を退出して行った。

「メイドを主に探しに来たのだけどメイドの仕事をできる女性はあまりいないってデリルが言っていたのだけどなぜなのかしら?」
「そう…ですね…メイドの仕事には教養も必要ですし…相応の技術も必要です。平民には狭き門でございます…」
「そうなのね…」


邸宅にいるメイドもその狭き門を突破した平民なのか、没落した貴族の令嬢なのか…
もしかしたら嫌々メイドの仕事をやっているのかしら…
だからって嫌がらせをしていいわけじゃないのだけど。


そんなことを考えながら名簿を読んでいると、とあるページでピタリと目が留まった。
見開きのページには2人の少女の情報が書いてあった。

「この子は…」
「あぁ、この子たちは…」

ピニィの話を聞きながらマリィアンナはこれからどうすれば最適なのか考え続けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
馬車で邸宅に戻る頃には日も暮れ、辺りは暗くなっていた。

久しぶりに邸宅を出たマリィアンナは疲れていて、部屋へ戻ると早々にソファーへと座った。


体がだるいわ。完全な運動不足ね。
明日、足がつらいかもしれないわね…

マリィアンナは湯あみもそこそこに、すぐにベッドへと入り寝息をたてた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日、案の定マリィアンナの足はがくがくしていた。

マリィアンナは、義父と温かい朝食を食べながら昨日の出来事を話し
義父はニコニコしながらマリィアンナの話に相槌あいづちをうった。

マリィアンナはあまりの運動不足の為、しばらく街に出るのを止めて家で大人しくすることにした。


部屋にこもっているのももう飽きたわ。
運動不足解消の為に庭や邸宅を散策しようかしら。


マリィアンナは街の次は邸宅を隅々まで『冒険す』ることにした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋数も多いがこの邸宅は庭も広かった。


前に客室をくまなく観察したから今日は他の場所を散策しましょう…
庭に出てみようかしら。それにしても…広くて迷子になってしまいそうだわ…


がくがくした足をゆっくり進めながらマリィアンナは庭へと向かった。
花を愛でながらゆっくり歩くと、何やら声が聞こえた。
声に気を取られ、マリィアンナはドレスのすそを踏んで転びそうになり、思わず垣根かきねにしゃがみこんだ。

「うぅっ…ひっ…っふ…」
押し殺したような泣き声が聞こえた。
「お父様…エミール…うぅ…っく…」


そっと見るとテレズが垣根の向こう側で小さくうずくまっていた。
表情を崩さず冷静ないつものテレズはなりをひそめて、誰にも見つからないようにコッソリ泣いているのがマリィアンナにヒシヒシと伝わってきた。
慰めた方がいいのかとも思ったが、テレズとはまだ短い時間しか顔を合わしていないし、自分が行っても余計な事なのではないかと思案をした。

結局マリィアンナは思いがけず盗み聞きをしてしまっていたたまれなくなり、テレズを案じながらも何も言わずにその場から静かに離れた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い

雲乃琳雨
恋愛
 バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。  ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?  元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

処理中です...