限界OLと守衛さんの秘密

國樹田 樹

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次元規模の秘密

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「沢城《さわしろ》さん、これやっといてね。もう時間無いから、頑張ってね~?」

「はあ……」

(時間無いのわかってるなら押しつけないでよ……)

 ビル群が夕日の影に飲み込まれる間際、向かい側の席から飛んできた嫌味に顔を引き攣らせながら、沢城律《さわしろりつ》は厚み五センチほどある書類の束を受け取った。
 本心では全力で拒否したい。しかし相手は先輩社員である。

 それも五十代にもなって自分のことをわざわざ「ボス」だと称しているちょっとアレな人種だ。
 それを聞いた時、律はいつの時代だよジャイ○ンか、と頭の中だけで突っ込みを入れた。

 パワハラだのコンプライアンスだのが声高に叫ばれる昨今、こういった人間はSNSなどで晒せば一発炎上間違いなしだろう。

 だが実際のところ、そう簡単に人を晒したり出来るはずもない。

 職場の内部情報、それも個人情報を暴露だなんて、普通に仕事を失うリスクの方が高いし、下手をすれば訴訟ものである。

 苛立ちをため息に紛れ込ませて、律は他人に仕事を押し付けて帰宅するお局社員の太ましい背中を見送った。


「―――よっしゃ! 終わったあーっ」

 誰もいない暗いオフィスで一人、両手を天に掲げてやや抑えめの雄叫びを上げた。
 背中をぐっと伸ばせば椅子の背もたれがぎしりと軋んだ音を立てる。

 酷使した目はすでに限界だ。ドライアイを飛び越えてそろそろ角膜が干上がってしまうのではなかろうか。少しでもマシになってくれと思いながら、眉間を指先で強めに抑え目を開く。
 すると煤けたオフィス街の夜景を切り取った窓が視界に入った。

 丸く浮かび上がる光の群れは鮮やかだが綺麗だとは思えない。そんな景色に薄くかぶさるように反射しているのは、ぼんやり白いLEDライトに照らされたデスクと疲れた女の顔だった。

 この光景にも最早慣れきってしまった。勿論本意ではない。

 しかしこれが、たぶん今時の社会人というやつで、律が学生時代に思い描いていた「真っ当な大人」の姿であるはずだ。
 全然、まったく、夢も希望もないけれど。

(あ~……終電ぎりぎりだわこれ。どうしよ。もう漫画喫茶にでも行こうかなぁ)

 フロアの時計に目をやれば既に針は真上を差している。会社から駅まで全速力で走ったとしても、間に合うかどうかの時間帯だった。

 律はやさぐれながら、席を後ろに引いて机の上にごつりと顎を乗せた。

 もう肩は鋼のようにガチガチで、延長するように腰の方までずしりと鈍い痛みが走っている。
 デスクワークには付きものだけれど、俗に言う金曜日の夜だというのに疲れ切って重たい身体はもう何の気力も残っていない。

 帰宅するにしたってそれなりの体力が必要だ。全速力で走るなど今は到底無理である。
 普段は当たり前にこなしている、会社から駅まで歩いて電車を乗り継ぎし、また駅から自宅アパートへ帰るという力が、律の身体からはもう根こそぎ無くなっていた。

「つ、かれたぁー……」

 首を傾け机にそのままこてりと頭をもたげる。
 頬に冷たい机の感触があたり心地よい。このままだと眠ってしまいそうな気がして、億劫だが緩慢な動きで身体を持ち上げた。

 まっすぐ席に座り直したところで再び深いため息を吐き出す。もう一ミリも動きたくないけれど、律の会社は泊まり厳禁なのでひとまず外に出るしかない。

 仕方なく帰社する準備を始め、机の上にある筆記用具やポーチなどを適当にバッグに詰め始めた。

(これもかなり使い込んだなぁ……)

 数年前に購入した、もう端っこがすり切れた革のバッグはそのまま持ち主の自分を表しているようだなと律は思った。見るからにくたびれている。

(次の休みは身体のケア日にしよう……)

 行きつけのマッサージ店のカードがそろそろいっぱいになることを思い出しながら、バッグのジッパーを端まで締める。
 その時だった。

「―――こんばんは律さん。今日も残業お疲れ様です」

 背中に掛けられた声に律が振り向くと、オフィスの入り口でひょっこり顔を覗かせている男性がいた。

 つばのある紺色の帽子に、青い警備会社の制服姿は最早見慣れている。
 その顔を見て、律の口角が自然と上がった。どっと疲れていたはずの身体に、少しばかりの気力が戻って来る。

「守衛さん、どうもこんばんは。見回りですか?」

「はい。このフロアで最後です。歩いていたら明かりが見えたので、律さんだろうなと思って」

 柔らかに微笑みながらそう言って、守衛さんと律が呼んだ男性はオフィスの入口をくぐり中へと入った。
 青いスラックスから伸びた安全靴が床をコツコツと叩く音は小気味よく、彼が手にしているライトはまるで道標のようだ。

 そんな守衛さんの帽子の下から覗いた瞳には、律を労うような優しさが滲んでいた。
 どうやら彼は律が居ることを見越してこのフロアまで来てくれたらしい。
 まあ、この会社でこんな時間まで残っているのは律くらいのものなので、予想通りだったというところか。

「にしても律さん。時間、もう大分遅いですよ?」

(わ……っ)

 目の前まで歩いてきた守衛さんは、腰を屈めて律の顔を覗き込みながら苦笑した。その気安い距離感に、思わずどきりとしてしまう。

 青い守衛帽のつばが彼の顔に丸い影を落としている。黒い影の中できらりと光る両の瞳はダークチョコレートに金粉をまぶしたみたいに輝いていて、高い鼻梁はまるでレトロ映画に登場する俳優さんのように華やかだ。

 微笑む面は優しげなのに、制服の上からでもわかる引き締まった体躯は男らしく、手も足も何もかもが律より大きい。

 少しだけ圧倒されながら、律は平気な振りでいつものように軽く肩を竦めて見せた。

「毎度のことなので。守衛さんもこんな遅くまでお疲れ様です」

 慣れたものだとへらりと笑って返せば、律が一方的に「守衛さん」と呼んでいる彼は、形の良い真っ黒な眉を困ったように下げて苦笑した。

「こんな時間に慣れちゃ駄目ですよ」

 言って守衛さんが目線で差したのは、オフィス備え付けの時計だ。暗がりで見る天井近くの時計は文字の下地が仄かに青白く見え、夜の深さをより一層強調している。針の位置は先ほど律が見たときより傾いて、真上より少し右に入りつつある。

 指摘された律は「ですよねぇ」と付言しつつうんうんと頷いた。

「あ、そうだ。良ければこれどうぞ」

 そんな律に守衛さんがライトを持っていない方の手を差し出してくれる。

 がさり、という音と共に律の胸元に差し出されたのは白いビニールの買い物袋だ。
 律の目が瞬く。

「わっ。すみませんいつも……あ、これ……!」

 受け取って中を覗き込むと、袋内には律の好きなコーヒー牛乳のパックがひとつと、この会社の向かいにある人気のパン屋さんの玉子サンドが入っていた。お昼にはすぐに売り切れてしまう人気の品だ。
 顔を上げ、驚いた顔を見せる律に守衛さんはくすりと笑ってみせた。

「以前、律さんが好きだと言っていたので」

「覚えててくれたんですか?」

「はい」

 袋の中身に感動する律に、守衛さんが優しく応えてくれる。
 確かに、以前もこうして彼と残業中に会話した際、あの店の玉子サンドが中々買えなくて悔しいと言った事があった。だが、それだけだ。

 会話の中に混じった少しの文章を、彼はきちんと掬い取り覚えていてくれたらしい。
 些細な内容だったにも関わらず。

 そのうえ買ってきてくれたのだという二重の感動で、思わず律の目が潤みそうになった。

 なんて良い人なのか。前々から知ってはいたが。
 深夜残業あがりの心に、この気遣いはかなり染み入った。

「買うの大変だったんじゃないですか? あのお店、開店と同時に行列が出来ますし……」

「ちょうど出勤前だったので」

 それでも並んで買わねばならなかったはずだ。なのに何でも無いことのように言う守衛さんの心遣いが嬉しくて、律は満面の笑みで彼に礼を言った。

「ありがとうございます。次は私も何か持ってきますね!」

「ふふ。気にしないでください。好きでしていることなので」

 ゆるゆると首を横に振りながら、守衛さんが穏やかに言う。
 かっちりした制服姿だというのに、まるで日だまりのような雰囲気を持つ守衛さんに、律は深夜残業でくたびれた気持ちがほっと緩んだような心地がした。

「いえいえそういうわけには。守衛さんのおかげで私も頑張れていますので……あ、どうぞ座ってください」

 律はデスクの上に受け取った袋を置くと『いつものように』自分の隣のデスクの椅子を守衛さんに勧めた。ついでに、内心で今度は守衛さんの好きなスイーツを三種類は用意しておこうと決める。

「お邪魔します。……まあ俺も、律さんのおかげで頑張れていますから、おあいこですね」

 椅子に腰掛けた守衛さんはそう言って、真っ黒な……角度によっては黒目の中が不思議ときらきら光る瞳を細めて微笑んだ。

 その綺麗な色合いに、律の目が惹き付けられる。

(やっぱり綺麗な色だなぁ。隔世遺伝って言ってたけど……一体どこの国なんだろう?)

 守衛さんの黒い瞳は、時折星を散りばめたように細かく輝く時がある。当人曰く、古い先祖からの遺伝らしい。クォーターとか、そういう感じのようだ。
 律が見とれていると、にっこりと効果音が聞こえそうなほど嬉しそうに笑った守衛さんがデスクの上の袋を指差した。

「それ、どうぞ食べて下さい。俺も歩き疲れたので、ちょっと休憩しますね」

 言って守衛さんが上着のポケットから缶コーヒーを取り出した。どうやら自分の分は用意していたらしい。律ははっと我に返り、少し恥ずかしいのを誤魔化すように袋にがさがさと手を入れた。

「で、では遠慮なくっ」

 袋の中のコーヒー牛乳と玉子サンドを取り出し、デスクの上に並べた。玉子サンドの白と黄色が深夜残業の目に眩しい。何て綺麗な三層だろうか。所々、玉子の白身がアクセントになっているのが見事である。

「いただきます!」

「はい、どうぞ」

 守衛さんが缶を開ける音と、律がストローを刺す音が、夜のオフィスに小さく響いた。

 ―――こうして、今夜も律と守衛さんの秘密の夜会が始まったのである。
 

***
 

 守衛さんとの出会いは、ちょうど今から三ヶ月ほど前のことだ。

 その日も今夜のように残業が長引いた深夜だった。

 連日の残業続きでへとへとになっていた律を追い込むように、お局に押しつけられた仕事を片付けていたところ、ふいに彼がオフィスに現れたのだ。

「ぎゃ!」と驚きで声を上げた律に驚いたのは守衛さんの方で、まさかこんな時間にまだ残っている人がいるとは思わなかった、とは今や互いに笑い話になっている。

 その日から時々顔を合わせるようになり、言葉を交わすようになり、今となってはこうして夜食まで持ってきてくれるような間柄になったのだ。

 無論、律もタダ飯ばかりしているわけではない。

 守衛さんは律にも負けず劣らずの甘い物好きなスイーツ男子なので、巷の女子に人気のショップで購入した、チョコの詰め合わせだとかカップケーキだとかを差し入れしたりしている。

 本人曰く、一人で買いに行くのは中々に勇気がいるため助かっているらしい。

 というわけで、律と守衛さんは文字通り持ちつ持たれつの関係なのだ。

「そうだ律さん、駅前にシュークリームの専門店が出来たの知ってますか?」

「もしかして前にペットショップが入ってたところですかね? 改装してるなぁとは思ってたんですけど……シュークリームの専門店かぁ。気になりますねえ」

「ね」

 守衛さんが話してくれる穏やかな話題に耳を傾けながら、律は今夜の夜食を思う存分堪能した。

 しかし、人間腹が膨れるとどうしても、疲れているとより一層襲ってくるものというのがあるわけで。
 おまけに守衛さんはとても良い声をしているのだ。

(はあ~、お腹いっぱい……それに守衛さんの声、癒やされるわぁ……)

 低過ぎないアルトの声音とゆったりした抑揚は、さながら森の子守歌のように心地よく、律の視界は段々とぼやけ始めた。首もぐらぐらと揺れ、頭が船を漕ぎ始める。

 浮遊する意識をなんとか繋ぎ止めんと踏ん張るが、どうにも睡魔の威力の方が強い。

「―――律さん、大丈夫ですか?」

「ん……? あ、ご、ごめんなさいっ。寝落ちするとこでしたっ」

 うとうとしていると守衛さんがひょこりと顔を覗き込んできたので、律は慌てて顔を上げ口元を拭った。涎はセーフである。
 だが寝かけていたのはバレているので若干アウトだ。

(や、やばい寝てしまった……っ)

「お疲れですね……ほら、ここ。目の所。隈になってますよ」

「ひえ」

 失礼な事をしてしまったと申し訳なく思っていると、守衛さんが唐突にずいっと顔を近付け、律の目元にそっと指先で触れた。男の人の少し大きな母子で目尻の下をするりと撫でられる。

 それがあまりに早業で、律はただ呆然と享受するほかなかった。

 が、そのせいで一つのことに気がついてしまう。

(か、顔近っ! って、え? 待って? 守衛さんって、こんなに美人だった!?)

 不思議な瞳の色のことはわかっていたが、普段は会うのが夜であることや、帽子と柔和な笑みのせいでそこまで意識していなかったのかもしれない。
 けれど間近に見れば守衛さんはとても端正な顔立ちをしていた。

 帽子のつばの下に見える黒い髪からはきりりとした男らしい眉が覗いているし、瞳はいつも弧を描いているから気付かなかったが横に大きく鋭さがあり、じっと見つめられると綺麗な色に吸い込まれてしまいそうだ。

 また鼻筋は筆で描いたがごとく真っ直ぐで、彫りも深く日本ではない異国の血をありありと感じた。
 まさか守衛さんがこんなにも涼やかで男性的な美しさを持つ人だとは思いもよらず、律は至近距離にも関わらずまじまじと守衛さんの顔を眺めてしまう。

(嘘ぉ……睫毛何センチあるのこれ? 綿棒五本くらい乗りそうなんだけど? それにあれ? この人こんなに……身体つきも、こんなにしっかりしてる人だった??)

 顔をがっつり視認した後に襲ってきたのは、守衛さんの首から下が服越しにもわかるほどしなやかな筋肉に覆われているという事実だった。

 上背があるのは知っていた。が、これほど、太い首元やその下の思ったより厚い胸板や、きゅっとくびれているのにしっかりした腰元をしているなんて、今になって初めて知った。
 律の方に向いている膝から太腿のあたりにも、形良い大腿筋の造形が見て取れる。

(え、え? 今更? 今更気付いたけど、この人ってもしかして、もの凄く格好良い人なのでは??)

 律は自分でも驚いていた。

 だが守衛さん本人の物腰が謙虚で柔和なため、今の今まで彼の容姿についてほとんど認識できていなかったのだ。会うのがいつもへとへとに疲れた深夜残業中だったことも関係しているかもしれない。
それにこれまでは、こんな風に『守衛さんと近付く』なんて事はなかったから。

「ふふ」

 狼狽える律を見て、守衛さんはどこか嬉しそうにふわりと笑う。
 いつもとは少しだけ違う、どきりとしてしまうような微笑だった。

(守衛、さん……?)

 今彼は何を考えているのだろう、と律はふと思った。

 だけど何も無いはずだ。
 だって律と守衛さんは、ただこうして夜に他愛ない会話をするだけの、食べ物を貰ったり上げたりするだけの、それだけの関係なのだから―――けれど先ほどから、ずっと、顔が近い。

「律さん眠そうですし、そろそろ帰らないと。明日もお仕事早いんでしょう?」

 守衛さんがゆっくりと、律の目元から手を離す。同時に近づいた身体も遠ざかり、彼の気配が側から消えていく。
 それにどこか置いていかれたような寂しさを感じ、律ははっと我に返りながら目を瞬いた。

「あ、そう、そうですねっ。明日も出勤なので……」

 言いながら、律は心に隙間風が吹いたような感覚と、明日のことを考えて深い溜め息を吐いた。
 守衛さんとの時間が終わってしまうのが残念なのはもちろん、また明日というより今日だが仕事に来るのを思うと気分がどうしても落ち込んでしまう。

 そんな律の様子に、守衛さんが心配そうな顔をする。

「どうしたんですか?」

「あ、いえ……帰らなきゃとは思うんですけど、帰って寝たらまたここにこなくちゃ行けないんだと思うと……あ、いえ、守衛さんとこうしてお話しするのは楽しいんですが、仕事がですね」

 普段は言わない愚痴が、守衛さんと離れる寂しさでつい口を突いて出てしまう。駄目だとわかっているのに話してしまうのは、相手が守衛さんだからだろうか。

「やっぱり大変ですよね」

「みんな大変なのはわかっているんですけど……かといって転職するのもこのご時世じゃ大変ですし、私は大した資格があるわけでも無いんで……って愚痴ってすみませんほんと」

 聞いてくれる守衛さんに、悪いなと思いつつ胸の曇りを吐き出してしまった律は、最後に慌てて謝罪した。すると、守衛さんは優しく笑いながら首を横に振ってくれる。

「いえいえ。俺も律さんにいつも話を聞いてもらってますから。……でも、辛かったり、しますか。毎日が」

 言葉の最後にそう彼に尋ねられる。その瞬間、黒い瞳がきらりと光った気がした。

「そう、ですねえ……時々はやっぱり。たまに、もう別の世界にでも行ってしまいたいなぁって思う時がありますね……」

 守衛さんに促されるように、律は我知らず本音を口にしていた。

 自分でも馬鹿な事を言っていると思うが、たぶんもう、限界なのだろう。毎日毎日、お局からの嫌がらせに耐えるのも。上司の嫌味を受け流すのも。サービス残業で日付を跨ぐのも。
 ちゃんとした生活がしたいのにどんどん貯まっていく洗濯物に溜息を吐くのも。
 その数倍の速度で蓄積していく身体と心の疲労も。全部。

 そうして必死に稼いだお給料が、税金で馬鹿みたいに少なくなったのを見るのも、もうすべてが限界なのだ。

 だから、別の世界だなんて夢みたいな言葉を口走ってしまったのだろう。

「別の世界……異世界、とかですか?」

 そんな律の戯言を、守衛さんは笑うことなく、ただ穏やかな表情で繋げてくれる。

「ああ流行ってますよねえ、そういう漫画。守衛さんも読んだりするんですか?」

 意外だなと律が思っていると、守衛さんは少しだけ笑みを深めてゆるゆると首を振った。

「いいえ。読まなくてもわかるので」

「? ああ、大体ストーリーって似通ってますもんねぇ」

 守衛さんの返答に一瞬だけ疑問符が浮かんだが、昨今の男子なら異世界漫画くらい読んでるか、と思い直した律は意外だなんて決めつけて悪かったかと少し反省した。
 そんな律に、守衛さんはにこにことどこか上機嫌で話を続ける。

「ふふ、そうなんですね。律さんも行きたいと思います? 異世界」

「そうですねぇ。ここより良い場所なら行きたいですねえ……」

 守衛さんの可愛らしい質問に、律は素直に答えた。他愛の無い話だ。異世界に行けたら、なんていう話題は。きっと明日になれば忘れてしまっているだろう。だけど、そのくらいの現実逃避なら誰だってしているはずだ。それが守衛さんとこうして気安く話せるのが、律はとても嬉しかった。

「んー、どうでしょう。まあ仕事はしなくても大丈夫ですが」

「それ最高じゃないですか……」

 守衛さんの読んだ異世界漫画では仕事をしなくても生きていけるらしい。どういった話なのだろうか。作品名を教えて貰おうかなと考えながら律が感想を述べると、守衛さんはふ、と―――より一層、にこやかに笑った。

「……じゃあ、行きますか?」

「え?」

「ご招待しますよ」

 言って、守衛さんがおもむろに椅子から立ち上がり、それから律に片手を差し出した。律はそれを、座ったままぽかんと見上げている。
 守衛さんはまるで律をダンスにでも誘うように、片手を胸に添え、律に手のひらを差し伸べている。
 それもとても優雅に。

「へ……? って、あっ、なるほど!」

 呆然としていた律だったが、すぐに理解した。守衛さんは、冗談を言っているのだ。
 そう思った。
 当たり前だ。だって実現しようがないのだから。
 だというのに束の間、守衛さんが着ている制服がさながら貴族の正装のように見えたのだから、残業疲れとは恐ろしいものである。

(守衛さんもこういうの言うんだなぁ。意外だけど……乗っちゃうか)

 深夜テンションか、もしくは疲労によるハイなのか、律はくすくす笑いながら守衛さんの冗談に乗ることにした。

「じゃあ、連れて行ってくれますか?」

 言って、律は守衛さんの手に自分の手をのせた。
 嬉しかった。他愛の無い冗談でも、こうして束の間の夢を見させてくれたことが。

 律が手をのせると、守衛さんがぐっとその手を掴んでくれた。思いの外強く握られたことに、律がぱっと目を大きく開けた途端、極上の―――まるで、この世のものとも思えないほど美しい艶麗な笑みが見える。

「はい。喜んで」

 にこり。

 笑った守衛さんの制服が、ぱっと弾けるような光を帯びた。
 思わず律が目を閉じ、次に開けた時には、守衛さんは一瞬で見たこともない服装に様変わりしていた。

「え?」

 律が知っている紺色の警備服ではない。形は軍服に近いかもしれないが、濃い深緑色に銀の刺繍がちりばめられた、まるでどこかの王族の婚礼服のような始めて目にする精微な衣装だ。それに守衛帽子はどこかに消えて、今彼の黒髪はすべてが露わになっている。先がつんと跳ねた無造作だが艶やかな毛先はさらりと流れて、彼の精悍な額を飾っていた。
 それどころではない。変わったのは守衛さんの衣装や髪だけではなかった。

「え、と……?」

「ふふ。やっと二人になれましたね」

「え、ええ?」

 律の世界、すべてが変わっていた。会社のオフィスにいたはずなのに、しかも深夜だったはずなのに、あたりは明るく昼の光が煌々と差している。

 白い帯状の光が優しく照らしているのは目にも鮮やかな庭園だ。

 緑と美しい色とりどりの花々が咲き乱れ、柔らかに吹く風には馥郁たる芳香が漂っている。

 ざあと聞こえているのは噴水ではなく滝だ。巨大な滝が目を向けた方角の奥で白い飛沫を上げている。 それも出所は天空というか空中だ。

 虚空から突如吹き出した滝が庭園の小川に向かい流れ落ちていく様は何ともファンタジックでミラクルである。滝の水を受けた小川は幾つにも枝分かれし、静謐な煌めきを放っていた。

 水と緑に溢れた世にも美しい天滝の庭園―――それをぐるりと囲う建物―――はどこからどう見ても白亜の宮殿で、律は急激な環境の変化に目を白黒させた。

「ずっとこうしたかったんですよ」

「いや、その、あれ???」

 夢だろうか。

 律は混乱する頭で考えた。けれど、鼻も耳も目も、律の五感すべてがオフィスでは感じることがないはずのものを拾っている。爽やかな風に芳香、それにいつの間にか守衛さんに抱きしめられていて、彼の胸板の厚みやら体温やら、腰に回った腕や綺麗すぎるご尊顔やらが近すぎる距離にあることなどもすべて、恐ろしいほど綺麗に認識できていた。

「すみません。騙すような真似をして」

「あの、何て言えばいいのか……私、もしかして拉致されました? というか、誘拐?」

 律はひとまず今居る場所は全く知らない未知の場所であることと、連れてきたのが守衛さんであるということだけを理解した。そして導き出した結論がこうだ。

「あー、うん。まあ……近いですね」

「近いじゃなくて、そのままでは?」

 律の結論を聞いた守衛さんが上から律を見下ろして苦い顔をする。けれど抱きしめたままで離してはくれない。かといって腕を突っぱねようにも胸の間に挟まれている。
 なので、律は守衛さんの綺麗なお顔を至近距離から見上げるほかない。
 正直、心臓が持たないので離して欲しいのだが。

「嫌でしたか?」

 守衛さんは少しだけ悲しそうに、眉尻を下げて捨てられた子犬のような顔で律に尋ねた。

「嫌というか……帰れ、ますか?」

「うーん……」

 律が至極最もに聞き返すと、守衛さんが口ごもる。それを見た、律の顔が引き攣った。守衛さんは考え込むように首を傾げているが、帰れるどうこうより違う部分について思案しているように律には見えた。

「帰す気あります?」

「そもそも帰りたいです?」

「え……」

 確信を突こうと聞いたことに間髪入れずに返される。まさかそう言われるとは思わず、律は面食らうと同時に喉を詰まらせた。その時、守衛さんがじいと食い入るように律を見つめてくるものだから、互いの視線が絡み合う。まるで本心を言えと詰められているような心地がした。

(帰りたい、か? 私、元の世界に帰りたいの?)

「う……その」

「律さん、俺の目を見てください」

 どう答えれば良いか、そもそも自分はどう答えたいのか考えていると、守衛さんがずいと顔を近づけて、最早鼻と鼻がくっつきそうな距離でそう告げた。

(ち、近い……っ! あ、けど、すごく綺麗……)

 守衛さんの目は、オフィスに居たときとは比べものにならないほど輝いている。それどころか、黒い虹彩に明らかに金色が光っていて、まるで夜空に瞬く星に魅入られてしまいそうな心地がした。

「律さんさえ嫌でなければ、ここで暮らしませんか? 俺と」

「守衛さんと?」

 近いままの距離で、守衛さんがにこりと笑って提案してくる。

 律は少しだけぼんやりする頭で復唱した。不思議な気分だった。守衛さんに抱きしめられていて、腰はぐるりと彼の腕に囲われている。逃げ場はなく、胸はどきどきとやたらめったら五月蠅いのに、頭だけがどこかぼうっとしていた。あまりにも綺麗な守衛さんの瞳に、きらきらと輝く金色が弾けるのが見える。まるで夢見心地だ。

「はい。あ、まだ本名を名乗っていませんでしたね。こちらではシュバル・ランドゥーサと言います。シュバルと呼んでくださいね」

 律がぼうっとしていると、守衛さんが少しだけ顔を離して名前を教えてくれた。その距離にほっと安堵しつつ律は脳内で彼の本名を復唱する。
 シュバル。思い切りカタカナである。

「めちゃめちゃ異世界ネームですね……」

「ダサいとか言われたら泣きますよ?」

 守衛さんの本名を聞いた律が素直に吐露した感想に彼―――シュバルはくすりと喉を鳴らして笑った。男らしい喉仏が動くのを、律はぼうっとした頭で眺めた。

「泣くんですか。まあ、似合ってると思いますけど」

 つい見とれていたことに気付いて視線をちらりと余所に反らせる。本音だった。シュバルという涼やかで強さのある響きは、夜の色と輝きを持つ守衛さんにとても似合っている気がした。
 
 それよりも―――守衛さん、いやシュバルはこんなにも素敵な男性だったろうか?

 いや確かに綺麗な人だとは思ったし、元々交流があって良い人だとは思っていたけれど。それでも今は格段と―――彼が魅力的に思える。

 そうたとえるなら……すべてを投げ打ってでも彼の傍に居たいと思う女性は、山ほどいるだろうな、なんて考えてしまうくらいには。

「似合って、ますか。ふふ、律さんにそう言われると嬉しいですね。というより、律さん思ったより落ち着いてますね?」

「いえ、理解が追いついてないだけで内心は割と混乱しています」

「そうなんですか」

 思ってもいなかったことを指摘されて、まさかそんなわけがないと説明した。突然様変わりした世界にも十二分に驚いているし、守衛さんが異世界人らしいことも、そして抱きしめられていることからなんとなく想定できる彼の気持ちについても、そんな彼にどきどきしてしまっている自分の心境にも、律はすべてに驚いて混乱していた。

 けれど慌てふためいたり暴れたりしていないのは、相手が見知った守衛さん、シュバルであり、彼がただ自分を優しく抱きしめているだけ(だけというのは語弊があるが)なことも大きな理由だろうか。
 身の危険を感じていないから、こうもぼんやりぐるぐる考えられるのだろう。

「はい。あと多分、直近の危険が無さそうだから、というのもあるかもしれません」

「危険……は、無いとは言い切れませんけどね」

「え」

 考えていなかった危険についてシュバル自身に否定されて、律は一瞬思考を停止させた。やはり異世界ともなれば命の危険を伴う事態は切り離せないのだろうか。だとしたらちょっと困る。

「もしかしてモンスターとか出るんですか? 私食べられたりとかします?」

「うーん、魔獣的なものはここには来ないので大丈夫ですが……食べられる、のはあるかもしれませんね。少し意味は違いますけど」

 律の質問にシュバルはにこりと笑いながら、しかしよくわからない返答を返してきた。それに、律は頭に幾つもの疑問符を浮かべる。

「??? 魔獣が来ない? では安全ってことでよろしいですか?」

「そう安心されても困るんですが」

「どっちなんですか?」

 シュバルの言葉の意味がわからず律は首を傾げるばかりだ。結局どうなのかが知りたくて、今度は自分からずいと顔を彼に近づけてしまう。
 すると、シュバルは一瞬瞳を開き、それからふわりと優しく笑った。

「命の危険は無いので安心して大丈夫ですよ」

「そ、そうですか……」

 そして、律を宥めるように言ってくれる。けれど、突然律の腰がぐっと彼の腕に引き寄せられた。
 おかげで律とシュバルの身体が今までよりもっとぴたりと密着する。

(っ)

「貞操の危機はありますけど、ね?」

「って……!?」

 貞操、という穏やかでない単語に律が目を剥くと、シュバルは悪戯が成功した子供のように唇の片方だけをくっと上げて、今度は律の耳元に顔を寄せた。

「その場合、主に俺が危険ということになりますね……ん」

「っ……!?」

 そう囁いたシュバルは、そのまま律の耳の横あたりに軽く口付けをした。その衝撃たるや律を硬直させるには十分で、耳奥に注ぎ込まれた欲を含んだ声音と、鼻先を掠めたシュバルの男性らしい香りに律は頭を殴られたような気分になった。

 するりとシュバルが顔を離し、律を見つめた。瞳は蕩けそうに甘く、彼の恋情をありありと伝えてくる。

 律は彼の黒い瞳に映った自分の顔が真っ赤になっているのを認識した。夜空の瞳に茹で蛸の女が一人見えている。あまりの恥ずかしさで、律は今なら帰る、と言えそうな気がした。
けれど。

「ねえ律さん。俺は貴女が好きです。……どうか、俺の家族になってくれませんか?」

「か、ぞく」

 その言葉を、シュバルの先手によって封印されてしまう。律は無意識に彼が告げた単語を復唱していた。

「俺なら「おかえりなさい」も「いってらっしゃい」も、毎日律さんに言うことが出来ます。もしも俺の裏切りが怖いなら、解けない契約を結ぶことも可能です。たとえ何があっても貴女が困ることのないようにします。だからどうか……俺と一緒にいてくれませんか。律さんと二人で、これから歩いていきたいんです。……独りじゃなくて」

 ジュバルが、守衛さんだと律が思っていた人が、真っ直ぐ律を見つめて言った。
 腰を抱く彼の両腕は熱く、そして離したくないとばかりにがっしりと律を捕らえている。
 逃げ場はない。けれど、恐くもない。
 律はシュバルの黒い瞳を見返しながら、彼の目の中に自分の答えを探した。

(私……どうしたい?)

 律には、家族がいない。
 社会人になって二年後に両親が事故で亡くなり、兄弟もいないうえ、親戚とも疎遠だった。
 ほとんど天涯孤独状態で、律は一人で働き、一人で生きてきた。
 何かあっても誰にも頼れないという孤独は、きっと経験したものにしかわからない。

 だから。
 好きだと言われて、家族になろうと言われて。
 一緒に、二人で歩いて行こうと言われて。
 嬉しくないわけがなかった。

「如何ですか? 永久就職かつ完全保証付き」

「条件良すぎませんかそれ」

「それだけ俺は、律さんが欲しいんです。……あの世界に行って貴女を初めて目にした時―――俺は恋に落ちた。世界が違えど同じ孤独を抱えている律さんに、強烈に惹かれたんです。擬態して貴女に近付いて、一緒に夜食を食べて、他愛ない話をして、律さんを知れば知るほど愛しくなって。機会が来れば必ず、連れて行こうと思っていました。……たとえ、攫ってでも」

 ぐ、と再び腰を抱く腕に力が込められる。シュバルの黒い瞳にじわりと闇が広がったように律には見えた。なのでその腕を、ずっと互いの間に挟まれていた片手を出して軽くぽんぽん叩いてやる。
 すると、闇が綺麗な夜空に変わった。

「最後がちょっと不穏ですけど、気持ちはとても嬉しいです」

「それは……どういう……?」

 律の返答の真意が汲み取れないのか、シュバルは不安げに瞳を揺らし律を見つめた。
 それに、律は微笑みで答えてやる。

「そうですねぇ。簡単に言えば………私だって何とも思ってない男性とあんな風に、深夜に二人で過ごしたりなんてしないですよ、って意味でしょうか」

「律、さん」

 元々、守衛さんとの始まりからして好印象だったのだ。男性として意識したのは正直言ってたった今だが、それ以前に人としてとても好んでいるという背景がある。
 そして今、律の胸はどきどきしっぱなしだ。これはきっと恋に落ちた音だろう。だってこんなにも、シュバルが愛おしくて仕方がないのだから。

「まあ、普通こんな風に攫うように連れてこられたら、もっと警戒した方が良いんでしょうけど―――好きになってしまったら、仕方ないですよね?」

「っ……!」

 律が気持ちを口にした途端、シュバルが感極まったように彼女を力一杯抱きしめた。
 それがあまりにもぎゅうぎゅう強く抱きすくめるものだから、律はお腹と胸が押されて少々酸欠気味になってしまう。ので、慌ててシュバルに自制を請うた。

「ちょ、守衛さんギブですっ」

「シュバル、と呼んでください!」

「シュバル、ちょっと腕緩めて……っ」

「ああ、嬉しい! ずっと律さんにそう呼んでもらいたかった!」

 律の制止にシュバルは歓喜の声を上げながら、綺麗な夜空の瞳をきらきらと輝かせ、これ以上の幸せはないとばかりに極上の笑顔を浮かべていた。

 彼の黒い瞳には、疲れなんて一切見えないただ幸せな女(りつ)の顔も、小さくしかしはっきりと、映り込んでいた。




(終わり)


余談

「そうそう、律さんの世界では異性に食物を贈ることを『餌付け』って言うんですよね。けど俺の世界では求婚の意味になるんですよ。俺はずっと―――貴女に求婚していたんです」

「そういう秘密は、早めに公開してくれないと困ります」

「今後はそうしますね」

 限界OL、律が知った守衛さんの秘密は、それこそ次元規模のものすごいお話だったのである。



(完)
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