紅(あか)く染まる

真堂竜妃@元・つばき竜妃

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 木村たえ子は、恋をしていた。



 1945年、七月末。世界と戦争中の日本は、ラジオ放送や新聞を信じて勝利に向けて国民一丸となって戦っていた。毎日のように出兵していく若い男性たち、もんぺを泥まみれにしながら竹槍の訓練に励む女性たち。
 たえ子もまた、他の女性陣に混ざって藁人形に向かって竹槍を突いていた。女学校に通っているが剣術を今まで習っていないたえ子は、この訓練がとても苦痛で苦手だった。非国民だと言われるので黙っているが、鉄砲や爆弾を持ってる米兵相手に竹槍なんて効くわけがないと知っていた。
 それでも、たえ子が訓練に参加したのには、理由があった。

「そこ! もっと腰を落として! 槍を落としたら死ぬぞ!」
「す、すみません!」

 竹槍を地面に落とした主婦に叫ぶ軍人。見張りに来た陸軍の人間の中でも目立つ、160センチオーバーのすらりとしたスタイルで、乱れぬ制服姿を見なければ軍人だと思えなかった。たえ子は、その軍人に心を奪われている。
 ただ、その軍人は――女性だったのだ。

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