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第二章~尾梶③
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注)OK→大阪に住んでいた栗山、神奈川で車を使い天堂夫婦を轢き殺した八十過ぎの老婆
KS→神奈川に住む少女,栗山に轢き殺された天堂夫婦の子供で三人きょうだいの長女で十一歳
TM→東京に住む麦原、自宅でほぼ寝たきりだった八十五歳の母親を窒息死させられた息子
AS→愛知の少年、自宅で窒息死した四十五歳で難病により寝たきりだった日暮美香の甥、十五歳
頭を下げられたがそれは尾梶達の仕事でない。辻畑と顔を見合わせ、そう簡単に言われても困ると思っていた。何故なら神奈川の事件とは条件がかなり違うからだ。
少女の自白はDVをしていた両親の告発と考えていい。はっきりとは確認していないが、恐らく父親から性的暴行も受けていたのではないか。そんな親など死んで欲しいと書き込んで何が悪いと開き直った、またはそう促し供述を得たのだと尾梶達は睨んでいる。
しかし日暮家は違う。これ以上介護が続けば母親は体を壊し倒れると息子は恐れていたのかもしれない。ただ一方で少年は受験間近ながら、母の代わりに伯母の面倒を看ていた。その為、自らが楽になりたくて殺害を依頼した可能性もある。しかも幼い頃から経済的な支援を受け、母親と同じく可愛がってくれた恩人であるにもかかわらず、だ。
そう考えれば命の危険に晒されていた少女と比べれば、少年は伯母の死を後悔し罪の意識に苛まれているかもしれない。だからこそ真実を話す場合もあるが、彼は現在否定し続けている。つまり相当強い覚悟がある証拠だろう。よってこれ以上時間をかけても余程確実な裏付けや根拠を突きつけない限り、自白を促すのは困難だと感じていた。
あとは刑法上、未成年の犯罪は十四歳未満とそれ以上では違う。よって十一歳と十五歳では責任の問われ方が大きく異なる為、絶対罪を認められないと考えても仕方がない。
それに辻畑同様、尾梶も自らの境遇を彼に重ね合わせていた。同じく介護で苦しみ、死んでくれればどれだけ助かるかと何度も考えてきた。とはいえ常識で言えば刑事が親を殺せる訳もなく殺害依頼などできるはずもない。だがもし彼の立場だったらどうかと想像した時、ふと悪魔の誘惑に乗って同じ行動を取っていたかもしれないと思うのだ。
的場の説明によれば少女は殺して欲しいと書き込んだものの、本当に実現すると考えていなかったとも捉えられる。まだ十一歳と幼い頭で考え行動した結果なのだから当然だ。それが十五歳の少年ならと想像すれば、彼だってちょっとした誘惑に負けただけかもしれない。
それでも供述を拒否するのはそれなりの信念があるからか、高校進学などの道を閉ざされることを恐れての態度とも取れる。取調べの担当捜査員の肩を持つつもりはないが、少女のように供述を取れないからといって責めを負う謂れはないと感じていた。
一連の事件で悪いのは、あくまで苦しい思いを抱く人々の弱い心に付け込み甘い言葉をかけながらも厳しい条件をつきつけ、さらに殺人を実行させたサイト運営者と実行犯だ。依頼主は金を払った訳でもない。ただ苦しみから一時でも解放されたかっただけではないのか。
しかも実際に実行されれば、介護などの苦しみとは違う罪の意識に悩まされるという現実が想像できなかっただけだろう。彼や東京の麦原は警察から厳しい追及を受け、間違いなく辛い目に遭っている。それだけで十分な罰であり制裁ではないのか。
ただ一方で、彼らは家の鍵を開けて自らのアリバイ作りをしている。それは犯罪に加担している度合いが、大阪や神奈川の場合と大きく異なっていると思わざるをえない。やはり事件があった日、実行犯とやり取りをしていたのか。鍵を開けておくよう指示され、それに従ったかどうかは大きな意味を持つ。そこは明らかにしたいところだ。
よって尾梶達は的場の依頼に了解した旨を告げ。警視庁を出て県警へと戻った。
その後捜査を進めたい愛知県警は、日暮親子に対し再度の任意同行を決行したのである。
「本当の事を言ってくれないか。伯母さんが殺された件で、君は何か知っているだろう」
あくまで任意の事情聴取の為、母親の彩を同席させた上で捜査員は航に同じ質問を投げかけた。だが彼は黙って首を振るばかりで何も進展がない。横に座っている彩は疲れた表情を浮かべている。
「何も知らないと言っているじゃないですか」
当初は捜査員にそう抵抗していたがその度に宥めすかされ、また詳細を伏せた上で神奈川の事件で少女が供述した事実を告げつつ、何度も問い詰められる内に力尽きたのだろう。
尾梶は辻畑と二人きりの隣の部屋で、その様子をマジックミラー越しに見つめていた。
「なかなかしぶといですね」
そう話しかけると、眉間に皺を寄せながら頷いていた。
「やはりKSのようにはいかないな。もう十五歳で四月から高校生だ。それに成績も優秀らしい。安易な気持ちでサイトにアクセスし、殺人依頼した訳ではないのだろう」
「殺して欲しいとの確たる意思があったなら、間違いなく故意による殺人教唆で殺人罪に問われます。最高だと無期懲役です。ただ彼の場合は短期の有期刑で済むでしょうけど」
「ただ今回の場合、いくら自白したとしても証拠が全くない。しかも実行犯が捕まらない限り、年齢も考慮すれば立件するのは難しいだろう」
「その辺りは事前に調べて理解しているようですからね」
KS→神奈川に住む少女,栗山に轢き殺された天堂夫婦の子供で三人きょうだいの長女で十一歳
TM→東京に住む麦原、自宅でほぼ寝たきりだった八十五歳の母親を窒息死させられた息子
AS→愛知の少年、自宅で窒息死した四十五歳で難病により寝たきりだった日暮美香の甥、十五歳
頭を下げられたがそれは尾梶達の仕事でない。辻畑と顔を見合わせ、そう簡単に言われても困ると思っていた。何故なら神奈川の事件とは条件がかなり違うからだ。
少女の自白はDVをしていた両親の告発と考えていい。はっきりとは確認していないが、恐らく父親から性的暴行も受けていたのではないか。そんな親など死んで欲しいと書き込んで何が悪いと開き直った、またはそう促し供述を得たのだと尾梶達は睨んでいる。
しかし日暮家は違う。これ以上介護が続けば母親は体を壊し倒れると息子は恐れていたのかもしれない。ただ一方で少年は受験間近ながら、母の代わりに伯母の面倒を看ていた。その為、自らが楽になりたくて殺害を依頼した可能性もある。しかも幼い頃から経済的な支援を受け、母親と同じく可愛がってくれた恩人であるにもかかわらず、だ。
そう考えれば命の危険に晒されていた少女と比べれば、少年は伯母の死を後悔し罪の意識に苛まれているかもしれない。だからこそ真実を話す場合もあるが、彼は現在否定し続けている。つまり相当強い覚悟がある証拠だろう。よってこれ以上時間をかけても余程確実な裏付けや根拠を突きつけない限り、自白を促すのは困難だと感じていた。
あとは刑法上、未成年の犯罪は十四歳未満とそれ以上では違う。よって十一歳と十五歳では責任の問われ方が大きく異なる為、絶対罪を認められないと考えても仕方がない。
それに辻畑同様、尾梶も自らの境遇を彼に重ね合わせていた。同じく介護で苦しみ、死んでくれればどれだけ助かるかと何度も考えてきた。とはいえ常識で言えば刑事が親を殺せる訳もなく殺害依頼などできるはずもない。だがもし彼の立場だったらどうかと想像した時、ふと悪魔の誘惑に乗って同じ行動を取っていたかもしれないと思うのだ。
的場の説明によれば少女は殺して欲しいと書き込んだものの、本当に実現すると考えていなかったとも捉えられる。まだ十一歳と幼い頭で考え行動した結果なのだから当然だ。それが十五歳の少年ならと想像すれば、彼だってちょっとした誘惑に負けただけかもしれない。
それでも供述を拒否するのはそれなりの信念があるからか、高校進学などの道を閉ざされることを恐れての態度とも取れる。取調べの担当捜査員の肩を持つつもりはないが、少女のように供述を取れないからといって責めを負う謂れはないと感じていた。
一連の事件で悪いのは、あくまで苦しい思いを抱く人々の弱い心に付け込み甘い言葉をかけながらも厳しい条件をつきつけ、さらに殺人を実行させたサイト運営者と実行犯だ。依頼主は金を払った訳でもない。ただ苦しみから一時でも解放されたかっただけではないのか。
しかも実際に実行されれば、介護などの苦しみとは違う罪の意識に悩まされるという現実が想像できなかっただけだろう。彼や東京の麦原は警察から厳しい追及を受け、間違いなく辛い目に遭っている。それだけで十分な罰であり制裁ではないのか。
ただ一方で、彼らは家の鍵を開けて自らのアリバイ作りをしている。それは犯罪に加担している度合いが、大阪や神奈川の場合と大きく異なっていると思わざるをえない。やはり事件があった日、実行犯とやり取りをしていたのか。鍵を開けておくよう指示され、それに従ったかどうかは大きな意味を持つ。そこは明らかにしたいところだ。
よって尾梶達は的場の依頼に了解した旨を告げ。警視庁を出て県警へと戻った。
その後捜査を進めたい愛知県警は、日暮親子に対し再度の任意同行を決行したのである。
「本当の事を言ってくれないか。伯母さんが殺された件で、君は何か知っているだろう」
あくまで任意の事情聴取の為、母親の彩を同席させた上で捜査員は航に同じ質問を投げかけた。だが彼は黙って首を振るばかりで何も進展がない。横に座っている彩は疲れた表情を浮かべている。
「何も知らないと言っているじゃないですか」
当初は捜査員にそう抵抗していたがその度に宥めすかされ、また詳細を伏せた上で神奈川の事件で少女が供述した事実を告げつつ、何度も問い詰められる内に力尽きたのだろう。
尾梶は辻畑と二人きりの隣の部屋で、その様子をマジックミラー越しに見つめていた。
「なかなかしぶといですね」
そう話しかけると、眉間に皺を寄せながら頷いていた。
「やはりKSのようにはいかないな。もう十五歳で四月から高校生だ。それに成績も優秀らしい。安易な気持ちでサイトにアクセスし、殺人依頼した訳ではないのだろう」
「殺して欲しいとの確たる意思があったなら、間違いなく故意による殺人教唆で殺人罪に問われます。最高だと無期懲役です。ただ彼の場合は短期の有期刑で済むでしょうけど」
「ただ今回の場合、いくら自白したとしても証拠が全くない。しかも実行犯が捕まらない限り、年齢も考慮すれば立件するのは難しいだろう」
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