異世界でもモブだったので現実世界で無双したい

ミムラカズミ

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現実世界で無双することにします

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周りを見渡す。

おそらく病棟の一室だろう。
点滴の嫌な匂いが、何故か落ち着く。
泣きそうになるのを堪える。

「、、かあちゃっ、、っっ」

声を出すのが難しい。掠れる。ひどく喉が渇いていることに気づいた。

「、、カズマ??、、カズマっ!!」

母ちゃんが目を覚ました。
少し引いてしまうレベルの涙を流しながら、抱きついてきた。

-----------------

落ち着きを取り戻した母親に、俺の身に何が起こったのかを聞いた。

やはり俺は3年前、トラックに轢かれたらしい。そこまでは覚えているが、なんとか一命を取り留めたそうだ。
その後は植物状態となり入院し、3年の月日が経って今目を覚ましたということだが、、

3年か、、、

異世界転移して向こうで過ごした期間も3年。

しかも、夢にしてははっきりしすぎているんだよなぁ。
向こうで出会った人の名前や、向こうで習得した魔法などを鮮明に思い出すことができる。
もしかしてあの夢は夢ではないのではないだろうか。

まぁそれは置いといて、医者が言うには、これから3ヶ月のリハビリが必要らしい。

筋金入りの引きこもりには少しきつい内容だが、頑張ろうと思う。

そのリハビリが終わったら、本当にあの異世界生活が夢だったのかどうかを調べてみよう。

--3ヶ月後。

うおおおお!!!
耐え抜いたぞ!きついきつい3ヶ月を!!

目覚めた時、3年寝たきりだった俺はガリガリに痩せ細っていた。
しかしこの3ヶ月、毎日健康的な食事を摂り病院に完備されたトレーニング施設で自らを追い込こんだ。そのおかげで超健康的ともいえるほどの肉体に仕上がり、もちろん退院の許可も得た。

さてさて、この3ヶ月どうしても試したかった異世界転移の真偽。
あの世界は本物だったのかどうか。
今夜試してみようと思う。

ーーその夜

俺は自宅からすぐ近くにある山の神社に来ていた。
この時間なら人はいない。

パトリシア(異世界の通称)で過ごした記憶はトラックに轢かれる前の現実の記憶よりもはっきりしている。

あの夢がもし本物だったら、この世界で魔法を使えるかもしれない。
そんな期待に、俺は胸を高鳴らせていた。

「飛翔魔法(スート)!」

ブワァぁぁぁぁっっ!!

宙を舞っている。
キタキタキタ。夢じゃなかったぞ!あれは!あの3年間は!

夜空を舞う。
パトリシアでは慣れたものだったが、現実世界で空を飛ぶのはまた別格の気持ちよさがあった。

始まる。俺の無双が。生まれ落ちてから異世界転移してすらもモブだった俺が!現実世界で魔法を使えるというチート能力を手にして!この世界を無双してやる!

「はーっはっはっはっ!!」

調子に乗って飛び回っていだカズマは、自分の飛翔限界時間が2分であることを忘れており、急降下した。

「うわぁぁぁっっ!!」

忘れてた!あくまであの世界でも俺はモブだった!才ある者のように、何時間も飛翔できるわけではなかった!

「防御魔法(ラディファンス)!」

ドサッ。

なんとか防御呪文で死に至るようなダメージは防げたが、これまたやはりモブの防御呪文。打撲と多少の擦り傷を負った。

ーー帰り道。

「いつつつつつつつ。。」

あぁ。痛いな。
あまり調子に乗り過ぎるのは辞めよう。

と、自戒しつつ歩いていると、後ろから声がした。

「桜田カズマくん!」

!?
なんだ?この衝撃。。
異世界生活ですら体験しなかった。
その声は、いつも俺の名を呼ぶ音域とは違う、、というのは表現がおかしいだろうが。
まぁとにかく。

その声が女性の声帯から発生されたものだと認識するのに少し時間がかかった。

後ろを振り返る。

「桜田カズマくん…だよね...?」

今度は認識するのに1秒もかからなかった。

あの子だ。
俺がトラックに轢かれる前に行ったコンビニのあの店員さん。
天地がひっくり返っても俺とは釣り合わない。異世界にすらなかなかいない美少女中の美少女。

「ねぇってば!聞いてるんだけど!カズマくん!」

「あっえっ、、いや、、はい。。」

「もおぉぉ。さては君、女の子に慣れていないな??」

まぁもちろん図星であるが、、なぜかこういう時に強がってしまうのが童貞というものだ

「いや、べ、別に!全然慣れてないことはないのですが!?あ、貴方はコンビニの店員さんですよね?」

「ふふっ。なぁに?その喋り方。。そうだよ!やっと目を覚ましたんだね!」

笑いながら、嬉しそうに彼女は言う。
なんだろう。心が暖かい。

「君は、、なんで俺がトラックに轢かれたことを知っているんだい?」

「3年前、ポテトチップスを買って出る時、なぜかは知らないけど君ぼーっとしてたでしょ。その時にこれを落としてね。届けようと思って追いかけたら目の前で轢かれちゃって、、びっくりしちゃったよ。」

そうやって手渡されたのは、ラスクエのヒロイン、ルルカのキーホルダーだった。

ちょっと恥ずかしい。

「君が植物状態になって入院した時、君のお母さんに返そうとしたんだけどね。絶対にカズマは起きるから。その時直接渡してやってくれって。泣きながら頼まれちゃって。」

「そ、そういうことか。。ありがとう。」

彼女はニコリと笑ったまま

「コンビニのバイトは辞めちゃったから!また会えるかは分からないけど、これで返すものは返したからね。またね!」

「あっ、、」

名前、、、

声が出なかった。

名前も知らない彼女は、満足げに去っていった。













 
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