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第7章 記憶の旅路

cys:164 絶望の疾風

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「オォォォォッ! 砕け散れ!!」

 その咆哮と共にパリーンッ!! と、いう乾いた音が王の間に響く。
 そして、バラバラと砕け散ってゆくアーロスの無限回廊。
 その砕け散った回廊の破片がスーッと消えゆく中、カイザーは仲間の悪魔王達を背に従えたまま、悔しさに顔をギリッとしかめた。

「おのれアーロス……決して逃さん!!」

 その怒声が王の間に響く中、悪魔王達は全身から邪悪なオーラを放ち、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。
 
「ああ、そうだなカイザー」
「グフフフ……あの人間、美味そう」
「おいノーバ、喰う前に実験させろよ。アイツら贄なんだからよ」
「ウフフッ♪ 彼らの絶望する顔、早く見たいわぁ。ああっ、ゾクゾクしちゃう♪」

 それを背に受け、カイザーは苛立ちながらも苦く微笑んだ。

「フンッ、アーロスめ。ヤツとは元々相容れなかったが、まさかこれ程までに秩序を乱すとはな……」

 そう零し、ボロボロになった王の間をツカツカと歩き王の前に行くと、ズイッと上から見下ろした。
 絶大な魔力を宿すカイザーの瞳がギラリと光る。
 まるで、鋭く抉るナイフのように。

「王よ、分かっているな。これからお前が成すべき事を」
「もちろん。全ては、悪魔の呪いにかけられた者達が行った反逆。粛清すべきです。王の名の下に」

 王がニヤリと黒い笑みを浮かべると、カイザーは満足気に口元を歪めた。

「クククッ……理解しているようだな。貴様には、これからもダーククリスタルの恵みが尽きる事は無い」
「ハハッ! ありがたき幸せ」

 深々と頭を下げた王が顔を上げた時、もうそこにカイザー達の姿は無く、その場にいるのは王ただ一人だけだった。
 そんなガランとした王の間で、彼は玉座にドガッと腰を下ろし虚ろな瞳で虚空を見上げる。

「ソフィアよ、お主も知るだろう。人は、悪には決して勝てぬ事を……」
 
◆◆◆

 その頃ソフィアはロキとカイン、そしてアーロスと共に自分達のアジトに向け、息を切らしながら走っていた。

「ハァッ……! ハァッ……! アーロス、もうすぐ着くわ」
「あぁ、もうすぐだな……奴らがここに着くのは」
「えっ?」

 ソフィアがそう声を漏らした瞬間、目の前にブワッ! と大きな突風が起こり砂塵を渦巻かせた。
 周りの木々が大きく揺れ、葉がババッと舞い散る。

「くっ!」

 ソフィアは片腕を上げ顔を覆ったが、その腕を下ろし砂塵が消えた時、目の前に絶望が現れた。

「アーロス、そしてソフィアよ。我らから、逃げ切れるとでも思っていたのか」

 カイザーは片手に大きな剣を下げたまま、漆黒の瞳でソフィア達を見据える。
 無論、カイザーに付き従う他の悪魔王達もそうだ。
 誰もが己の力に絶対的な自信を持ち、そこからグワッ! と、放たれる圧倒的なオーラが、語らずともソフィア達に伝える。

───お前達は、もう終わりだと。

 けれど、ソフィア達の瞳から光が消える事は無い。
 アーロスかいるから?
 もちろんそれもあるが。ソフィアはロキとカインと共に昔から決めているのだ。

「ロキ、カイン。覚えてるわよね」
「ああ、当然だ」
「あったりめぇだろ!」

 力強くニカッと笑いカインが腕をバンッと叩くと、ロキがグッと瞳に力を込める。

「我らは……」
「俺達は……」
「決して諦めない! この国を狂気から奪還する日まで!」

 ソフィアはそう宣言すると同時に、カイザー達に向かいビュッ! と剣を突き立てた。
 凛とした瞳に勇ましい光が宿り、それを映したかのように剣先がキラリと光る。

 が、その瞬間、苦しそうに顔を歪めガクッと跪いたソフィアに驚き、ロキとカインはタタッと駆け寄った。

「ソフィア!」
「おい、どうした!」
「くっ……うっ、うっ……」

 その光景を見てニヤリと嗤うカイザー。

「クックック……愚かな。もう忘れたのか。ダーククリスタルを埋め込まれたお前には、二度と精霊の力は使えぬという事を」
「なっ!」
「なんだって?!」

 目を見開き驚くロキとカイン。

「ダーク……その額の漆黒のクリスタルか……!」
「ざけやがって!」

 カインは怒りにギリッと顔をしかめると、ソフィアに向かいスッと剣を突き立てた。

「ソフィア、安心しろ。そんなもん、俺が今すぐブッ壊してやる!」
「カイン……!」

 ソフィアが切なそうな顔で見つめた瞬間、アーロスがカインの腕をガシッ! と、掴み艶のある漆黒の瞳をスッと傾けた。

「殺す気か」
「なんだと?」
「俺の嫁を殺す気かと尋いている」
「ど、どういう事だよ?!」

 苛立ちを募らせキッと睨むカインに、アーロスはスッと瞳を閉じて告げる。

「ダーククリスタルをお前達の力で破壊すれば、ソフィアの命も同時に砕け散るという事だ」
「なっ!?」
「なんだって!」

 ロキとカインが驚愕の顔を浮かべると、アーロスはスッと目を開き、その瞳に静かな哀しみを浮かべた。

「ソフィアの体は、ダーククリスタルと一体となっている。むしろ、精神が犯されていない事の方が奇跡なのだ」
「そ、そんな……」
「ちくしょう!」

 怒りに震えるロキとカインの側で、苦しそうに目を伏せるソフィア。
 自身の力が改めて使えなくなってる事を痛感し、それが何より辛いのだ。
 今、一番力を使いたい場面だからこそ……!

 そんな彼らを見据えるカイザーは、邪悪な笑みを浮かべ胸を張った。
 勝利への確信と共に。

「ハーッハッハッハッ! その女の力も使えぬ今、お前達に勝機はない。今度こそ、アーロス共々消し去ってくれるわ!」

 だがその瞬間、アーロスはソフィアの前に背を向けザッと立ち、そのまま告げる。

「心配するなソフィア。お前のダーククリスタルは、俺が浄化してやる」
「えっ?」
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