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律子の予言
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「律子、ちょっとどういう事か説明してくれる?」
「あら茜。貴女体調はもういいの?」
社の男子を何人も陥落してきた美人スマイルで、律子はいけしゃあしゃあとそう言い放った。
もちろん、こちらの事情も苦情もわかった上でやっているので余計にタチが悪い。
「おかげ様で。死ぬほど優しい親友が、あろう事か上司を見舞いに、しかも食事まで用意するように指示してくれてたもんだから至れり尽くせりでとっくに全快したわよ」
「まあ、それは良かったわね」
「良かったわね、じゃないわよ律子っ。なんで課長に連絡なんてしちゃうのよぉ~~~っ」
私の叫びにも近いクレームに、けれど律子はあっけらかんとした様子で綺麗な唇に一層深い弧を浮かべた。
全くこちらの気持ちが届いていない。
本庄課長からの予想外過ぎるお見舞いから一夜経ち、私は普段通り朝から出社していた。
元々身体は丈夫な方なので、大抵は一日寝たら治るのだ。
病み上がりのためか、お昼に来る本庄課長からの追仕事も今日は無いとの事で、私は久方ぶりに律子と二人で昼食をとる事にした。
もちろん、昨日の事を確認するつもりで。
社内の食堂ではなく、会社向かいにある紅苑を昼食先に選んだのもそれが理由だった。
「あら、いけなかった?」
店内の一番奥手にあるテーブル席で、律子は食後のお茶を一口飲んでから悪びれずにそう言った。
「いけなかったって……。せめて予告をしてよ予告をっ。本当に吃驚したんだから。熱で変な夢でも見てるのかと思ったわよ」
「だって告白されたんでしょう? で、茜もまんざらじゃない」
律子が呆れたように言う。なんだか立場が逆な気がする。
やはりというかなんというか、律子は私が課長に告白された事に気付いていた。
しかもその理由が、私が課長の事を話す時の雰囲気が変わったから、などと言うのだから、まさに恐るべし律子である。
「むしろ茜、課長のこと好きでしょう?」
「は? え……っ!?」
悪戯めいた声で言われたのは衝撃の一言だった。おかげで紅茶を噴き出しそうになる。危ない。
……って急に何言うのよ律子ってば!
「あ、違った。好きになりかけてるでしょう? 課長のこと」
まるで、ちょっとした書き間違いを直すように言い換えた彼女の言葉が、私の頭にガンと響く。
意味としてはあまり変わらない気もするけれど。
「え、ちょっと待って律子。なんでそんな話になるの」
こちらの都合おかまいなしに、上司に見舞いを依頼した事に対して話をしているのに、なぜそんなところに話が飛ぶのか。
というか、なぜ律子にそう言われて、私は顔が熱くなるのか。
「そんな話にもなるわよ。茜こそ、ちゃんとわかってるの?」
いや、何がですか。
というか、全然こっちの意図が伝わってない気がするんだけど。
できれば避けたい話題を振られるであろうことに、返事に窮していると、律子がはあっと大袈裟なため息を吐き出した。
「あのねえ……茜が本庄課長に告白されてからもう一週間以上経ってるのよ?」
「いや、それはその……ちゃんと考えてはいる、つもり、というか。何というか」
もごもごと口ごもる私に、律子は机に体を乗り出す勢いで言葉を続ける。
「茜の性格上、付き合うのが嫌なら最初から食事になんて行かないし、すぐに断ってたはずよ。でもそうしないってのは気持ち、あるんでしょ。課長に」
ここまでバレている以上、今更否定もできないので恐る恐る頷いた。
ああなんだか、女友達って凄い……。
「貴女ねえ、余裕ぶって悩んでる暇なんてないわよ。本庄課長がモテるの知ってるでしょ。無表情だろうが無愛想だろうが、あの容姿と肩書きよ? それに、忘れてるかもしれないけど、あの人は本社からの叩き上げ要員。そのうちあっちに帰っちゃうのよ? そしたら、すーぐ向こうの女ヒョウどもに取って食われちゃうんだから」
「あ……」
律子の言葉に、はっと息を飲んだ。
いや、取って食われるというのはさすがに言いすぎかもしれないが……。
でも確かに、本当に今更だ。
彼女が言いたかったのは、もたついている私の気持ちではなく、現実的な『リミット』の話だったのだ。
普通に考えるなら、課長が戻ってしまう前に答えを出してしまわなければいけない。
そのことをすっかり忘れてしまっていた。
私の様子に律子はやっぱり、という顔をしてその綺麗な眉を少しだけ下げた。
「たとえ付き合うにしたって、遠距離になる。覚悟出来てるの? ……もう、やっぱりどっか抜けてるんだから。茜のそのおっとりしてる所はあたしは好きだけど、こういう時は、もう少し焦った方がいいわよ。じゃないと、大事なもの取り逃しちゃうんだから。ちゃんとよく考えて、なるべく早く答えを出しなさい」
言いたいことを言い切ったのか、律子はほっと息をついて再びカップに口をつけた。
焦って結論を出せというわけではない。だけど私達は俗に言う『大人』で、恋には互いの環境や今の状況も関わってくる。
気持ちの面だけを考えすぎて、それを意識できていなかった。
彼女はそこを指摘してくれたのだ。
「律子……ありがとう」
少々世話焼きな友人にそう声を掛けると、彼女はとても綺麗な笑顔を返してくれた。
「ま、予告無しに本庄課長を派遣したのは悪かったと思ってるわ。でも一応ちゃんと釘は刺してあったから、そこらへんは大丈夫よ」
ついでにこんな言葉が返ってきたけれど、その意味についてはなぜか教えてくれなかった。
「あら茜。貴女体調はもういいの?」
社の男子を何人も陥落してきた美人スマイルで、律子はいけしゃあしゃあとそう言い放った。
もちろん、こちらの事情も苦情もわかった上でやっているので余計にタチが悪い。
「おかげ様で。死ぬほど優しい親友が、あろう事か上司を見舞いに、しかも食事まで用意するように指示してくれてたもんだから至れり尽くせりでとっくに全快したわよ」
「まあ、それは良かったわね」
「良かったわね、じゃないわよ律子っ。なんで課長に連絡なんてしちゃうのよぉ~~~っ」
私の叫びにも近いクレームに、けれど律子はあっけらかんとした様子で綺麗な唇に一層深い弧を浮かべた。
全くこちらの気持ちが届いていない。
本庄課長からの予想外過ぎるお見舞いから一夜経ち、私は普段通り朝から出社していた。
元々身体は丈夫な方なので、大抵は一日寝たら治るのだ。
病み上がりのためか、お昼に来る本庄課長からの追仕事も今日は無いとの事で、私は久方ぶりに律子と二人で昼食をとる事にした。
もちろん、昨日の事を確認するつもりで。
社内の食堂ではなく、会社向かいにある紅苑を昼食先に選んだのもそれが理由だった。
「あら、いけなかった?」
店内の一番奥手にあるテーブル席で、律子は食後のお茶を一口飲んでから悪びれずにそう言った。
「いけなかったって……。せめて予告をしてよ予告をっ。本当に吃驚したんだから。熱で変な夢でも見てるのかと思ったわよ」
「だって告白されたんでしょう? で、茜もまんざらじゃない」
律子が呆れたように言う。なんだか立場が逆な気がする。
やはりというかなんというか、律子は私が課長に告白された事に気付いていた。
しかもその理由が、私が課長の事を話す時の雰囲気が変わったから、などと言うのだから、まさに恐るべし律子である。
「むしろ茜、課長のこと好きでしょう?」
「は? え……っ!?」
悪戯めいた声で言われたのは衝撃の一言だった。おかげで紅茶を噴き出しそうになる。危ない。
……って急に何言うのよ律子ってば!
「あ、違った。好きになりかけてるでしょう? 課長のこと」
まるで、ちょっとした書き間違いを直すように言い換えた彼女の言葉が、私の頭にガンと響く。
意味としてはあまり変わらない気もするけれど。
「え、ちょっと待って律子。なんでそんな話になるの」
こちらの都合おかまいなしに、上司に見舞いを依頼した事に対して話をしているのに、なぜそんなところに話が飛ぶのか。
というか、なぜ律子にそう言われて、私は顔が熱くなるのか。
「そんな話にもなるわよ。茜こそ、ちゃんとわかってるの?」
いや、何がですか。
というか、全然こっちの意図が伝わってない気がするんだけど。
できれば避けたい話題を振られるであろうことに、返事に窮していると、律子がはあっと大袈裟なため息を吐き出した。
「あのねえ……茜が本庄課長に告白されてからもう一週間以上経ってるのよ?」
「いや、それはその……ちゃんと考えてはいる、つもり、というか。何というか」
もごもごと口ごもる私に、律子は机に体を乗り出す勢いで言葉を続ける。
「茜の性格上、付き合うのが嫌なら最初から食事になんて行かないし、すぐに断ってたはずよ。でもそうしないってのは気持ち、あるんでしょ。課長に」
ここまでバレている以上、今更否定もできないので恐る恐る頷いた。
ああなんだか、女友達って凄い……。
「貴女ねえ、余裕ぶって悩んでる暇なんてないわよ。本庄課長がモテるの知ってるでしょ。無表情だろうが無愛想だろうが、あの容姿と肩書きよ? それに、忘れてるかもしれないけど、あの人は本社からの叩き上げ要員。そのうちあっちに帰っちゃうのよ? そしたら、すーぐ向こうの女ヒョウどもに取って食われちゃうんだから」
「あ……」
律子の言葉に、はっと息を飲んだ。
いや、取って食われるというのはさすがに言いすぎかもしれないが……。
でも確かに、本当に今更だ。
彼女が言いたかったのは、もたついている私の気持ちではなく、現実的な『リミット』の話だったのだ。
普通に考えるなら、課長が戻ってしまう前に答えを出してしまわなければいけない。
そのことをすっかり忘れてしまっていた。
私の様子に律子はやっぱり、という顔をしてその綺麗な眉を少しだけ下げた。
「たとえ付き合うにしたって、遠距離になる。覚悟出来てるの? ……もう、やっぱりどっか抜けてるんだから。茜のそのおっとりしてる所はあたしは好きだけど、こういう時は、もう少し焦った方がいいわよ。じゃないと、大事なもの取り逃しちゃうんだから。ちゃんとよく考えて、なるべく早く答えを出しなさい」
言いたいことを言い切ったのか、律子はほっと息をついて再びカップに口をつけた。
焦って結論を出せというわけではない。だけど私達は俗に言う『大人』で、恋には互いの環境や今の状況も関わってくる。
気持ちの面だけを考えすぎて、それを意識できていなかった。
彼女はそこを指摘してくれたのだ。
「律子……ありがとう」
少々世話焼きな友人にそう声を掛けると、彼女はとても綺麗な笑顔を返してくれた。
「ま、予告無しに本庄課長を派遣したのは悪かったと思ってるわ。でも一応ちゃんと釘は刺してあったから、そこらへんは大丈夫よ」
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