先輩、元に戻ってください!狂った世界に負けないで!

ジュン

文字の大きさ
2 / 3

変わってしまった先輩

しおりを挟む
「八神さん……」

皆が署長からの発表に喜んでいる中、1人グッとした顔で思い詰めている女がいた。
彼女の名は『神楽かぐら 優美ゆみ
先程の『八神やがみ れん』の後輩で可愛い女刑事だ。

蓮を昔から慕う優美は、皆が八神の事で沸き立つ中ドアをそっと開け、その場からスッと出ていった。
優美が心から慕い、恋焦がれている蓮に会う為に……

◇◇◇

東京都新宿御苑前

地下鉄丸ノ内線から階段を上がると、ビルの立ち並ぶ中に御苑の入り口の大きな門がある。
中に入ると豊かな自然に彩られた自然がパノラマ状に広がり、都会の喧騒から離れる事の出来る場所だ。

──きっと蓮さんはここにいるハズ……!

そう確信した優美は、新宿御苑の門をくぐった。

ちなみに、今の季節はちょうど秋。
優美が確信した通り、蓮は今紅葉が鮮やかに彩る小さな庭園の中で静かに佇んでいた。
そして、整った顔立ちに儚さを漂わせながら、一人静かに想いに耽っている。

──俺は、また……

その時、少し離れた所から蓮を呼ぶ声が聞こえてきた。

「蓮さん!」

その声の方に蓮がスッと眼差しを向けると、蓮のサラサラの髪は僅かに揺れ、その瞳に自分を見つめる優美の姿が映った。

「優美……」
「蓮さん、やっぱりここにいたんですね」
「フッ、よく分かったな……」
「当たり前じゃないですか。私は蓮さんの一番弟子なんですから♪」

ニコッと嬉しそうに笑う優美だが、蓮はスッと視線を池の方へ向け静かに答える。

「お前を弟子にした覚えは、ない」
「いいんです!私が勝手に弟子になってるだけなんで♪」

優美は元気にそう答えたが、蓮はクールで寂しげな表情を崩さない。
切なく儚げな表情で池の方をジッと見たままだ。

「そうか……けど、今は所轄も違う。優美、俺に、何の用だ?」

蓮からそう言われた優美はグッと辛そうな表情を浮かべると、そのまま蓮に問いかける。

「蓮さん、なんで……なんでそんな簡単に人を撃てるんですか?!」

その問いに黙り込んだままの蓮に、優美は悔しそうな顔をしながら話を続ける。

「あの法律が出来る前、蓮さん私に教えてくれたじゃないですか。どんな犯罪者だって、色んな想いを抱えて生きてる。だから、その時の言動だけで判断せずに、相手の事を考えてみる事が大切だって!なのに……」

優美がそこまで話すと、蓮は優美にサッと背負向けた。
そして、そのまま静かに告げる。

「優美……俺達は刑事だ。法を守り正義を守る。そして、その正義に反した者には法に則り対処するのが俺達の仕事だ」
「でもっ……!」

優美は納得がいかず思わず蓮に反論しようとしたが、その瞬間、蓮は優美に背を向けたままスッと眼差しを向けた。
その、どこまでも蒼く深い切なさに満ちた瞳を向けられた優美は、それ以上蓮に何も言う事が出来なかった。

「蓮さん……」

優美は悲しさにうつむき蓮の名前を零した後ハッと顔を上げると、もうそこに蓮の姿は無く、まるで蓮の心を隠すかのように舞い散る紅葉だけがそこに漂っていた。

それからしばらく経ったある日、優美は非番で街に出ていた。
最近仕事が忙しく、今日は久々の美容院に行ける日だからだ。

──蓮さん、確かストレートが好きって言ってたよね。

優美が蓮の事を想いながら街を歩いていると、街頭ビジョンに政府からの広告が連続で流れているのが目に入ってくる。

『貧困と飢餓を失くし、クリーンなエネルギーで綺麗な世界へ。SBTsで持続可能なみんなの社会』
『綺麗で優しく、一人一人の多様性を育てる社会へ。LJXP法でなくそう。性別の壁を』

道行く人達はこういった広告を快く眺めているが、優美はこんなクソ広告には吐き気がしていた。
もちろん、言ってる事は分かるし出来たらいいに違いない。
ただ、その裏側で途轍もない利権がうごめいているし、むしろ、その利権の為にこんな思想を広めている事を優美は分かっているからだ。

──会社が社員に目標を課す時や、企業が客へサービスを行う時に言う事が綺麗事だとみんな分かってるハズなのに、なんで国が言う事はそうでないと思ってしまうんだろう……

優美がそう憂いていると、優美の気分をさらに陰鬱にする広告が流れてきた。

『PDY検査』のCMだ。

──うわっ、最悪だ……

優美がそう思う中、街頭ビジョンの中で首相は大根役者のように話をしている。

「えー『雨天時傘不所持根絶法』は雨に濡れる事によって、風邪を引かないようにする事が目的であります。それが皆様の健康も守る事になります。それは自分だけでなく、周りの人達の為でもあるのです」

──しらじらしい。本当は利権が絡んでるくせに。

優美の思惑は最もで、これも健康を守る為なんかではなく全く別の目的で動いているのだ。
もちろん首相は、それをおくびにも出さず話を続ける。

「また、雨による風邪を引く可能性があるかどうかの、定期的な検査が必要です。なので、半年に一度必ず『PDY検査』を行ってください。後は、傘です。傘はパイダー製とデテルナ製の相互所持を推奨致します。自分と、何より自分の周りの大切な人達を守る為に、今日も傘を差しましょう!プット、アップ、アンブレラ♪」

聞いてるだけでうんざりするCMだが、ここ数年ずっと流れてるCMだ。
種類もまあ豊富だし、芸能人や有名インフルエンサーを使ったよくもまあと思うバージョンもある。

ただ、優美がこの件に関して憂鬱なのは、少し考えればオカシイと分かるこの茶番を、日本中の大勢の人達が未だに信じている事だ。
一時期は傘が不足したり、それにより都市封鎖まで行われた事もあった。

「はぁ……バカバカしい。でも蓮さんは……」

優美がそう言ってため息をついた時だった。
突然ポツポツと雨が降り出してきた。

今では国民の約9割以上が折り畳み傘を持ってる為、優美もカバンから折り畳み傘を出すとサッと差した。

正直、これぐらいの雨なら濡れても構いやしないのだが、警察官である自分がそんな事になったらスキャンダルも甚だしい。
なのでオカシイとは思っていても、組織にいる以上は従うしかないのだ。

そんな時、駅の改札の入り口で泣きそうになりながら、キョロキョロしている小さな男の子がいたので、優美はその子を見つけると、どうしたのかと思って話しかけた。

「ボク、どうしたの?」

すると、その男の子はその綺麗な瞳に涙をブワッと浮かべて大声で泣き始めた。
優美は慌ててその子をなだめながら話を聞くと、どうやらこれからおばあちゃんのお見舞いの為に病院に行きたいのだが、傘が無いらしいのだ。

駅から病院までは歩いて近いが、この雨では傘を差さなければ確実に濡れてしまう。
もちろん、小雨だからどうって事はないのだが、今の世の中では雨に濡れた姿で病院に入った場合、それが見つかれば即射殺だ。
これは、以前に逮捕されてようとなかろうと関係ない。
風邪を引く可能性があるにも関わらず病院に濡れたまま入るのは、テロ行為だとみなされているからだ。

なので、この子はこのままでは病院に行けず、おばあちゃんのお見舞いも出来ないのだ。
しかも、この子は優しい子で傘を忘れた訳ではなく、失くした人にあげたらしいのだ。

──困ったわね。どうしようかな……

優美は悩んだ。
今優美が持っている傘は一人分しか入らない。
なので、一緒に差していってもどちらかが濡れてしまう。
いや、下手をしたら二人とも濡れてしまうかもしれない。

そうなれば二人とも射殺だ。

そしてタイミングというのは良くも悪くも不思議なモノで、なんとそこに現れたのだ。
あの八神 蓮が!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...