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第二章~尾梶⑨
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注)OK→大阪に住んでいた栗山、神奈川で車を使い天堂夫婦を轢き殺した八十過ぎの老婆
KS→神奈川に住む少女,栗山に轢き殺された天堂夫婦の子供で三人きょうだいの長女で十一歳
TM→東京に住む麦原、自宅でほぼ寝たきりだった八十五歳の母親を窒息死させられた息子
AS→愛知の少年、自宅で窒息死した四十五歳で難病により寝たきりだった日暮美香の甥、十五歳
「依頼主本人でなく、母親が実行犯になると」
「ああ。そうすれば息子は更なる罪を犯さなくて済む。また金を手放し罪の呪縛から逃れる、または自分も犯罪者になって息子が背負う重荷を分かち合おうと考えるかもしれない」
「または誰かを救う手助けをすれば相殺できるかも、と思う可能性だってありますね」
尾梶がそう続けると、彼は首を振った。
「決して相殺など出来るはずはないけどな。新たな罪を犯せば、別の苦しみを味わうだけだ。しかしそうした負の連鎖を生み出すことが、闇サイト運営者の企みかもしれない」
「それならAS達の動向は、県外に出た後も注視が必要だと上層部に伝えましょうか」
「まずは的場さんにその辺りの見解を確認してみよう。警視庁もそう考えていると付け足せば上も納得しやすい。ただでさえ被疑者に過ぎない遺族を、越境後も監視するのは困難だ。その場合どう考えているか聞いておかないと。その役目は尾梶がやってみろ」
「い、いや所轄の刑事より、県警刑事課の辻畑さんから連絡した方が良いと思います」
合同捜査の特別班に所属しているとはいえ、実際警視庁に訪問した時や他府県警と情報のやり取りはこれまで彼がしてきた。捜査上二人一組が原則とされる中、尾梶はあくまで所轄刑事としての相棒に過ぎない。しかし彼は首を振った。
「そんなことは気にするな。もちろん状況や内容によって、県警刑事課の肩書が必要な時もある。だが俺達の班は的場さん達と情報を共有し、それを現場で捜査する班に伝え有効活用させるのが仕事だ。それは尾梶であっても俺でも変わらない」
「それはそうですが、」
理屈はそうでも警察組織は上下関係が煩い。階級と同じく、所轄刑事課が県警刑事課より下に扱われるのは当然だ。それは警視庁でも同じだろう。それに警視庁は県警より上との認識だってあるに違いない。現に合同捜査本部の中心は彼らだ。ならば警視庁捜査一課所属の的場が、所轄刑事からの問い合わせを軽んじる恐れがあった。同じ情報を伝えるにしても、辻畑から連絡を寄こすよう命じられるかもしれない。そんな二度手間は省きたいし恥をかかされたくも無かった。
よって躊躇していたが、彼はそれを察知したのだろう。
「情報のやり取りだけで所轄がどうのと言い出すなら見限るだけだ。その程度の人なら、俺達が想定した考えすら持ち合わせていないだろう。それならお前がビシッと言ってやれ」
「いえ、そんな。的場さんは警部補です。そんな口は利けません。辻畑さんなら県警と警視庁という違いがあっても、階級は同じじゃないですか」
「相手が各都道府県の警察を管轄する警察庁なら別だが、向こうは都を管轄する一警察本部で基本的には県警と同列だ。それに俺が良いと言っているんだからまずはやってみろ。今後の事もある。向こうの出方次第ではこっちの対応も考えないとな」
単に面倒な仕事を押し付けたわけではなく、意図あっての指示だと理解した。ならば従うしかない。その為前回名刺交換した際に受け取った連絡先を見て、尾梶は辻畑も聞けるようスピーカーに切り替え、早速電話をかけた。警視庁に設けられた合同捜査本部の班で一旦は受け付けられた後、直ぐに転送された。
「はい、的場です」
本人が出た為緊張した。前回の面談でも辻畑が主に話を進めていた為、直接言葉を交わした回数は少ない。それでもなんとか心を落ち着かせて告げた。
「お忙しい所、申し訳ございません。先日愛知県警刑事課の辻畑と一緒にお伺いした、中川署刑事課の尾梶と申します。お時間大丈夫でしょうか」
「ああ、いいですよ」
了承を得たので辻畑と交わした話を頭の中で整理し説明する。最初はこちらの事情聴取が上手く進んでいない状況を伝えると、彼は明らかに不機嫌な反応を示した。それでも構わず話を進める間、ふんふんと軽く頷いていた彼が、依頼者の身内が実行犯になる可能性を考慮し、管轄外に転居した場合の対策の必要性に触れると対応を変えた。
「ほう。それはあなたが気付かれたのですか。それとも辻畑さんの考えで、あなたから私に確認するよう指示されたのですか」
「二人で意見交換をする内に、その可能性に気付きました。そこでAS親子に対しても今後どう対応策をとればいいか、先に聴取をされ目をつけていた的場さん達なら何かお考えがあるだろうと思い、ご連絡させて頂きました」
横で辻畑がそれでいいと何度か頷いていた。だが的場は意地の悪い声を出し尋ねてきた。
「そちらはどう考えているのかな」
想定内の質問だった為、即座に答えた。
「現時点では、越境した被疑者まで監視する体制を取るのは難しいと思われます。よって通常の方法でない、何らかのネットワークを駆使した取り組みが必要と考えます。その為にも警視庁が音頭を取り、警察庁を巻き込み全都道府県に通達を出して頂くのが得策かと」
すると予想以上の答えが返って来た。
KS→神奈川に住む少女,栗山に轢き殺された天堂夫婦の子供で三人きょうだいの長女で十一歳
TM→東京に住む麦原、自宅でほぼ寝たきりだった八十五歳の母親を窒息死させられた息子
AS→愛知の少年、自宅で窒息死した四十五歳で難病により寝たきりだった日暮美香の甥、十五歳
「依頼主本人でなく、母親が実行犯になると」
「ああ。そうすれば息子は更なる罪を犯さなくて済む。また金を手放し罪の呪縛から逃れる、または自分も犯罪者になって息子が背負う重荷を分かち合おうと考えるかもしれない」
「または誰かを救う手助けをすれば相殺できるかも、と思う可能性だってありますね」
尾梶がそう続けると、彼は首を振った。
「決して相殺など出来るはずはないけどな。新たな罪を犯せば、別の苦しみを味わうだけだ。しかしそうした負の連鎖を生み出すことが、闇サイト運営者の企みかもしれない」
「それならAS達の動向は、県外に出た後も注視が必要だと上層部に伝えましょうか」
「まずは的場さんにその辺りの見解を確認してみよう。警視庁もそう考えていると付け足せば上も納得しやすい。ただでさえ被疑者に過ぎない遺族を、越境後も監視するのは困難だ。その場合どう考えているか聞いておかないと。その役目は尾梶がやってみろ」
「い、いや所轄の刑事より、県警刑事課の辻畑さんから連絡した方が良いと思います」
合同捜査の特別班に所属しているとはいえ、実際警視庁に訪問した時や他府県警と情報のやり取りはこれまで彼がしてきた。捜査上二人一組が原則とされる中、尾梶はあくまで所轄刑事としての相棒に過ぎない。しかし彼は首を振った。
「そんなことは気にするな。もちろん状況や内容によって、県警刑事課の肩書が必要な時もある。だが俺達の班は的場さん達と情報を共有し、それを現場で捜査する班に伝え有効活用させるのが仕事だ。それは尾梶であっても俺でも変わらない」
「それはそうですが、」
理屈はそうでも警察組織は上下関係が煩い。階級と同じく、所轄刑事課が県警刑事課より下に扱われるのは当然だ。それは警視庁でも同じだろう。それに警視庁は県警より上との認識だってあるに違いない。現に合同捜査本部の中心は彼らだ。ならば警視庁捜査一課所属の的場が、所轄刑事からの問い合わせを軽んじる恐れがあった。同じ情報を伝えるにしても、辻畑から連絡を寄こすよう命じられるかもしれない。そんな二度手間は省きたいし恥をかかされたくも無かった。
よって躊躇していたが、彼はそれを察知したのだろう。
「情報のやり取りだけで所轄がどうのと言い出すなら見限るだけだ。その程度の人なら、俺達が想定した考えすら持ち合わせていないだろう。それならお前がビシッと言ってやれ」
「いえ、そんな。的場さんは警部補です。そんな口は利けません。辻畑さんなら県警と警視庁という違いがあっても、階級は同じじゃないですか」
「相手が各都道府県の警察を管轄する警察庁なら別だが、向こうは都を管轄する一警察本部で基本的には県警と同列だ。それに俺が良いと言っているんだからまずはやってみろ。今後の事もある。向こうの出方次第ではこっちの対応も考えないとな」
単に面倒な仕事を押し付けたわけではなく、意図あっての指示だと理解した。ならば従うしかない。その為前回名刺交換した際に受け取った連絡先を見て、尾梶は辻畑も聞けるようスピーカーに切り替え、早速電話をかけた。警視庁に設けられた合同捜査本部の班で一旦は受け付けられた後、直ぐに転送された。
「はい、的場です」
本人が出た為緊張した。前回の面談でも辻畑が主に話を進めていた為、直接言葉を交わした回数は少ない。それでもなんとか心を落ち着かせて告げた。
「お忙しい所、申し訳ございません。先日愛知県警刑事課の辻畑と一緒にお伺いした、中川署刑事課の尾梶と申します。お時間大丈夫でしょうか」
「ああ、いいですよ」
了承を得たので辻畑と交わした話を頭の中で整理し説明する。最初はこちらの事情聴取が上手く進んでいない状況を伝えると、彼は明らかに不機嫌な反応を示した。それでも構わず話を進める間、ふんふんと軽く頷いていた彼が、依頼者の身内が実行犯になる可能性を考慮し、管轄外に転居した場合の対策の必要性に触れると対応を変えた。
「ほう。それはあなたが気付かれたのですか。それとも辻畑さんの考えで、あなたから私に確認するよう指示されたのですか」
「二人で意見交換をする内に、その可能性に気付きました。そこでAS親子に対しても今後どう対応策をとればいいか、先に聴取をされ目をつけていた的場さん達なら何かお考えがあるだろうと思い、ご連絡させて頂きました」
横で辻畑がそれでいいと何度か頷いていた。だが的場は意地の悪い声を出し尋ねてきた。
「そちらはどう考えているのかな」
想定内の質問だった為、即座に答えた。
「現時点では、越境した被疑者まで監視する体制を取るのは難しいと思われます。よって通常の方法でない、何らかのネットワークを駆使した取り組みが必要と考えます。その為にも警視庁が音頭を取り、警察庁を巻き込み全都道府県に通達を出して頂くのが得策かと」
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