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第2章 波乱のギルド検定試験

cys:26 理不尽過ぎる悪夢

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「あれ、ここは……」

 試験会場の広場にいたハズにも関わらず、ノーティスが周りを見渡すとそこは街中だった。

「ここは、俺が子供の頃に住んでたシルバーエリア……」

 ノーティスがそう呟いた時、脳の中で何かがプツンッと切断された感覚が起こる。

「あれ? 俺は何をしてたんだっけ……」

 何だか頭がボーっとしたノーティスだが、ふと気付いてハッとした。

「あっ、そうだ……俺は今日、学校を辞めさせられたんだった」

 ノーティスはそれを『思い出して』トボトボ歩いていると、後ろから背中をいきなりドカッと蹴り飛ばされ、地面にドシャっと真正面から倒れてしまった。

「なっ……!」

 ノーティスがうつ伏せのまま背中の方を振り返ると、元クラスメイトのキリトがノーティスの背に片足を乗せたまま、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ見下ろしている。

「おいノーティス。無色の魔力クリスタルのクセに、街ん中歩いてんじゃねーよ」
「全く。よく堂々と歩けたもんだよ」
「ホント、穢らわしいわ」

 ノーティスはキリト達をキッと睨み身体に力を入れ立ち上がろうとしたが、キリトはさらに強くゲシッと踏みつけてきた。

「何立とうとしてるんだよ! この無色の落ちこぼれが!」
「ぐはっ!」

 苦しい声を零し再び倒れたノーティスをキリトは何度もガシガシ踏みつけ、それにつられオルフェもノーティスを狂気を宿した笑みを浮かべ何度も踏みつける。

「アハハハハッ! いい気味だ。ほら、ほら!もっと痛がれよ。ハハハハハハッ!」
「ぐっ……! キリト、オルフェ、なぜここまでするんだ……」

 ノーティスが痛みと苦しみに顔をギュッと歪めながら両手で頭を覆う中、キリトとオルフェはノーティスを|足蹴(あしげ)にし続けている。

 さらにそんな中、エリスが黒い笑みを浮かべノーティスを見下ろした。

「アハッ、サイコー♪ ゴミはちゃんと潰さなきゃね♪」

 エリスはそう言って薄ら笑いを浮かべると、街の人達に向かい大声で叫ぶ。

「皆様ーーー♪ ここに無色の魔力クリスタルを持つ呪われた人がいまーーーす!」

 その声に反応し、ぞろぞろ集まってくる街の人達。
 エリスはそんな彼らに、可愛く潤んだ瞳を向けた。

「助けて下さい! あの男が『お前にも呪いの感染をさせてやる』って脅してきたんです。エーーーン」

 もちろん内容も涙も全部嘘だが、エリスにとってこんな事はお手のモノだ。
 それに騙された街の人達は、キリトとオルフェに踏みつけられているノーティスをギロッと睨み、手に道具を持ってノーティスに近寄っていくと、冷酷な眼差しで見下ろした。

「神に見放された悪魔め!」
「死ね! 呪われた子!」
「しかも、感染を広めようとするとは何事だ! ふざけるな!」

 皆、無色の魔力クリスタルのノーティスの事は、人ではないかのように罵倒し蹂躙していく。
 神話という常識に縛られて……

 ちなみにこれは悪夢の世界だが、今ノーティスが受けている仕打ちは、昔ノーティスが実際に受けてきた事そのモノだ。

───ううっ……! 俺が無色の魔力クリスタルだから……いずれ悪魔の呪いに感染し、皆を不幸にしちゃうから……でも……!

 また、これは現実ではなく悪夢という事に、ノーティスは気付いていない。
 記憶を封じられ、あまりにもリアルに作られてる世界だから。
 言わば、記憶を封じられてタイムスリップさせられている事に等しい。
 その世界に、ノーティスを蔑む声がこだまする……

 けれど、記憶は封じられていてもノーティスの心は昔と違う。
 それがノーティスを奮い立たせた。

「……黙れっ!!!」

 その叫びに皆が一瞬ビクッとして引いた隙に、ノーティスは傷ついた身体をググッと起こし、皆にグッと強い眼差しを向ける。

「無色のクリスタルだからって……それが何だってんだ! コレは俺の個性だ! 俺は無色の魔力クリスタルでも……必ず人を幸せにしてみせる!」

 ノーティスが彼らに真正面から叫ぶと、彼らは蒸発するようにスッと消えていった。

 が、その直後ノーティスの前に現れたのは、なんとアルカナートとセイラだった。
 夢とは不思議な物で、今度はその時の記憶が蘇る。

「師匠! セイラ!」

 ノーティスは2人に嬉しそうに駆け寄った。
 自分を愛し育ててくれた、本当の親以上に大好きな2人に。

 しかし、ノーティスのその気持ちとは逆に、アルカナートはイラッとした顔を浮かべると、駆け寄ってきたノーティスを裏拳でガシッ!と、吹き飛ばした。

 するとノーティスは悲しく怯えた表情を浮かべ、倒れたままアルカナートを見つめる。

「し、師匠! なんで……」
「馴れ馴れしく近寄るな。無色の落ちこぼれが……!」

 アルカナートは元々無愛想だし、修行は果てしなく厳しかった。
 けれど、それとは全く質の違う冷酷な眼差しを向けられたノーティスは、隣のセイラにすがる様に訴える。

「セイラ! 師匠一体どうしちゃったんだよ?! まるで、人が変わっちゃったみたいに……」

ノーティスはセイラにそこまで言った時、ハッとして目を恐怖と共に大きく見開いた。

「セ、セイラ……?」

 セイラは、若くして孤児院の寮母をしている優しい女だ。
 また、ノーティスがアルカナートとの修行でヘトヘトになった時には抱きしめたり、美味しい料理を作って癒してくれた。

 アルカナートとの壮絶な修行を無事に卒業出来たのは、セイラのお陰だと言ってもいいし、出会った時にセイラが作ってくれた温かいスープの味は忘れた事がない。

 けれど、今のセイラはノーティスを抱きしめるどころか、ノーティスの存在そのモノを疎ましく思うような眼差しで、冷たく見下ろしている。

「何なのよアンタ……汚いわね。それに、無色の魔力クリスタルなんて気持ち悪いのよ。あーもう、アンタなんか飢えて死ねばいいの」
「セイラ……なんでそんな事を……」

 ノーティスが悲しみに耐えれなくなって涙を浮かべると、ダメ押しをするかのように、ルミまで出てきてノーティスを蔑む。

「あのー2人ともホント勘弁してもらえませんか。私、コイツのおもりすんのマジで無理です。キモくて吐きそうなんで」

 ルミから本気で嫌な顔で見下ろされたノーティスは、少し震えながらルミを見上げる。

「ルミ、何言ってんだよ。冗談にしちゃキツイぞ」
「あの、喋んないでもらっていいですか?アナタの声聞くだけで死にたくなるんで」
「ルミ……」

 ノーティスの大切な3人から、余りにも酷い言葉と眼差しで心をズタズタにされたノーティスは、悲しみと絶望の表情を浮かべ、その場にドサッと膝をついた。

 すると、3人は膝をついているノーティスを囲い、呪詛のような言葉と眼差しをぶつけてくる。

「さっさと死ね。無色のクリスタルのクズが」
「消えなさい! 親に捨てられた薄汚い子は」
「マジで無理、ホント無理です。キモくて汚くて、ウザいアナタのおもりは、どれだけ金積まれても無理」

───死ね、死ね、死ね、死ね、死ね
───消えて、消えて、消えて、消えて、消えて
───キモい、キモい、キモい、キモい、キモい

 ノーティスは両膝をついたまま両手で頭を抱え、絶望と悲しみに顔を歪め震える。

「やめてくれ……師匠、セイラ、ルミ……もう、やめてくれーーーーー!!」

 ノーティスに襲いかかる理不尽過ぎる悪夢。
 けれど、ノーティスはそんな中感じ始めていた。
 とある、大きな違和感を……
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