何の変哲もない異世界冒険譚

kairu

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名前と感動

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 早くもきちんと話せるじきになってきた。

 いや、もともと話せるけど、一般的にきちんと話しても個人差の範疇でおさまるぐらいの時期。

 だいたい一歳ちょっと。

 簡単な「うー」とかは言っていたけど、母親と父親のことは言えていない。

 ということで今日こそ言ってみようと思う。

 今近くにいるのは、母親と執事、メイド二人の計四人。

 どんな反応をしてくれるのか少し楽しみだ。

「ほら、お母様。いってみて。」

「かーさ?」

 母親、いや母さまにしよう。

 母さまの言葉に反応して発言したら周りが固まった。

 え?なんかミスった?対応として正解でしょ??

「…聞いたわよね?セバス。」

「はい、たしかに、かーさと、おっしゃって、おりました。」

 母さまがやっと反応した。

 それに執事長のセバスが同意する。

 というかセバス泣いてるし。

「もう一回!もう一回言って!!」

 母さまうるさい。

「かーさ」

 今度は楽しそうに笑いながらいうと

「やっぱりうちの子は世界一かわいいわ!!」

 母さまが喜んでる。やっぱりうるさい。

 セバスも泣いて使い物にならない。

 やっぱり母さまじゃなくて母親のままでいいんんじゃないの?

 この状況に呆れながらどうするか考えていると、

 部屋の扉が勢いよくひらいた。

「ラグラがお母さまと言ったと聞いたがホントか?!」

 うるさいのが増えた。

 父様はそのまま俺に「お父様っていってみろ!」

 と騒ぎ立てる。

 父様今まだ昼だよ?仕事は?そもそもなんでしってるの?

 ツッコミどころが多い。

 俺どっちかというとボケなんだけど…

 周りを見ると部屋にいたメイドさんが廊下を急いで追いかけてきている。

 メイドさんが呼びに行ったのかとなっとくすると同時にメイドさんを置いてきたのかと呆れる。

 父様がうるさいので仕方なく

「とーさ」

 というと、

「聞いたか!ラグラがとーさって言ったぞ!とーさって!」

 結局うるさい。

 そのまま俺は寝るまで「とーさ、かーさ」と言わされ続けた。







 ◆◆◆◆◆父親視点◆◆◆◆◆





 ラグラは眠った。

 とーさと言ってくれたことでうれしくなり、何回も言わせたから疲れたのだろう。

 ラグラをセバスに任せ、妻と妻の寝室で二人で話す。

「大丈夫か?疲れたならもう寝た方がいいと思うが。」

「大丈夫よ。ちゃんと仮眠もとってるし、休憩もしてるからね。」

「それならいいのだが…」

 妻は俺が仕事をしている間、ラグラの世話をずっと任せてしまっている。

 それに料理人たちの報告では時々料理場に来て、料理をしているらしい。

 昔から商売をしていた関係上、何日かは寝なくても大丈夫だということは知っている。

 しかしどうしても心配になるのだ。

「そんなことはどうでもいいわ。もっと楽しいおはなしをしましょう?」

「…ああ、そうだな」

 なんとなく誤魔化された気がするが、妻は不満や体調の不良を隠し続けるような性格ではない。

 本当にだめなら伝えてくれるだろうと考え、話を変える。

「ラグラは成長が早いな。」

「そうね。かーさなんて呼んでくれるのはもう少し後だと言われていたのだけど。」

 ラグラが生まれて一年と少し。

 他の貴族の子供などは、母親の名前を呼んだりするのはもう少し後になることが多い。

 そもそも母親が直接子育てをすること自体少ないのだが。

「あの子は次いつ帰ってくるの?」

 あの子というのは、ラグラの兄、クリスことだろう。

 子育てとそのサポートのため、俺と妻は自分の領地にいるが、

 クリスは今、王都の学院で勉学にはげんでいるはずだ。

「次の長期休暇には帰ってくるそうだ。」

 王都から領地までは片道で数日かかるので容易には帰ってこれない。

「そう…じゃあ、あの子がラグラにあえるのはだいぶ先ね。」

「そうだな、その時が楽しみだ。そうだ、今度ラグラに魔術を見せてやろう。」

「急にそんな高度なもの見せて大丈夫なの?安全ならいいけど…」

「安全な魔術だからあんしんしていい。」

「なら信じるけど…」

 妻はあまり信じていないようだ。

 不安そうな顔をしながらこちらをみている。

「それより、噂で聞いたが、王女様も元気に育っていらっしゃるそうだぞ。」

 このままだと魔術を見せないことになってしまう気がしたので話を変える。

「…はぁ、そうね、ラグラと同年代ということになるし、結構仲が良くなるんじゃない?」

 溜息をつかれたが、やめさせると知らないところで見せるかもと思われたのか話に乗ってくれた。

 その後の話はラグラの態度とクリスの今ぐらいの時の話でだいぶ盛り上がった。

「そろそろおわりにするか。」

「いや、‥でも…」

 まだ妻は話したそうにしているがだいぶ眠そうだ。

 大丈夫とはいいつつ、だいぶ疲れていたのだろう。

 続きはまた明日できると説得し、寝かせる。

「おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 寝たのを確認して、テラスへ歩いていく。

 テラスに出る前に棚から赤ワインをとりだしグラスに注ぐ。

 テラスにある椅子に腰かけ、ワインを一口飲む。

 どうか我が家族に祝福を。

 声には出さず、神に祈る。

 ワインの残りを少しづつ飲みながら空を見上げる。

 空にはいつも見ている星空が一面に広がっている。

 いつもみている星空が目新しいものに見え、めをこする。

 もう一度空を見ればそこにはいつもの星空。

 気のせいと思いながら、いつもより星がきらめいているように見える。

 星が我らを祝福しているのかといつもは考えもしないであろうことを思いつき、

 今日はそれほど酒をのんではいないのだがと不思議に思いながら、子供たちの安全を、健康を、安寧を祈り続ける。

 クリシュ・エレ・ネブラート

 ラグラト・ドラコ・ネブラート

 この二人のこれからを思い描きそれを肴にしてワインを飲む。

 星影に照らされながら飲むワインはいつもよりあじに深みを感じる。

 ワインがなくなりそろそろ寝ることにする。

 最後にもう一度空を見上げる。

 夜空の無数の綺羅星は今も輝いていた。
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