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第六章~記者③
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それでも事故が起きた時間、多くの同僚や患者が彼女の仕事をしていた様子を確認していた為、実行犯の疑いは晴れた。だが呪い殺したのだろうとの噂は絶えなかったらしい。
そう耳にすれば一見、依頼主は瞳かと思われる。しかし長きに渡り多くの事例を見てきた経験から、その可能性は低いと言わざるを得なかった。以前取材した、依頼主なのに闇サイト運営者の意図に逆らい殺されたと思われるあの猪川理恵でさえ、事件後は明るく振舞っていなかったからだ。苦しみの種を除かれても人を殺させた罪の意識が、心の奥深い部分に残るからだと私は確信している。
彼女は逃げ出そうともがいた結果、荒れた生活を続け自分勝手な行動をしたのではないか。そうした実例から依頼主は由衣だとの結論に至った。けれど頑なに取材を拒否した瞳の態度から彼女も事故について何か知っているのではと感じていた。
考えられるのは罪を抱えきれなくなった由衣が、事故後彼女に告白したケースだ。または例の金が置かれていたはずで、それを発見され不審に思った母親に白状させられた可能性もある。私は後者だと予測を立て、これからあの家族がどう動くかを探ろうと決めた。
理由は金の存在を警察に隠している為、闇サイト事件と関連付けられなかったからだ。今後一連の事件捜査が進展しても、警察が把握していなければ彼女達の存在は蚊帳の外になる。それにただの事故では実行犯も野放しとなり、闇サイトの全貌を明らかにして一網打尽にする目的が果たせない。
他にも依頼主の彼女が次の実行犯、または協力者になる可能性は高い。よってマークすればどこかで別の事件が起こった際、足取りや証拠を掴む機会が訪れるかもしれないのだ。
もし由衣ならばまだ十六歳と若い為、闇サイト運営者が利用し始めるのは成人した後かもしれない。そうなると先の長い話になるが、それでも行く末の把握は不可欠だ。これまでの例を見ても、まず間違いなく県外へ転居するに違いない。家族の状況からすれば、そのタイミングは由衣の高校卒業後ではないかと私は予想していた。
瞳は看護師の為、病院のある地域ならどこでも仕事ができる。また妹や弟の小学校または幼稚園の転校や転園は比較的容易だ。けれど高校となればそうはいかない。
それなら今、彼女達を探っても意味がないと考えるのは間違いだ。まず例の金が家に置かれていたかの確認が必要である。また依頼主でない瞳の動向も注視しなければならない、との勘が働いたからでもあった。
依頼主でない保護者が子の犯した罪を知った時、または大金を入手した場合にどう動くか。あの日暮親子のケースがこれに近い。母親は恐らく航の行為を疑ったか知ったはずだ。
その為にわざわざ無理をして大金を元手に愛知から離れた私立高校を受験させ、引っ越したのだろう。当時の経済状況からすれば、例の金が無ければまずできない行動である。
もちろん警察の執拗な取り調べから逃れる為だったかもしれない。それでもあの金にすぐ手を付けた様子から、全く知らなかったとは思えなかった。だがその約三年後、悲劇が訪れている。そう考えると、由衣の現在における精神状態や将来がどうしても気になった。
事実婚である母親の夫から性的暴力を受けていたなら尚更だ。その相手が死亡したからと言って、心の傷はそう簡単に消えない。また郷野が死んでも母親に対する恨みは残るはずだ。その彼女に例の金の存在を知られればどうなるかを想像すれば分かる。
当然保護者である母親が取り上げ管理するだろう。日暮航の母親がした通り、それを子の為に使おうと考えれば心配しなくても済む。だが瞳はそんなタイプの母親でなかった。
性的行為までされていたかは別にしても、児童相談所の介入がありながらも解決できず暴力を振るう郷野を止められなかったのは事実だからだ。最も危惧したのは由衣が瞳に危害を加える可能性だ。圧倒的な腕力の差があった郷野と違い相手は同性で、しかも女性同士の憎悪は男性同士と違うと言われる。
そう考えると暴力のような直接的でなく、陰湿な反撃を想像するかもしれない。だが一度殺人依頼した実績を持つ彼女の場合、今度は自らの手で毒親を排除しようとするのではと疑った。というのも最初は、再び闇サイトに書き込むのではないかと思われた。
ただ郷野の場合と異なり、同じように殺してくれるとは考えにくい。何しろ彼女は既に例の金を手にしたと思われるからだ。実行犯にならず、続けて大金を手に入れようとするのはさすがに都合が良すぎる。サイト側もそんな依頼は受けないだろうと私は予想した。
由衣もその程度なら気付くに違いない。ならばどうするかと考えた時、人に任せず直接自分で殺そうとし、郷野のように事故に見せかけ殺せばいいと思いつく恐れがあった。
しかし現実はそう甘くない。郷野の時に逮捕されなかったのはアリバイがあったからだ。よってもし行動に移せばまず逮捕されるだろう。その結果捜査が進み、殺した動機を警察に白状するか家宅捜査などで例の金を発見され、闇サイト事件と関連付けられる可能性はある。そうなれば一連の事件捜査において新証言が得られるかもしれない。だができない確率も決して低くは無かった。
何故なら、闇サイトでのやり取りの証拠はまず残っていないはずだ。あるとすれば郷野を殺害した実行犯が何か失敗をし、足取りなどの証拠を残した場合だけだろう。しかしこれまでの経験からいえば難しいと言わざるを得ない。それなら実母殺しの罪を背負わせないよう無茶な行動を阻止する為の監視が必要だ。さらには別の思惑を考え付いた為に、私は彼女を見張り続けていたのである。
そう耳にすれば一見、依頼主は瞳かと思われる。しかし長きに渡り多くの事例を見てきた経験から、その可能性は低いと言わざるを得なかった。以前取材した、依頼主なのに闇サイト運営者の意図に逆らい殺されたと思われるあの猪川理恵でさえ、事件後は明るく振舞っていなかったからだ。苦しみの種を除かれても人を殺させた罪の意識が、心の奥深い部分に残るからだと私は確信している。
彼女は逃げ出そうともがいた結果、荒れた生活を続け自分勝手な行動をしたのではないか。そうした実例から依頼主は由衣だとの結論に至った。けれど頑なに取材を拒否した瞳の態度から彼女も事故について何か知っているのではと感じていた。
考えられるのは罪を抱えきれなくなった由衣が、事故後彼女に告白したケースだ。または例の金が置かれていたはずで、それを発見され不審に思った母親に白状させられた可能性もある。私は後者だと予測を立て、これからあの家族がどう動くかを探ろうと決めた。
理由は金の存在を警察に隠している為、闇サイト事件と関連付けられなかったからだ。今後一連の事件捜査が進展しても、警察が把握していなければ彼女達の存在は蚊帳の外になる。それにただの事故では実行犯も野放しとなり、闇サイトの全貌を明らかにして一網打尽にする目的が果たせない。
他にも依頼主の彼女が次の実行犯、または協力者になる可能性は高い。よってマークすればどこかで別の事件が起こった際、足取りや証拠を掴む機会が訪れるかもしれないのだ。
もし由衣ならばまだ十六歳と若い為、闇サイト運営者が利用し始めるのは成人した後かもしれない。そうなると先の長い話になるが、それでも行く末の把握は不可欠だ。これまでの例を見ても、まず間違いなく県外へ転居するに違いない。家族の状況からすれば、そのタイミングは由衣の高校卒業後ではないかと私は予想していた。
瞳は看護師の為、病院のある地域ならどこでも仕事ができる。また妹や弟の小学校または幼稚園の転校や転園は比較的容易だ。けれど高校となればそうはいかない。
それなら今、彼女達を探っても意味がないと考えるのは間違いだ。まず例の金が家に置かれていたかの確認が必要である。また依頼主でない瞳の動向も注視しなければならない、との勘が働いたからでもあった。
依頼主でない保護者が子の犯した罪を知った時、または大金を入手した場合にどう動くか。あの日暮親子のケースがこれに近い。母親は恐らく航の行為を疑ったか知ったはずだ。
その為にわざわざ無理をして大金を元手に愛知から離れた私立高校を受験させ、引っ越したのだろう。当時の経済状況からすれば、例の金が無ければまずできない行動である。
もちろん警察の執拗な取り調べから逃れる為だったかもしれない。それでもあの金にすぐ手を付けた様子から、全く知らなかったとは思えなかった。だがその約三年後、悲劇が訪れている。そう考えると、由衣の現在における精神状態や将来がどうしても気になった。
事実婚である母親の夫から性的暴力を受けていたなら尚更だ。その相手が死亡したからと言って、心の傷はそう簡単に消えない。また郷野が死んでも母親に対する恨みは残るはずだ。その彼女に例の金の存在を知られればどうなるかを想像すれば分かる。
当然保護者である母親が取り上げ管理するだろう。日暮航の母親がした通り、それを子の為に使おうと考えれば心配しなくても済む。だが瞳はそんなタイプの母親でなかった。
性的行為までされていたかは別にしても、児童相談所の介入がありながらも解決できず暴力を振るう郷野を止められなかったのは事実だからだ。最も危惧したのは由衣が瞳に危害を加える可能性だ。圧倒的な腕力の差があった郷野と違い相手は同性で、しかも女性同士の憎悪は男性同士と違うと言われる。
そう考えると暴力のような直接的でなく、陰湿な反撃を想像するかもしれない。だが一度殺人依頼した実績を持つ彼女の場合、今度は自らの手で毒親を排除しようとするのではと疑った。というのも最初は、再び闇サイトに書き込むのではないかと思われた。
ただ郷野の場合と異なり、同じように殺してくれるとは考えにくい。何しろ彼女は既に例の金を手にしたと思われるからだ。実行犯にならず、続けて大金を手に入れようとするのはさすがに都合が良すぎる。サイト側もそんな依頼は受けないだろうと私は予想した。
由衣もその程度なら気付くに違いない。ならばどうするかと考えた時、人に任せず直接自分で殺そうとし、郷野のように事故に見せかけ殺せばいいと思いつく恐れがあった。
しかし現実はそう甘くない。郷野の時に逮捕されなかったのはアリバイがあったからだ。よってもし行動に移せばまず逮捕されるだろう。その結果捜査が進み、殺した動機を警察に白状するか家宅捜査などで例の金を発見され、闇サイト事件と関連付けられる可能性はある。そうなれば一連の事件捜査において新証言が得られるかもしれない。だができない確率も決して低くは無かった。
何故なら、闇サイトでのやり取りの証拠はまず残っていないはずだ。あるとすれば郷野を殺害した実行犯が何か失敗をし、足取りなどの証拠を残した場合だけだろう。しかしこれまでの経験からいえば難しいと言わざるを得ない。それなら実母殺しの罪を背負わせないよう無茶な行動を阻止する為の監視が必要だ。さらには別の思惑を考え付いた為に、私は彼女を見張り続けていたのである。
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