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二度目の人生
何度でも君に恋をする(4)
しおりを挟む「なんであんな事言っちゃったんだろう·····」
部屋に一人きりになった所で、クリスティーナはつい先程の事を思い出していた。
折角この一年間、フィンに嫌われようと頑張っていたのに、自分で水の泡にするなんて·····。
失敗したわ、と苦笑いが漏れる。でも、嬉しいと思ってしまっている自分がいて、複雑だった。
年に一回·····、365日のたった1日会うだけなら、大丈夫だよね·····。
私は、フィンを諦めるのよ·····。
フィンにはアリシアさんがいるもの。きっと、物語の通りになるわ·····。
「──それにしても、何だか、七夕みたい·····」
そう思って、何となく空を見上げる。この世界に天の川なんて無いけど·····、何となく見えるかなと思ったから·····。
「私も、早く前に進まないと、ね·····」
クリスティーナはそう呟いて、部屋の窓を閉めて、最後にもう一度、空を見上げた。
──────────────────
「久しぶり! クリスティーナ、誕生日おめでとう!」
手に花束とプレゼントを持ち、フィンセントが微笑んでそう言った。
「·····ええ、ありがとう、フィンセント」
嬉しいけど、嬉しくない·····。フィンセントと距離を置きたいクリスティーナの心情は複雑だった。
今日は、クリスティーナが10才になる誕生日。前に、一年に一回会う話をしてから、フィンセントは、毎週の様にクリスティーナに手紙を送っていた。クリスティーナは、一応、マナーとして、あくまでマナーとして! ·····手紙を返していた。
意外にも、フィンセントは一年に一回という約束を守るつもりらしく、その日をクリスティーナの誕生日の日がいいと言って譲らなかった。
その結果が、今日、朝からフィンセントが家に来て、花束とプレゼントを渡すと、クリスティーナに構いっぱなしという事だった。
「クリスティーナ、次は、この本を一緒に読もう! この人の本、凄く面白いんだ!」
そう言ってフィンセントが掲げたのは、あるミステリー小説だった。確か、前世でもフィンセントと一緒にこの本を読んだことがあったわ·····と、クリスティーナは少しだけ寂しさを感じた。
「いいよ、じゃあ、ソファに座って読もう·····」
「うん!」
それから、クリスティーナとフィンセントは、時間をかけて小説を読み終えた。
そして、お互いに感想を言い合った。しかし、すごく面白かったと微笑むクリスティーナに対し、フィンセントの心は不安が募っていった。
(クリスティーナ、全然、楽しそうじゃなかった·····)
フィンセントは、物語を読みながら、盗み見ていたクリスティーナの事を思い出す。
クリスティーナは、読んでいる最中、物語の親友が殺された時も、真犯人が別の人だった時も、実は、主人公が双子だったと分かった時も·····、一度だって驚いたりしなかったのだ。
(·····もしかして、つまらなかったのかな·····)
フィンセントは、本を多く読む。その中でも特にお気に入りの作者の最新作を持ってきたのにも関わらず、クリスティーナの反応はいまいちだった。
フィンセントは、クリスティーナに取ってつけたような笑顔をさせ、気遣わせた事に、選んだ本を間違えたと、酷く落ち込んだ。
と言っても、クリスティーナと共に入れる時間は短い·····。だから、フィンセントは次の提案をする。
なんて事ない、ありふれた様な、それでも特別で、大切で、居心地の良い時間はあっという間に過ぎ、一年に一度の、フィンセントがクリスティーナに会える時間は呆気なく終わった。
次は来年、また、クリスティーナの誕生日に会う約束をして。
「またね、クリスティーナ」
「·····ええ、またね、フィンセント」
クリスティーナは、フィンセントの乗った馬車が見えなくなるその時まで、じっと、その場から動かなかった。
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