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第2章 波乱のギルド検定試験

cys:9 プラチナゴールドの男

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 ディラードが怒りの炎をメラメラと燃やす中、ノーティスは自分に駆け寄ってきたルミに、歩きながらちょっと嫌そうな顔を向けた。
 さっきディラード達に向けたのとはまるで違う、あどけない表情を。

「やっぱいーよ、ルミ。子供じゃないんだから、俺一人で行くってば」
「いーえ、ノーティス様は世間的にはまだ子供の年齢です」
「ルミ、年齢なんてただの数字だよ。それよりもさ……やっぱやりすぎちゃったかな」
「えっ、何がですか?」
「いや、さっきの光。師匠からは滅多に使うなって言われたのに……」

 すると、ルミはピタッと足を止めた。
 そして、ん? と、振り返ったノーティスに、ルミは手を後ろに組んだ姿で微笑む。

「いいんじゃないですか♪ 魔力クリスタルの光で照らしただけで、暴力振るった訳じゃないし。それに……」
「それに?」
「私は嬉しかったですよ♪ ノーティス様が、自分らしさを最後まで貫いたから」

 ニコッと可愛く笑ったルミ。
 それを受けたノーティスは、ハッとして静かに微笑む。
 ルミからそんな風に言ってもらえたのが嬉しかったから。

「そっ……か。ありがとうルミ」
「どーいたしまして♪」

 ルミは再びニコッと笑い再び歩き始めたが、突然ムムッとした表情に変えてノーティスを横から見上げた。

「それよりもノーティス樣、最初はあの部屋で筆記試験からですけど大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だと思う。いや師匠から座学に関しても色々教えてもらったし……」

 そこまで答えると、ノーティスは急に青い顔をして両手を膝に乗せてうつむいた。
 ノーティスのこんな顔は珍しかったので、ルミはちょっと驚いて少し目を大きく開き、上からそっと顔を覗き込んだ。

「ど、どーされたんですか? ノーティス樣」

 ルミが心配して声をかけてくれたルミに、どよ~んとした顔を振り返らせたノーティス。

「いや、思い出しちゃって……師匠からの座学の講義を」
「えっ?」
「修行でクタクタになってる中で講義受けてたんだけど、その間、師匠からかけられてたんだ。居眠りすると悪夢を見させられる魔法をさ……」

 それを聞いたルミは、思わず引きつった笑みを浮かべた。

「そ、それはまぁ……大変でしたね。やり方が、あの方らしいというか……ハハッ……」

 ルミは、アルカナートがニヤリと笑ってノーティスにそうしてる姿を想像すると、余りにしっくりき過ぎたのだ。

───あの人なら、まぁ確かにしそうね……

 アルカナートには一度しか会った事はないが、その時にどういう性格かは、ルミはよーく分かったから。
 最強無敵で多才なアルカナートは、基本、誰に対してもぶっきらぼうな態度を変えないし、修行もきつかろうがなんだろうが、最強にさせる為には容赦ない事を。

「まっ、だから師匠から座学で受けた内容は全部覚えてるよ。恐怖とセットで……だから、心配しなくて大丈夫」
「ほ、本当に大丈夫ですか? 何か、別の意味で心配です」

 心配してくれるルミの側で、ノーティスはルミにだけでなく自分にも言い聞かせるように零す。

「大丈夫、大丈夫だよ……問題ない」
「本当ですか?」
「あぁ。それによく考えれば、座学以外も恐怖とセットでしか修行受けてないしさ……だから大丈夫」

 そんな言葉とは裏腹に、ゲッソリしてるノーティス。
 悪夢はその中でも、一際ひときわ厳しかったのだろう。
 
 ルミはそんなノーティスを見つめたまま、胸の前で両手にグッと力を込めて頼もしい笑顔を向けた。
 悪夢どころか、全ての嫌な事を消し飛ばしてくれるような笑顔を。
 それは、ルミがノーティスだけに見せる最高の笑顔だ。

「ノーティス樣、それだけ頑張ってきたのですからファイトです! 筆記試験が終わったら、一緒に美味しい紅茶を飲みましょう♪」
「……あぁ、そうだなルミ。ありがとう! あっ、砂糖は少し多めで頼む」

 ノーティスがそう言ってチラッとルミを見ると、ルミは嬉しそうにニコッと笑った。

「分かってます♪ 応援してますよ、ノーティス樣。頑張れーーー♪」

 可愛く明るい笑顔で、大きく片手を振ってくれたルミ。
 ノーティスは、そんなルミの声援を背に受け悠々と筆記試験の部屋へと入って行くと、部屋には既に大勢の人達が席に座っていた。

───みんな、結構早く来てるんだな。

 そう思ったノーティスはチラッと会場を見渡すと、結構緊張した空気が漂っている事に気づいた。
 なので、手に持っていた受験票を見ながら席を探しゆっくり歩いていく。
 が、ノーティスが歩いている通路に、突然足をドンッと出してきたヤツがいた。

 えっ? と、思ったノーティスがソイツを見ると、ソイツと周りのヤツラはノーティスを見て座ったままニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。

「よぉ、ノーティス。久しぶりじゃねーか」
「お前は……」

 ノーティスはソイツの顔を見てハッとした。

 忘れもしない。
 昔、クリスタル・サフォスを行った会場で、ノーティスに呪詛のような言葉と冷徹な眼差しを向けてきた元クラスメイトの1人、キリトだ。

 また、キリトとつるんでいたオルフェとエリスも一緒にいて、昔と同じように、侮蔑に満ちた下卑た笑みをノーティスに向けている。

「キミみたいな能無しが、この会場に何の用だい?」
「オルフェ……」
「あら、もしかして、オウチの場所も忘れちゃったのかしら。無色の魔力クリスタルさん♪」
「エリス……」

 そして、他のクラスメイト達もニタニタ笑い出し、ノーティスを知らない奴らは、ノーティスが無色の魔力クリスタルだと知ると、ギョッとした表情を浮かべ蔑んだ目で見てきた。

 そんな中、ノーティスは平然と答える。

「いや何って、冒険者の資格を取りに来ただけだよ。それに確かにこの近くに住んでるけど、家と会場を間違えたりはしないさ」

 するとキリト達は、ん? と、一瞬驚いて顔を見合わせ、すぐに呆れた顔で大きな笑い声を上げる。

「アハハハハッ! おいおいノーティス、お前いい加減にしろよ。お前みたいな無色の能無しが、ゴールドエリアに住める訳がないだろ」
「ハハッ、ノーティスくん悲しいね。退学になって学も無い上に、そんな嘘までつくなんて」
「そーよ。アンタなんて、どーせブロンズエリアの一番端っこでしょ♪ あっ、それか壁の外だったりして。アハハッ♪」

 エリスがそう嘲(あざ)けた時、筆記試験の部屋のドアがガラッと開き、そこから試験官の男が入ってきた。
 彼はノーティスをチラッと見ると、怪訝な顔で問いかける。

「キミ、そんな所に立って何をしてるんだ?」
「あっ、すいません。席が見つからなくて……」

 申し訳なさそうな顔を浮べた、片手で頭を掻いたノーティスに、試験官はピクッと片眉を動かした。

「全く、自分の席も分からないとは…… ん? しかもキミ、何だその魔力クリスタルは。故障か?」
「いえ、これが俺の魔力クリスタルです」

 ノーティスの答えに試験官はギョッとすると、ハァッと溜息をつき呆れた顔をした。

「キミ、まさかそれなのに試験を受けに来たのか?」
「はい。そうですけど」
「ムダだ……例え筆記試験に受かっても、その魔力クリスタルでは何の意味もない」
「そうでしょうか」
「……フゥッ、まあ好きにしたらいい。ちなみにキミ、番号は何番だ?」

 試験官に尋ねられると、ノーティスは受験票に書いてある番号を読み上げる。

「えーっと、PG-1-35785942です」

 するとその瞬間、試験官はギョッとして目を大きく見開いた。

「ピ、ピ、PGだと! バカな! それはゴールドエリアの中でも最高級の場所、限られた者しか住む事を許されないプラチナゴールドエリアだぞ!」
「あっ、やっぱりその略称なんですね。スッキリしたー♪」
「ス、スッキリだと?」
「いや、まさか住んでるエリアで区分けされてるとか、それは無いよなーって思ってたから。でも、やっぱそーだったのか」

 ノーティスはそう言って納得した顔を浮かべると、冷や汗を流している試験官に爽やかな顔を向ける。

「あっ、もしアレならクリスタル照会してもいいですよ」

 そして、額の魔力クリスタルから身分証明書を映し出した。
すると試験官は目を大きく見開いたまま、恐る恐るそれを凝視しながら読み上げていく。

「エデン・ノーティス。居住エリアは……プラチナゴールドエリア!」
「ねっ、合ってるでしょ♪」

 ノーティスが試験官に向かいニコッと微笑むと、試験官はノーティスに勢いよくバッと頭を下げた。

「も、申し訳ございません! プラチナゴールドエリアの方だとは露知らず、大変なご無礼を致しました!! お許し下さい!」
「いや、いいですよ別に。今、たまたまここに住んでるだけだし、未だに執事のルミに頼りっぱなしだしさ。それよりも、俺の席はどこですか?」

 ノーティスがそう尋ねると、試験官は腰を斜めに曲げて別室の方へ手をサッと手を伸ばす。

「プラチナゴールドエリアの方は、アチラでございます!」
「あっ、アッチの奥の方なのか。ハハッ、どーりで見つからないワケだ」
「大変失礼致しました」
「大丈夫ですよ。むしろ、教えてくれてありがとうございます」

 ノーティスが試験官に爽やかにお礼を告げると、キリトが席からガタッと立ち上がった。

「嘘に決まってる! そんな事あるハズないんだ!」

 すると、オルフェとエリスもそれに続く。

「そーだよ。何かの間違いだ!」
「ありえないわよ、アンタなんかが!」

 だが、試験官は彼らをギロッと睨みつけた。

「黙れ! この愚か者共が! 魔力クリスタルには、一切の細工は不可能な事は常識だ! それも分からん貴様らこそ、この試験を受ける価値があるのかっ?!」

 その怒声に黙り込み、悔しさに全身をワナワナ震わせながらうつむくエリス達。

「くっそ……」
「ううっ……」
「なんなのよ……」

 そんな彼らを、ノーティスは哀しそうな瞳で見つめた。
 彼らが何も変わってなかった事もそうだし、何より彼らの事が余りにも子供に見えてしまったからだ。

───キリト、オルフェ、そしてエリス……

 ノーティスは心の中で、さよなら、と、小さく囁き、奥にある特別室の方へ向かった……
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