ちょっとした出来心で使い魔を召喚しました

真堂竜妃@元・つばき竜妃

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ちょっとした出来心で使い魔を召喚しました

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――まさか、本当に出てくるなんて思っていなかった。



 目の前で傅く、この異形と目が合うまでは……――



「はじめましてご主人様」

「ど、どちら様ですか……?」

「貴方に呼んで頂いた名無しの悪魔です」

「あ、悪魔……?」

「どうぞ、貴方さまの好きな名前をつけて使い魔にして下さい」

「使い魔……」

「えぇ、何なりと、ご主人様」



ちょっとした出来心で使い魔を召喚しました



 市内の、駅から少し離れた場所に佇む大きな建物。それが、橘まどかが勤める市立図書館だ。まどかは大学卒業と同時に公務員として採用され、この図書館の司書になってそろそろ一ヶ月が経とうとしていた。



 本の虫であるまどかにとって、司書は憧れだった。だがしかし、思っていた司書の現実は違っていた。カウンターに座り、ニコニコ笑みを浮かべて貸借手続きをすればいいわけではない。返却された本を元の棚に片付ける配架作業も、子供たちに絵本の読み聞かせをするのも、来館者の相談を聞いて適した書籍を提案するのも、書庫に置く本を選ぶのも司書の仕事だ。



 そして女性スタッフがほとんどと言われている図書館のトップは、手抜き仕事がしたいだけの男性市役所員だった。勤める女性たちに何かしら理由をつけて仕事を押し付け、閉館時間より早く退勤していく。まどかも被害者の一人で、閉館後の作業を一人でしなければいけない日が何度もあった。



 今日も、ほとんど来館者がいないのをいい事に上司は他のスタッフと一緒に閉館時間と同時に帰ってしまった。眼前には、カートに一度に乗り切らない量の返却された本。まだシャットダウンされていないパソコンのモニターには、今日中に済ませなければいけないと言われた作業内容がメモに書かれている。終電に間に合うのだろうか、とまどかはため息をついた。



「……あれ?」



 返却カウンターからカートに本を移している途中、積まれた本の山から見たことの無い本が一冊見つかった。普段、蔵書には分野ごとに分類されて振り分けられた分類番号が背表紙に貼ってあるが、それがない。最後のページに押してあるはずの図書館印もない。誰かの私物が紛れたのか、寄贈されてまだ登録していないものか分からない。



「えーと、『召喚魔法の種類と図解』……?」



 見たことのない本だ。表紙は古びていてタイトルを読むのも大変だったが、中身は綺麗だった。大学で司書の単位を取るために片っ端から関連授業は受けたが、こういう本は聞いた覚えがない。ファンタジー創作活動をする人向けのものなのか、はたまた【本物】か――。



「召喚できる悪魔の種類……契約方法……召喚サークル図解……」



 この分類の本は今まで読んだことがなかった。初めて知る世界に、まどかはページをめくる手を止められない。



「ん? なにこれ」



 綺麗だったはずのページから、突然ボロボロのページが出てきた。表紙と同じくらい、字もサークル図も見にくい。今までのページが白い紙なのに対して、このページは茶色い羊皮紙だ。



「夢魔・サキュバス/インキュバス」



 まどかは声に出して一番上の大きな書体を読み上げて、眉間に皺を寄せた。やはりファンタジー作品の設定本なのだろうか。現実にいると聞いたことがない。



「……呼んで、みようかな……」



 結局、好奇心が勝ってしまった。まどかはコピー機からOA用紙を一枚取り出すと、カウンターの上で魔法陣を描き始めた。本当に出てきたら、女相手だからサキュバスか。もし万が一出てきても、ストレス発散の相手にしよう、まどかは少しだけワクワクした。



「こんなもんかな?」



 魔法陣を書き終えると、カッターナイフで人差し指を切り、流れた血を数滴、魔法陣の上に落とした。じわりと円の中に広がる赤に、興奮が湧き上がる。



(さぁ、淫魔さん出てきてちょうだいな)



 ボロボロのページに書かれた呪文を、一言一句、まどかは間違わないように読み上げた。こみ上げてくるこの感情の名前は分からない。それでもまどかは、まだ見ぬ世界に期待していた。



 程なくして、魔法陣からわずかに煙が上がった。火の気はないが、スモークのように紙の上をモクモクと上っていく。少し寒気を感じる風が、まどかに当たり通り過ぎていった。



 その刹那。



「――っ!」



 眩しすぎる閃光に、まどかは目を閉じて腕で隠した。これがアニメなら、大音量の効果音がついていただろう。体感時間は少し長く感じたが、その光が消えるとゆっくり目を開いた。



「はじめまして、ご主人様」

「っひ!」



 そこには、本の図解に書かれていた通りの姿をした異形、もとい淫魔が立っていた。出てこいと願ったが、まさかあの本が【本物】の方だったとは。



「ど、どちら様ですか……?」

「貴方に呼んで頂いた名無しの悪魔です」

「あ、悪魔……?」

「そう、性に関することなら何でもお任せあれ、の悪魔で淫魔です。どうぞ、貴方さまの好きな名前をつけて使い魔にして下さい」

「使い魔……」

「えぇ、何なりと、ご主人様」



 にこりと柔和な笑みを浮かべて恭しく頭を垂れる姿は淫魔と言うより執事のようだ。まどかはまだ信じられないという顔でポカンと見上げる。貸出カウンターの上に立つ淫魔自身も高身長で、下げた頭もまどかの視線よりずっと上にあった。



「……とりあえず、そこカウンターだから降りて」

「おや、これは失礼致しました」



 あくまでその物腰は変えず、軽々とカウンターから飛び降りた淫魔に、まどかは渋い顔を向けた。



「はて、ご主人様、なにか?」

「……とりあえず、呼んだのは確かだけど、まだ信じられないの」

「あぁ、魔族はみんな、このような感じですよ? その本の通りのこともあれば、全く違うこともありますが、本を手に入れる資格のある者のもとに本が渡るのは必然ですから」



 手に取った貴方はラッキーです、と淫魔は微笑んだ。



「対価はないの?」

「いただきません。しいて言えば、性行為の最中に貴方から溢れる精気――フェロモンをいただくだけですよ」

「やっぱり」

「と言っても、わたくしだけが気持ちいい思いをするわけにはいきませんので、ちゃんと奉仕させていただきます」

「ふーん……」



 まどかはチラリと淫魔の顔を見上げた。そこらの男と違って、整った顔をしていると思う。悪魔は召喚した人物の想像で造られると聞いた。自分がこの顔を思い浮かべた覚えはないが、イケメンに越したことはない。今まで見てきた役所の男はみな、枯れたおっさんばかりで、眉目秀麗に憧れがあるのも確かだ。



「わかった、契約しましょう。期間はあるの?」

「いえ、特に設けておりません。要らなくなれば、召喚した用紙を粉々に破いていただければ」

「なるほど。じゃあお願いする……ただし、仕事が終わってないと明日困るから、先に終わらせていい?」

「もちろんです、ご主人様」

「ご主人様はやめて。私は橘まどか……まどかでいいわ」

「はい、まどか様」

「様もいらない」

「かしこまりました、まどか」



 残っていた仕事はあっという間に終わった。執事のように何でもこなせる使い魔でもある淫魔の手も借りれば、一人で残業していた頃よりずっと早い。パソコンをシャットダウンさせて、ホッと一息ついた。



「ありがとう、助かった」

「いえ、お役に立てて光栄です」

「……ねぇ、敬語やめてくれない? もしかしなくても、私より歳上よね?」

「我々には年齢の概念がありませんが、生きてきた年数は五百を超えた時点で数えるのをやめました」

「ごひゃっ……それ、普通に五百歳を超えてるじゃない!」

「そうとも言いますね」

「じゃあ決まり。はい、敬語禁止。あとは……名前もないんだっけ?」

「そう、まどかがつけて」



 そう言われてペットを飼ったことも子供を産んだこともないまどかは、母親もこういう気持ちだったのだろうかと悩んで頭を抱えた。マンガやゲームで使われていた名前だと安直だろうか、何かないかと視線を泳がせていると、先ほど召喚したきっかけの本が目に入った。



「……ニック」

「ニック?」

「英語で、悪魔の俗称がオールド・ニックって言うのを何かの本で読んだの。淫魔も夢魔も悪魔の中の一部だし……ダメかな?」

「いや、まどかが決めたなら従うよ。じゃあ今からまどかの前ではニックだ」



 答えたニックは、フッと指を動かして館内の電気を消した。外から降り注ぐ月の明かりがニックを照らし、それがエロティックに映る。



 そういえばニックの姿は、本に載っていた姿――ヤギのように二本の長いツノ、カラータトゥーのような赤い顔に黒いライン、両手足に鋭利な鍵爪、コウモリに似た翼などを持つ姿――ではなかったとまどかは本に書かれていた内容を思い出した。召喚者の描いた通りの姿、というのは間違いではないらしい。欧州の国のセレブと言われても伝わる美しさ、気品を感じる出で立ちで思わず見とれてしまう。



「まどか、タイムアップは何時?」

「えっ? えっと……仕事開始が朝の八時で、それまでに化粧直しとか……でも寝たいなぁ……」

「オッケー、よく分かった。じゃああとは任せて? 疲れも眠気も取ってメイクもちゃんと直してあげるから」

「本当に? 追加の対価とか取られない?」

「ないよ、言っただろう? 俺たちが貰う対価は、ご主人様の精気だ。つまり、まどかが気持ち良くなってくれれば問題ない」



 本当にそんな簡単なのだろうか、つい疑ってしまう。使い魔でも対価を必要としないものもいると、先ほど開いた本でも見た気がする。



「まだ気になることが?」

「別に、そうじゃなくて……」

「他の同胞たちのことは知らないが、俺は、まどかと繋がって気持ちいい思いをして貰えれば文句はない」



 先ほども見た爽やかな笑顔を浮かべまどかの手を取りそう告げたニックに、まどかは顔を赤らめた。



「どうして、そこまで頑なに……」

「おかしい?」

「だって――!」



 ふわりと甘い匂いと共に包まれるように、まどかはニックに抱きしめられた。とても甘くて、そして身体の奥から熱を感じるようなニックの体温。



「そろそろ、してもいい? 朝までに対価分も出来ないよ?」

「!!」

「……もう、文句はないね」



 無言で、無意識にまどかは頷いた。



「ん……!」



 抱きしめられて唇を重ねた瞬間、生クリームを食べたかのように咥内へ甘い匂いが流れ込んだ。それはまるで媚薬のごとく身体を火照らせ、まどかのこわばった力を抜かせた。



「真っ暗な方が、少しは気が楽だろう?」



 そうニックは言ったが、中庭から差し込む月の明かりが思うより明るく、抱きしめ合うお互いが良く見えてあまり変わらないとまどかは思った。



 ニックは唇を離さずに、まどかの衣服に手をかけた。ブラウスのボタンを焦れったいほどゆっくり一つづつ外し、袖を抜いた。男性社員に「少し短すぎないかね?」と言われた膝上丈のタイトスカートも、あっという間に足元に落ちた。



「綺麗だ……」



 現れた真っ白なレースの下着姿のまどかに、ニックは微笑み耳元で呟いた。照れて視線を外したまどかの真っ赤な耳たぶを舌で舐めまわした。



「んんっ……あっ」

「敏感だね、まどか」

「あぁっ……」



 ブラジャーのホックが外れ、おわん型の綺麗な乳房が顕になった。濃いピンク色に染まった先端が、ぷっくりと膨れて主張している。



「ここも、可愛い」

「あぁん!」



 爪で引っ掻くようにこねくり回され、摘まれ、少し痺れるような感覚にまどかは甘い声をあげた。モジモジと太ももを擦り合わせて感じているまどかの様子に、ニックは見えない所で舌なめずりをした。



「下も脱がすよ」

「やっ……待って……っ」



 まどかの制止も虚しく、スカートの上に下着が落ちた。下生えまで濡れそぼっていたそこは下着まで糸を引き、月の明かりに照らされていやらしさを増していた。



「とても濡れていていやらしいね、まどか」

「言わないで……恥ずかしい……」

「そんなことないよ。とても綺麗で、とても汚したくなる……」



 ニックは片手でまどかの胸を揉みしだきながら、もう片方でその洪水の中に中指を潜らせた。



「っああん、や、ニック……お願い、いじめないで……」

「いじめてないよ、可愛がってるんだ」

「そんな……あぁんっ、あふぅ……」



 グチャグチャとかき回して、ゆっくり引き抜く。まどかの愛液でベトベトになった指を、入り口の豆粒に滑らせ、潰すように擦った。



「っあぁ! や、ダメ……っ」

「ダメじゃないだろう? ここ、触ってなかったのにぷっくり剥けて真っ赤だ」

「ひぁあっ、待って、触っちゃ……あぁあっ」



 胸の頂と秘豆の両方を同時に摘まれ、電流が走ったようにビクビクと全身を震わせた。秘肉の奥から溢れる液体は、止まることを知らない。



「可愛い……」

「いやっ、ニック、お願い……」

「なにがだい? ここはもっと触って欲しそうにしているよ」

「そんなっ……あぁっ」

「指だけなのに、ずいぶんいやらしく鳴くんだな……もっと欲しいだろう?」



 指の数を二本に増やし、再び秘肉の奥へ侵入する。中で肉壁を押すように指を開いたり閉じたり動かせば、応えるように締め付けられた。



「ほら、中がうねってる。気持ちいいね」

「っあぁ、あっ、も、許してぇ……っ」

「ははっ、許すって俺、怒ってないよ?」



 軽く達したのか、わずかに震える内ももはまどかの愛液で臀部までずぶ濡れだった。ニックはまどかの身体を横抱き――すなわちお姫様抱っこで自習コーナーへ移動し複数人が並べる机に寝かせる。



「ここの図書館、ソファ席ないんだね。床よりはマシだと思うけど、辛かったらごめんな」



 ここに来てニックも、とうとう裸になった。



 ニックの裸体に、まどかはゴクリと唾を飲み込んだ。本当に悪魔は想像通りに召喚されるのか疑わしく思えてくる。



――アレ、規格外すぎる……!!



 そそり立つニックの:雄蕊ゆうずいは今にも暴発しそうなほど大きく膨れ、先走りで濡れていた。そんな想像、した覚えがない。



「に、ニック……それ、多分入らない……んじゃないかな……?」

「なに言ってるんだ、入れるんだよ」

「え、いや、無理……」

「無理じゃない」



 ニックが妖艶な笑みを浮かべ、まどかに口付けた。また甘い匂いが漂って、まどかの意志とは裏腹に力が抜ける。



「そう、いいこ……」

「あ、……っ」



 幼い子にするようにまどかの頭をひと撫ですると、ニックは一息に屹立を埋め込んだ。多少指で柔らかく解したとはいえ、ほとんど使われたことの無い内部はその侵入を追い出そうとするかのように締め付けた。



「なか、すごく締め付けてくるね……大丈夫?」

「入った……の……?」

「うん、全部。苦しい?」

「ちょっと……でも大丈夫」

「順応性抜群だな」



 まとわりつく甘い匂いは、まどかの身体を熱くさせニックを煽るように内壁をうねらせた。少しづつ律動を始めるとクチュクチュといやらしい水音を産み、まどか自身の気持ちも煽る。



「っあぁ、あんっ、ニック……ひぁあっ」

「まどか……っ、すごく、いい……」

「あぁあっ、や、そこ、だめぇ……っ」

「だめじゃないだろ? とても気持ちよさそうに締め付けてくるよ」



 意地悪な笑みを浮かべてニックが腰を揺らせば、まどかの腰は小さく痙攣してニックの熱く猛った楔を締め付けた。



「……まどか、イったの?」

「うん……」

「そっか。じゃあもう一回」

「っあ、やぁ、また、イッちゃ……」

「いいよ、何度でもイケばいい」

「あっ、あ、あぁあああっ!」



 ニックが強く中を穿つと、溢れる液体が二人の結合部を濡らし、高い声を上げてまどかは再び達した。しかしニックの分身はまだ達しておらず、萎えるどころか、なお大きくなっている気がした。



「ニック……」

「ごめんね、もう少し付き合って。まどかも、もっと気持ちよくしてあげるから」

「こっ、これ以上はもういらな――あああっ!」



 ニックはまどかを抱えて床に座り、その上に座らせた。座位は正常位よりもより深く繋がっている気がして、押さえようにもニックの動きは止まらない。ニックの額から流れ落ちた汗は、まどかの胸に落ちて混ざり合う。



「ふふ、まどかのナカも、離れたくないって言ってるみたい」

「だって、気持ち、いい……っ」

「うん、このままずっと、くっついていたい……」



 止まらない抽挿。まどかはもう、自分がどうなっているかもわからないほど鳴かされ、何度も身体を反らしながら枯れた声をあげた。



「ずっと一緒が無理でも、呼ばれたらまた、会いにくるから……」

「っあ、ひぁっ、ニック……あぁあっ」

「まどか……好き……」

「もぅ……無理……ぃ……っ!」



 何度目かの絶頂。抱きしめたニックの背中に爪を立てて、そこでまどかの意識はプツリと途切れた。









「……さん、橘さん!」

「んぅ……もう……無理……」

「橘さんってば!」

「ふぇ……?」



 誰かに名前を呼ばれながら身体を強く揺すられて、まどかは目を開いた。同僚の女性司書が不安そうな表情でまどかを覗き込んでいた。



「橘さん、大丈夫ですか?」

「……新谷さん? あれ……ここは……」

「なに寝ぼけてるんですか、図書館ですよ。橘さん、児童書庫の床で寝てましたよ? もしかして、また安藤係長に残業押し付けられたんですか?」

「まぁ……はい……そうなんですけど……」



 彼女の手を借りて立ち上がる。驚いたことに、ふらつくことも、どこかが痛いと感じることもなかった。



(眠くない……長時間寝たみたいに頭がスッキリしてる)



 ニックは本当に、身体の疲れを取ってくれたのだと分かる。おまけに体が痛くならないように、マットが敷かれている児童書コーナーに移動していたらしい。ハッとして貸借カウンターの上を見れば、もうあの本はなかった。綺麗に何も置いておらず、カートの中も空っぽだった。



「あれ、なんか落ちてますよ」

「え――」



 新谷が拾い上げた一枚のOA用紙。くしゃくしゃになったそれにはまだ、まどかが描いた魔法陣が書かれていた。



「だ、誰か、子供が描いて遊んでたのでしょうかっ! 捨てますね!」

「え、橘さん?」



 明らかに挙動不審だったかもしれないが、今また出てこられても困る。まどかは新谷が止める間もなくその紙を取り上げシュレッダーにかけた。



(これでもう、出てこないんだ……)



「あ、橘さん! 急がないともうすぐ開館時間ですよ」

「え、もう!? すみません、急ぎましょう! ……今日、係長は?」

「まだ来てません。どうせ今日も昼頃来るんじゃないですか? もうすぐ一人来ますし、もういないものとして私たちだけで作業しましょう」

「そうですね、では鍵開けてきます」

「お願いします。私は閉庫に行きますね」



 カウンター下の引き出しから、鍵の束を取り出す。その中の一本を探し当て、入り口の鍵穴に差した。ドアの向こうには既に数人、このドアが開くのを待っていた。



「おはようございます! お待たせしましたー!」

「おはよう、橘さん。これ延長お願いできるかな?」

「予約状況を確認しますね。他に予約がなければ延長出来ますので、まず返却カウンターにお願いします」



 次々に館内へ入っていく人の流れを追いながら、ふと視線を感じたまどかは外へ顔を向けた。



(ニック?)



 そこには誰もいない。しかし召喚した時と同じ冷たい風、抱きしめられた時の甘い匂い、流れてきたそれをまだ、まどかは何なのか覚えている。



――また会おうね。



 ニックの声が、聞こえた気がした。





終わり
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