婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?

ゆるり

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エドワード:こんなはずじゃなかった

 王太子としての務めに忙しくなると、エドワードはアリシエラの存在を忘れるようになった。そんなとき、エドワードは最愛に出会ったのだ。

「あ、ごめんなさい」

 目の前にヒラヒラと落ちてきたハンカチ。思わず拾いあげると、鈴を転がすような可憐な声がかかる。そちらを見ると、美しい少女が恥ずかしげに微笑んでいた。

「……ほら」
「ありがとうございます」

 愛らしい微笑みに目が奪われた。アンジェという男爵家の娘だった。
 エドワードはアンジェとの交流を重ねた。

「エドワード様は凄いですね」
「ふ、当然のことだ」

 アンジェはよくエドワードを褒めた。恋情の隠った眼差しでエドワードを見上げるその潤んだ眼差しに、エドワードは満足する。いつからか、アンジェのことを愛おしいと思うようになっていた。

 そんなアンジェが暗い顔をするようになった。苛められているのだという。誰がそんなことをと聞くと、エドワードが既に忘れかけていたアリシエラの名前が出た。

「アリシエラめっ」

 言いながら、自尊心が満たされていくのを感じた。あれほど澄ました顔をしておきながら、人並みに妬心があったのか。アンジェを苛めるほどエドワードのことを愛しているなら、エドワードがアリシエラを無視していることは相当堪えただろう。アリシエラが顔を歪めている姿を思うと、心の底から喜びが込み上げてくる。もっと苦しめ。もっと悲しめ。そして最後にエドワードに縋るのだ。

 アンジェが階段から突き落とされそうになったと聞いたときは肝が冷えたが、アリシエラの罪が確定すると、顔が緩むのを堪えるのが難しかった。アンジェにプロポーズをして受け入れられたと同時に抱きしめて、その表情をアンジェから隠した。
 アンジェを正妃に据えて、アリシエラは側妃にでもしてやろう。エドワードに婚約を破棄されれば、アリシエラは貰い手がなくなるのだから、泣いて喜ぶことだろう。罪を減刑させると言って、アンジェに手だししないよう約束させればいい。
 アンジェにはちゃんと金をかけるが、アリシエラには最低限のものにしよう。生きていればいい。実家との縁が薄いアリシエラに実家からの援助は望めまい。跪いて、エドワードの慈悲を乞えばいいのだ。

 そんな結婚生活を思うと浮き足だった。早くアリシエラを貶めたい。跪いて慈悲を乞わせたい。あの澄んだ表情が屈辱に歪むだろうか。泣いてエドワードに縋るのだろうか。






 運命の舞踏会。アリシエラのエスコートを断りアンジェと共に参加した。アリシエラは屈辱に感じるだろう。
 意気込んでアリシエラを責め立てると、アリシエラはおかしなことを言い出した。アリシエラが聖女?学園に通っていない?苛めなんてしていない?どういうことだ。
 アンジェを見ると動揺した様子でエドワードに縋りついてくる。どうやら、アリシエラが犯人だと嘘の証言をしたようだ。頭が真っ白になった。




 エドワードの部屋からものが消えた。アリシエラへの賠償金を工面するためらしい。王の部屋は変わりないので、これはエドワードへの罰なのか。王太子がこんな部屋で生活するなんて、貴族達に面目がたたない。

「……なんで、こんなことに」

 アリシエラの澄ました顔を思い出して、唯一残ったベッドの天蓋に拳をぶつけた。


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