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第三章 美央高1・紗栄子高2
30 悠季の理不尽な不機嫌
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「あ、ねえねえ、橘さん。」
「なあに?」
「椎名君って、彼女いるの?」
さて、3学期がスタートした。美央は最近、今まであまり話したこともないような女の子から、ちょくちょくこんなことを聞かれる。理由は明白だ。冬スポでの、悠季のバスケでの大活躍である。
「彼女はいないみたいだよ。多分だけど。」
「まじで?ああ、よかったあ。ね、じゃあさあ、水泳部の子達で遊んだりすること、あるのかなあ。」
正直、美央は拓海と過ごす時間が多く、悠季や他のチームメートと遊ぶ機会は少ない。大会や合宿の打ち上げくらいだ。
「そうだねー、結構仲いいからね。もし一緒に遊びたいなら私よりも悠季と仲のいい男子に声かけた方がいいかもよ。」
「うーん、小暮君とか?」
「ああ!俊一だったら間違いないよ。仲いいから。」
「そっかあ。ありがとねー。」
※
「悠季って、もてるんだね。」
美央は準備を終えると、ゆっくりと練習前のストレッチをしている悠季に、声をかける。
「今日も聞かれちゃった。‘椎名君って、彼女いるの?’って。」
「ふうん。」
ずいぶん気のない返事だ。
「で、いないの?」
「…いないよ。」
気のない返事どころか、今度はあからさまに不機嫌そうな声だ。
「もてるのに、彼女作らないの?」
「…美央に関係ないだろ。」
冷たく言い捨てられた一言。確かに美央もしつこかったかもしれないが、そんなに怒るような話題ではないはずだ。
「だって、色んな子から橋渡しみたいなの、頼まれるから、さ……。」
「だから?面倒だからさっさと彼女作れって?そんなのこっちこそ面倒だよ。」
目もあわせずに悠季は吐き捨てる。さすがにむっとして、美央もその場を去る。近くにいた何人かの部員が、その様子を見ていた。その中の一人、俊一が見かねて美央のところにやってくる。
「あいつ、機嫌悪いみたいだな。」
「…そうだね。なんか、雰囲気悪くしてごめんね。」
俊一に対し、美央は半ば無理やり笑顔を作って見せる。
「いや、美央はそんなに悪くないよ。…ただ、あの手の話題はもうやめてやってくんない?」
「…え?」
「詳しくは知らないけどさ、多分あいつ、好きな奴いるんだよ。」
そういえば学園祭のときの話しにもあった。告白してきた‘小野塚さん’に言った言葉。
『好きな人が、いるの?』
『そんなとこ、かな。』
大志の熱演が目に浮かぶ。
「そういえば、そうなんだっけ。」
「そもそもあいつ、そういう話自分からしないし。あんまりそういう話自体が好きじゃないのかもな。ちょくちょく告られてるみたいだけど、あいつの口から直接知ることって滅多にないし。」
「ふーん。みんなに対しても、そうなんだ。」
「そ。まあ、あんまり触れられたくないんじゃん?ほっといてやってくれよ。」
「…うん。」
美央と話しながら、どうもぴんときていない彼女の様子を見て、心底悠季に同情する俊一だった。
※
練習後、美央が女子更衣室を飛び出したら、すぐそこに悠季がいたので驚いた。
「よう。おつかれ。」
「お…疲れ様。」
明らかに美央のことを待っていたような素振りだ。
「練習前は、悪かったな。態度が悪かった。…反省してる。」
「あー…あたしも、これから部活っていうときに関係ない話して、ごめんね。」
「うん。…また明日な?」
「うん。バイバイ。」
にこっと笑って、右手を上げる悠季。美央もそれに返す。
※
「遅いぞ、美央。」
「ごめんなさい。」
待っていた拓海に駆け寄る。そば近くまで行くと、ぎゅっと手を握られた。
「いたっ!」
「悠季と二人っきりでいちゃついてただろ。」
「いちゃついてなんかいませんよ。練習前にちょっと喧嘩みたいになっちゃって、で、悠季のほうから謝ってくれてたんです。」
「ああ、練習終わってから俊一たちに怒られてたぞ、あいつ。雰囲気悪くすんなよーって。反省したんじゃん?可愛い美央を苛めちゃったこと。」
「苛め…大げさですよ、先輩は。あたしもデリカシーなかったし。」
「なんで?」
「最近ね、よく女子に聞かれるんですよ。悠季に彼女はいるのかって。だから、もてるねーってちょっと話を振ったらなんか、怒っちゃって。」
「ええ?それくらいのことで?」
「と、思うんですけどね。俊一いわく、そういう話が好きじゃないのかもって。悠季には好きな子いるらしいんですけどね。」
「ふーん。しかしもったいないなあ。俺なんか好きな子がいたらどうにかして自分のものにするけどなあ。それでダメなら他の女の子に行くけど。」
「…随分あきらめ早いんですね。」
「んー?気持ちはそうそう変わんねーよ?ただ次の子に気持ちがゆっくり移るかもしんねーし、あくまでも好きな子を思い続けて彼女は別物、ってなるかもしんねーし。」
「え、ひどーい!」
「だからさあ、そんなことにならないようにしてくださいね、美央ちゃん。」
チュッ。頬が、拓海の唇で濡れる。
「だからって、公衆の面前でこういうことしないでください!」
「公衆の面前ですることに意味があるんでしょうが。」
つないだ手に、さらに力がこめられる。
「好きだよ。美央。」
「……。」
「なあに?」
「椎名君って、彼女いるの?」
さて、3学期がスタートした。美央は最近、今まであまり話したこともないような女の子から、ちょくちょくこんなことを聞かれる。理由は明白だ。冬スポでの、悠季のバスケでの大活躍である。
「彼女はいないみたいだよ。多分だけど。」
「まじで?ああ、よかったあ。ね、じゃあさあ、水泳部の子達で遊んだりすること、あるのかなあ。」
正直、美央は拓海と過ごす時間が多く、悠季や他のチームメートと遊ぶ機会は少ない。大会や合宿の打ち上げくらいだ。
「そうだねー、結構仲いいからね。もし一緒に遊びたいなら私よりも悠季と仲のいい男子に声かけた方がいいかもよ。」
「うーん、小暮君とか?」
「ああ!俊一だったら間違いないよ。仲いいから。」
「そっかあ。ありがとねー。」
※
「悠季って、もてるんだね。」
美央は準備を終えると、ゆっくりと練習前のストレッチをしている悠季に、声をかける。
「今日も聞かれちゃった。‘椎名君って、彼女いるの?’って。」
「ふうん。」
ずいぶん気のない返事だ。
「で、いないの?」
「…いないよ。」
気のない返事どころか、今度はあからさまに不機嫌そうな声だ。
「もてるのに、彼女作らないの?」
「…美央に関係ないだろ。」
冷たく言い捨てられた一言。確かに美央もしつこかったかもしれないが、そんなに怒るような話題ではないはずだ。
「だって、色んな子から橋渡しみたいなの、頼まれるから、さ……。」
「だから?面倒だからさっさと彼女作れって?そんなのこっちこそ面倒だよ。」
目もあわせずに悠季は吐き捨てる。さすがにむっとして、美央もその場を去る。近くにいた何人かの部員が、その様子を見ていた。その中の一人、俊一が見かねて美央のところにやってくる。
「あいつ、機嫌悪いみたいだな。」
「…そうだね。なんか、雰囲気悪くしてごめんね。」
俊一に対し、美央は半ば無理やり笑顔を作って見せる。
「いや、美央はそんなに悪くないよ。…ただ、あの手の話題はもうやめてやってくんない?」
「…え?」
「詳しくは知らないけどさ、多分あいつ、好きな奴いるんだよ。」
そういえば学園祭のときの話しにもあった。告白してきた‘小野塚さん’に言った言葉。
『好きな人が、いるの?』
『そんなとこ、かな。』
大志の熱演が目に浮かぶ。
「そういえば、そうなんだっけ。」
「そもそもあいつ、そういう話自分からしないし。あんまりそういう話自体が好きじゃないのかもな。ちょくちょく告られてるみたいだけど、あいつの口から直接知ることって滅多にないし。」
「ふーん。みんなに対しても、そうなんだ。」
「そ。まあ、あんまり触れられたくないんじゃん?ほっといてやってくれよ。」
「…うん。」
美央と話しながら、どうもぴんときていない彼女の様子を見て、心底悠季に同情する俊一だった。
※
練習後、美央が女子更衣室を飛び出したら、すぐそこに悠季がいたので驚いた。
「よう。おつかれ。」
「お…疲れ様。」
明らかに美央のことを待っていたような素振りだ。
「練習前は、悪かったな。態度が悪かった。…反省してる。」
「あー…あたしも、これから部活っていうときに関係ない話して、ごめんね。」
「うん。…また明日な?」
「うん。バイバイ。」
にこっと笑って、右手を上げる悠季。美央もそれに返す。
※
「遅いぞ、美央。」
「ごめんなさい。」
待っていた拓海に駆け寄る。そば近くまで行くと、ぎゅっと手を握られた。
「いたっ!」
「悠季と二人っきりでいちゃついてただろ。」
「いちゃついてなんかいませんよ。練習前にちょっと喧嘩みたいになっちゃって、で、悠季のほうから謝ってくれてたんです。」
「ああ、練習終わってから俊一たちに怒られてたぞ、あいつ。雰囲気悪くすんなよーって。反省したんじゃん?可愛い美央を苛めちゃったこと。」
「苛め…大げさですよ、先輩は。あたしもデリカシーなかったし。」
「なんで?」
「最近ね、よく女子に聞かれるんですよ。悠季に彼女はいるのかって。だから、もてるねーってちょっと話を振ったらなんか、怒っちゃって。」
「ええ?それくらいのことで?」
「と、思うんですけどね。俊一いわく、そういう話が好きじゃないのかもって。悠季には好きな子いるらしいんですけどね。」
「ふーん。しかしもったいないなあ。俺なんか好きな子がいたらどうにかして自分のものにするけどなあ。それでダメなら他の女の子に行くけど。」
「…随分あきらめ早いんですね。」
「んー?気持ちはそうそう変わんねーよ?ただ次の子に気持ちがゆっくり移るかもしんねーし、あくまでも好きな子を思い続けて彼女は別物、ってなるかもしんねーし。」
「え、ひどーい!」
「だからさあ、そんなことにならないようにしてくださいね、美央ちゃん。」
チュッ。頬が、拓海の唇で濡れる。
「だからって、公衆の面前でこういうことしないでください!」
「公衆の面前ですることに意味があるんでしょうが。」
つないだ手に、さらに力がこめられる。
「好きだよ。美央。」
「……。」
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