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穂波晴野

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第一章「袖振り合う世の縁結び」

2.暇つぶしに夏祭りに出かけることにした

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 夏祭りに出かけないか、と誘われたのは七月初旬のことだった。
 放課後。教室で級友たちと雑談に興じるさなか、気がつけばふたつ返事で承諾していた。

 幸か不幸か、週末に予定はない。
 しいていえば、自転車を飛ばして映画館にでも出かけようかと計画していたくらいだ。目的はいわゆる暇つぶしで、公開を待ちかねた新作映画があるわけでもなかった。

 ちょうどいい余暇に、ちょうどいい外出。
 ひとりで過ごすよりも、いくらか有意義に過ごせるかもしれない。
 その程度の興味と関心。行動するにあたって熱烈な動機は必要ないのだ。

 高校に進学して最初の一年は、季節ごとの学校行事と段階的に難易度の上がるカリキュラムに一喜一憂したものだが、二年に進級してほどなく、新しいクラスにもなじむころには、高校生活もすっかり日常になっていた。

 僕――伏見千幸のかよう、万鐘高校は、県内では一定の知名度を誇る進学校だ。
 学力試験の結果と中学時代の成績で入学先が決まる高校は、これまでよりもよりシビアにおのれの価値が定まる場であると感じていた。

 一年あまり高校生として過ごしてみて、僕が得たのは「自分は十人並みの人間である」という前向きな諦めをふくんだ楽観だ。

 成績は中の上から平均までの順位を行ったり来たりする程度で、運動能力にも抜きんでたところはない。
 特別な才能もなければ趣味の料理も道楽程度。
 おのれの「人並み」という属性に失望する心地が半分、安堵する心地がもう半分。

 それでいいのだ、と思う。「普通」に安住していれば、使命も信念も持たずともそれなりで生きていける。
 家事と勉学の両立を重んじて帰宅部でとおしてはいるが、人並みに刺激的で、人並みに退屈な毎日を楽しくやれている。

 だから、単調な人生が色づくきっかけを期待していたつもりはなかった。

 校門から駅までの長い坂道を下り、地下鉄に乗り込んで友人と別れたあと。スマートフォンの液晶画面をタップしていくつか検索ワードを打ち込みはじめてようやく、僕は浮き足だっている自分に気がついた。

 ふと、我にかえっておどろく。
 行き先の商店街には過去に何度か出かけたことがあった。画面に表示された検索結果をながめ、先頭に表示されたウェブサイトを開く。と、見慣れた街の風景写真が映し出された。

 太洲神社。
 太洲商店街からほど近い場所に位置している絢爛豪華な社寺。市内のちょっとした観光名所にもなっている。

 前におとずれたのは中学三年の時分だったか。観光客とおぼしき人たちがわらわらと連れだって、カメラを構えていたなぁとぼんやり思い出した。

 週末に向かうのは太洲商店街で毎年開催されている「太洲夏祭り」なるイベントだ。
 サンバショーや阿波踊りパレード、地元アーティストを招いてのライブイベントなど、要するに何でもありのお祭りである。もとは町おこしとして企画され、こんにちまで長く続いている。

 祭りの夜には花火大会が予定されており、太洲神社の敷地内で打ち上げをおこなう手筒花火は毎年の風物詩になっていた。

 手筒花火は、夜空に向かって煙火玉をドンと放つ打上花火とは異なり、火薬を込めた竹筒を人が抱えたまま打ち上げを行う。伊奈羽市が所在する、中部地方独特の文化らしい。

 めずらしいものが見たいから、と声をかけてきた友人は入学前に県外から越してきた生徒で、ぜひ撮影したいと意気込んでいた。

 楽しみに思うのは、彼の気持ちが伝染したからだろうか。
 伊奈羽市には生まれてからこちら、十六年間住んでいる。けれども僕も、手筒花火をこの目で見るのははじめてだ。
 画面を眺めている合間に、車内にアナウンスがとどろく。

 乗り換え地点となる降車駅だ。乗客と乗客の間をぬるりと滑り出て、下車をする。
 ――ふいに思い出す。友人はこうも言っていた。

「ネットで見たんだけど、太洲神社って縁結びのパワースポットとしても有名らしいぜ。伏見も良縁祈願しとけば?」

 教室ではやんわりと笑い飛ばしてしまったが、ご利益があるのならばあずかりたい。
 特別な出会いなんて、人生にそう起こり得るはずがない。

 けれども。万が一。ひょっとしたら。
 真夏に春雷に打たれるのを待つような、荒唐無稽な淡い期待。
 しかしそれは、僕の心をとらえて離さなかった。

 このときの胸騒ぎは、今にして思えば、奇妙な虫の知らせだったのかもしれない。
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