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プロローグ
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「秋本君、ちょっと来てもらえる?」
「は?」
急に名前を呼ばれた俺は、思わず振り返ったせいでトスを頭にぶつけてしまった。
「痛っ!」
そのままの勢いで落下する。
「おいおい、大丈夫か?涼介」
「…なんか呼ばれた」
「は?」
様子を見に来たセッターのゆーたろーは、立ち上がって周りを見渡した。
「あ、ホントだ、誰かいる。しかも女子」
「おい、涼介、祐太郎、早く戻って…ってどしたの?」
注意しようとしたリベロの修也も、俺とゆーたろーの視線の先に気づく。
「なんか…呼ばれた」
「ふーん。行って来いよ、待たせたら悪いし」
「おう」
話していたら痛みも引いてきたので、俺は立ち上がった。少しクラっとしたけど普通に歩けるので、あまり支障はなさそうだ。ゆーたろーが小声で「良い結果期待してるぞ」と言ってたけど、それは無視した。
「秋本、涼介君」
「あ、はい…えっと…?」
目の前の女子が誰なのか、全くわからない。
「はじめまして、城咲琴音です」
「あ、はい…はじめまして」
「では本題に入りましょう。こちらです」
琴音は無言で歩き始めた。意外に速い。付いて行くので精一杯だ。
二人で廊下を歩く。
着いた場所は――校長室だった。
琴音は、静かにドアを開けながら言った。
「どうぞ、入ってください」
「へぇ、君が秋本涼介君か」
新任の校長。…思ったより若い。近くで見た感想はそんなものだった。…とまあ、この人は気付いていないのだろうけど。
ふと、目の前にお茶が差し出された。ただの生徒にお茶。なんとなく察しがついた。
「長話ですか?」
校長は驚いた表情で俺を見て、感心したかのように言った。
「ああ、すごいな。お茶だけでそこまでわかるだなんて、流石だ。…あぁ、琴音、座って良いよ」
言われた通り、琴音は俺の隣に座った。…あれ?何故か琴音の前にはお茶がない。しかも、校長が生徒を名前で呼び捨てなんて…不思議だな。
「すまないけど、早速本題に入らせてもらうよ。秋本君は彼女…城咲琴音をどう思う?」
「どう思う、と言われましても……」
初対面なので何も言えません。そう言おうとして気付いた。初対面?俺と彼女が?この総生徒数が100人に満たないド田舎の学校野中で……?転校生がいるのなら既に知れ渡っているはずだ。それに、転校生だったら、彼女に対する校長の態度はおかしい。何にしても、違和感が無くならない。
「すまない、変な質問をした。彼女はね、AIロボットの最新モデルなんだ。」
そう言われて納得した。ここ数十年の間に、AIの技術はかなり進歩し、今では隣にいるやつがAIだと言われても驚かない位だ。とはいえ、このド田舎では珍しい事なのだか。
「ということは、この学校に初めて導入されたAIが彼女だと言うことですね!それで、この事が僕にどのような関係が?」
「彼女は一人目ではない」
「え……?」
多分校長は俺を黙らせたくてわざと低い声で言ったのだろうが、その事実だけで俺を黙らせるには十分だった。
「いや、私もこの学校は初めて来たから、少しでも早く生徒の名前を覚えるために記録を調べていたんだよ。そしたら去年、君のクラスメイトが一人、亡くなっておられる」
「……去年?」
そんなこと無かったはず…そう思った時、一人の姿が頭の中に現れた。
今のは誰だ?
「彼女の担任に訊いてみたけど、そんなことは無かったと言う。気になったから彼女の記録を詳しく調べてみた。彼女は成績も優秀で部活動でも選抜メンバーに選ばれている。その他、様々なことで全国に名を轟かせていた。こんな有名人なら私も覚えていると思ったが全く思い出せない。それどころか、学校中誰一人として「彼女」を思い出せなかった」
何故か腕が震える。まだ四月だというのに、汗が止まらなかった。
「おかしいと思わないか?記録はきちんとあるのに、誰の記憶にも、彼女は存在しない」
…思い出してきた。彼女は、中二の秋に交通事故で亡くなった。
まただ。何故俺には、彼女の記録が……!?
「それで先月、彼女のご両親を招いて話を聞いたんだ。そしたらご両親は二人とも世界的なAI研究者だった。そして私に教えてくれたんだ。AIには三種類あるらしくて、
一つはロボット型。普及率は一番高いね、完全なロボットだよ。例えば、そこにいる琴音のような。
二つ目は再現型。これは人間の脳をロボットに移植するらしい。なんでも、寿命が近い研究者がよく生み出しているらしい。
そして三つ目が、移植型。現在は…本来は研究、開発は禁止されている。なんでも、人間の脳を一部破壊してAIを移植するんだ」
「移植型」…その言葉が脳内をぐるぐる回り、やはり彼女へと結びついた。
「彼女のご両親は、その禁止された研究をしていたらしい」
校長は、一呼吸おいて俺に言った。
「君は…君だけは彼女を覚えているね?」
心臓の鼓動が耳に聴こえる位大きくなった。
「彼女は誰だ?名前は?」
「……」
俺は完全に覚えていた。
彼女のことも、彼女と過ごした日々も。
死んだ瞬間も、理由も、その後も…。
俺が――
―――彼女を殺したことまで。
「は?」
急に名前を呼ばれた俺は、思わず振り返ったせいでトスを頭にぶつけてしまった。
「痛っ!」
そのままの勢いで落下する。
「おいおい、大丈夫か?涼介」
「…なんか呼ばれた」
「は?」
様子を見に来たセッターのゆーたろーは、立ち上がって周りを見渡した。
「あ、ホントだ、誰かいる。しかも女子」
「おい、涼介、祐太郎、早く戻って…ってどしたの?」
注意しようとしたリベロの修也も、俺とゆーたろーの視線の先に気づく。
「なんか…呼ばれた」
「ふーん。行って来いよ、待たせたら悪いし」
「おう」
話していたら痛みも引いてきたので、俺は立ち上がった。少しクラっとしたけど普通に歩けるので、あまり支障はなさそうだ。ゆーたろーが小声で「良い結果期待してるぞ」と言ってたけど、それは無視した。
「秋本、涼介君」
「あ、はい…えっと…?」
目の前の女子が誰なのか、全くわからない。
「はじめまして、城咲琴音です」
「あ、はい…はじめまして」
「では本題に入りましょう。こちらです」
琴音は無言で歩き始めた。意外に速い。付いて行くので精一杯だ。
二人で廊下を歩く。
着いた場所は――校長室だった。
琴音は、静かにドアを開けながら言った。
「どうぞ、入ってください」
「へぇ、君が秋本涼介君か」
新任の校長。…思ったより若い。近くで見た感想はそんなものだった。…とまあ、この人は気付いていないのだろうけど。
ふと、目の前にお茶が差し出された。ただの生徒にお茶。なんとなく察しがついた。
「長話ですか?」
校長は驚いた表情で俺を見て、感心したかのように言った。
「ああ、すごいな。お茶だけでそこまでわかるだなんて、流石だ。…あぁ、琴音、座って良いよ」
言われた通り、琴音は俺の隣に座った。…あれ?何故か琴音の前にはお茶がない。しかも、校長が生徒を名前で呼び捨てなんて…不思議だな。
「すまないけど、早速本題に入らせてもらうよ。秋本君は彼女…城咲琴音をどう思う?」
「どう思う、と言われましても……」
初対面なので何も言えません。そう言おうとして気付いた。初対面?俺と彼女が?この総生徒数が100人に満たないド田舎の学校野中で……?転校生がいるのなら既に知れ渡っているはずだ。それに、転校生だったら、彼女に対する校長の態度はおかしい。何にしても、違和感が無くならない。
「すまない、変な質問をした。彼女はね、AIロボットの最新モデルなんだ。」
そう言われて納得した。ここ数十年の間に、AIの技術はかなり進歩し、今では隣にいるやつがAIだと言われても驚かない位だ。とはいえ、このド田舎では珍しい事なのだか。
「ということは、この学校に初めて導入されたAIが彼女だと言うことですね!それで、この事が僕にどのような関係が?」
「彼女は一人目ではない」
「え……?」
多分校長は俺を黙らせたくてわざと低い声で言ったのだろうが、その事実だけで俺を黙らせるには十分だった。
「いや、私もこの学校は初めて来たから、少しでも早く生徒の名前を覚えるために記録を調べていたんだよ。そしたら去年、君のクラスメイトが一人、亡くなっておられる」
「……去年?」
そんなこと無かったはず…そう思った時、一人の姿が頭の中に現れた。
今のは誰だ?
「彼女の担任に訊いてみたけど、そんなことは無かったと言う。気になったから彼女の記録を詳しく調べてみた。彼女は成績も優秀で部活動でも選抜メンバーに選ばれている。その他、様々なことで全国に名を轟かせていた。こんな有名人なら私も覚えていると思ったが全く思い出せない。それどころか、学校中誰一人として「彼女」を思い出せなかった」
何故か腕が震える。まだ四月だというのに、汗が止まらなかった。
「おかしいと思わないか?記録はきちんとあるのに、誰の記憶にも、彼女は存在しない」
…思い出してきた。彼女は、中二の秋に交通事故で亡くなった。
まただ。何故俺には、彼女の記録が……!?
「それで先月、彼女のご両親を招いて話を聞いたんだ。そしたらご両親は二人とも世界的なAI研究者だった。そして私に教えてくれたんだ。AIには三種類あるらしくて、
一つはロボット型。普及率は一番高いね、完全なロボットだよ。例えば、そこにいる琴音のような。
二つ目は再現型。これは人間の脳をロボットに移植するらしい。なんでも、寿命が近い研究者がよく生み出しているらしい。
そして三つ目が、移植型。現在は…本来は研究、開発は禁止されている。なんでも、人間の脳を一部破壊してAIを移植するんだ」
「移植型」…その言葉が脳内をぐるぐる回り、やはり彼女へと結びついた。
「彼女のご両親は、その禁止された研究をしていたらしい」
校長は、一呼吸おいて俺に言った。
「君は…君だけは彼女を覚えているね?」
心臓の鼓動が耳に聴こえる位大きくなった。
「彼女は誰だ?名前は?」
「……」
俺は完全に覚えていた。
彼女のことも、彼女と過ごした日々も。
死んだ瞬間も、理由も、その後も…。
俺が――
―――彼女を殺したことまで。
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