真実の先に見えた笑顔

しまおか

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第四章~①

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 七月分の計上も滞りなく終えて、八月も第二週に入った。周囲では夏季休暇を取る社員も増え始め、いつもよりフロアにいる人が少なく感じた頃だ。
 二課の手塚や平畑の件を除けば、一課では仕事も一段落して全体的に雰囲気が落ち突き出した時、別の事件が起こっていた。
 と言っても大した話ではない。フロア共有スペースの給湯室に置かれた食べ物が、再び無くなったのだ。しかし今度は冷蔵庫の中の物ではなく、外に置かれたお土産の洋菓子やせんべいばかりだった。
 それに今回の犯人は、前回注意した新人総合職で無い事は分かっていた。何故なら彼は一週間の若手研修の為に、東京へ出張していたからだ。八月は繁忙期から外れる為、新人だけでなく様々な研修が、ここぞとばかりに入れられる時期でもある。
 では今回の犯人は誰なのかが話題となった。しかも面倒な事に、前回英美達が解決したことから、今回もどうにか探して欲しいと浦里と一緒に頼まれてしまった。もちろん言い出したのは祥子だ。彼女のお願いはなかなか断りづらい。
その為無駄だと思いながらも再び三箇の協力を得て、前回同様食べ物にGPSシールを貼る仕掛けを試したのだ。しかし何故か英美が在席している時間帯には、全く動きが見られなかった。だが翌日の朝会社に出社すると、食べ物は無くなっていたのだ。
 しかも何故かGPSシールが貼ってあると気付いているかのように、包み紙を破って中身だけ取り出されていた。そのことを聞きつけた七恵は、再び騒ぎ出した。
「今回の犯人は、前回の件でGPSシールを貼ったと知っている人物よね。しかも廻間さんが退社した後で無くなっているということは、遅くまで残っている総合職が怪しいわよ。今度こそ、あの死に神の仕業じゃないの」
 何が気に食わないのか、彼女は久我埼の事を目の敵にしているようだ。しかし厄介な事に、その点では三箇も同じだった。だが前回の件を知っているフロアの人間がそんなことをするだろうか。英美は疑問を持った。
 まだこのフロアに泥棒がいると噂が立ち、互いに疑心暗鬼となったからだろう。再びフロアの雰囲気が悪くなりだした。久我埼と三箇の関係も含めて複雑化しているところに、常日頃から中の悪い女性同士が揉め事を起こす度に、
「お菓子泥棒はあんたじゃないの?」
と言い出す始末だった。そんなことが続いた為、早く解決して頂戴と何故か祥子を中心とした業務部の人達から、英美達がなじられるようになってしまったのだ。
「人に解決しろと勝手に任せて置きながら、できなかったらあなた達のせいだと言われても困るよね。余りにも勝手過ぎない?」
 正直腹を立てていた英美は、仕事終わりに浦里と三箇から誘われ入った居酒屋の個室で愚痴を言った。
「まあまあ、そう怒らずに。今の時期、夏季休暇を早めに取り終わった総合職や事務職達が、お土産を買って来ているだろ。他にも研修を受けて帰ってきた人達もいる。だから事務職やスタッフさんが課の人達に配る機会も増えた分、日持ちする食べ物は後回しになって、給湯室に置かれたままのものが多くなった。それらを誰かに盗み食いされたら、さすがに気分が悪いよ。それにただでさえ業務部は、事務職員を中心に人数が多い部署だろ。各自それなりのお金を自腹で払って、お土産を買ってきているからさ」
「だから何よ。浦里さんは腹が立たないの?」
「気分は良くないさ。でも彼女達が神経を尖らすのも理解できるって言っているだけだよ」
「私は全く分からない。自分達が気に食わないことを棚に上げて怒っているだけじゃない」
 そこに三箇が話に割って入った。
「まあ、落ち着けって。言いたい奴には、言わせておけばいい。今回の紛失事件を解決すれば、またすぐに収まるだろう。しかしおかしな事件だな。俺はまたGPSシールを貸してくれと言われたから渡したけど、詳しい状況を聞いていない。俺のいるSC課とは階が違うから、よく知らないんだよ。ちょっと説明してくれないか」
 英美はお菓子が無くなった状況や、今回の作戦が失敗している現状を話した。それを聞き終わった彼は、首を捻りながら言った。
「それはおかしいな。前回の件を知っていて、GPSシールが張られた包み紙を破るのは理解できる。しかしそれをごみ箱に捨てたりはしていない。しかも複数個がそのまま放置されているということは、その場で中身を食べたのか? それも不自然だろ」
 浦里が頷いた。
「言われてみればそうだな。いくら人気が少なくなった夜に食べたとしても、誰かに見られる可能性は高い。中身だけポケットか何かに入れて持ち去った? それもおかしいな」
「え? どうして? 夜、遅くまで仕事をしてお腹がすいた総合職の誰かがいくつか持ち去って、別の場所でこっそり食べているかもしれないじゃない」
「廻間さん、それはちょっと考えにくいな。俺はあのフロアに遅くまで残っている総合職が誰で、どれだけいるかは大体知っている。若手もいるけど、ほとんどは管理職や次席だ。それらの人達が長い間席を外したり変わった行動をしていたりしたら、すぐに判ると思う。でもそういう人達がいたとは全く聞かない」
「浦里さんの言う通りだとしたら、最後までフロアに残っていた総合職くらいよね。でもそうなると誰だか特定できるはずでしょ」
「あの階で一番遅くまで残っているのはたいてい企営一課で、その次が二課だ。いつもではないけど業務課や総務課は、一課や二課より早く帰っていることが多い。でも最後まで残っているのは、だいたい企営一課の課長と次席だ。でもあの人達がそんなことをするとは思えない」
「そう言われればそうかもね。もし総合職の誰かがやったとしても、包装紙を破り捨てて中身だけ取出して食べる人なんかいないか。それにしても不思議よね。先月騒ぎになったばかりだというのに、また起こるなんて普通じゃ考えられない」
 すると三箇が、二人の会話に割って入った。
「ちょっと待て。破り捨ててあったと言ったな。盗まれたのは前回と違い、冷蔵庫の中身のものじゃない。外に出してあった食べ物ばかりだったな」
「そう。この時期だとお土産物が多いでしょ。要冷蔵の食べ物や飲み物以外は、どうしても外に置くしかないの。でもこの暑い時期だから常温保存はもちろん、せんべいだとかクッキーだとか、少しくらい高温になっても大丈夫な物ばかりよ。といってもフロア全体に冷房は入っているし、人が多い仕事場に比べて給湯室はヒンヤリしているからね。外に出していても長い間放置しておかない限り、食中毒になるようなことはないと思う」
「ほう。そうすると犯人は、このフロアにいる人達でない可能性が出てくるな」
「三箇さん、それはどういう意味だ? 別のフロアの総合職だとか、時間外にビルの中へ入ってくる業者だとか言わないよな」
「そうじゃない。給湯室の状況を確認しないと確信は持てないけど、もしかするとそうかもしれない」
 そこで彼の推理を耳にした英美達は、顔を見合わせた。二人には心当りがあったからだ。
「そういえば、最近聞いたばかりの話があるよ」
 そのことを三箇に伝えると、彼は手を叩いた。
「それだ。もしかすると、犯人はそいつかもしれない」
「でもそれならどうする? 盗まれないように防ぐことはできるかもしれないけど、解決にはならないぞ」
「だったら罠を仕掛けて、犯人を捕まえるしかない。万が一に備えて、GPSシールの使い方も変えた方が良いだろう」
「だったら明日の朝にでも、給湯室の周りを見てみるか。そいつが犯人である可能性が高いと分かったら、すぐに準備しておけば夜には動きがあるかもしれない」
「やってみよう」
 そこからは三人で、具体的にどうやるかの打ち合わせを行った。翌日の朝は、他の社員がまだいない早い時間帯に出社した。すると三箇が給湯室の中をじっくりと観察してくれたおかげで、形跡を見つけることができたのだ。これで彼の予想が正しい確率が高まった。そこで前日に話し合った通り、仕掛けを施したのだ。
 GPSシールの動向を見張るため、英美はこれまでと同様机上にスマホを置いていたが、前回ほど注視しなかった。なぜなら動くとすれば昼間ではなく、退社した後の夜だと考えていたからだ。
 思っていた通り、英美が仕事を終え会社を出るまで、その日一日中動きは無かった。この後は会社から離れる為、GPSの動きが把握できる範囲から外れる。だから犯人が捉えられるか否かは、明日の朝出社してからでないと判らない。
 翌日の朝、眠い目をこすりながら二日続けて早起きをした英美は、会社へと向かった。フロアに着いて給湯室へと向かうと、既に三箇と浦里が待っていた。そこで尋ねた。
「おはよう。どう? 罠にかかった?」
 だが二人は首を横に振り、三箇が答えた。
「駄目だった。用心深い奴らしい。でもGPSシールを仕掛けた菓子の一つが無くなっている。だから廻間さんを待っていたんだ。持っている携帯でどこにあるか、見て貰えるかな」
 そうだった。GPSに位置を把握するアプリは、英美のスマホにしか連動していない。確認するには、それで見るしかなかった。
「ちょっと待って。今、起動させるから」
 ポケットから取り出し、アプリを立ち上げた。半径三十メートル以内であれば感知するはずだ。しかしそれ以上遠くへ移動していた場合は捉えきれない。
 だが三箇は反応するだろうと予想していたようだ。すると一つのGPSが、給湯室から離れた場所に移動していることが判った。
「やっぱり反応したな」
三箇が嬉しそうに呟いたけれども、浦里は画面を覗きながら首を捻った。
「確かに移動はしているけど、これだとどこにあるかよく判らないな。この給湯室からほんの少ししか動いていないだろ。でも見たところ、この近くには無い」
「おそらくこの上か下か、どちらかに移動したんだろ」
「でもこれだとおそらくお菓子だけ食べて、シールは持ち去った場所に放置されているだけじゃないか。まさかシールごと食べたとは考えにくい」
「食べた奴の腹の中にGPSがあるなら、捕まえることができるかもしれない。だけどそれはさすがに無理があるな」
 二人の会話に苛立った英美が、思わず言った。
「冗談を言っている場合じゃないでしょ。三箇さん、この後どうすればいいの?」
「そんなに怒らないでくれ。まずは上の階に行ってみよう。GPSがどう反応するか、しっかり見ながら階段を上がれば、少しは居場所がわかるかもしれない」
「だったら早く行こう。他の社員が大勢出社してくる前に見当を付けておかないと、変に騒ぎが大きくなっちゃうわよ」
「そうだな。下の階は三箇さんのSC課があるフロアだから後の方が良い」
 浦里の賛同も得て、三人は階段へと移動しながらGPSの位置を確認した。同じ場所から動かなくても、近づけば画面の反応が変わるはずだ。八階で見た時は、同じフロアにあると思えなかった。 
 九階へ上がると、まだ八時前だと言うのに数人の総合職が出社していた。これは早く発見せねばならない。英美達は焦りを覚えながらGPSの反応を見る。すると明らかに八階にいた時とは異なっていた。場所は給湯室の近くと変わらないが、より近づいたようだ。
 九階のフロアも下とほぼ同じ配置である為、給湯室からそれほど離れていない場所で点滅している。そこで八階には無かった小さな扉を見つけた。おそらくビルの壁の内側にある、配管などを点検する為に設けられている入り口のようだ。
 念の為開けてみようと試みたが、鍵がかかっていて扉は動かない。しかし明らかにこの向こう側から、GPSシールが信号を発しているようだ。
「これはビルを管理している会社に連絡をして、開けて貰うしかないね。もしこの扉の向こうに菓子を盗んだ犯人がいれば、捕まえないといけない。だけどおそらく別の配管や抜け道を通って、既にどこかへ逃げてしまっている可能性が高いな」
「でもこれでGPSシールを発見できて、周りに毛や糞があったりしたら間違いないよね。そしたら管理会社にお願いしていくつかの場所に罠を仕掛けるか、捕獲してもらわないといけないでしょ」
「それだけじゃなく、どこかから侵入して来たことは間違いないから、他に穴があるはずだ。それを塞ぐことも言っておく必要がある」
「しかし驚いた。犯人が動物だったなんてね。しかもここの近くで飼っていて逃げたペットかもしれないわけでしょ」
「それはこの扉を開けてみないとはっきり分からない。それにもし逃げたペットだとすれば、飼い主にも相談して環境省の事務所にも連絡しないといけない」
「その辺りの事も含めて、管理会社の人に相談しなきゃ」
「でもこの時間だと通じないよ。九時を過ぎないと連絡はつかないはずだから」
「だったら俺が後で電話しておくよ。うちのフロアで起こったことだから、三箇さんがかけて話すよりいいだろ。それに古瀬さんにも相談しないといけないから」
「まだ逃げたペットだと確定したわけじゃないけど、お願いするよ。どちらにしても後は、管理会社に動いて貰うしかない。俺達が排気口だとか、配管されている場所に入って探す訳にも行かないだろう」
「だったら、一旦は解散でいいのかな。九時になるまでやることはないでしょ」
「他に仕掛けたGPSシールの菓子や、罠の回収くらいかな」
「それもこっちでやっておく。じゃあ管理会社と連絡がついて話がまとまったら、三箇さんにも報告するよ。今はそれぞれの部署に戻ろう」
 そうして英美達は階段で下に降りた。その後浦里はビルの管理会社へ連絡を入れる前に、総務課へ経緯を説明しに行った。支店ビルの管理なども総務課の管轄だから、耳に入れておいた方が良いと判断したのだろう。
 比較的早く出社していた総務課長は、フロアで菓子が紛失し続けている件を知っていた為、話は早かった。まさか犯人がビルに侵入した動物だとは思っていなかったらしく、とても驚いていたようだ。
 しかし古瀬の客が逃がしたペットかもしれないことは、伏せておいたらしい。まだ確かではなかったからでもあるが、もしそうだった場合は騒ぎが大きくなる。
 そうなれば、古瀬も松岡さんも困るだろうと考えたからだ。というのも逃げ出した動物は、基本的に飼育が禁止されているアライグマだからだ。
 日本では一九七十年代に流行したアニメの影響もあり、大量のアライグマが輸入されて全国各地で飼われたと聞く。しかし実際飼育してみればイメージとは大きく異なり、特に成獣となれば気性が荒くなって、なかなか人に懐かないことが判ったという。
 さらには手先が器用なため、しっかり施錠をした設備でないと、すぐに脱走してしまうらしい。要するにペットとしては飼い易いと言えない動物だった。
 そこで手に余った飼い主達は手放そうにも処分に困り、山などへ捨てたそうだ。またアニメ同様、動物は自然に帰して暮らした方が幸せだという風潮も、そうした行動を後押ししたという。
 そこで問題が起こった。雑食でとても繁殖力の強いアライグマは、瞬く間に日本各地で増加し、野性化したものが在来種の生態系を壊し始めたのだ。
 しかも田畑などの作物までも食い荒らす被害が多発したらしい。その為二〇〇五年に特定外来生物として指定され、特別な許可がない限り飼育はもちろん、譲渡や輸入も原則禁止となった。
 ちなみに松岡宅では、正式な手順を踏んで特定外来生物飼育等許可申請を作成し、環境省の中部地方環境事務所に提出していたらしい。昔から雄雌で飼っていたアライグマの子供やその孫といった形で、代々飼育していたようだ。
 それでも厳しく管理できることが条件の為、高い塀に囲まれた一階の中庭に頑丈なゲージを設けていた。その飼育施設の図と写真、敷地内における施設の位置や近隣地図などの資料を揃えた上で、申請書を提出しなければならないという。
 それを受けて審査が行われ、許可が下りるようだ。それなのに逃亡を許してしまったのだから、大事になっては困るだろう。しかも特定外来生物として害獣扱いされている動物だ。近所の眼もあり逃がしました、探してくださいと簡単に広められる話ではない。
 下手をすれば今後許可を取り消され、飼えなくなってしまう恐れもあった。といって放っては置けない。その為口の堅い一部の人に話し、もし見つけたならば教えて欲しいと頼んでいたのだ。
 そうした事を古瀬から聞いた英美達が三箇と話している内に、もしかして菓子を盗み食いしている犯人は、逃げたアライグマではないかと思いついたのだ。
 そこで彼は犯人が動物ならば良いだろうと、菓子の中にGPSシールを埋め込む作戦を考えた。もちろん社員達が間違って口にいれないよう、“食べてはいけません”と大きく注意書きを添えて置いた。そうすれば、文字の読めない動物しか持っていかないからだ。
彼が給湯室を念入りに見た結果、天井の一部に穴を見つけていた。そこで刑事時代に受けた鑑識の研修で学んだらしい知識を活用し、動物らしき毛を見つけ確信したという。
 さらには動物が食べたにしては、包装紙のはがし方があまりにも丁寧だったことから、手先が器用で人間に飼われていたアライグマなら可能だと判断したようだ。
 基本夜行性のアライグマなら、夜になってから食べ物が無くなっていたことに納得がいく。そこで菓子を餌にした罠も用意していた。しかし残念ながら、用心深い犯人には逃げられてしまったようだ。
 それでも別の場所に置いておいた、GPSシールを仕込んだ菓子は持ち去られていた。そしてそれが九階の扉の向こうに落ちていることを発見したのだ。
 おそらく点検の為に人が入れるスペースだから、落ち着ける程度の広さがあるのだろう。もしかするとそこを一時的な住処にしているかもしれない。
 菓子を盗んだ犯人は、まさしく動物的な勘でGPSシールを貼った包み紙を、その場で綺麗にはがして捨てていた。だが中に埋め込まれていた事までは気付かなかったらしい。
 菓子を落ち着ける場所まで運んでから食べたのだろう。そこで中の異物に気が付き、吐き出したかそれだけ残したと思われる。その場所を英美のスマホに仕込んだアプリが探し出したのだ。
 浦里は念のため課に戻ってから課長にも報告した後、九時過ぎに管理会社へと連絡をした。後に総務課からもフォローを入れて貰ったようで、話は順調に進んだ。
 その日の内に管理会社の人が、九階の扉を開けて中を確認したらしい。そこにはGPSシールの他に、アライグマのものと思われる毛や糞が見つかったと言う。
 そこでしかるべき措置を取った。侵入したと思われる一階部分にあった小さな穴と八階の天井の穴を塞いで逃げ場を無くした後、各場所に罠を仕掛けたのだ。
 すると次の日の朝、罠にかかったアライグマを捕獲したとの連絡が浦里の元に入った。管理会社の担当者による説明では、狭く限られた空間だったこともあり、よく通っていると思われる個所がすぐにいくつか見つかったらしい。そこに罠を仕掛けた所、簡単に捕まったという。
 そこで古瀬に連絡を入れ、顧客へ逃げたアライグマかどうかを確認して貰ったそうだ。捕獲している管理会社の元に訪れたその客は、直ぐに自分達が飼っていたものだと判ったらしい。
 念のため環境事務所へ連絡し、必要な手続きを済ませた後返されたという。無事戻って来たことと比較的穏便に済んだことで、客は相当喜んだと聞いた。
 古瀬が感謝されたことは言うまでもないが、本部長のところまでお礼を言いに訪れたらしい。それを聞いた浦里と課長の土田が慌てて本部長席に飛んで行き、事情を説明したそうだ。
 しかしこのことは只の捕り物話では済まなかった。人との縁はどこと繋がっているか判らないものだと、後に痛感させられることになる。
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