銀虎の氷を溶かすのは

月湖

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20、卒業

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それからも何度かクラスメイトの家から招待を受け、数人の貴族と顔を繋いだ。
新しい素材で織られた美しい織物や、新薬などの話を自国に伝えられたので多少は収穫になったと思う。
薬など医療の話は国民の命にも繋がる為早いうちに詳細を詰めたいところなのだが、将来自国にいるかも分からない自分が出しゃばってもと、父に手紙を書くに留まったが。
有用と判断されれば国の方で動くだろう。

そして、そんな社交シーズンが終わればいよいよ卒業だ。

最後のテストで学年総合1位だったため卒業式で答辞をと打診されたが、卒業と同時に帰国が決まっている自分よりも自国民の方がいいだろうと辞退した。
俺に打診してきた教諭達は、答辞ついでにティガーレルの王子である私にこの国レオドーグとの友好関係を強調してくれればと期待していた部分もあると思うが、それは今更私が言わずともよい事だろう。
契約を交わさずとも、互いに歴史ある二大国は巨大な山脈を挟むが隣国として長きにわたり友好関係にある。
誰が口にせずとも分かっている事を、王太子でもない私が口にするのは憚られる。
卒業式となれば、各国からの留学生の親なども参列するだろう。
髪や瞳の色、肌の白さ、ティガーレル王家の色をすべて継いだ私。どこからどう見てもティガーレルの王子であるそんな私が答辞をとなれば、学生生活を過ごしたこの国レオドーグとの関係を口にしないというのはあまりに不自然で、そうなれば周囲にいらぬ不審を招くだろうし、逆にしても自国の王太子を差し置いてと口さがない者は言うのだ。
生まれた時より可愛がってくれた一番上の兄は大国の王太子に相応しい威厳を持ち、時代の王は彼だと兄弟全員が長兄の王位継承に納得している。
当然継承争いなど皆無なのだが、どこにも茶々を入れてくる者はいる。
そういう奴らを寄せない為にも、余計な発言は避けておくに限るのだ。
そうして、私が固辞した答辞は、次点にいたレオドーグの宰相の令嬢が担うことになった。
彼女は前生徒会長も務めた才媛である。彼女こそ大役に相応しいだろう。

「学食の数量限定ドーナツで手を打ちますわ」

ちゃっかり言われてしまったが、彼女には学生生活を穏便におくる上で(主に人間関係で)世話になったので、素直に進呈しておいた。





迎えた卒業式の日は晴れの日に相応しい快晴だった。
そしてその卒業式が始まる30分前という慌ただしい時間に学園長室に呼び出されたのがルークスである。

「兄上・・・!?」
「ははっ!元気そうだなルークス!」
「兄上こそ・・・」

そこには、ティガーレルの王太子である長兄が待っていた。

「え、姉上が来ると聞いていましたが」
「ああ、あれの婚約が内定して立て込んでいるのでな。父上が参列すると張りきったのだがさすがにまずいだろう?なので私が来たのだ。可愛い末っ子の顔も見たかったのでな」
「王太子が来るのも変わりないかと思いますが・・・」

ぐりぐりと頭を撫でながら嬉しそうに言われるとあまり強くも言えない。

「それにしても3年見ない間に大きくなったな。
ティガーレルで見送った時には私の胸までもなかったのに」
「それでも兄上の方が大きいですけどね」

この3年で30センチほど背が伸びだのだが、それでもこの兄に10センチほど及ばない。
別に私が小さいんじゃない。兄上が特別大きいのだ。

「私はもともと大きく生まれたからな。
それよりも、父上の手のひらに乗ってしまうほど小さかったお前がこれほど大きくなった事が感慨深いよ。
あまりに小さくて、最初は抱っこするのも怖かった。
そんなルークが・・・」

国民の前では威厳ある王太子なのに、家族の前では感動屋なのは変わらない。
私の頭に大きな手をのせたままくしゃりと顔を歪ませた。

「ああ、ほら、学園長先生が驚いているでしょう。泣かないでください」

ハンカチを取り出しながら兄の後ろに立つ学園長を見れば、大国の王太子の弟溺愛具合に驚き目を見張っていたが、私が視線を向けると目を細め苦笑していた。

「卒業式が終わればレオドーグ王に辞去の挨拶をして、すぐに帰国するのだろう?寮からの退去は侍従に用意させておくから、式が終わったらそのまま私の元に来なさい。一緒に行こう」
「はい」

最後にそう言葉を交わし、ざわざわと落ち着かない教室に戻ればすぐに会場に移動した。
旧友と一言二言会話をしながら廊下を歩けば、レオドーグで過ごした3年間の思い出が蘇る。
自然、ディーの事も・・・。


・・・もう、終わったことだというのに。
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