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暖かい日常

暖かい日常IV

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「そろそろ学校に行ってくるね」

『いってらっしゃい、気をつけなさいよ?』

『早く帰ってきてね、お兄ちゃん』

「わかってるよ。それじゃ、行ってくるね」

 二人を後に家から出ると、

「遅かったね、亮人」

「礼火、おはよう」

 子供のような容姿かつ、子供のような生活を送っている幼馴染の奈星礼火が亮人を待っていた。
小さな体であるが、心には芯を持っている彼女に亮人は救われた。

「久しぶりの登校だから、一緒について行ってあげようかなって思って」

「確かに学校に行くのも久しぶりだね。一週間ぶり……くらいかな?」

「学校のみんな、心配してたよ? 学校に着いたら元気な挨拶しなきゃね」

 童顔で可愛らしい彼女の笑みに和みながら、歩みを進める。この前の戦いで傷ついた景観を横目で見ながら、

「この前の戦いは凄かったね。公園もこんなに……」

「あれから少しずつだけど、町の人たちも話題にしなくなってるし、気にしなくて大丈夫だよ。それに学校中は漫画みたいなことがあった、みたいな会話で楽しくしてるみたいだから」

「漫画見たいって……みんなは呑気だよね」

 町の人や学校の友達があまり気にしてないことに驚きながらも、その反応が少し面白くてほくそ笑んでしまう。

「おっ、相馬じゃん。風邪引いてたって聞いたけど、大丈夫か?」

「あ、うん。風邪が長引いちゃってね。大分しんどかったけど、やっと治ったよ」

「そっか。あまり無理すんなよー」

「ありがとう」

 道中、クラスメイトに会えば礼火が言う通り、心配して声をかけてくれる。一週間前の出来事が嘘のようでホッとする。
 変わっていく日常に変わっていく景観、日常から非日常に変わった生活に亮人は早くも慣れてきていた。彼の適応能力、大切に思える価値観の変化が彼に変化をもたらしている。そんなことを意識していないからか、

「礼火も心配してくれてありがとうね。これからもずっと側にいてくれると嬉しい」

 自然と礼火を求める言葉を口にしていた。
 前までの亮人では口にしない、相手を求める欲求。彼がこれまで求めなかった欲求が少しずつ心から現れ始めていた。

「私からもお願いするね……ずっと側にいさせてほしいな」

「うん……」

「「………………………」」

 俯く礼火と前を見つめる亮人。そんな二人は自然と体が近づいていた。
 教室に着いた亮人の第一声、

「おはよう、みんな」

 そんな他愛のない言葉にクラスメイトは心配の声をかける。
 亮人にとって平凡と言える時間に変化はない、寧ろ変化がないことが亮人を安心させた。

「ほらっ、みんな心配してくれてる。亮人は幸せ者でしょ?」

「そうだね、これだけで幸せって思えるよ」

「亮人は不幸なんかじゃない。不幸だったって思ってたなら、ここからは幸せの階段を上っていくだけだからねっ!!」

「うわっ!!」

 教室で亮人に抱きつく礼火。

「(なんか知らないけど、二人の仲が進展してるなぁ)」

 周りにいるクラスメイトたちはこの仄々《ほのぼの》とした光景に、自然と平穏を感じた。
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