白と黒の呪い戦線

界 あさひ

文字の大きさ
8 / 21
呪いと祝福の境界

008 逃走

しおりを挟む
 ナガトはボロボロの40代位の男を抱えたまま走り続けた。
 後ろを振り返っても追ってくる様子はないが、そう思わせておいてーーーなんて考えるとダラダラ逃げる訳にはいかない。
 ボロボロの男に目を向けると、男と目が合った。男は辛そうに、こう口を開いた。
「助けてくれてありがとう。
 俺はトウ。君は…?」
「俺はナガト。あいつとは、なんで?」
 あいつと何で乱闘になっていたのか、と意図した疑問に、トウは口を閉ざした。ナガトは
「まあ後でいいよ。」
と、逃げる足を止めずに言った。

 元賊のアジト、そして今のナガトとミナミの住処に着いた。その大きさにはまだ慣れない。流石にここまでは追われてないだろう。ナガトはトウを担いだまま住処に入った。入ると否や
「連れ込み禁止って言ったろ!!」
と女の怒号が聞こえた。声の方を向くと、黒い部屋着のミナミと目が合う。そして
「しかも連れ込むのはおっさんじゃねぇか!」
 と今度はハハハと高笑いをした。
「うるせぇババァ!」
 ナガトはババァと罵倒すると、ミナミは
「ガキにはわかんねぇだろなぁ~このミナミ様の魅力は。」
と返した。ナガトは下らないと、ようやく切り上げ担いでいたトウを下ろし、あの女は大丈夫、と伝える。そうか、とトウがいったが、ミナミは
「おっさんには伝わるよなぁ!?私の魅力!」と未だに先程の話を引きずっていた。ここで初めてトウはミナミの顔をしっかりと認識した。その瞬間、トウの目が少し大きく見開いた。
 急に話を振られたトウであったが、その瞬間にはゆっくりと目の前に倒れた。目を瞑っている。ナガトは慌てふためいたが、ミナミは先程までのふざけた様子はなく冷静に
「一気に緊張が解けて安心したんだろ。張り詰めていたものが解けて、眠ってしまったとかそんなとこだろう。」
と言い放った。
 ナガトが担いでいたことや、トウのボロボロになっていたのを見ての発言であろうか。ミナミの洞察力や推測力に、ナガトは、ミナミにはわからないように一人で感心した。
「とりあえずそのおっさんはどっかで寝かせておけ。起きてからゆっくり話を聞けばいい。」
「あぁ。わかった。」
 ナガトはまたトウを担いで自分の寝室まで行き、自身の布団にトウを寝かせた。しかし、本当に2人にはこの住処は広すぎるな、と改めて思った。
 ミナミのいた井間ーーーというには些か広すぎる気もするがーーーに戻るとミナミは再び冷静な口調で言った。
「で、何があった?」

 ナガトは自身の見た一連の事柄を伝えた。ミナミはゆっくりと目を閉じ、なるほど…と呟いた。
「とりあえずさっきのおっさんが起きたら詳しい話を聞く。取り敢えずナガトはおっさんを見張れ。」
「はぁ?なんで見張る必要が」
「見張れ。」
 と、有無を言わさず見張る事になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの
恋愛
伯爵令嬢のアンジェは公爵家の嫡男であるアランに嫁いだ。 子はなかなかできなかったが、それでも仲の良い夫婦だった。 ――彼女が現れるまでは。 二人が結婚して五年を迎えた記念パーティーでアランは若く美しい令嬢と恋に落ちてしまう。 それからアランは変わり、何かと彼女のことを優先するようになり……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

処理中です...