Booking Love

青山惟月

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第一章

序章~気になるあのこ~

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 これは僕が巻き込まれた不思議で滑稽な物語の序章である。全ての元凶はここから始まったのだった。



入学式。新しい生活に心踊る者もいればそうでもない者もいる。僕は後者。自宅から八駅離れた少し遠い高校。中学時代周囲と馴染めなかった僕の新しい生活の場となる。


 早咲きの桜吹雪のなか、足元を見ながらうつ向き歩く僕の影は短い。
 その時だった。顔をかするようにふわっと甘い香りがした。顔を上げると小柄で腰まで伸びる長い黒髪の少女が僕を追いこそうとしているところであった。彼女の右手にあった青い革のカバーがかかった一冊の本がとても印象的だった。
 ちらり、長い前髪の隙間から目があった。
「……じゃな…い…」
 何を言っているか聞き取れなかったが、彼女は何かを小声で囁いた。そのまま呆気に取られる僕を置いてさっさと校舎の中へ吸い込まれていった。

 それが僕、吉田凛太郎よしだりんたろうとクラスメイトの町田柚紀まちだゆずきの出会いだった。

 それからあっという間に春が過ぎ、夏が来た。僕と柚紀は一度も会話をすることなく時間が過ぎた。
 その間に彼女について気が付いたことがある。

 彼女は本を手離さない。

  移動教室でも持ち歩き、授業中でも肩身離さず抱えている。体育は身体が弱いということで見学のみだ。普通、ずっと本を抱えていれば誰かしら気がついて彼女は「変なやつ」と言われてもおかしくないはず。だが誰一人として彼女をそんな風に言うやつはいなかった。特別孤立しているわけでもないし、むしろ可愛い容姿のせいか男子からモテていた。

 ここで、仮説をたてることにしよう。

 ①クラス全体で彼女の本を無視をしている。
 ②本自体が他の人に見えていない
 ③そもそも本なんて存在しない

 ③は、恐らくあり得ない。毎日この目に入っているのだから。こんなことを考えているうちにも彼女の本は僕の目に映っている。
 ①は、可能性はあるが僕以外の全員が口裏を合わせているというのはなかなか難しいのではないか。
 そう考えると、②の誰にも見えていないという説が一番辻褄が合うと思う。そして入学式、彼女が僕に言った言葉は何だったのだろう。
 彼女の愛読書の謎は深まるばかりである。


 そんなことを悶々と考えていたら、担任から荷物を運ぶように指示された。
 気だるい。
 段ボールに入れられた科学の資材を実験室まで運ぶことになった。

 実験室までの近道は旧校舎の一階分階段を降り、右に曲がる単純なルート。いつも通りに通り抜けるはずだった。



「やっぱり…視えてるじゃないか…」
 


誰もいない階段の上段で待っていたのは彼女、そう、柚紀だった。
一段、一段と僕に近寄ってくる。
 僕はなにも言えずにその場で固まったままだった。

「君が本当に視えているか、判断するのに時間がかかってしまった。私は町田柚紀。君のクラスメイトだから、女子でも顔くらい分かるだろう?」

長いまつげ、均整の整った顔、長くて艶のよい黒髪、僕は思わず見とれていた。

 「おい?聞いてるのか?」
 「あ、は、はい…」
 「いいか、一度しか言わないからよく聞け。君に…その…私と…付きあってくれないか…」
 「は?」
 「だから!私の恋人になれっていっているんだっ!」

唐突な告白に頭が真っ白になった。

 「えと、僕たち初めて会話してまだ30秒ほどだけど?」
「こっちにはこっちの事情があるんだよ!

 かなり乱暴な告白であった。

『柚紀、そんな告白、相手の心に響くわけないだろ…』

その時だった。どこからか声がした。

「黙ってて」
 きっ、と彼女が手元の本を睨んだ。するとその本のカバーが外れてページがめくれていった。中から青い小鳥が一羽ホログラムのように出てきた。

 『どうも、坊っちゃん。わたくしはこの魔本の案内人。柚紀からはアオと呼ばれてます。どうぞお見知りおきを』 
 「勝手に出てくるな、この鳥!話をややこしくするんじゃない!」

 『魔本とは長い年月を経るうちに持ち主の思いの力で魔力を溜め込んだ本。そして魔本の今の持ち主柚紀は魔本にストーリーを刻む義務がある。ストーリーを完成させることができたとき、柚紀は呪いを解くことができるのです』
 「呪い?」
『柚紀の呪いは反転の呪い。』


「反転の呪い。つまり私は元々…男だ!!」


情報量が多くて頭が追い付かない。しゃべる変な鳥に、自分は男だという柚紀。最早僕には訳がわからなかった。


 「つまり、この本には元の持ち主が抱いた強い念ようなものが込められている。この本は恋愛小説愛好家だったようだ。そして私は事情あって呪いをかけられて女にされている。呪いを解くためにはこの本が視える人間を見つけてストーリーに巻き込み、話を終わらせるしか方法がないんだ!だから協力してくれ!」

息を切らせながら柚紀は一度に要点だけ述べた。

 『坊っちゃん協力してやってくれ。このストーリーには本が視ることができる、ある程度の魔力をもつ人間しか参加ができないんだ』
 「で、巻き込まれた僕には何の得があるんだ?」
 『報奨としてひとつ願い事をかなえてやるよ』
 「願い事ねぇ…」
 僕はため息をついた。そんなこと言われても信じられない。
 「男を女に変えるくらいの魔力を秘めた本だ。簡単なものならなんでも叶えられるだろう。頼む、人助けだと思ってくれ」

 そもそも元は男だってカミングアウトされた女の子を愛することが出来るのだろうか。
 今は見た目可愛いと言えど、そう簡単に割りきれる気がしない。流石にこれで割りきれたら変態だと思った。

 「えと、じゃあ友達からなら…」

 「アオ!!」
 『よし、クリアだ柚紀』

 「へ?クリア?」
 本のページが自動的にめくれてく。

『柚紀は凛太郎に告白をした。少し悩む凛太郎の口から出たのは「友達からなら」という言葉だった。二人のストーリーははじまったばかりである』

「話が進むとこうやって新しいページが刻まれる。最終ページまで埋まればこのストーリーは終わる。そうすればこちらの勝ちだ」
「勝ち負けがあるのか?」
「一年以内にすべてのページを埋めないと私たちは二人とも本の中に閉じ込められ、この世界から存在が消滅する」
「!!!??聞いてないぞ!」
「言ってないからな」

 どうやら僕はまんまとこの二人に嵌められたようだ。

 「これからは運命共同体。いっぱいフラグを回収しよう!よろしくね!凛太郎くんっ!!」

 彼女と言っていいのか彼と言った方が正しいのかわからないその子は僕の気持ちを置き去りにしたまま、満面の笑みを僕に向けていた。可愛い笑顔とは裏腹に策士であった。

 こうして僕は柚紀の正体と本の謎を知ることとなり、これから起きる事の当事者となることになった。
 前置きが長くなったが、僕の忙しい一年のまるで恋愛シミュレーションゲームのようなイベント高校生活がここに始まったのである。



最終ページまであと149ページ。







 
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