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第6章 魔力クリスタルの深淵

cys:134 涙の訴え

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───えっ? セイラってノーティスの……!

 メティアは何か胸騒ぎがした。
 セイラの事は昔ノーティスから聞いた事があるし、アルカナートが率いていた伝説のパーティのメンバーの1人だと知ってるから。

 なので、このタイミングで連絡が来た事に、ノーティスもメティアも何か言いようのない予感を感じてしまう。
 
 また、セイラはいつもの明るく元気なテンションではなく、ノーティスのその予感を裏付けるかのような切ない声のトーンだった。

 そんなセイラに、ノーティスは静かに尋ねる。

「セイラ、別にいいけど急にどうしたんだ」
「ん……ちょっと近い内に会えないかな。出来ればここ数日以内に」
「数日以内?」
「うん。ちょっと、直接会って話したい事があるの」

 普段なら、もっとおちゃらけた雰囲気を出してくるセイラだが、今はそれが無かった。
 なので、よっぽど大切な事なのだと直感的に悟ったノーティスは、思わず真剣な顔になってしまった。

「かまわないよ。ただ、ルミの体調が戻ってからにしてほしい」
「ルミちゃんが? あの子に何かあったの?!」

 セイラが本気で心配している声が伝わってくる。
 ルミとは以前一度会ったきりだが、その時に2人は凄く意気投合していたからだ。
 後は元々セイラが持つ、女神のような愛がそうさせるのだろう。
 
「いや、ただ疲れて眠ってるだけさ。俺が戦いの後しばらく寝たままだったから、その看病で疲労が……」
「そっか……お互いに大変だったね。ノーティスはもう大丈夫なの?」
「あぁ、俺は、もう大丈夫だ」
「よかった♪ じゃあ、ルミちゃんが回復してからでいいよ」

 少し声が明るくなったセイラ。
 今日はもう、これ以上本題には入らないからだ。

「すまない、セイラ」
「ヘーキよ。それに、ルミちゃんはノーティスの彼女なんだから大切にしなきゃね♪」
「ち、違うって」
「えっ、もしかしてまだ付き合ってないの?」
「まだってセイラ、なんでそういう前提なんだよ」

 少し顔を赤くしたノーティスに、セイラは魔力ポータルの向こうで軽く溜息をついた。

「まったく、ダメよノーティス。あんまり待たせ過ぎたら」
「いや、それについては色々あって……まっ、また今度話すよ」
「ふーーん……怪しぃ~~~」
「うっ……」

 ちょっと言葉に詰まったノーティス。
 さっきルミの気持を聞いてしまってる分だけに、セイラの言葉がより刺さるのだ。
 けれど、セイラはそんなノーティスの気持を全て察したかのように微笑んだ。

「まっ、いいわ。その件も今度一緒に聞かせてね♪」
「まぁ、何か進展があれば……ね」
「はーーい♪ じゃあ連絡待ってるね」
「分かった……」

 そう言って魔力ポータルの通信を切ろうとした時、ノーティスは思わずセイラを呼び止めた。

 「セイラ!」

 セイラならきっと、何かを知ってると思ったから。

「ん? どうしたの」
「いや、セイラ……」

 でも、ノーティスはそこまで言って言葉を変える。
 今度直接会った時に尋けばいいし、何よりセイラが今度自分に話したい事が、正にそれのような気がしたからだ。

「今日は声を聞けて嬉しかった。ありがとう」
「なによも~~~ノーティス、改まっちゃって。私の方こそ声聞けて嬉しかったよ♪ それだけ?」
「うん……」
「そっか。じゃあまたね♪」

 セイラはそう告げ笑顔で通信を終えると、フゥッとため息をつき切なくうつむいた。

「アルカナート……貴方がいないから、ノーティスに伝えるね。あの日の事」

 セイラがそう零した時、メティアは心配そうにノーティスの顔を覗き込んだ。
 ノーティスの顔は辛辣そうだったから。

「ノーティス……セイラさんは何て?」

 メティアにそう尋ねられたノーティスは、軽くうつむいたまま答える。

「セイラが話があるらしい。近い内に会いに行く事になった」
「えっ、もしかしてそれって……」
「あぁ。多分これに関係している事だ」

 ノーティスがそう答えた時、メティアはハッとして目を大きく開いた。

「じゃあ、もし本当にそうだとしたら……!」
「そう、きっと師匠も以前何か掴んだんだ。それをセイラは聞いているんだ。もしかしたら、今俺が考えてる以上の事を……!」

 その時メティアは見つめていた。
 まるで、先にある悲しい真実を見据えているかのような、ノーティスの精悍な横顔を。

 それを見ていいようのない不安に襲われたメティアは、ノーティスに訴えるような眼差しを向けた。

「ノーティス、それならボクも一緒に行くよ!」
「メティア……」

 ノーティスはメティアの方へ少し寂し気な表情を向け、少しうつむく。

「気持ちは嬉しいけど、俺一人で行く……!」
「なんで?!」
「メティア……俺はキミを巻き込みたくないんだ」
「ノーティス……」

 メティアは哀し気に見つめているが、ノーティスはうつむいたままだ。
 ノーティスには分かっているのだ。
 この闇が途轍もなく深い物である事が。

「だから、これは俺一人でいい。俺は勇者としてメティア達を必ず守る」
「ダメだよノーティス。ボクも一緒に背負うよ!」
「いい。俺は勇者である以上……」
「ノーティス、違うよそれは……」
「違わない。メティア、俺は……」

 ノーティスがそこまで言いかけた時、メティアはギュッと拳を握りしめた。

「ノーティス! いい加減にしてよ!!」

 その叫びに、ノーティスはハッと顔を上げて見つめた。
 涙を滲ませ身体を震わせているメティアを。

「メティア……!」
「ノーティス……うぅっ……なんで、なんでそんな事言うんだよ! ボクはキミの仲間じゃないの?! どうして、全部自分で背負い込もうとするの……ボクはキミの事をずっと大切に想ってるんだよ……!」

 メティアがそう言って涙を零した時だった。

「そーですよ、ノーティス様。全部自分でお抱えになる所は、ノーティス様の悪い癖です♪」
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