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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:111 戦う女神様

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「貴様を国家反逆罪で逮捕する!」

 男がそう告げた瞬間、他の男達が彼女にダダッと駆け寄り、彼女の体を後ろと両脇からガシッと拘束した。

 すると彼女はもがきながら、男達をキッと睨んだ。
 その瞳からは自分が悪い事をしたからではなく、明らかに不当な逮捕による怒りを感じさせる。

「くっ……何が国家反逆罪よ! アナタ達がこの国を……そして自由を奪おうとしてる事が、どうして分からないの?!」

 彼女は悲痛な想いと共にそう叫んだが、男は彼女にズイッと近寄るとニヤッと嗤い、彼女の両手にガシャッ! と手錠をかけた。

「黙れ……国家に楯突く反逆者め!」

 けれど、彼女の眼光は衰えない。
 例え法に背いてたとしても、間違った事は何一つしていない自負があるからだ。
 何より彼女には、法よりも大切なモノがある。

「反逆者と言われても構わないわ。けど……この国の未来だけは必ず守ってみせる!」
「フンッ、今からムショにブチ込まれるお前に何が出来る」
「……それでも私は諦めない。意思を継ぐ人がいる限り、必ずこの国を狂気から奪還するわ!」
「ハンッ、狂気に犯されてるのはお前らだ」

 さげすんだ顔で見下ろしてきた男に、彼女は凛とした瞳を向け大きく口を開く。
 ここで引き下がる訳にはいかないし、自分の姿を見て1人でもいいから意思を継いでくれる人が現れてほしいから。

「違うわ! このままじゃこの国はなくなってしまうの! 今動かないと手遅れになるわ!」
「フンッ、バカな事を。所詮お前のただの妄想だろう。哀れな奴だ。クックックッ……」

 自分の言葉も想いも全く伝わらない事に、彼女はその綺麗な瞳に涙をにじませる。

「そうじゃない……お願い、気付いて。もう残された時間は無いの! 私達だけじゃない。これから未来を生きる子供達が……」

 彼女がそこまで言うと、男は拘束されてる彼女のあごを指でクイッと持ち上げジトッと睨んだ。

「黙れ女……! キサマの戯言や陰謀論に付き合ってる暇はない。お前は国家の法に背いた。だから逮捕する。それ以上でもそれ以下でもない!」

 男はそう言い放つと、部下達に彼女を広場から車に連行するよう指示を出した。
 この男にとっは今しがた言った通り、彼女はただの犯罪者であり国家に楯突く反逆者なのだ。
 
 また、そう思ってるのはこの男だけではない。
 国民の大半以上がそうであり、彼女のように真実を見抜いている国民はここにいる聴衆達を含め、もうこの国にはほんの何割しか残っていないのが現状。

 政府とメディアに操られた多くの国民達は、彼女の事をただの狂信者としか見ていない。
 愚かといえばそれまでなのだが、日々苦しい生活を強いられている多くの国民にとって、そこまで考えが回らないのもまた事実。

 彼女はそれを全て分かった上で戦ってきていたのだが、ガシッと体を拘束されたまま連行されるその途中で、悔しさに涙を零し聴衆達を哀しい瞳で見つめる。

「皆様、ごめんなさい……私は守れませんでした。でも、この国の自由の光を、どうか、どうか消させないで下さい!」
「おいっ、いい加減に黙れ。この反逆者が!」

 男がそう怒鳴りつけた瞬間、聴衆の1人が体をブルブル震わせた。
 もう我慢の限界だったのだ。

「……その人を連れて行くな! こんなのは間違ってる!!」

 彼女がその男をハッと見つめた瞬間、それが他の聴衆達に一気に伝播していった。
 こうなれば抑圧されていた分、火がつくのは早く皆一斉に声を上げていく。

「そうだ! 日本から自由を奪うな!」
「彼女を離せ!」
「お前らの横暴、ネットに晒してやっからな!」

 聴衆達のその声に、ギリッと歯を食いしばり聴衆達を睨みつける男達。
 彼らにとって自分達に罵声を浴びせてくる聴衆達は、彼女と同じく犯罪者とみなすからだ。

「貴様らも抵抗するなら全員しょっぴいてやるぞ! この愚民共が!!」

 彼女に手錠をかけた男が怒声を上げると、聴衆達の怒りはよりヒートアップし広場に暴動が起こった。
 ワァァァァッ!! と、いう声の中、聴衆達と警官達がもみ合いになり現場は壮絶な状況に……! 
 そしてその最中さなか、聴衆の1人の男の拳が警官の頬をガツンと捉えブッ飛ばした。

「ぐわっ……!」
「ハァッ……ハァッ……」

 思いっきり殴った男は、息を切らして警官を見つめた。
 また、普段人を思いっきり殴った事など無い為、興奮に身体を小刻みに震わせている。

 そんな中、殴り飛ばされた警官は一気に沸騰した怒りと共にググッと立ち上がると、腰に携帯している銃をサッと引き抜き、自分を殴った男に向かって両手で構えた。

「キ、キサマーーー! 許さんっ!!」

 その光景を見た彼女はハッ! と目を見開くと、拘束されていた体を警官の隙を見て勢いよく振り解き、銃を向けられた男の前に駆け寄った。
 そして、警官に向かい両手をバッと大きく広げ立ちはばかる。

「ダメっ!!」
「どけ!」
「やめなさい! 私達が争ってる場合じゃないの! 気付いて……お願い!!」

 けれど警官は彼女の命をかけた静止も聞かず、引き金の指にググッ……っと力を込めていく。

 ノーティスはその瞬間、彼女を助ける為に全速力で駆け寄ろうとした。
 もちろん、彼女が誰なのかは思い出せていない。
 けれど、ノーティスの魂が告げていたのだ。

 『大切な人だ。必ず守れ』

 だが、ノーティスの体は動かなかった。
 正確にいえば、とてつもなく遅くしか動かない。
 それは一瞬だったが、何者かがノーティスの動きを封じたのだ。
 その場の空間ごと、時の流れを歪めたとしか思えない所業で。

───くっ……なぜだ! これは一体。

 謎の現象に阻まれノーティスがいきどおっている間に、銃口から弾丸が放たれ彼女の胸をバシュッ!! と、撃ち抜いた。

「あぁっ……!!」

 彼女は胸から鮮血をドバアッ! と吹き上げると、涙を上に零しながら背中からドサッと倒れ胸からどくどく血を流していく。
 その血がジワァァァッと広がり、地面がみるみるうちに赤く染まっていった。

 その瞬間、空間が正常に戻ったノーティスは彼女に駆け寄り、片膝をついて彼女を抱きかかえた。

「おいキミ! しっかりするんだ!」

 すると彼女は、涙を流しながらノーティスの頬に片手を伸ばし、ゆっくりと微笑む。

「やっと……やっと、会えたね……」
「……!」
「お願い……この国を……未来を守って……!」

 彼女がノーティスを見つめながらそう告げた瞬間、それは起こった。
 なんと、ノーティス達以外の時間が止まり、周囲に薄暗い紫色の磁場のようなモノがブワァンッ!! と、一瞬で広がったのだ。

「こ、これは一体……」

 その時、天空から漂ってきた。
 禍々まがまがしく、全てを闇に覆い尽くすかの如き絶大なオーラが……!
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