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第1章 闇から光に転じるまで
cys:1 無色の魔力クリスタル
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「し、神官様! なんで俺の魔力クリスタルは、何の色も輝きも放たないんですか?!」
少年は途轍もない不安に目を大きく見開き、その場に跪いたまま神官を見つめた。
これから迫りくる恐怖に、その身を震わせて……
◆◆◆
こことは違う異世界。
この世界には剣と魔法、そして全ての力の源『魔力クリスタル』が存在する。
そして、この世界の超魔法国家である『スマート・ミレニアム』
この国家の民は皆、特別な義務を負っている。
それは『自らの額に魔力クリスタルを埋め込む事』だ。
額に埋め込まれた魔力クリスタルの色でその人の特性が分かり、その輝きの強さと鮮やかさで力が決まるからだ。
赤なら炎で、青なら氷系統といった感じに。
その力をどう活かすかの選択は当然個々の自由だし、職業だって自由に選べる。
なので、皆それぞれ自分の魔力クリスタルの特性と力を元に活躍の場を決めていく。
それが昔から続く、この世界のあり方だ。
そして、自分の魔力クリスタルが何色でどんな輝きを持っているのかは、十三歳の時に神官の下で行われる『クリスタル・サフォス』という儀式で明らかになる。
これは、この国に暮らす誰もが学生の頃に集団で受ける、人生の一大イベント!
この物語の主人公の少年『エデン・ノーティス』も額に魔力クリスタルの移植を施され、まさに今その色が決まる儀式に参加している最中だった。
───俺の魔力クリスタルって何色なんだろう……
ノーティスは根は明るい性格ではあるが、どちらかというと大人しく、あまり人とワイワイする方ではない。
むしろ、静かに物を考えたり研究したりするのが好きな性格だ。
───やっぱ、研究職に向いてる青や紫だといいな。
そう思ったノーティスは、静かに笑みを零した。
研究の成果を役立たせ、皆を幸せにするのがノーティスの昔からの夢だから。
そんな中、ノーティスの前に並ぶ皆は次々に神官から儀式を受け、額に埋め込まれた魔力クリスタルからそれぞれの色を輝かせていた。
「やった! 俺緑だ。王都にいる、あの天才魔道軍師のロウ様に近いぜ!」
「僕は赤だから、最恐の重戦士ジーク様とマジで近い!」
興奮している彼らの側で、クラスメイトのエリスという女の子がニヤッと口角を上げ、軽くチャチャを入れてくる。
女王様気質で、クラスのカースト上位の女の子だ。
エリスは長く綺麗な髪をサラッと靡かせ、プライドの高い瞳で彼らを見下ろす。
「まったく。キリトもオルフェも、こーふんしちゃって。アンタ達ホントにガキね♪」
「エリス、なんだよいきなり」
「そーだよ。キリトの言う通り、せっかく人が喜んでるのにさ」
不満気な顔を向けてきたキリトとオルフェ。
そんな二人を見下ろしたまま、エリスは呆れた顔でやれやれのポーズを取った。
「ハァッ。二人共、色が近いからって、必ずあの人達みたいになれるって訳じゃないのよ」
すると、キリトはプイっと口を尖らせエリスにしかめっ面を向けた。
エリスがいくらカースト上位の相手だとはいえ、チャチャを入れられて黙っていられる性格ではないからだ。
「わーかってらエリス、そんな事。輝きのレベルだってまだ全然違うし、ロウ樣みたいになるには『ギルド検定試験』にまず合格して、そっからさらに実績積んでSランクにならなきゃいけねぇしさ」
そうボヤくキリトの隣で、オルフェは軽くうなだれている。
キリトと違って少し気が弱く、悩みがちな性格なのだ。
「そうそう、僕だって分かってるよ。緑とエメラルドグリーンじゃ違うし、赤と真紅も違う。それに僕、そもそも戦士とか向いてるのかなー?」
ちょっと悩んだ顔をしたオルフェに、キリトはニカッと笑った。
オルフェとは違い、カラッとした性格なのが分かる笑顔だ。
「まあ、いいんじゃね。赤だから戦士って決まりはねーし、自分に向いたスキル磨いて真紅までレベルを上げりゃあさ」
「そうだよね……うん、ありがとうキリト」
キリトとオルフェがそんなやり取りをしてる中、エリスは二人に向かいフフンといった表情を浮かべて自慢気に腕を組んだ。
カースト上位なだけに、本当に女王様のようなオーラを放っている。
「まっ、私はパープルブルーだけど♪」
「あっ、確かに。スゲーじゃんエリス!」
「わあ、ホントだね! まだ輝きはアレだけど、この色は……」
目を大きく開いて見つめてくる二人に、エリスは勝ち誇ったような笑みを向けた。
「そうよ。スマート・ミレニアム軍で最も強く美しい、王宮魔道士のレイ樣と同じなのーー♪」
「ちっくしょーーーー、いいなー!」
「はぁっ、うらやましいよ……」
羨望の眼差しを二人から向けられたエリスは、さらに悪役令嬢のような笑みで見下ろす。
その顔はとても生き生きしていて、板についている。
きっとエリスは、生まれながらにしてそういう気質なのだろう。
「まーー、キリトもオルフェも、将来私の部下として使ってあげてもいいわよ♪」
「へんっ、なーんだよエリス。調子乗りやがって」
「で、でも、ボクはそれでもいいかも……」
「おいっ、オルフェ。おま、裏切んのかよー」
「アハッ♪ おもしろ~い」
その光景を、ノーティスは少し離れた所から見て優しく微笑んでいる。
──みんな楽しそうだな。笑顔が一番だよ。
そう思ってる内にノーティスは、自分の番が近づいてきた事に気づきハッとした。
───あっ、もうすぐ俺の番か。ドキドキするな……
ノーティスの胸の鼓動が高まった時、さっきはしゃいでいたキリト達が近寄ってきた。
「おっ、ノーティス。もうすぐお前の番じゃん」
「あぁ、そうみたいだなキリト」
「ノーティス、キミの色がどんなのか早く見てみたいよ」
「オルフェ、ありがとう。まぁ、ちょっと緊張するけど……」
ノーティスがちょっと不安げな顔をすると、エリスがニヤッと力強い笑みを浮かべて身を乗り出してきた。
エリスの瞳が艶やかな光りを帯びる。
「ノーティス。私、貴方がどんな色か気にしてるんだからね♪」
「ありがとうエリス。でも、こればっかは分からないから少し不安だよ」
そう零すと、三人共その不安を取り除くかのように励ますような温かい笑顔を向けてきた。
「ノーティス、大丈夫だ。神官樣、ちゃーんとやってくれっから」
「そうそう。神官樣は優しいし」
「そーよノーティス。それに、貴方はこの二人よりもいい色が出そうよ♪」
「えっ?」
少し不思議そうな顔をしたノーティスに、エリスは艶っぽい瞳を向けて微笑んだ。
「だって貴方、見た目も悪くないんだし♪」
エリスがそう告げると、キリトとオルフェが不満げに口を尖らす。
「おいエリス、そりゃどーゆーこったよ?」
「ハァッ……結局そういう風に見るんだね。酷いよエリスーー」
キリトとオルフェがエリスに口を尖らせ文句を言ってると、遂にノーティスの番が回って来た。
───よしっ、いよいよか!
ノーティスは拳にグッと力を込め皆を見つめる。
「じゃあみんな、行ってくるよ」
ノーティスはざわついてる三人に向かい微笑むと、ゆっくりと神官の下へ向かった。
そして、緊張しながらもスッと跪き、ドキドキしながら祭壇にいる神官を見上げる。
すると、神官はニコリと優しい笑みを浮かべ、ノーティスの額の魔力クリスタルに向かいスッと手をかざした。
ノーティスの魔力クリスタルの色を明らかにさせる、サフォスの詠唱を行う為だ。
「神聖樹ユグドラシルの聖なる力と共に、汝……エデン・ノーティスの魔力クリスタルの色を開放する! 『クリスタル・サフォス』!!」
その瞬間、神官の手から温かい黄色の光がパァァァッ……! と、放たれた。
キリト達も、その光景にドキドキしながらノーティスを見つめている。
「どーなるんだーー」
「ドキドキするね……」
「ノーティス、早く見せてよ♪ 貴方の色を」
皆から期待の眼差しを向けられているノーティス。
無論、キリト達以外からもだ。
真面目で優しいノーティスには、イヤでも皆からの期待が高まるのだ。
が、ここでとんでもない事が起こった!
ノーティスの魔力クリスタルは、赤でも青でも黄でもなかった。
ましてや、ノーティスが期待していた青や紫でもない……
なんと、ノーティスの魔力クリスタルは全く輝かない『無色の魔力クリスタル』だったのだ!
そのあまりの出来事に、神官は驚き目を大きく開いた。
「バ、バカな……!」
無論、キリト達も同じだ。
こんなの信じられないという顔をして、ノーティスを見つめている。
だがそれは当然だ。
こんな事はありえないから。
魔力クリスタルは、製造過程で厳重な魔力反応検査をパスしている。
また、額へ施術の際も脳の松果体へのリンクテストが行われ、それにパスしたからこそこの儀式に参加出来ているのだ。
その為、魔力クリスタル自体に不備は無い。
だからこそ神官は焦った。
自分の詠唱ミスの可能性があると思ったからだ。
───魔力クリスタルの色が無色?! まさか……いや、そんな事はありえない……
あまりの出来事に神官は驚き、額からツーっと冷や汗を流した。
色が薄いとか濁ってるとかはたまにあるが、無色の魔力クリスタルなんて見た事がないから。
いや、神官も含め、こんなの誰も想像すらした事が無い。
全く輝かない『無色の魔力クリスタル』など……!
なので神官はフゥッと息を整え、ノーティスに向かい再度サフォスの詠唱を唱える。
無色なんて何かの間違いだろうと思いながら。
「今度こそ、神聖樹ユグドラシルの聖なる力と共に、汝のその輝きを示し給え! 『クリスタル・サフォス』!!」
神官の手からノーティスの額の魔力クリスタルに、再びパァァァッ! と、温かい光が注がれていく。
詠唱にミスや間違いは全く見受けられない。
しかし、結果はさっきと同じだった。
ノーティスの魔力クリスタルは、何の色も輝きも放つこと無く沈黙したままだ……
その事態にノーティスは、驚きと途轍もない不安に目を大きく開き跪いたまま、不安な面持ちで神官をバッと見つめた。
その綺麗な瞳に、不安に彩られた涙が滲む。
「し、神官樣! なんで俺の魔力クリスタルは、何の色も輝きも放たないんですか?!」
すると、神官は残念そうな顔をしたまま大きく溜息を吐き、ノーティスを上からジッと見下ろした。
窓から射し込む日差しが、神官の後光のように光る。
「エデン・ノーティス……残念ながらキミは、何の魔力も持たない神の加護無き者だ……!」
「そ、そんな……!」
悲しみに満ちた顔を浮かべた時、ノーティスは思わずゾッとして震えた。
あんなに優しかった神官の瞳が、まるで、自分を断罪するような冷たい瞳に変わっていたから……!
少年は途轍もない不安に目を大きく見開き、その場に跪いたまま神官を見つめた。
これから迫りくる恐怖に、その身を震わせて……
◆◆◆
こことは違う異世界。
この世界には剣と魔法、そして全ての力の源『魔力クリスタル』が存在する。
そして、この世界の超魔法国家である『スマート・ミレニアム』
この国家の民は皆、特別な義務を負っている。
それは『自らの額に魔力クリスタルを埋め込む事』だ。
額に埋め込まれた魔力クリスタルの色でその人の特性が分かり、その輝きの強さと鮮やかさで力が決まるからだ。
赤なら炎で、青なら氷系統といった感じに。
その力をどう活かすかの選択は当然個々の自由だし、職業だって自由に選べる。
なので、皆それぞれ自分の魔力クリスタルの特性と力を元に活躍の場を決めていく。
それが昔から続く、この世界のあり方だ。
そして、自分の魔力クリスタルが何色でどんな輝きを持っているのかは、十三歳の時に神官の下で行われる『クリスタル・サフォス』という儀式で明らかになる。
これは、この国に暮らす誰もが学生の頃に集団で受ける、人生の一大イベント!
この物語の主人公の少年『エデン・ノーティス』も額に魔力クリスタルの移植を施され、まさに今その色が決まる儀式に参加している最中だった。
───俺の魔力クリスタルって何色なんだろう……
ノーティスは根は明るい性格ではあるが、どちらかというと大人しく、あまり人とワイワイする方ではない。
むしろ、静かに物を考えたり研究したりするのが好きな性格だ。
───やっぱ、研究職に向いてる青や紫だといいな。
そう思ったノーティスは、静かに笑みを零した。
研究の成果を役立たせ、皆を幸せにするのがノーティスの昔からの夢だから。
そんな中、ノーティスの前に並ぶ皆は次々に神官から儀式を受け、額に埋め込まれた魔力クリスタルからそれぞれの色を輝かせていた。
「やった! 俺緑だ。王都にいる、あの天才魔道軍師のロウ様に近いぜ!」
「僕は赤だから、最恐の重戦士ジーク様とマジで近い!」
興奮している彼らの側で、クラスメイトのエリスという女の子がニヤッと口角を上げ、軽くチャチャを入れてくる。
女王様気質で、クラスのカースト上位の女の子だ。
エリスは長く綺麗な髪をサラッと靡かせ、プライドの高い瞳で彼らを見下ろす。
「まったく。キリトもオルフェも、こーふんしちゃって。アンタ達ホントにガキね♪」
「エリス、なんだよいきなり」
「そーだよ。キリトの言う通り、せっかく人が喜んでるのにさ」
不満気な顔を向けてきたキリトとオルフェ。
そんな二人を見下ろしたまま、エリスは呆れた顔でやれやれのポーズを取った。
「ハァッ。二人共、色が近いからって、必ずあの人達みたいになれるって訳じゃないのよ」
すると、キリトはプイっと口を尖らせエリスにしかめっ面を向けた。
エリスがいくらカースト上位の相手だとはいえ、チャチャを入れられて黙っていられる性格ではないからだ。
「わーかってらエリス、そんな事。輝きのレベルだってまだ全然違うし、ロウ樣みたいになるには『ギルド検定試験』にまず合格して、そっからさらに実績積んでSランクにならなきゃいけねぇしさ」
そうボヤくキリトの隣で、オルフェは軽くうなだれている。
キリトと違って少し気が弱く、悩みがちな性格なのだ。
「そうそう、僕だって分かってるよ。緑とエメラルドグリーンじゃ違うし、赤と真紅も違う。それに僕、そもそも戦士とか向いてるのかなー?」
ちょっと悩んだ顔をしたオルフェに、キリトはニカッと笑った。
オルフェとは違い、カラッとした性格なのが分かる笑顔だ。
「まあ、いいんじゃね。赤だから戦士って決まりはねーし、自分に向いたスキル磨いて真紅までレベルを上げりゃあさ」
「そうだよね……うん、ありがとうキリト」
キリトとオルフェがそんなやり取りをしてる中、エリスは二人に向かいフフンといった表情を浮かべて自慢気に腕を組んだ。
カースト上位なだけに、本当に女王様のようなオーラを放っている。
「まっ、私はパープルブルーだけど♪」
「あっ、確かに。スゲーじゃんエリス!」
「わあ、ホントだね! まだ輝きはアレだけど、この色は……」
目を大きく開いて見つめてくる二人に、エリスは勝ち誇ったような笑みを向けた。
「そうよ。スマート・ミレニアム軍で最も強く美しい、王宮魔道士のレイ樣と同じなのーー♪」
「ちっくしょーーーー、いいなー!」
「はぁっ、うらやましいよ……」
羨望の眼差しを二人から向けられたエリスは、さらに悪役令嬢のような笑みで見下ろす。
その顔はとても生き生きしていて、板についている。
きっとエリスは、生まれながらにしてそういう気質なのだろう。
「まーー、キリトもオルフェも、将来私の部下として使ってあげてもいいわよ♪」
「へんっ、なーんだよエリス。調子乗りやがって」
「で、でも、ボクはそれでもいいかも……」
「おいっ、オルフェ。おま、裏切んのかよー」
「アハッ♪ おもしろ~い」
その光景を、ノーティスは少し離れた所から見て優しく微笑んでいる。
──みんな楽しそうだな。笑顔が一番だよ。
そう思ってる内にノーティスは、自分の番が近づいてきた事に気づきハッとした。
───あっ、もうすぐ俺の番か。ドキドキするな……
ノーティスの胸の鼓動が高まった時、さっきはしゃいでいたキリト達が近寄ってきた。
「おっ、ノーティス。もうすぐお前の番じゃん」
「あぁ、そうみたいだなキリト」
「ノーティス、キミの色がどんなのか早く見てみたいよ」
「オルフェ、ありがとう。まぁ、ちょっと緊張するけど……」
ノーティスがちょっと不安げな顔をすると、エリスがニヤッと力強い笑みを浮かべて身を乗り出してきた。
エリスの瞳が艶やかな光りを帯びる。
「ノーティス。私、貴方がどんな色か気にしてるんだからね♪」
「ありがとうエリス。でも、こればっかは分からないから少し不安だよ」
そう零すと、三人共その不安を取り除くかのように励ますような温かい笑顔を向けてきた。
「ノーティス、大丈夫だ。神官樣、ちゃーんとやってくれっから」
「そうそう。神官樣は優しいし」
「そーよノーティス。それに、貴方はこの二人よりもいい色が出そうよ♪」
「えっ?」
少し不思議そうな顔をしたノーティスに、エリスは艶っぽい瞳を向けて微笑んだ。
「だって貴方、見た目も悪くないんだし♪」
エリスがそう告げると、キリトとオルフェが不満げに口を尖らす。
「おいエリス、そりゃどーゆーこったよ?」
「ハァッ……結局そういう風に見るんだね。酷いよエリスーー」
キリトとオルフェがエリスに口を尖らせ文句を言ってると、遂にノーティスの番が回って来た。
───よしっ、いよいよか!
ノーティスは拳にグッと力を込め皆を見つめる。
「じゃあみんな、行ってくるよ」
ノーティスはざわついてる三人に向かい微笑むと、ゆっくりと神官の下へ向かった。
そして、緊張しながらもスッと跪き、ドキドキしながら祭壇にいる神官を見上げる。
すると、神官はニコリと優しい笑みを浮かべ、ノーティスの額の魔力クリスタルに向かいスッと手をかざした。
ノーティスの魔力クリスタルの色を明らかにさせる、サフォスの詠唱を行う為だ。
「神聖樹ユグドラシルの聖なる力と共に、汝……エデン・ノーティスの魔力クリスタルの色を開放する! 『クリスタル・サフォス』!!」
その瞬間、神官の手から温かい黄色の光がパァァァッ……! と、放たれた。
キリト達も、その光景にドキドキしながらノーティスを見つめている。
「どーなるんだーー」
「ドキドキするね……」
「ノーティス、早く見せてよ♪ 貴方の色を」
皆から期待の眼差しを向けられているノーティス。
無論、キリト達以外からもだ。
真面目で優しいノーティスには、イヤでも皆からの期待が高まるのだ。
が、ここでとんでもない事が起こった!
ノーティスの魔力クリスタルは、赤でも青でも黄でもなかった。
ましてや、ノーティスが期待していた青や紫でもない……
なんと、ノーティスの魔力クリスタルは全く輝かない『無色の魔力クリスタル』だったのだ!
そのあまりの出来事に、神官は驚き目を大きく開いた。
「バ、バカな……!」
無論、キリト達も同じだ。
こんなの信じられないという顔をして、ノーティスを見つめている。
だがそれは当然だ。
こんな事はありえないから。
魔力クリスタルは、製造過程で厳重な魔力反応検査をパスしている。
また、額へ施術の際も脳の松果体へのリンクテストが行われ、それにパスしたからこそこの儀式に参加出来ているのだ。
その為、魔力クリスタル自体に不備は無い。
だからこそ神官は焦った。
自分の詠唱ミスの可能性があると思ったからだ。
───魔力クリスタルの色が無色?! まさか……いや、そんな事はありえない……
あまりの出来事に神官は驚き、額からツーっと冷や汗を流した。
色が薄いとか濁ってるとかはたまにあるが、無色の魔力クリスタルなんて見た事がないから。
いや、神官も含め、こんなの誰も想像すらした事が無い。
全く輝かない『無色の魔力クリスタル』など……!
なので神官はフゥッと息を整え、ノーティスに向かい再度サフォスの詠唱を唱える。
無色なんて何かの間違いだろうと思いながら。
「今度こそ、神聖樹ユグドラシルの聖なる力と共に、汝のその輝きを示し給え! 『クリスタル・サフォス』!!」
神官の手からノーティスの額の魔力クリスタルに、再びパァァァッ! と、温かい光が注がれていく。
詠唱にミスや間違いは全く見受けられない。
しかし、結果はさっきと同じだった。
ノーティスの魔力クリスタルは、何の色も輝きも放つこと無く沈黙したままだ……
その事態にノーティスは、驚きと途轍もない不安に目を大きく開き跪いたまま、不安な面持ちで神官をバッと見つめた。
その綺麗な瞳に、不安に彩られた涙が滲む。
「し、神官樣! なんで俺の魔力クリスタルは、何の色も輝きも放たないんですか?!」
すると、神官は残念そうな顔をしたまま大きく溜息を吐き、ノーティスを上からジッと見下ろした。
窓から射し込む日差しが、神官の後光のように光る。
「エデン・ノーティス……残念ながらキミは、何の魔力も持たない神の加護無き者だ……!」
「そ、そんな……!」
悲しみに満ちた顔を浮かべた時、ノーティスは思わずゾッとして震えた。
あんなに優しかった神官の瞳が、まるで、自分を断罪するような冷たい瞳に変わっていたから……!
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