その花は愛を囁く

こうはらみしろ

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「ん……」

するり、するりと身体に触れる心地よい感触に、霞はふとを目を覚ます。
その心地よい感触の正体はなんなのか、それを確認するよりも前に、自分に覆いかぶさりながら身体に触れ、口づけを落とす実咲が瞳に映った。

いったいどうしてこんな状況になったのか、霞はそれを思い出そうとするものの、花ひとつもないのになぜか部屋に充満するあまい香りが邪魔をして頭がうまく動かない。 
まるで夢の中にいるみたいだ、と霞はおぼろげに思って、動かない思考に困惑して顔をゆがめた。

そんな霞の状態に気づいたのか、実咲は霞の耳を食んで息を吹きこむようにそっと囁く。

「霞くんはね、入っちゃいけない部屋に入っちゃったんだよ」
「あ……っ」

吹きこまれた吐息のくすぐったさに気をとられそうになるけれど、ぼんやりとする霞の脳裏にさきほど起こったことがうっすらと蘇る。

足を踏みいれた保管室、ちらばる花と倒れる実咲、そして、寝室以外のなにものでもなかったあの部屋。
霞は思い出したその事実に小さく息を呑んだ。

「私の秘密、見られちゃったね」

そう言って笑う実咲のほほえみは、どこか寂しさが滲んでいた。
しかしそれは一瞬で、そのほほえみはすぐに妖しい色に染まる。

「霞くんが秘密をばらさないように……口止めしなきゃ、ね」 
「俺……そんなこと、しな──」
「黙って」

霞は実咲の言葉に反論しようとするけれど、その言葉を実咲の唇で塞がれてしまう。
それでもなお抵抗しようとするけれど、うまく動かない思考と身体ではかなうはずもなく抑え込まれてしまい、せめてもの抵抗に閉じた唇もただなだめるように啄まれただけだった。

そうこうしているうちに口づけは深くなって、啄むようなものから食まれたり吸われたりするようになる。
慣れない触れあいに霞の息は次第に上がって、とうとう頑なに閉じていた唇を開いてしまうと、そこからは実咲の独壇場だ。

「っ、は……んぅ……っ」

すぐに開いた口内へ熱い舌が差し込まれて、中を嬲るように舌でなぞられる。
舌を絡められればそのやわらかさと淫らな動きに身体が熱くなって、上顎をなぞられればくすぐったさと気持ちよさにもどかしくなる。

霞は知らないうちに身体をくねらせ、それが実咲の心と身体を煽った。

知らずしらずのうちに口づけは激しくなって、受けとめきれない強い快感に震える霞の身体から、徐々に力が抜けていく。
その反応に満足したのかさんざん口づけていた実咲はゆっくりと唇を離して、霞は透明な糸を引いて離れていく実咲の唇をぼんやりと見つめた。

「霞くん……」
「あ……っ」

ぼんやりしているうちに再び唇が寄せられたのは耳たぶで、ぞくりと走った快感に霞は熱い息を吐く。
霞の快楽に染まった頭には、すでに抵抗するという考えはなかった。

実咲の唇は首筋、鎖骨、胸元と、徐々に下へさがっていく。
その口づけを邪魔する布はなく、さきほどの口づけのあいだにでも脱がされていたのか、傍らにくしゃりと放られていた。

もちろん、霞にそれを気にかける余裕はない。
実咲に肌を吸われるたびに身体を跳ねさせて、小さく喘ぎ声をあげるだけだ。

「ぁっ、ぁ……っ」
「ん……霞、くん」

身体に口づけられる快感と陶然と呼ばれる自分の名前に、霞はあまい声をあげて四肢をよじり震わせた。
その中心は勃ちあがって、淫らな蜜を滲ませている。

それに気づいた実咲は鳩尾、ヘソ、下腹とさらに口づけを下げて、とうとうその屹立へとたどりつく。
そっとよせた実咲の唇から、霞の自身にふっ、と息が触れた。

「ひっ、ぁ……実咲、さ……」

自身をくすぐる吐息に、霞はもどかしげに腰を揺らして実咲の名前を呼ぶ。
実咲を呼ぶその声は淫らにあまく溶けていて、実咲の思考も溶かしていく。

霞につられるように熱を上げていく実咲は、さきほどまでのゆるやかさが嘘だったかのように性急に霞の屹立を咥えこんだ。
やわらかく、ぬるりとした感触が霞の自身を包み込んで、自然と腰の震えが強くなる。

霞を迎えいれた実咲の口内には先走りのかすかな青臭さとしょっぱさが広がり、それが霞のものだと思うと実咲は少し興奮した。
その興奮のまま実咲は霞の屹立を愛撫する。
舌で、唇で、霞の弱いところを嬲って、確実に快楽を与えていく。

「だ、め……ぁっ……だっ、ぁ、ぁああっ!」
「っ、ん……」

霞は今まで与えられた快感を軽く凌駕する強い刺激にむせび泣いて、実咲が自身を咥えているということも忘れてあっけなくその口内に白濁を吐きだした。
突然吐きだされたそれに実咲は焦ることなく中で受けとめて、ゆるゆると口を動かして残滓まで絞りとる。

実咲のその動きは達したばかりで敏感になっている霞には辛いもので、濡れたあまい声で喘ぎながら身体をガクガクと震わせた。
そうすること数秒、与えられた強すぎる快楽に震えつづける霞の屹立から実咲はゆっくりと唇を離して、そのまま双丘へと唇をよせた。

達してぼんやりとした霞はそれに気づかずに快楽のふちを漂う。
そんな霞の双丘にふいに生暖かいぬるついた液体が滴りおちて、霞は驚きの声をあげる。

「ひぁ……っ」
「驚かせちゃったね……」

驚きの声をあげた霞にそう言うものの実咲は悪びれた様子もなくて、白濁に濡れてぬるつく蕾にその長い指を這わせた。
ゆるゆると慣らすように蕾を撫でられるゆるやかな快楽に、驚いて固くなっていた身体から力が抜けていく。 

「んぅ……っ」

それを見計らったように実咲がつぷりと蕾へ指を埋めこむと、蕾をほぐすように慣らされたからか、違和感はあるものの痛みはまったく感じなかった。
むしろむずむずと疼いて、それが霞の意識をジリジリと焼いていく。

もどかしい。そのひとことが言えたらどんなに楽か── 

霞は知らないうちにゆらゆらと乞うように揺れる自分の腰には気づかずに、与えられるゆるやかな快楽にたえるようにまぶたを閉じた。
そんな霞の様子に実咲は小さく口元に笑みを浮かべて、なだめるように霞のまぶたに口づけながら後孔に埋めこんだ指の動きを徐々に大胆なものにしていく。

霞はその指の動きに翻弄されて、途切れとぎれにあがっていた喘ぎ声は指の動きに合わせて激しい啼き声になっていく。
それがどれほど続いたのか、ふいに後孔から実咲の指がゆっくりと引きぬかれて、霞は狂おしいほどの快楽から解放された。

しかしそれはほんの一瞬で──

「ぅあっ……っ!」
「っ、ぅ」

気づいたときには、熱い楔が霞の中に穿たれていた。

霞は自身を突然襲った圧迫感に驚いて、とっさに目の前の実咲へと縋りつく。
この衝撃を与えているのはその実咲だというのに。

実咲は自分に縋るしかない霞に暗くてあまい感情を覚えるけれど、それをごまかすように少し目を閉じて、すぐに霞を快楽に溺れさせようと動きだした。   
額に、目じりに、頬に、唇に次々と口づけられて、首筋を、胸を、わき腹を、足を指先で愛撫されて、実咲に縋りついて固まっていた霞の身体は徐々にあまくとろりと溶けていく。

「ぅ、ん……ふ、ぁっ、ぁあっ……」
「もう、よさそうだね」

実咲はそう呟くと霞の脚を抱えなおして、その足を強く引きよせて霞の奥深くまで屹立を押しいれた。 

「っ、ぁぁあっ……! ふか、深いぃ……っ!」
「は、ぁ……霞くん……」

奥まで貫かれた恐怖にいやいやと首を振って甘えるように実咲にすり寄る霞に、実咲は欲情して唇をぺろりと舐める。

それはまるで小動物を嬲り喰らおうとする猛獣のようだった。
そのたとえは、あながち間違ってもいない。

実咲はなだめるように片手で霞を抱いて、抱えた脚を大きく開かせるようして抽挿しはじめる。

「ぁっ、ぁ、あっ……だ、めっ……んぁっ……そ、んな……奥ぅっ!」
「くっ…‥っ、ぅ」 

奥を押しあげるようにされるそれに霞は感じいって、内壁が実咲の屹立をきゅうっと締めつけ蠕動して、中へ中へと咥えこむ。
実咲はその内壁の動きに息を詰めて眉を寄せ、食らいつくように霞の唇に口づけると激しく抽挿をくりかえした。

貪りつくすようなその動きに霞はただむせび泣いて、受けいれ続けるしかない。
霞のあまく濡れた喘ぎ声と実咲の荒い息づかいに、身体を繋げるいやらしい音だけが部屋に響きわたり続けるなか、とうとうそのときは訪れる。

「ひっ、ぁ……ぁっ、ぁぁあああっ!」
「ぅ、く……っ」

実咲が中を強く突きあげた瞬間、霞の身体を強い快感が走り意識が白く塗りつぶされ、霞は背中をのけぞらせて固く勃ちあがらせた自身からビュクビュクと悦楽の雫を迸らせた。
それに合わせてきつく締まる内壁に実咲は息を呑んで霞の最奥に欲望の証を吐きだして、中をあたたかく濡らす。

霞はその感覚に身体を震わせて、余韻に浸るまもなく徐々に意識を遠くしていったが──

「……霞、くん」

意識が薄れていくなか霞が最後に見たのは、どこか悲しそうな、縋るような目をした実咲の顔だった。





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