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ルーア・キャリル伯爵令嬢
世間から醜女と噂される私が恋に落ちたのは 第八話
しおりを挟む繋いだ手は握られたまま、行き先も知らず街を歩く。
何も話さないルーカスさんに、どこへ向かっているのか、訪ねようとした。けれど、チラリと見えた横顔がほんのりと赤く染っているのを見て、結構、何も言えずについて行った。
「あの、ルーカス様・・・」
ルーカスさんと歩くのは嫌ではなく、むしろその逆で、心地よかった。
けれど、ずっとこうしている訳にもいかない。
少し離れているけれど、小さな丘にある大きな木をみつけ、話しかける。
突然話しかけた私にルーカスさんは、振り向いて、応えた。
「どうかしましたか? あっ、もしかして、歩くの早すぎました? それとも、どこか寄っていきたい場所でも───」
「いえっ、違うんですっ。えと、あの、あ、あそこの木の下でもいいので座ってお話・・・とか、あの、ダ、ダメでしょうか・・・」
緊張で声が震え、上手く喋れない。けれど、そんな私の様子を見てルーカスさんは「ふっ」と小さく笑うと「行きましょうか」と了承すると優しくエスコートしてくれた。
そして、木の根元に着くと、自身のハンカチを芝生の上に敷き、ルーアを座らせた。
(私、今日、死ぬのかしら・・・ )
ルーアは今まで受けたことの無い“女の子扱い”に顔を真っ赤にさせたが、仮面をつけていたのでルーカスはそのことに気が付かなかった。
▽
それから私たちはお互いの事を話し合った。と言っても、つい半年前くらいまでは完全に引きこもりだったルーアは趣味の刺繍の話と最近読んだ本の話くらいしか出来なかった。
しかし、つまらないと思われていたら・・・、というルーアの心配をよそにルーカスさんは楽しそうに、そして興味深そうに話を聞いてくれる。
ルーアはそんなルーカスさんの態度が好ましく、また、少しずつ、緊張がほぐれていくのを感じていた。
ルーアの話が終われば、ルーカスさんは冒険者としての仕事について話して聞かせてくれた。
ルーカスさんから聞く話はどれも面白かった。話自体は何処にでもある様な普通の話だったが、ルーカスさんは身振り手振りでその時のことを面白おかしく語ってくれるので聞いているだけで楽しかった。
しかし、その話に出てきた、パーティーメンバーの女性にルーアは少し嫉妬してしまった。
だから、ルーアはこぼしてしまった。
───私も、一緒にいたかった。
「私も、ルーカス様と冒険というものをしてみたいです」
伯爵令嬢としては、当然、認められない発言にルーアはハッとする。
(何を言っているの、私・・・)
ため息を堪え、ルーアは軽く頭を振ると、決意を固めた。
「ルーカス様は、私の噂話を聞いたことがありますか?」
ルーアの試すような、それでいて不安そうな瞳は仮面によって遮られ、ルーカスさんには見えない。
その事をいい事にルーアは、話し出す。
「決して、他の方と付き合わないで下さい」
───これはお願いに見せかけた交渉。
私はもう、貴方以外の方と結婚するなんて、考えなれない。
たとえ、都合のいい良い形だけの妻でも、何でもいい。顔が見たく無いのなら、ずっと仮面をつけているわ。それ以外も、不満があるなら聞くから、だから・・・
───私を見て。
世間から醜女と噂される私を。
一人の女性として、貴方の未来の妻として。
他の人なんて見ないで。
ルーアはこの時、自らの心に新しい感情が芽生えたのに気づいていなかった。
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