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第5章 ホラムでの決戦

cys:83 科学と魔力クリスタル

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「カミュ、それは一体どういう事だ」

 ノーティスいぶかしむ顔でカミュを見据え、静かに怒りをぶつけた。
 挨拶もそこそこに、何もする事が無いと告げられたからだ。
 しかし、カミュはそんなノーティスに全く動じる事なく、玉座から冷酷で尊大な眼差しを向け見据えている。

「お前は口の訊き方がなってないようだな。何者だ?」
「俺はスマート・ミレニアムの勇者、エデン・ノーティス。無礼はそちらが先だ」
「なんだと……」

 ギロッと睨むカミュに、ノーティスは臆する事なく真正面から見返す。

 皇帝だろうが何だろうがノーティスには関係ない。
 考え方が元々そうなのと、最強かつ誰にも媚びへつらわないアルカナートに鍛えられたから。

「そちらから呼んでおいて、何もする事が無いとはどういう事だと尋いているんだ」

 ノーティスは確かに直球すぎだが、皆同じ気持ちだった。
 なので、ノーティスを止める事なく心で応援している。
 特に直情型のレイはそうだ。

───素敵よノーティス♪ やっぱりアナタは格好いいわ。

 レイがノーティスを嬉しそうに見つめる中、カミュはフンッと溜め息を吐き、指をパチンッ! と鳴らした。
 するとカミュの目の前に、変わった鎧を着た5人の戦士達がザッと横一列に現れ、ノーティス達と向き合った。

 その瞬間、カミュはニッと笑みを浮べ彼らに告げる。

「クククッ……お前達『エピステニィ・ファイブ』から教えてやれ。その無礼者共にな」

 そう告げられた彼らは、自信に満ちた顔でノーティス達を見据えた。

「私が軍師の『トマス・グローリー』だ」
「ワタシはレーザー部隊を率いる『フリージア・サロメ』よ♪」
「俺は戦士の部隊長『イフリート・バロン』!」
「私は……救護部隊の『セント・アリーシア』です」
「そして、僕が総隊長の『レオナルド・アッシュ』だ。よろしくネ♪」

 アッシュはそう告げるとスラッとした片手を胸に添え、ジトっと値踏みするような目でノーティスを見据えてきた。
 それに真正面から答えるノーティス。

「俺はエデン・ノーティス。スマート・ミレニアムの勇者だ」
「フーン……キミがあのアルカナートの後継者と言われてる、現在最強の勇者様か。確かになかなか強そうだネ♪」

 余裕の顔で答えてきたアッシュに、ノーティスは少し不思議そうな顔をした。

「アッシュ、キミ達がこの国の精鋭か?」
「そうだよ。ボクらがいれば、この国の守りは完璧サ♪ だから、ノーティスくん達の力は必要ないんだヨ♪」

 そう言ってニヤッと嗤ったアッシュに、ノーティスは遠慮なく告げる。
 アッシュ達が、虚勢を張ってるように感じたからだ。

「そうか。だが見た所、キミ達からはBランク程の力しか感じない。悪いがその実力で、あのトゥーラ・レヴォルトからこの国を守れるとは思えないが?」
 
 これはノーティスだけではなく、他の皆も同じように感じている事だ。
 カミュの前に立ち並ぶエピステニィ・ファイブ達からは、良くてB+ランク位の戦闘力しか伝わってこないから。
 無論、アッシュも含めてだ。

 けれどアッシュは、そんな風に感じているノーティス達を嘲るように笑い出した。

「アハハハッ♪」
「何がオカシイ?」

 ノーティスが不思議そうに尋ねると、アッシュは嘲る顔で嗤いながら胸を張って両手を大きく広げた。

「だってキミ達さ、本当にそこしか見てないんだもん」
「どういう事だ?」

 訝しむノーティスに、アッシュは笑いながら武器を見せる。

「これだヨ♪」
「それは?」
「アハッ♪ 分からないかなーーー。これは、魔力クリスタルのエネルギーを増幅して威力を増すんだヨ♪ だから、Bランク位の力しか無い僕らでもAランク、いや、上手くいけばSランクに近い攻撃を放てるのサ♪」

 そう告げたアッシュはノーティスを見下しながら、更に得意げな笑みを浮かべた。
 アッシュの横に並ぶ彼らも同様だ。

「だから僕らの部下達も、コレを使えばB+ランク位の力が出せるってワケ♪ 圧倒的な個の力より、そこそこのが多いければそれでいいのサ」

 アッシュから得意気にそう告げられた時、ノーティスはクロエの言葉を思い出した。

───そうか。だからキミは………でも……

「アッシュ、それがキミ達の力なのか?」
「ああそうさ! キミ達は確かに強いんだろう。伝わってくるよ。けどさ、その強さを得る為に、どれだけ辛い想いをして、どれだけの血を流して技の研鑽を続けたのかナ?」

 アッシュはそこまで言ってニヤッと笑うと、ノーティス達に向かい両手を前に大きく広げた。

「けど、科学の力を使えば、そんな苦労は何もいらない! 装着してスイッチを入れるだけでいい! それだけで力が手に入るんだ! 科学。それこそが力! 努力や研鑽なんていらないんだヨ♪」

 アッシュがそこまで言った時、ジークとレイはブチ切れ体をザッと前に出した。

「てっめぇ……言わしておけば!」
「そうよ。そんな考え、全く美しくないわ!」

 すると、バロンとサロメがグイッと前に乗り出してきた。
 ジークとレイの気持ちに、真っ向から対決するのを受諾したかのように。
 そして、ジークとレイをバカにした顔で見下ろした。

「おいおい、オッサン。そんな脳筋じゃ、同じ戦士として恥ずかしいぜ」
「んだと?!」
「これからの戦士は、スマートで強くなきゃよ♪」
「ケッ、なーーにがスマートだ。戦士ってのはな、大切なヤツを守る為に体張ってなんぼなんだよ!」

 ジークがイラッとした顔でバロンに身を乗り出すと、バロンはウザったそうに軽く顔を上げ、片手をヒラヒラさせた。

「あーークセェクセェ。そーゆーの、もういいから」

 またその隣でサロメは、レイを見下しながら妖しく微笑む。

「さすが最華の王宮魔道士、クロスフォード・レイ。噂には聞いてたけど、凄い魔力ねー♪」

 サロメが言った通り、レイから立ち昇る魔力は通常時でも凄まじい。
 クリスタルは輝かせていなくてもだ。
 けれどサロメは、そんなレイを嘲笑う。

「でも疲れない? そんなに頑張っちゃって♪」
「アナタとはモノが違うの。一緒にしないで」

 クールに返したレイに向かい、サロメは片手で口を軽く押さえた。

「アハッ、一緒になんてなれなーい♪ だって、恋に苦しみたくないもーーん♪」
「ア、アナタ、なんでそれを?! まさか……」

 ハッとした表情を浮かべ額からツーっと汗を零したレイを、サロメは口をニヤッと歪ませ嗤う。

「はーい♪ この装置で心が読めちゃうの。アナタって凄く綺麗なのに、本当に残念ね。アハッ♪」

 その光景を見たアッシュは、再び両手を大きく広げた。

「どーだい。これが魔力クリスタルと科学の融合サ! だから、キミ達の出る幕は無いんだヨ♪ ハーッハッハッハッ!」
「こんにゃろう……」
「許せないわ……」
 
 怒りに震えるジークとレイ。
 そして、高笑いするアッシュをノーティスは哀しく見つめると、瞳を一瞬そっと閉じてからスッと見開いた。

「ジーク!! レイ!!」

 その大きな声にハッと振り向いた2人を、ノーティスはジッと見つめる。

「行くぞ」
「あっ? なんでだよ」
「そうよ! このまま引き下がるなんて……」

 レイはそこまで言って、その後の言葉を飲み込んだ。
 どんな言葉を吐いても、今のノーティスの瞳には、全て飲み込まれてしまうような気がしたからだ。
 そんな2人にノーティスは再び告げる。

「行こう」

 ノーティスはそう告げると、颯爽と出口に向かった。
 そしてクルッと振り返り、立ち尽くしている皆に怒鳴る。

「行くぞ! こい!」

 いつもと違い、有無を言わせぬノーティスの顔を見た皆は、黙ったままノーティスの方へ歩いてきた。
 するとノーティスはスッと振り返り、カミュとアッシュをジッと見つめた。

「カミュ! アッシュ!」
「……なんだ?」
「なーに?」
「トゥーラ・レヴォルトのヤツらは強い。下らない意地よりも、仲間を1番大事にしろよ」
「フンッ……」
「ご心配なく。科学の前には、蛮族など敵じゃないからサ♪ アハハッ」

 侮蔑の眼差しで返してきた2人にノーティスはそれ以上何も言わず、皆と一緒に広間を後にした。
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