アダムズコード

青山惟月

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第二章 吸血鬼と少年

6、秘密のお伽噺

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 「秘密の話をしましょうか」
 幼く呆気なさの残る顔の少女が、歳不相応の毒気ある笑顔で雪斗に話しかける。
 「秘密?」
 「そう。これは秘密のお伽噺なの」
 急に無邪気に雪斗へ近づくリリー。雪斗は無意識に一歩下がる。
 「アダムズコードについて知りたくない?」
 「知りたいけど……君はなにかを知っているの?」
 「ふふっ。何もかも忘れてるのね。お兄ちゃんは」
 くるりとその場で半回転したリリー。背中を雪斗に向けた。

 「昔、神様がいました。その神様は広い世界に一人ぼっち。ある日、寂しくなって、ヒトを二人作りました。
 しかし、神様を放って二人は自我を持ち自らの意思で生き始めます。神様は、やはり自分はヒトとは相容れない存在なのだと悟りました。
 激怒した神様は二人の魂に呪いをかけます。
 一人には人間の血を飲まないと生きられないというハンデを。これが吸血鬼の始まり。
 そして、もう一人には補食される運命を。これが、人間の始まり。
 互いに相容れられないように。

 そして、人間の祖一人だけにはもう1つ枷を与えました。

 
 
 そこで人間の祖は、ある賢者を頼ったのです。その賢者は約束しました。魂の行き場が無いのであれば、入れ物を用意いたしましょう。と。
 賢者は祖の命がつきる前に血液を採取し、そこから魂の器となるものを作りました。
 それから長い年月、その流を汲んだ集団は祖の器を作ることを目的に、時代によって形を変え、活動してきたのです。

 その集団が、ガト・グリスー
 
 そしてその時採取された血液こそがアダムズコードなのです」
 
 「ちょっと待って、じゃあ俺がそのアダムズコードを持っているということは……」


 「お兄ちゃんが今の器だってこと」

 
 目の前の少女はとんでもない事実を簡単に突きつける。雪斗は理解か追い付かない。器とは何か、また、なぜ自分が器なのか、そしてこの少女はこんなにも事情に詳しいのは何故か。頭の中は疑問で埋め尽くされていた。

 「ふふっ。なんでこんなに詳しいのかって思うよね」
 「その理由を教えてくれないか?」
 「三百年前、ガト・グリスはちょっと失敗をしたの」
 「失敗?」
 「そう。一つの器に魂を封じ込められなかった」
 「それで?」
 「やむを得ず僅かな残りをもう1つの器に分け入れた」
 「じゃあアダムズコードは二人になったってこと?」
 「いえ、もう一人は完全なアダムズコードにはならなかった。でも、どちらにしても失敗作だったの」


 「それがエリアス兄妹。私とアベルお兄ちゃん―」
 
 また、にやりとリリーは笑った。

 「私も過去の事情を思い出したのはあの研究所で実験台にされた後だけどね。アダムズコードと吸血鬼の血液の親和性が良すぎて、結局吸血鬼とのハーフ状態になってしまったみたい。そのまま眠ってしまって。目覚めたら二十世紀だったわ」

 「君は……何故俺を探してたの?」
 「お兄ちゃんにお願い事があったから」
 「お願い事?」
 「うん、私の一生のお願い」
 

 「私を殺してほしい」

 少し間をおいて、リリーが告げた。雪斗は言葉を失った。

 「私を殺せば、魂の残りはこの器から解放される。そうすればお兄ちゃんは完全な一つの魂に戻ることができるわ。アベルお兄ちゃんは私より先に死んでしまったから、順番が狂っちゃったの……アダムズコードは二つに分けるべきではない。本来一つであるべきものなの」

 自分の記憶を遡っても、過去の記憶なんて何も出てこない。そして、本来あるべきと言われても、ハイそうですかと易々言えることではない。雪斗は口をつむいだ。
 
 「私はね、お兄ちゃんのことが……」

 何かを言いかけたところで、十五分の短い時間が終わり、イヴ達が戻ってきた。
 「話は済んだか、リリー」
 イヴが不満そうな顔で言う。
 雪斗は心ここに在らずで虚無の表情を浮かべていた。
 「ふふっ。大体終わったかな」
 「で、お前の目的は雪斗に接触することだったんだな?」
 「そうね。この街にいるならきっと反応してくれると思ってたから」
 イヴはリリーを睨み付ける。
 「大丈夫。もう事件を起こさなくても良くなったわ」
 「これからどうするんだ?」
 「そうね?お兄ちゃんの所にでも身を隠させて貰おうかしら」
 「はあ!!??」
 いきなりの図々しい発言にイヴは声を上げた。自分も立場はあまり変わらない事にまだ気づいていなかった。
 「なら、うちにくればいい」
 突然アルマが口を挟んだ。
 「今、東洲先生のところに居候になっていてね。万が一野良吸血鬼で必要なら連れてきてもいいと言われていたんだ」
 ふうん、と少し顔をあげ考えるリリー。
 「……悪くはないわね。あなた少し面白そうだし」
 アルマの顔を覗き込むリリー。次にイヴを見る。
 「お兄ちゃんは渡さないからね。オバサン!」
 「お、オバサン!?」
 イヴが気にしていることを平気で言うリリー。
 賑やかなやり取りをする三人とは裏腹に、自分の背負っているものを受け止めきれない雪斗。
 「ごめん、イヴ。ちょっと一人にさせてくれ」
 へらへらと脱力した笑顔でイヴに向け一言いった後、雪斗は一人先に歩きだして、行ってしまった。

 「お兄ちゃん、またね!」
 後ろからリリーの声がした。
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